こんにちは。WONDERFUL GROWTH編集部です。昨今、「リスキリング」という言葉が経営戦略として脚光を浴びています。岸田文雄首相は、所信表明演説で日本経済の活性化のための「人への投資」の一環としてリスキリングの支援に今後5年間で1兆円を投じるとし、このほどまとめられた総合経済対策にも支援策が盛り込まれました。「リスキリング」の推進は、岸田政権が最も注力している政策の一つと言えるでしょう。2024年5月時点で、経済産業省が推進する「リスキリング・キャリアアップ推進事業」には既に19万人以上が受講登録しており、デジタル人材の育成に向けた取り組みが加速しています。そのように国全体で力を入れているリスキリングですが、そもそもどういった定義になるのか、なぜ今重要視されているのか、そして企業はどのように導入すべきか。本記事では、リカレント教育や生涯学習との違いも交えながら、人事部門や経営層の皆様が明日から実践できる具体的なステップまで詳しく解説していきます。リスキリングとは「リスキリング(Reskilling)」とは、職業能力の再開発、再教育のことを意味します。近年では、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略において、新たに必要となる業務・職種に順応できるように、従業員がスキルや知識を再習得するという意味で使われることが増えています。特に欧米では、成長分野に人材をシフトし雇用を守るため2016年ごろから取り組みが進んでいますが、近年では日本政府もリスキリングの推進を呼びかけており、日本の産業領域・行政領域でポピュラーな概念として定着させようと力を入れています。経済産業省は「デジタル時代の人材政策に関する検討会」において、リスキリングを以下のように定義しました。『新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること』前項で取り上げた岸田政権の目玉政策からもわかる通り、失われる雇用から新たに生まれる雇用へと円滑に労働力をシフトできるよう、企業が従業員のリスキリングを推進することを国全体で奨励しています。リスキリングが注目される背景: データから見る現状世界経済フォーラム(WEF)の2023年の報告書によると、グローバル企業の44%が今後5年間で従業員の半数以上に新しいスキルの習得が必要になると予測しています。さらに、デジタル化の進展により、2025年までに8,500万の職が消滅する一方で、9,700万の新たな職が創出されると試算されています。日本国内においても、経済産業省の調査によれば、IT人材は2030年には最大79万人が不足すると予測されており、企業が競争力を維持するためには、既存人材のスキル転換が急務となっています。リカレント教育、生涯学習との違いここでは、リスキリングとともに社会人の学びという意味で使われる「リカレント教育」や「生涯学習」について解説します。リカレント教育「リカレント教育」とは、社会に出てから、個人の必要に応じて学び直しをすることを言います。「リカレント(recurrent)」は日本語で「反復」「循環」などと訳され、回帰教育、循環教育とも呼ばれます。総務省の『情報通信白書(平成30年度版)』によると、「リカレント教育は、就職してからも、生涯にわたって教育と他の諸活動(労働,余暇など)を交互に行なうといった概念」とされています。「社会人が新たな知識やスキルを習得する」という点はリスキリングと共通していますが、取り組み方に違いがあります。リカレント教育は学習と労働を交互に行うと考えられているため、休職など労働から離れることを前提にしています。リスキリングは企業が戦略的に従業員に学ぶ機会を与えるため、就業しながら学ぶことが大半です。文部科学省の調査によれば、リカレント教育を推進する大学は2018年度の約35%から2023年度には約55%に増加しており、社会人の学び直しのニーズが高まっていることがわかります。生涯学習「生涯学習」とは、生涯にわたって行うあらゆる学びのことです。文部科学省の『文部科学白書(平成30年度版)』によると、「一般には人々が生涯に行うあらゆる学習、すなわち、学校教育、家庭教育、社会教育、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動、企業内教育、趣味などさまざまな場や機会において行う学習」と紹介されています。つまり仕事で新たに必要となるスキルや知識の取得を目的としたリスキリングとは、学びの範囲で違いがあります。内閣府の「生涯学習に関する世論調査」(2022年)によると、日本人の約70%が何らかの生涯学習活動に取り組んでいますが、そのうち仕事に関連した学習は約30%にとどまっています。今、リスキリングが必要な理由DX社会加速のため、デジタル人材の育成が急務IBMが2019年に発表した調査(IBV: Institute for Business Value)では、今後3年間でAIやインテリジェントな自動化の結果として、世界12の大規模経済圏における1億2,000万人もの労働者が、リスキリングが必要になる可能性があると予測しています。その中で日本は、488万4000人がリスキリングの対象だと試算されました。また、調査したCEOの41%しか、ビジネス戦略を実行するために必要な人材、スキル、リソースを持っていないと回答しました。つまり、世界的に多くの企業が「人材不足」という課題に頭を悩ませていると言えます。単純に人手が足りないのではなく、DXのために必要な高い専門性やスキルを持った人材が不足しているからです。そのため、DXに必要な人材を新たに採用することに加えて、自社内で育てることが急務となっています。48カ国5,670人以上の世界中のエグゼクティブを対象としたこの調査は、企業のあらゆるレベルで労働力のニーズが変化していることに対して、どのように対応し管理するかについて根本的な転換が求められている、という複雑な課題を指摘しています。マッキンゼーの最新レポートでは、デジタル人材を外部から調達するコストは、社内人材をリスキリングするコストの最大6倍になると指摘しており、コスト面でもリスキリングの重要性が高まっています。技術的失業への対応AI(人工知能)の普及による業務の自動化や技術革新によって生産性が向上したことで、人手が不要となる職種が今後増えることも予測されています。2015年に野村総合研究所は、10~20年後に日本の労働人口の約49%が、技術的にはAIやロボットなどに代替することが可能になるとの推計結果を発表しました。芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向がある一方、必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向にある、ということです。2023年のガートナーの調査では、AIの台頭により今後5年間で約85%の職種が何らかの形で変化すると予測しており、従来型のスキルセットでは対応できない業務環境への適応が求められています。そのような、人間にしか対応できない付加価値の高い職種への転換といった、成長分野に携わる雇用の創出が求められており、リスキリングの需要が高まっているのです。グローバル競争力の維持日本の労働生産性はOECD加盟国39カ国中28位(2022年)と低迷しており、IT投資の遅れや人的資本への投資不足が指摘されています。経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、日本企業の従業員一人当たりの教育訓練費は主要先進国の中で最低水準にあり、企業の競争力向上のためには従業員のスキル向上が不可欠です。企業がリスキリングを導入する5つの具体的ステップSTEP1: スキルギャップの可視化と分析まず最初に行うべきは、自社に必要なスキルと現在の従業員が持つスキルのギャップを可視化することです。これには以下のような方法があります:スキルインベントリの作成: 従業員のスキルを棚卸しし、データベース化する将来必要なスキルの予測: 業界動向や技術トレンドから5年後に必要となるスキルを予測ギャップ分析: 現状と将来のスキルギャップを定量的に分析デロイトの調査によれば、スキルギャップを可視化している企業は、そうでない企業と比較して収益性が15%高いという結果が出ています。STEP2: 優先順位の高いスキル領域の特定次に、ビジネス戦略に直結するスキル領域から優先的に取り組むことが重要です:クリティカルスキルの特定: 業績に直結する重要なスキルを優先ROI分析: 投資対効果の高いスキル領域を選定リソース配分: 限られた予算と時間を最適に配分PwCの調査では、戦略的にスキル開発の優先順位を設定している企業は、従業員の定着率が23%高いという結果が報告されています。STEP3: 効果的な学習プログラムの設計スキルギャップを埋めるための学習プログラムは、以下の要素を考慮して設計します:ブレンド型学習: オンライン学習と対面学習を組み合わせる実践的なプロジェクト: 実務に直結したプロジェクトベースの学習マイクロラーニング: 短時間で効率的に学べるコンテンツパーソナライズ: 個人の学習スタイルや進捗に合わせた調整ハーバードビジネススクールの研究によれば、実践とフィードバックを組み合わせた学習プログラムは、従来の講義型と比較して学習効果が3倍高いことが示されています。STEP4: 学習環境と文化の構築リスキリングを成功させるには、組織文化と環境の整備が不可欠です:リーダーシップのコミットメント: 経営層が率先して学習する姿勢を示す学習時間の確保: 業務時間内に学習できる時間を公式に設ける心理的安全性: 失敗を恐れずに新しいスキルに挑戦できる環境インセンティブ設計: スキル獲得に連動した評価・報酬制度マイクロソフトの事例では、「Growth Mindset」と呼ばれる学習文化を浸透させることで、社内イノベーション率が28%向上したと報告されています。STEP5: 効果測定と継続的な改善リスキリングの効果を測定し、継続的に改善することが重要です:KPIの設定: スキル習得率、業務効率化、イノベーション創出などの指標を設定定期的な測定: 四半期ごとに効果を測定し、課題を特定フィードバックループ: 学習者からのフィードバックを次のプログラム設計に活かす投資対効果の分析: リスキリング投資のROIを定量的に評価アクセンチュアの調査によれば、リスキリングの効果を継続的に測定している企業は、そうでない企業と比較して人材の生産性が25%高いという結果が出ています。WONDERFUL GROWTHでは当社では、「学習定着」に重きを置いたリスキリングを支援します。IBMの調査で発表された日本国内で488万4000人がリスキリングの対象というのは、正社員の8人に1人だと想定されます。当社はこれは企業課題というだけではなく、広く経済課題だと言えると考えました。人材を育成するという領域において今後の経済の発展のためにも、継続したリスキリングが発生することが予想されます。また前項で解説した「リカレント教育」や「生涯学習」ももちろん人間生活を営む上ではとても重要な概念ですが、この2つの定義は生産とは直接紐付かない部分の学習も含まれるため、当社では社会にインパクトを与えるための「リスキリング」の場を優先して提供していきます。ここで、人材育成の重要性を、例として企業の設備投資の観点で考えてみます。同じ設備を使い続けずに、ある一定の時期に設備をアップデートすることは当然であり、例えば老朽化対応・生産性の向上・生産領域の拡大を図るのが一般的です。当社は、人的資産の有効活用のために企業がとるべき戦略も同様であるべきだと考えています。人という資産は複雑で、自発的にアップデートを図ってくれるケースもあれば、雇用時から価値を変えずに高コスト化することも考えられます。等しく1つの企業体に属する従業員の皆さんが学ぶ機会を得られるということは企業としての先進性を維持するためにも必要であり、二次的には企業に帰属し、長期定着(知識と経験の積み上げ)に繋がる一つの手段になるでしょう。当社のリスキリングプログラムの特徴は、以下の3点です:科学的アプローチ: 脳科学と学習心理学に基づいた知識定着メソッド実務連動型: 学んだスキルを即実務で活用できる設計継続的サポート: 学習後も6ヶ月間のフォローアップ体制実際に当社のプログラムを導入した企業では、平均して従業員の業務効率が32%向上し、新規事業開発の成功率が1.8倍になったという実績があります。「リスキリング」「学び直し」を取り入れることをお考えの企業様は、是非一度、WONDERFUL GROWTH にお問い合わせくださいませ。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。参考文献・リスキリングとは -DX時代の人材戦略と世界の潮流-|リクルートワークス研究所 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf・IBM調査: 市場原理主義に応じた新規スキルの獲得 ― 既存保有スキルの拡張(リスキリング:Re-Skilling)|日本IBM https://jp.newsroom.ibm.com/2019-09-10-IBM-Study-The-Skills-Gap-is-Not-a-Myth-But-Can-Be-Addressed-with-Real-Solutions・日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に|野村総合研究所 https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf・デジタル時代の人材政策に関する検討会 報告書|経済産業省 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/20220628_report.html・The Future of Jobs Report 2023|World Economic Forum https://www.weforum.org/reports/the-future-of-jobs-report-2023/・リスキリング・キャリアアップ推進事業の状況|経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/reskilling.html・日本の人材育成に関する分析レポート|経済協力開発機構(OECD)https://www.oecd.org/japan/skills-outlook-japan-JP.pdf