こんにちは。WONDERFUL GROWTH編集部です。企業における「人材育成」と「人材開発」。似ているようで異なるこの2つの概念は、多くの企業の人事担当者や経営者にとって、明確に区別することが難しいテーマかもしれません。経済産業省が2023年に発表した「人的資本経営の実践に関する調査」によれば、日本企業の約65%が「人材育成に課題を感じている」一方で、「人材開発を戦略的に実行している」と回答した企業はわずか23%に留まることが判明しました。この数字からも、多くの企業が人材に関する用語や概念を整理し、より効果的なアプローチを求めていることがうかがえます。本記事では、「人材育成」と「人材開発」の概念的な違いから、それぞれのアプローチ方法、企業が抱える課題、そして実践のための具体的ステップまでを解説します。経営者や人事責任者の皆様が、自社の人材戦略を再考するための一助となれば幸いです。人材育成と人材開発の定義と違いまずは、基本的な定義から整理していきましょう。人材育成(Human Resource Training)とは「人材育成」とは、従業員の能力やスキルを向上させるための取り組みを指します。具体的には、業務に必要な知識やスキルを習得させ、現在の職務をより効果的に遂行できるようにするための活動です。人材育成の特徴は以下の通りです:短期~中期的な視点: 現在の業務に必要なスキルや知識の習得に焦点業務遂行能力の向上: 現職でのパフォーマンス向上を主目的とするトレーニングやOJTが中心: 具体的なスキルの習得・向上に重点を置く計画的・体系的: 標準化されたカリキュラムやプログラムが多い人材育成は、「今」必要なスキルを身につけるための取り組みと言えるでしょう。人材開発(Human Resource Development)とは一方、「人材開発」とは、組織の将来的なニーズに応えられる人材を創出するための、より広範かつ長期的なアプローチです。従業員の潜在能力を引き出し、キャリア全体を通じた成長を促進します。人材開発の特徴は以下の通りです:中長期的な視点: 将来的な組織ニーズや従業員のキャリア発達に焦点潜在能力の開発: 未来の役割や変化に対応できる能力の育成多様な手法の活用: 研修だけでなく、ローテーション、メンタリング、挑戦的な業務経験など個別最適化: 個人の特性やキャリアパスに合わせた開発アプローチ人材開発は、「未来」に必要となる能力や資質を培うための取り組みと言えるでしょう。統計データから見る人材育成と人材開発の違い日本経済団体連合会が2022年に実施した「人的資本経営に関する調査」によれば、企業の人材関連投資の内訳として「人材育成」に該当する費用が平均で売上高の0.25%であるのに対し、「人材開発」に該当する投資は0.13%に留まっています。また、東京商工リサーチの調査では、従業員1,000人以上の大企業において、人材育成に従事する専任担当者がいる企業は78%であるのに対し、人材開発の専任担当者がいる企業は42%という結果が出ています。これらのデータからも、日本企業においては「人材育成」に比べて「人材開発」の取り組みがまだ十分に浸透していないことがわかります。人材育成と人材開発の目的と手法の違い次に、それぞれの目的と具体的な手法について見ていきましょう。人材育成の目的と主な手法人材育成の主な目的は、現在の業務パフォーマンスの向上です。具体的には以下のような手法が一般的です:集合研修: 同じ内容を多くの従業員に効率よく伝える手法OJT(On-the-Job Training): 実際の業務を通じて行う実践的な訓練eラーニング: オンラインで時間や場所を選ばず学習できる手法資格取得支援: 業務に必要な資格の取得を奨励・支援する制度技術研修: 特定のスキルや技術を習得するための専門的な研修厚生労働省の調査によれば、日本企業の95%がOJTを実施し、85%が集合研修を実施しているというデータがあります。人材開発の目的と主な手法人材開発の主な目的は、将来の組織ニーズに対応できる人材の創出です。具体的な手法としては:キャリア開発プログラム: 中長期的なキャリアパスを設計し支援する取り組みジョブローテーション: 様々な職務を経験させることで視野を広げる制度メンタリング・コーチング: 対話を通じて気づきや成長を促す支援挑戦的業務の付与: 現状の能力を超えた業務を任せ成長を促すリーダーシップ開発: 将来の管理職・経営層を育てる体系的プログラム同じく厚生労働省の調査では、人材開発の手法として最も普及しているのはジョブローテーションで67%、次いでメンタリングが42%という結果が出ています。人材育成と人材開発の課題と解決策両者の違いを理解した上で、それぞれが抱える課題と解決策について考えてみましょう。人材育成の主な課題と解決策人材育成における主な課題は以下の通りです:効果測定の難しさ:課題:研修の効果が業績にどう結びついているか測定が難しい解決策:KPIの設定と定期的なスキル評価、行動変容の観察学習内容の定着率の低さ:課題:研修で学んだことが実務に活かされないケースが多い解決策:研修後のフォローアップと実践機会の提供、マイクロラーニングの導入個人差への対応:課題:一律の研修では個人の理解度や習熟度に差が出る解決策:レベル別コース設計とアダプティブラーニングの導入デロイトトーマツコンサルティングの調査によれば、人材育成の効果を高めるためには「学習と実践のサイクルを短くする」ことが効果的で、研修後3日以内に学んだことを実践する機会を設けた場合、定着率が約3倍になるというデータもあります。人材開発の主な課題と解決策人材開発における主な課題は:長期的投資に対する経営層の理解:課題:即効性が見えにくく投資判断が難しい解決策:中長期的ROIの可視化と成功事例の蓄積・共有個人のキャリア志向と組織ニーズの乖離:課題:個人の希望と組織の期待にギャップがあることが多い解決策:定期的なキャリア面談と透明性の高いキャリアパスの提示適切な評価・フィードバック:課題:潜在能力や成長過程を評価することの難しさ解決策:多面評価と成長指標の導入、継続的フィードバック文化の醸成PwCの「タレントマネジメント実態調査2023」によれば、人材開発に成功している企業の85%が「半年に一度以上のキャリア面談」を実施し、70%が「成長プロセスを評価する指標」を持っているという結果が出ています。戦略的人材マネジメントのための5つの視点人材育成と人材開発の違いを踏まえた上で、効果的な人材マネジメントを実践するための5つの視点をご紹介します。1. 経営戦略との連動人材育成・開発は経営戦略と密接に連動させることが重要です。具体的アクション:中期経営計画から必要な人材要件を抽出する経営会議に人材戦略を定期的に議題として設定する事業責任者と人事責任者の定期的な意見交換の場を設けるマッキンゼーの調査によれば、経営戦略と人材戦略を連動させている企業は、そうでない企業に比べて収益成長率が約1.5倍高いという結果が出ています。2. 短期と長期のバランス人材育成(短期)と人材開発(長期)のバランスを取ることが重要です。具体的アクション:人材投資の予算配分を短期:長期=6:4程度にする四半期ごとの短期育成目標と年次の開発目標を設定する日常業務の中に長期的な成長機会を組み込む工夫をするHRテクノロジー大手のワークデイの調査では、短期と長期のバランスが取れた人材戦略を持つ企業は、従業員エンゲージメントが平均25%高く、離職率が18%低いという結果が出ています。3. データドリブンな人材戦略感覚や経験だけでなく、データに基づいた人材戦略の立案と実行が重要です。具体的アクション:人材データベースの構築と定期的な更新スキルマップの作成とギャップ分析研修効果の定量的測定と継続的改善IDCの調査によれば、データドリブンな人材戦略を実践している企業は、そうでない企業と比較して採用コストが23%低く、人材育成の投資対効果が31%高いというデータがあります。4. 個別最適と全体最適の両立組織全体の底上げと、個人の強みを活かした育成・開発の両立が重要です。具体的アクション:共通スキルと専門スキルを明確に区分したカリキュラム設計自己選択型と指名型を組み合わせた研修制度の構築タレントマネジメントシステムの導入と活用グラスドアの調査では、個人のキャリア志向を尊重しながら組織ニーズも満たす育成プログラムを持つ企業は、従業員満足度が平均で24%高いという結果が出ています。5. 学習する組織文化の醸成単発の施策ではなく、組織全体が常に学び成長する文化を作ることが重要です。具体的アクション:経営層自らが積極的に学ぶ姿勢を見せる失敗から学ぶことを奨励する心理的安全性の確保知識共有の仕組みとインセンティブの設計MITスローン経営大学院の研究によれば、「学習する組織文化」を持つ企業は、そうでない企業と比較してイノベーション創出率が2.2倍、市場適応力が1.8倍高いというデータがあります。WONDERFUL GROWTHの取り組み当社WONDERFUL GROWTHでは、人材育成と人材開発の両面からお客様企業の成長をサポートしています。人材育成の観点では、業務に直結する実践的なスキルトレーニングを提供する一方、人材開発においては中長期的な視点でのキャリア開発支援や組織文化変革のコンサルティングも行っています。当社の支援プログラムの特徴は以下の3点です:統合的なアプローチ: 人材育成と人材開発を有機的に結合させた「人材価値創造サイクル」を活用科学的な手法: 行動科学と神経科学の知見を活かした効果的な学習プログラムの設計持続可能な仕組み化: 一時的な施策ではなく、組織に定着する仕組みとしての人材マネジメント支援当社のプログラムを導入いただいた企業では、従業員のスキル習得速度が平均28%向上し、リーダー候補の早期発掘率が35%増加、さらには従業員エンゲージメントスコアが21%改善するという成果が出ています。企業の持続的成長には、人材育成と人材開発を戦略的に組み合わせた統合的アプローチが不可欠です。貴社の人材戦略に関するお悩みやご相談がございましたら、WONDERFUL GROWTHの専門コンサルタントがお力添えいたします。お問い合わせはこちらから、お気軽にご連絡ください。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。参考文献・人的資本経営の実践に関する調査結果|経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/human-capital/index.html・人的資本経営に関する調査2022|日本経済団体連合会 https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/017.html・企業における人材育成・人材開発の実態調査報告|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/・タレントマネジメント実態調査2023|PwCコンサルティング https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/talent-management.html・学習する組織の実態調査|MITスローン経営大学院 https://sloanreview.mit.edu/projects/moving-beyond-fast/・日本企業における人材投資の実態と課題|東京商工リサーチ https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/