こんにちは。WONDERFUL GROWTH編集部です。「優秀な部下が突然退職を申し出た」「なぜもっと早く相談してくれなかったのか」──このような経験をお持ちの管理職の方は少なくないでしょう。実は、厚生労働省の調査によると、退職者の約7割が「職場で言いにくい不満や要望があった」と回答しており、その多くが「上司に相談できなかった」ことを理由に挙げています。つまり、優秀な人材の流出を防ぐカギは、「言いにくいこと」を適切に伝え合える職場環境の構築にあるのです。そして、その中核となるのが「アサーション(assertion)」という技術です。アサーションとは何か?なぜ今必要なのかアサーションとは、相手を尊重しながら自分の意見や感情を率直に伝える技術のことです。攻撃的でも受身的でもない、「建設的な自己主張」とも言えるでしょう。近年、職場でアサーションが重要視される背景には、以下のような要因があります:1. 心理的安全性の重要性 Google社の研究プロジェクト「Project Aristotle」でも明らかになったように、チームの生産性を決定する最大要因は「心理的安全性」です。メンバーが「言いにくいこと」を安心して発言できる環境こそが、イノベーションと成長を促進します。2. 多様性の拡大 価値観や働き方が多様化する現代において、異なる意見や要望を建設的にすり合わせる技術がより重要になっています。3. 情報共有の必要性 複雑化するビジネス環境では、課題や懸念事項の早期共有が組織の競争力を左右します。脳科学から見た「言いにくさ」のメカニズムなぜ人は「言いにくいこと」を避けてしまうのでしょうか。脳科学の観点から分析すると、興味深い事実が浮かび上がります。人間の脳には、危険を察知すると瞬時に「闘争・逃走・硬直」反応を起こす扁桃体という部位があります。「上司に意見を言う」「同僚に注意する」といった場面では、この扁桃体が「社会的な危険」を感知し、理性的な判断を司る前頭前野の働きを抑制してしまうのです。この状態を「扁桃体ハイジャック」と呼びます。ハイジャック状態では、建設的な対話ではなく、以下のような反応が起こりがちです:攻撃的反応:感情的に相手を責める受動的反応:不満を溜め込み、最終的に爆発または諦める受動攻撃的反応:皮肉や遠回しな批判で相手を攻撃するアサーション技術は、この扁桃体ハイジャックを回避し、前頭前野による冷静な判断を保ちながらコミュニケーションを行うための手法なのです。統計が示す「言いにくいこと」の組織への影響日本能率協会の調査「職場のコミュニケーションに関する実態調査」(2023年)では、以下のような結果が明らかになっています:67% の従業員が「上司に言いにくいことがある」と回答52% が「言いにくいことが業務効率に悪影響を与えている」と認識41% が「言いにくさが離職を考える要因になった」と回答また、マネジメント層への調査では:78% が「部下の本音を把握できていない」と感じている64% が「部下とのコミュニケーション改善が急務」と認識これらの数字は、「言いにくいこと」を放置することが組織にとって大きなリスクとなることを物語っています。実践!アサーション技術の5ステップでは、具体的にどのようにアサーション技術を身につければよいのでしょうか。以下に、誰でも今日から実践できる5つのステップをご紹介します。ステップ1:感情の認識と整理(所要時間:5分)まず、「言いにくいこと」を伝える前に、自分の感情を客観視することが重要です。具体的な方法:紙に「今感じている感情」を書き出すその感情の強度を1-10で数値化する「なぜその感情が生まれたのか」を分析する例:怒り(7/10)→ 部下が同じミスを繰り返したから心配(6/10)→ プロジェクトの進捗に影響が出そうだから失望(4/10)→ 期待していた成果が出なかったからこの整理により、感情的な反応ではなく、建設的な対話のベースを作ることができます。ステップ2:DESC法を活用した構造化(所要時間:3分)DESC法は、アサーションの基本的なフレームワークです:Describe(描写):事実を客観的に述べるExpress(表現):自分の感情を率直に伝えるSpecify(明確化):具体的な要望を示すConsequences(結果):それによる効果を説明する悪い例: 「君はいつもミスが多いね。もっとちゃんとやってくれないと困るよ。」良い例(DESC法適用):D:「今月の資料作成で、3回の誤字脱字がありました」E:「クライアントへの印象が心配になっています」S:「提出前にセルフチェックの時間を5分設けてもらえますか」C:「それにより、品質向上と修正時間の削減につながると思います」ステップ3:適切なタイミングと場所の選択(所要時間:2分)「言いにくいこと」を伝える際は、環境設定が成功を左右します。最適な条件:時間:相手に余裕があり、集中できる時間帯場所:プライバシーが保たれる個室状況:他の緊急事項がない落ち着いた状況避けるべき条件:他の人がいる場所での指摘緊急対応中やストレス過多の状況就業時間外や休憩中の強要ステップ4:相手の立場に立った伝え方(所要時間:3分)アサーションでは、相手の尊厳を保ちながら建設的な対話を心がけます。基本姿勢:肯定的関心:相手の成長を願う気持ちを示す協働的態度:「対立」ではなく「協力」の姿勢具体的提案:抽象的な指摘ではなく、実行可能な改善案実践例: 「田中さんの企画力はいつも素晴らしいと思っています。今回のプレゼン資料についてですが、データの出典を明記することで、さらに説得力が増すのではないでしょうか。次回から、可能な範囲で出典情報も含めてもらえると、クライアントの信頼度もより高まると思います。」ステップ5:フォローアップとフィードバックの実施(所要時間:5分/週)アサーションは一度の対話で完結するものではありません。継続的なフォローアップが重要です。週1回の振り返り項目:前回の改善点は実行されているか新たな課題や困りごとはないか相手の努力や成果を適切に評価できているか組織全体でアサーション文化を醸成する方法個人レベルでのアサーション技術習得に加え、組織全体での文化醸成も重要です。1. 共通認識の形成まず、組織内で「アサーション」の価値観を共有しましょう。実践方法:管理職向けアサーション研修の実施「心理的安全性」を重視する組織方針の明文化成功事例の社内共有と表彰2. 構造的な仕組みづくり文化変革には、制度的なサポートも必要です。推奨施策:1on1ミーティングの定期実施匿名フィードバックシステムの導入「建設的な意見交換」を評価項目に含める人事制度3. 継続的な学習機会の提供アサーション技術は一朝一夕で身につくものではありません。継続的な学習と実践の場が重要です。研修効果を最大化する3つのポイントアサーション研修を検討される際は、以下の3点を重視してください:ポイント1:体験型学習の重視座学だけでなく、ロールプレイングやシミュレーション環境での実践練習により、安全な失敗経験を通じた学習機会を提供することが重要です。ポイント2:内発的動機づけの促進研修参加者の「動機形成」を徹底的に行い、指示による参加から自発的参加への転換を図ることで、学習効果を最大化できます。ポイント3:継続的フォローアップ体制研修後の上司サポートと継続的フォローアップ体制を構築することで、学習の実務への定着を図ることが可能です。まとめ:「言いにくいこと」を伝える技術が組織を変える「言いにくいこと」を適切に伝え合える組織文化の構築は、単なるコミュニケーション改善にとどまりません。それは:人材流出の防止:早期の課題解決により離職を予防組織の成長促進:多様な意見の活用によるイノベーション創出生産性の向上:迅速な課題解決と効率的な業務運営従業員エンゲージメント向上:心理的安全性の確保これらの効果により、組織全体のパフォーマンス向上と持続的な成長を実現できるのです。アサーション技術は、管理職だけでなく、全ての従業員が身につけるべきスキルです。しかし、その導入と定着には、適切な研修設計と継続的なサポートが不可欠です。あなたの組織でも、「言いにくいこと」を建設的に伝え合える文化を築いてみませんか?専門的な研修プログラムの設計から実施、フォローアップまで、私たちがサポートいたします。組織の成長と従業員の幸福を両立するアサーション文化の構築について、ぜひお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら: https://wonderful-growth.com/contact