近年、ビジネスシーンで「DE&I(ディーイーアンドアイ)」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?企業の持続的な成長やイノベーション創出に不可欠な考え方として、多くの企業がその推進に取り組んでいます。この記事では、人事担当者の方がDE&Iについて理解を深め、自社での取り組みを検討する際に役立つよう、DE&Iの意味、重要性、メリット、具体的な推進例などを、誰が見てもわかりやすく解説します。DE&Iとは?~3つの要素を理解する~DE&Iとは、Diversity(ダイバーシティ:多様性)、Equity(エクイティ:公平性)、Inclusion(インクルージョン:包括性)という3つの言葉の頭文字を取ったものです。それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。1. Diversity(ダイバーシティ:多様性)「ダイバーシティ」とは、組織や集団の中に、さまざまな属性や背景を持つ人々が存在している状態を指します。具体的には、以下のような要素が挙げられます。外見的・属性的な多様性:人種、国籍、民族性別(男性、女性、その他)性的指向(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど:LGBTQ+)年齢障がいの有無宗教・信条内面的な多様性:価値観、考え方経験、スキル、知識キャリア、働き方コミュニケーションスタイル企業においてダイバーシティを推進するということは、これらの多様な人材を受け入れ、組織の力として活かしていくことを目指すものです。2. Equity(エクイティ:公平性)「エクイティ」とは、すべての人に同じ機会やリソースを提供する「Equality(平等)」とは異なり、個々の状況やニーズの違いを考慮し、それぞれの人に合わせた適切な支援やリソースを提供することで、誰もが同じスタートラインに立てるようにするという考え方です。例えば、身長の異なる3人が同じ高さの壁の向こうを見ようとするとき、Equality(平等): 全員に同じ高さの踏み台を1つずつ提供する。背の低い人は依然として壁の向こうが見えません。Equity(公平性): 背の低い人には高い踏み台を、中くらいの人には中くらいの踏み台を、背の高い人には踏み台なしでも見えるなら提供しない、といったように、それぞれの状況に合わせて必要なサポートを提供することで、全員が壁の向こうを見られるようにします。企業においては、従業員一人ひとりの置かれた状況や特性を理解し、それぞれが必要とするサポート(研修機会、キャリアパス、労働環境など)を提供することで、誰もが能力を最大限に発揮できるような環境を整備することを意味します。3. Inclusion(インクルージョン:包括性)「インクルージョン」とは、組織内に存在する多様な人材が、お互いを尊重し合い、誰もが自分らしさを保ちながら疎外感を感じることなく、組織の一員として受け入れられ、その能力を十分に発揮できる状態を指します。ただ多様な人材を集める(ダイバーシティ)だけでなく、その一人ひとりが「ここにいて良いんだ」「自分の意見が尊重されるんだ」と感じられる心理的安全性が確保され、積極的に組織活動に参加できる環境づくりが重要です。インクルージョンが実現されて初めて、多様性が真に活かされると言えるでしょう。D&IからDE&Iへ以前は「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という言葉が主流でしたが、近年では「Equity(公平性)」の重要性が認識され、「DE&I」という言葉がより使われるようになっています。多様な人材がそれぞれの能力を発揮するためには、形式的な平等ではなく、実質的な公平性が担保される必要があるという考え方が背景にあります。なぜ今、DE&Iが重要視されるのか?DE&Iが現代のビジネスにおいて不可欠な要素として注目されている背景には、以下のような社会や市場の変化があります。グローバル化の進展:ビジネスのグローバル化が進み、多様な国籍や文化を持つ人々と協働する機会が増えています。異なる価値観を理解し、受け入れる能力が不可欠です。少子高齢化と労働力不足:日本国内では少子高齢化による労働力人口の減少が深刻化しており、女性、高齢者、外国人、障がい者など、多様な人材の活躍が企業成長の鍵となっています。価値観の多様化:個人の価値観やライフスタイルが多様化し、従業員の働き方に対するニーズも変化しています。画一的な制度やマネジメントでは対応しきれなくなっています。イノベーション創出の必要性:変化の激しい市場で企業が競争優位性を保つためには、新しいアイデアや視点を取り入れたイノベーションが不可欠です。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、斬新な発想が生まれやすくなります。ESG経営・SDGsへの関心の高まり:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視するESG経営や、持続可能な開発目標(SDGs)への注目が高まっています。DE&Iの推進は、「人権の尊重」や「働きがいも経済成長も」といった目標達成に直結し、投資家や社会からの評価を高める要素となります。企業イメージと採用競争力の向上:DE&Iに積極的に取り組む企業は、社会的に責任感のある企業として評価され、ブランドイメージが向上します。また、多様な人材にとって働きやすい環境は、優秀な人材の獲得と定着にも繋がります。DE&I推進のメリットDE&Iを推進することは、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらします。企業側のメリットイノベーションの促進: 多様な視点や経験が組み合わさることで、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなります。生産性の向上: 従業員が自分らしく働ける環境は、モチベーションやエンゲージメントを高め、結果として生産性向上に繋がります。意思決定の質の向上: 異なる意見や考え方を議論に取り入れることで、より多角的で質の高い意思決定が可能になります。企業競争力の強化: 新しい市場の開拓や、多様な顧客ニーズへの対応力が高まり、企業全体の競争力が強化されます。優秀な人材の獲得と定着: 多様な人材にとって魅力的な職場環境を提供することで、採用競争において優位に立ち、離職率の低下も期待できます。リスクマネジメント: ハラスメントや差別を防止し、コンプライアンス意識を高めることで、企業リスクを低減します。企業ブランド価値の向上: 社会的責任を果たす企業として認知され、顧客や投資家からの信頼が高まります。従業員側のメリット働きがい・エンゲージメントの向上: 自分の個性や能力が認められ、活かされる環境で働くことは、仕事への満足度や貢献意欲を高めます。心理的安全性の確保: 誰もが安心して意見を言え、自分らしくいられる職場は、ストレス軽減やメンタルヘルスの向上に繋がります。キャリアアップ機会の拡大: 公平な評価制度や多様なキャリアパスが用意されることで、個々の能力や意欲に応じた成長機会が得られます。多様な価値観との出会いによる成長: 異なるバックグラウンドを持つ同僚との交流を通じて、新たな視点や学びを得ることができます。ワークライフバランスの実現: 柔軟な働き方や育児・介護支援制度などが整備されることで、仕事と私生活の両立がしやすくなります。DE&Iがよく使われるシーン・具体的な取り組み例DE&Iは、人事戦略のあらゆる場面で意識され、具体的な取り組みとして実践されています。採用活動:目的: 多様なバックグラウンドを持つ人材の獲得。シーン: 求人広告、会社説明会、面接、内定者フォロー。具体例:採用ターゲットの多様化(性別、年齢、国籍、経験などに偏りがないか見直す)。求人情報の表現を見直し、特定の層を排除するような文言を避ける。ブラインド採用(氏名、性別、年齢などを伏せて書類選考を行う)の導入検討。面接官へのDE&I研修(アンコンシャスバイアス研修など)の実施。多様なロールモデルとなる社員の紹介。人材育成・研修:目的: 全従業員のDE&I意識向上、多様な人材の能力開発。シーン: 新入社員研修、階層別研修、管理職研修、eラーニング。具体例:DE&Iに関する基礎知識研修の実施。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気づき、対処するための研修。インクルーシブ・リーダーシップ研修(多様な部下をまとめ、活かすためのスキル)。多様なキャリアパスの提示と、それに応じたスキルアップ支援。メンター制度やスポンサー制度の導入。働き方改革・職場環境整備:目的: 全ての従業員が能力を発揮しやすい、柔軟でインクルーシブな環境づくり。シーン: 制度設計、オフィス環境整備、福利厚生。具体例:リモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務など柔軟な働き方の導入・拡充。育児・介護支援制度の充実(休暇制度、経済的支援、相談窓口設置など)。誰でも利用しやすいオフィスの整備(バリアフリー設計、ジェンダーレストイレ、礼拝スペースなど)。ハラスメント防止規定の整備と周知徹底、相談窓口の設置。社内コミュニケーション・組織風土醸成:目的: 相互理解を深め、心理的安全性の高い組織風土をつくる。シーン: 社内イベント、会議、日常的なコミュニケーション。具体例:従業員ネットワークグループ(ERG:Employee Resource Group)の活動支援(例:女性活躍推進、LGBTQ+、グローバル人材など)。DE&Iに関する経営層からのメッセージ発信。多様な意見が出やすい会議運営(ファシリテーションスキルの向上)。社内報やイントラネットでのDE&I関連情報の発信。評価制度・報酬制度:目的: 公平で納得感のある評価・報酬制度の構築。シーン: 目標設定、評価面談、昇進・昇格、給与改定。具体例:評価基準の明確化と透明性の確保。評価者トレーニングの実施(評価の偏りをなくす)。多様な貢献(チームへの貢献、新しい視点の提供など)を評価する仕組みの導入。男女間の賃金格差の是正。経営戦略・事業開発:目的: DE&Iを経営戦略に組み込み、新たな価値創造につなげる。シーン: 経営会議、新規事業立案、商品・サービス開発。具体例:DE&I推進を経営目標の一つとして設定し、担当役員や専門部署を設置。多様な顧客ニーズを反映した商品・サービスの開発。アクセシビリティに配慮した製品設計。DE&I推進における注意点・課題DE&Iの推進は一朝一夕に成し遂げられるものではなく、いくつかの注意点や課題も存在します。形式的な取り組みに終わらせない:単に制度を導入したり、イベントを開催したりするだけでは、DE&Iは浸透しません。その目的や意義を従業員一人ひとりが理解し、行動に移せるような本質的な取り組みが必要です。「多様性疲れ」への配慮:DE&I推進の過程で、一部の従業員が過度な配慮を求められていると感じたり、コミュニケーションの難しさを感じたりする「多様性疲れ」が生じる可能性があります。目的を見失わず、丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。トップの強いコミットメントが不可欠:経営層がDE&Iの重要性を理解し、率先して推進する姿勢を示すことが、全社的な取り組みを加速させます。継続的な取り組みと効果測定:DE&Iは短期的なプロジェクトではなく、長期的な視点での継続的な取り組みが求められます。定期的に進捗状況を把握し、効果を測定(例:従業員意識調査、属性別定着率など)し、改善を重ねていくことが大切です。アンコンシャスバイアスへの対処:誰もが持つ無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)が、DE&I推進の妨げになることがあります。研修などを通じて、まずその存在に気づき、意識的にコントロールする努力が必要です。少数派(マイノリティ)の声の尊重:多数派(マジョリティ)の意見だけでなく、少数派の意見にも耳を傾け、誰もが安心して声を上げられる仕組みづくりが重要です。「公平性(Equity)」の実現の難しさ:個々の状況に応じた適切な支援を行う「公平性」の実現は、何が「公平」なのかの判断が難しく、きめ細やかな対応が求められます。まとめ:DE&Iは未来を拓く経営戦略DE&Iは、単なる社会貢献活動や人事部だけの課題ではなく、企業の持続的な成長とイノベーション創出に不可欠な経営戦略です。多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮し、互いに尊重し合える組織文化を育むことは、変化の激しい時代を乗り越え、新たな価値を創造していくための基盤となります。