パーソルテンプスタッフ株式会社様の育成論カイシャの育成論について————最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。育成制度としては、主に研修を通じて行うことが多く、階層別研修や次世代経営人材育成、企業内大学の「Temp University(テンプユニバーシティ)」などを実施しています。階層別研修や次世代経営人材育成研修は戦略に紐づいた育成を行っていく研修となっています。一方で、私がメインで担当している企業内大学「Temp University(テンプユニバーシティ)」(以下TU)は、社員の主体的な意志に基づいた、任意で学ぶことができる育成制度となっています。————階層別研修と次世代経営人材育成の研修が始まった経緯についてお伺いしたいです。私は2019年1月に当社に入社し、2023年の3月までは人材開発推進室に所属しており、階層別研修や次世代経営人材育成を担当していました。2022年4月のTU開学後、翌2023年4月に推進室が組織化され、私がその責任者として現在に至っています。2016、17年くらいに人事制度を大きく見直す機会があり、各グレードに求められる基準を整備し、それに伴い育成体系も整理し直しました。その際に生まれたのが階層別研修です。次世代経営人材育成は、2021年に生まれた、選抜マネージャー・部長を対象とした育成施策です。現在の当社の代表である木村が「若手の抜擢や個性的なチームの創出を目指し、多様な経営人材の育成を目指していく」という方針を打ち出したことがきっかけで生まれた制度です。それまで当社では選抜して育成するという機会はあまり多くなかったのですが、時代背景や今後必要となる力を持った経営人材の育成を担保するために動き出しました。選抜されるメンバーは期毎に入れ替わり、約2年で育成を行なっていくというスキームで動いており、現在は2期目となっています。育成を始めたことで、全体的にも変化が出てきており、今期は東日本大震災の被災地へ向かい、越境学習を行いました。研修を通じて、視野が広がるような刺激を与えているので、積極的に吸収している方は変化していると感じます。より効果が出てくるのはこれからだと思うので期待しています。————「TU(Temp University)」は先ほどの2つの育成とは異なる分野の育成だと思うのですが、どのような経緯で始まったのでしょうか。元々人材育成担当として「当社ではどんなアプローチがフィットするかな」と日頃考えており、たまたま入社2年後に昇進試験の機会をいただきました。その際に「3年後に企業内大学をつくり、従来とは異なる視点での人材育成が必要だ」と面接で伝え、マネージャー昇進の機会を得ました。本来であれば3年後くらいを目処に考えていたのですが、上司が代わり、「すぐに動いたらいい」と背中を押してもらい1年後の2022年4月に開学しました。————なぜ企業内大学があった方がいいと感じたのでしょうか。まずは社内の風土を見て感じました。私はこの会社で3社目なのですが、過去経験した会社と比べた時により自主的に現場で研修や勉強会を行っているという印象を持ちました。自主的にそういった学習機会を作ることができるという風土があるので「みんなでつくる」ということができそうだなと思いました。また、「学び好き」は多数派ではないと感じていましたね。前職が研修会社だったこともあり、本を沢山読むことが仕事の一部だったなど、実務上学ぶことの比重が高かったです。その環境の違いがあったため、当社に入社した際に、より強くギャップを感じましたね。だからこそ、学びの習慣をつけるために、ちょっと手を伸ばせば学べる状態を作っておくことも大事だなと思いました。そして最後に、人材育成をできる範囲は、どうしても予算による制約を受けてしまうことが多いですよね。効果が現れなければ予算は減らされ、育成の機会もその分減ってしまう、という状態は問題だと思い、内製化していくことも必要だなと感じました。仮説や感覚も大いにありますが、これらの考えが企業内大学を生み出すことに繋がりましたね。————実際に始めてみて、「TU」を活用する社員の皆様はどのような経緯で受講されるのでしょうか。受講方法はシンプルで、「毎月研修のご案内」をメールで送って、参加いただいています。「TU」を開校した直後はオンラインで20回くらい直接私が趣旨を説明する説明会を実施して巻き込む工夫も行いました。その結果、初回は560名ほど参加いただいたのですが、当社には約6,000名の社員が在籍しているので、感度のあった1割弱の社員に参加してもらうことができました。その後、ビジネススキルに関するものだけではなく、マネーにまつわる話や、更年期など大人の性に関する話など、生活にも活きるようなテーマも取り扱うようになり、興味を示してくれる方も増えた結果、2024年1月現在の累計開講講座数は93講座、累計受講者は延べ4,935人となりました。————スキルだけでなく、生活にまつわることからでも学習する習慣が根付くというのは会社としての強みだなと感じました。このテーマは古田様が作られているのでしょうか。メンバーは私含めて6人いて、そのうち4人が企画担当となっています。私たちからテーマを発案することもありますが、社内講師が過去に自分でやっていたものや営業としての強みなどを取り上げ、私たちが講師支援という形で引き出し、形にするということが約7割ですね。ほとんどは私たちからスカウトを行い、お話を伺いますが、最近は個人から事務局宛にメールをいただき、テーマをいただく機会も増えてきました。「知識を社内に伝えたい」という思いを持っている社員が多いので、快くお話を引き受けてくれる方が多いですね。————「TU」が始まってから少しずつ社内にも定着してきており、会社の文化の1つになりつつあると思うのですが、古田様の最終的な構想や直近の目標はありますか。ここまで会社の文化として構築できたのも巡り合わせだなと思っています。社長はもちろん、上司が背中を押してくれ、応援してくれる方が多かったですし、受講する社員にも「学びたい」という根源的な欲求を持っている人が多かったというのがうまく合致していると感じました。現在社内向けに展開している「TU」は、引き続き50年後100年後も社内の文化を具現化した施策としてずっと残っていて欲しいなと思っています。その土台作りは来年度くらいには一旦区切りが着く予定で動いています。その一方で、育成に課題を持つ企業はまだまだ多くあります。その中でも「お金があれば外部で育成を依頼する」という企業が多いと思うのですが、その育成方法では先ほどもお話ししたように、「お金がなくなった場合育成を諦める」という判断に繋がってしまうこともありますよね。それはおかしいなと思うので、育成に課題を感じている企業に企業内大学の開校や運営の支援をサービスの1つとして提供できたらいいなと思い、その準備を少しずつ進めています。当社の取引先からも「研修が足りない」といったようなお声をいただいており、実際に「TU」で行っている研修をご提案することもありました。時期は未定ですが、少しずつニーズを探りながら企業内大学という社外向けサービスのスキームを構築していきたいです。理念・文化について————実際にそのような育成を実現できる会社としての文化や理念としてどのようなものがあるのかもお伺いしたいです。当社は「はたらいて、笑おう。」というパーソルグループのビジョンを掲げています。そこには「楽しくはたらく」という意味も含まれるのですが、パーソルを通じてはたらく中でも、生活の中でも“笑顔”でいられるということが重要だと考えています。だからこそ、「TU」の講座でも、仕事面の話だけではなく、ライフ面の話も行うようにしているという背景があります。また、私たちの存在意義として経営理念で「雇用の創造・人々の成長・社会貢献」の3つを掲げています。私、個人としては経営理念も重視しており、特に「人々の成長」というのは私たちが担うべき領域でもあります。当社が90年代から変わらず大事にし続けてきた経営理念であり、これを意識して働いている社員も多いので、成長思考という土台も築かれているではないかと思いますね。私たちがそれをうまく形にして、提供し続けていきたいと思っています。————90年代からの経営理念が残っているのはすごいですね。これはあえて残していこうと会社として仕掛け作りを行っているのか、自然と社員の皆様の中に浸透しているのでしょうか。経営理念が生まれた頃は「経営理念を浸透させよう」と特別なことをする意識は強くなかったと思います。ただ、2016年以降、多くの会社と一つのグループになっていく中で、経営理念を研修の中でより強く伝える、経営理念が書かれた制作物を作るなど社員の目に触れる機会を増やすといった取り組みはありました。実際は、例えば「雇用の創造」は私たちの派遣サービスそのものということもあり、自然に経営理念を実践することがビジネスとイコールになるという形で浸透がなされていたと思います。グループの規模が大きくなって、実現する社会としてグループビジョンが生まれたりしていますが、やはり元々のDNAには経営理念がしっかり存在していると思っていますし、そこを大事にしてきたからこそ今があると思っています。だからこそ、その経営理念を改めて振り返る必要があるということで、3年前から経営理念の浸透への取り組みに力を入れています。————ビジョンと経営理念の2つがぶつからないというのはすごいですね。この考え方を伝える際に気をつけていることや工夫されていることはありますか。グループビジョンや経営理念は体系化されており、それを具現化するための行動指針もあります。これらを管理職のイベントや、周年イベントなどの機会に伝えていくというのは1つありますね。一方で、日常的に意識できているかという部分においては課題感がある部分もあります。そこは人材開発部門で社員が日常の中で実践していくにはどうすればいいかを考えていく予定です。私が在籍していた1社目の会社が日常まで理念を落とし込んでいたという経験もあり、当社でも、もっと日常の中に理念を落とし込んでいきたいと思っています。会社の歴史について————ありがとうございます。様々な育成を行っていますが、貴社の歴史の中で会社として大きな転換期やきっかけになったことがあればお伺いしたいです。当社の創業者である篠原が、1983年にスタッフ向け教育サービス「テンプスタッフ学院(現:テンプオープンカレッジ)」を開設したことを知り、経営理念に「人々の成長」を掲げるほど成長してより多くの機会を得て欲しいという想いは最初からあったのだと思っています。また、教育事業も展開していることもあり、ただ仕事を紹介するだけではなく、働く人の可能性を伸ばし、より良い働くを実現するということを大事にしてきたのではないでしょうか。当社沿革でも「TU」のようなスタッフ向けの教育機関の開設や、留学支援など変遷が見られ、教育や育成に創業者の思いが存在していました。そのため、きっかけがあったというよりは元々社内に思いや積み重ねてきたものがあり、社員にもその考えが浸透しているなど、共通した価値観があったのだと思いますね。社員の皆様について————お話をお伺いする中で主体性を持って働かれている方も多いなと感じたのですが、社員の皆様が期待値を超えて活躍されたエピソードはありますか。「TU」を通じて期待値を超えて活躍しているとはまだ感じていません。現在、様々な講座を提供しているものの、業務に直結する内容はまだ不足していると思っています。そのため「TU」を受講している方の中から「業務スキルがとても向上しました」という声が挙がるのはこれからですが、その一方で「学ぶ機会を身近に感じられ、習慣になってきた」という変化の声は耳にするようになりました。また、講師として挑戦する社員には別の変化がありました。例えば、「〇〇さん流営業術」という講座があります。営業で良い成績を納める社員の中には感覚的に実践している者もいます。その人にとっては当たり前のことなのではじめは「こんなのが学びになるのでしょうか」と話す者が多いです。しかし、2,3ヶ月ほど企画担当が伴走し、最終的にテキスト化することで、その人自身の知見が言語化され、「実はこういうところを意識してやっていたんだな」など、今まで感覚で行ってきていたことの自己理解に繋がります。最終的には、「内省が深まり、棚卸しができた」と話してくれる者がほとんですね。講師の経験をすることで自身の業務に磨きがかかることはもちろんですし、人に伝えていくことで組織に良い影響を与えていってくれるのではないかなと期待しています。業務内容について————ありがとうございます。業務内容についてもお伺いしたいのですが、現在社内の中で注力されている部分や今後注力していきたいと考えている部分はございますか。当社では、「おつき合い いつまでも」というタグラインを掲げていて、点のお付き合いではなく、線でお付き合いしていく「ファンづくり」を中期経営計画で掲げています。派遣スタッフの方からすると、希望する仕事があって、就業条件や環境がマッチしていればどこの人材会社から就業しても同じかもしれません。ですが、当社のファンになってもらえるよう努力することで、付加価値を感じてもらい、その結果、長くお付き合いを続けていくということを目指しています。今まではいかにタイミングよく営業を行い、マッチングをするか、ということばかりに注力している部分がありました。それも引き続き大切なことではあるのですが、そこからしっかりとしたフォローを行き、スタッフとの信頼関係を築き、今の仕事だけでなく将来のキャリアについて相談に乗り、伴走していくことがこれまで以上に重要になってくると思います。契約が終了したら終わりではなく、次の就業先を探しているタイミングこそより丁寧に対応していくことに注力しています。————古田様自身の価値観も強く現れている方針なのではないかなと思ったのですが、古田様自身の仕事のスタンスにも通じている部分なのでしょうか。私自身の性格としては、人と狭く深く付き合い向き合っていくことが好きというのが根底にあるため、現在の業務の方向性とはマッチしている部分が大きいなと思いますね。派遣ビジネスは1人1人と向き合う、ということを大事にしていかないとなかなか他社と差別化できないと考えています。もちろん、中にはそれを重要視していない方もいるかもしれませんが、やっぱり働く中で悩んだら相談できる存在がいる方が働きやすさに繋がると思っています。リーディングカンパニーである当社だからこそ、率先してこの価値観を持つ必要があるのではないでしょうか。そしてそれが、私自身の仕事のスタンスとしてもマッチしていると感じます。未来のビジョンについて————今後育成制度を活用される方々にどのように成長して欲しいと考えていますか。当社の「TU」の役割としては、学びたいという意志に応えるという役割だと思っています。そして、階層別研修や次世代経営人材育成は期待に応える役割を持っていると思っています。独りよがりで個人としての在りたい姿だけを追求しても、成長は半分くらいしかできないと思っていて、反対に外圧だけで成長していくのも精神的にしんどくなってしまいます。だからこそ、この2つがバランスよく掛け合わさることで、圧倒的な成長を実現できるのではないかと思い、「期待×意志=爆速成長」という方程式を考えています。だからこそ、「TU」はベースとなる「学びグセをつける」ために自分で「やりたい」という思いを喚起させ、学びにおける主体性を育んでいくことを目的にしています。学びグセがついた結果、社員1人1人が変化し、将来にわたって顧客へ価値提供し続けられる状態を生み出すことにも繋がると信じています。————最後に、今後も様々な施策をされると思うのですが、古田様は今後どのような方と働いていきたいですか。私はメンバーに「魚のプロであるはずの魚屋が魚のことを詳しく語れなかったら嫌じゃない?」という話をすることがあります。同様に、私たちも「成長を促す成長のプロ」として、他の誰よりも成長していなければ、説得力が全くないと思っています。だからこそ、とにかく学び好きで、常に成長を志向できる人と一緒に働いていきたいです。メンバーも学び好きな社員が多く、すきま時間で本や動画で学ぶ人、演劇にチャレンジする人、発酵食品の教室に通っている人、絵が好きな人など、業務だけでなく様々な領域で学び続けています。これからも、誰よりも学びグセを持ったチームをつくっていきたいと思います。