株式会社ASNOVA様の育成論カイシャの育成論について————最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。直近では、研修というより人間学を学ぶことをメインとしており、月刊誌の「致知」をみんなで読み、その感想を述べ合う木鶏会を毎月実施しています。「致知」に出てくる人たちはあらゆる苦難を乗り越え、いろんな経験を経てその業界のトップに上り詰めたり、一流の方が登壇して自身の人生を語られたりするため、非常に勉強になります。それをみんなで読んで自分が感動した部分や記事を読んで学んだ結果、今後自分がどうしていきたいかなど語り合い、感想を述べ合う、「MOKKEI」と呼んでいる社内木鶏会に1番力を入れています。————「致知」を活用しようとおもったきっかけや経緯があればお伺いしたいです。いろんな人材育成や教育制度の構築にあたって、今までも様々なことを試してきました。しかし、今まではスキルや技術、才能を伸ばすことに注力をしていたことに気付き、今後は内面を磨いていかなければいけないと感じました。例えば、業務を行う中でも、「何のために仕事をしているのか」、「自身の仕事がどのように社会貢献に繋がっているのか」、「そもそもこの会社の存在意義は何か」といったことを考え、「どうしていきたいのか」といった原点になるものを自身の中で明確にするには内面を磨き様々な価値観に触れていく必要があると思っています。もちろん人事制度や福利厚生の見直しを行い、社員にとっての働く環境を充実させることも大切ですが、それだけではなく人材育成には仕事のやりがいや働きがいなどの精神性も向上させていく必要があると気付かされ、取り組みを始めたのがきっかけでした。始める前は正直心配な部分もありましたが、実施してみると参加者の満足度は非常に高いですし、毎月MOKKEIに参加することを楽しみにしている社員も多いです。会の最後には代表者が感想などを話すのですが、1人1人の話にそれぞれ感動することもあり、私だけでなく参加するメンバー全員がやる気を持って参加できる会になっていると思います。————MOKKEIを実施するようになって、業務の中で社員の皆様にどのような変化がありましたか。日々業務を繰り返していくうちにどうしても経済合理性を追求することで、だんだん判断の物差しが「儲かるか儲からないか」などになっていくこともあると思います。しかし、MOKKEIで様々な価値観や人生観に触れることで、判断基準の中に相手のことをどう考えるか、といった「利他の精神」の視点が生まれ、その人の価値観に変化が生まれます。また、MOKKEIでは相手のいいところを見つけ、褒め合うという「美点凝視」というルールがあるため、相手を非難する意見を言いません。お互いがそういう精神を持つようになることで、その結果、組織も優しい雰囲気になりやすいですし、笑顔も増え、相手の理解にも繋がるため、働きやすさにも繋がっています。————相手を考える価値観が生まれると組織の雰囲気もよくなりますよね。MOKKEIの取り組みなどを通じて、今後社内でさらに学び成長していこうと考えている取り組みなどはありますか。取り組みの1つとして「リカレント制度」を設けています。当社では「ASNOVA Recurrent」と呼んでいるのですが、大学や大学院、専門学校など業務を行う上でより知識を学びたいという社員に対して、会社が学費を全て負担し、サポートする制度です。どういった思いで学びたいのか、ということを役員が聞いた上でその思いをサポートしています。また、「致知」を読んでいく中で非常に大事だなと思ったことが、語彙力を磨いていくことです。語彙力がないと相手の気持ちを中々察することができないと思っています。ただ本を読み語彙力をつけるだけではなく、語彙力そのものが相手の気持ちを汲む上で非常に大切なものであるということをあらゆる書籍を読む中で学びました。そこで、普段中々本を読む機会がないという社員も多いため、毎月会社から複数の図書の中で希望する1冊の書籍を選んでもらい提供する、いわゆる「リベラル・アーツ」を行っています。研修としては、社内教育プログラムとして「AMP!(アンプ)」を実施しています。「AMP!」とは「ASNOVA - Metamorphose - Program - !」の略です。「AMP!」に参加することで、新規事業を生み出していきたいという社員が、そのためのプロセスやノウハウ、スキルや新しい視点などを身につけ自身の変化を促進できるきっかけ作りになります。毎年10名ほどが参加し、参加者自身が変化することを目的として、外部の企業にも協力していただきながら実施しています。————様々な制度が導入されていて素晴らしいですね。これらの制度を導入していく中で軸として持っている考え方などがあればお伺いしたいです。色々な制度を会社側で用意するのですが、やはり最終的には自分ごと化してもらう必要があると思っています。だからこそ、私側から一方的に「やりなさい」ということはほとんどなく、社員にも制度を身近なものだと感じてもらえるような機会作りを行っています。現在はその一環として「KATARUVA(カタルバ)」という、様々なテーマについてみんなで語り合う合宿を多く実施しています。例えば教育制度1つ取っても、現場と少し距離がある私よりも、普段現場でコミュニケーションを取り合っている社員の方がどんな育成があると嬉しいのか、どんな課題を抱えているのかについて一番知っていると思うので、そういったものも合宿のテーマとして挙げています。合宿は語り合えるくらいの人数で実施するという意図もあり、毎回10名ほどの参加人数なのですが、性別や年齢、役職を問わず話し合い、1つの方向性を見つけていきます。その後、合宿で話し合ったことを参考にしながら制度を作るようにしています。現場だからこそ見える課題は非常に多いと思うので、それを知ることができる合宿は貴重な機会ですし、年に数回みんなで企画するようにしています。理念・文化について————貴社の理念や会社の文化、パーパスなど重要視している価値観についてもお伺いしたいです。やはり『「カセツ」の力で、社会に明日の場を創りだす。』というパーパスは特に重要視しています。このパーパスは、年齢やキャリア等を問わず多くの社員が集まって会社の存在意義を話し合った結果生まれたものです。私もパーパスの会議に参加していたのですが、当時から社員1人1人が色々な意見を発信してくれるため、みんなの会社への思い1つ1つが集まって決まりました。そのため、パーパスは日々の判断の基準として大切にしています。現場のことは現場の社員が1番よく知っているとはいえ、全てを現場の判断に委ねてしまうと、思わぬ方向に向かってしまう可能性もあります。パーパスを念頭に置き、それぞれの社員が目の前のお客様のことを思って決断してもらわないと、変化が激しい世の中と言われていることもあるため、常に幹部陣に稟議を回してしまうとお客様への判断も遅くなってしまいますよね。このように、パーパスを判断基準としながら自分たちで目の前のお客様に向き合い、責任を持って決断をしてもらうという意味も込めて作成したものになります。————社員の方々が自主的に価値観を構築することで現場やお客様からの変化の声や賞賛の声などはありましたか。また、パーパスを定める前と後で起こった変化についてもお伺いしたいです。私の場合は特に株主の方からのフィードバックが多いのですが、若い世代の方が理念や会社のパーパスに共感できるかどうかで投資の判断をしている方が多いなと感じています。実際に説明会でお話しした後、大切にしている思いや価値観について質問をいただく機会も多いです。また、パーパスを定めたことで、合宿や人事制度、日々の会議などの決定の際もそれぞれが自立性を持って判断していける環境へ変化したと感じています。この判断基準がなければ全ての判断を私に委ねることになってしまいますよね。先ほどお話しした合宿も私が直接参加する機会はほとんどありません。しかし、全てパーパスを軸として様々なことを決定していく文化があるため、上から指示を出さなくてもそれぞれの社員が自立性を持ってアクションを起こしていける文化が醸成されました。会社の歴史について————ここまで会社が成長していく中で必ずしも順調だったわけではないと思うのですが、特に大変だった出来事などがあればお伺いしたいです。私は人の成長が集まって会社の成長になっていくと考えているので、最終的に行き着くところは人だと思っています。ただ、当社の事業である足場レンタルはどうしてもニッチな事業ですし、建設業という括りになるのであまり人気がありません。特に私が事業を始めた頃は求人を出しても誰も来てくれませんでした。業務は沢山あるのですが、対応してもらう人が足りていない状態で、面接日になっても求職者が来ないということもありました。そんな人材不足の状況があったからこそ、最初の頃はハローワークに足を運び、そこに来た求職者に直接スカウトをしていました。そのため、組織や教育制度などいろんな側面から会社の魅力を向上させていかないといけないな。と感じました。この業界では特に多いと思うのですが、よほどの有名企業でないと中々採用が上手くいかないというのは私だけでなく他の企業さんでも苦労されてきたと思います。————現在はMOKKEIを実施するなど、かなり高い意識を持った人材が多く在籍しているのかなと感じたのですが、そのような人材が集まったきっかけはありましたか。一昨年と昨年に名古屋と東京で株式を上場したことが大きな起点にはなっていますね。上場してから求人数は大幅に増えましたが、上場する前は苦労しました。上場するまでに優秀な従業員を集めなくてはいけないこともあり、上場する前の準備期間は大変なことも多くありました。それまでは自分で全て対応することもあったのですが、その頃には自分でなんとかできるという範囲ではなくなってしまいました。その瞬間から自分でなんでもするのを諦め、社員を信用するという考えに振り切りましたね。それが結果的によかったのかなと思います。社員を完全に信用すると決めたので、それも起点になった1つでもあります。社員の皆様について————社員の方々についてもお伺いしたいのですが、現時点で上田様の期待を上回るような活躍をされている社員の方の具体的なエピソードはありますか。当社には新規事業の責任者に立候補できる「ASNOVA Challenge System」という制度があるのですが、チャレンジしたいと手を挙げる社員が多く、実際に昨年1つ、2年前にも1つ新規事業ができました。これは自ら手を挙げ、そこから自分で種を蒔き、芽を咲かせて事業まで持っていきました。そして、1,2年後には当社の事業の柱に育っていきそうなほど成長しているため、想定外ではありました。————その新規事業を上田様が許容できたポイントとしてはどのようなものがありましたか。基本的にはまずパーパスに沿っているかということですね。その事業そのものが儲かるかどうかではなく、社会性があるかどうかが重要です。また、新規事業の決定は私の独断ではなく、役員を含めた社員と外部の有識者の方も交えて意見を取り入れつつ進めても良いとなった場合に新規事業が動いていきます。それさえクリアしてもらえれば会社としてバックアップを全力でしていくので、それらを乗り越えてきたのが今回の2つの新規事業でした。————新規事業を立ち上げ、事業まで持っていく途中には多くの苦難を乗り越えてきたと思うのですが、上田様から見て、なぜその社員の方々はここまでやり切れているのだと思いますか。当社のバリューズ(パーパスを体現する7つの価値観)の1つとして「まずやってみよう」というものがあり、私自身常に「じっくり考えて失敗するよりも、大きな失敗を極力なくし、早めに小さい失敗をすればそれが経験になり次に繋がる」と社内でも発信しています。できるかどうかをずっと考え続けたり、考えすぎると「ハードルが高すぎてどうせ無理だろう」とだんだんやる気が失われたりします。そのため、質を高めるのではなく、まずはやってみることで早めに失敗を経験し、失敗に対しての改善を繰り返していくうちに気付いたら事業化していたというのがあります。まずはやってみようと1歩踏み出す意識を持つことが事業化まで辿り着ける1つの要素なのではないかなと思います。————社員の方に向き合ったりサポートをされている中で、上田様自身が感じる組織的な課題はありますか。まだまだ業界としての認知度が低いこともありますし、足場レンタル事業は若い世代にとっても中々足を踏み入れづらい領域だという課題があります。まずは業界そのものの認知度を上げることと、足場レンタル事業は非常に社会性があるビジネスでもあるので、それを世の中の人に知ってもらう取り組みをしていかないと、会社自体の成長も難しいと思っています。そのためには、当社や従業員自身の魅力を上げていかないと本質的な魅力の向上にはならないと危機感すら感じています。業務内容について————足場レンタル事業は社会性があるビジネスとお伺いしたのですが、具体的にどのような社会性を秘めているのかお伺いしたいです。例えば、ビルやマンション、学校、公共物など老朽化した建造物が近年は増加していますが、特に築40年以上経過した老朽化マンションは20年後には約3.5倍に膨れ上がると言われています。新築の建物は減少しているものの、修繕が必要な建物は毎年積み上がっており、修繕が追いついていないという現状があります。このままだと、生活を脅かす建物ばかりが町中に溢れ出るという状況になってしまいます。その修繕を行う際には足場が必要になります。老朽化した建造物の修繕以外でも、近年多発している地震や台風、豪雨などの自然災害による被害が起きた翌日は当社の電話が鳴り止まないほど足場を必要としている方が多くいます。そこに住んでいる人にとっては早く修繕して欲しいと思うことは当然の感情ですよね。そして、復興や復旧には約1年から1年半ほど必要といいます。大きな自然災害ではもっと時間が必要になります。このような現状があるため、当社は使命感を持ってこの事業を行っています。また、足場をレンタルするということはみんなでシェアするというビジネスモデルでもあるため、昨今の循環型社会にも貢献するビジネスだと思っています。未来のビジョンについて————ありがとうございます。やりがいにも繋がっていると言うことが伝わってきました。今後事業の側面ではどのようなことに注力していこうと考えていますか。まずは、足場の保有量をもっと増やしていきたいと考えています。毎年繁忙期になると、足場が全く足りない状態になってしまいます。今期でも20数億円を足場の保有に投資しているのですが、それでも世の中には全く足りていません。同時に、足場をレンタルする場合は、基本的に現場の近くでレンタルすることが多いため、日本全国どこでも足場をレンタルすることができる環境を整えていくことも必要になります。この2つを使命感として注力していきたいと思っています。そして、足場レンタルという事業そのものがまだまだ認知されていないため、将来的には「足場レンタルといえばASNOVA」となるくらい認知度を高めていき、世の中に対してより貢献していけるような企業になっていきたいですね。————会社や組織としての成長は今後どのようにしていきたいか思い描いているものがあればお伺いしたいです。先ほどの話と繋がる部分もあるのですが、例えば「梅酒と聞いたらチョーヤ」というように、当社の認知度が高まることで、当社で働く社員にとっても誇りになると思っています。また、「携帯電話といえばソフトバンク」という人もいますが、「ソフトバンクといえば成長する会社」というイメージを持っている人も多いと思います。当社も将来的には、「足場レンタルといえばASNOVA」という認識で留まるのではなく、「ASNOVAといえば様々なことにチャレンジする会社」などビジネスモデル以外の視点でも認知度を広げていきたいです。————最後に、今後上田様自身はどのような人と働いていきたいですか。1人1人性格も生まれた環境も違うので、成長性には差があるとは思うのですが、それが小さい大きい関わらず、仕事を通じて自分自身を成長させていきたいという思いがある方と一緒に仕事をしていきたいですね。