株式会社島田電機製作所様の育成論育成論について————最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。島田様:当社は新卒採用を始めて6年目になります。新卒社員が入社した際には、約5ヶ月間、合計800時間分の社内外研修を受講してもらっています。社内研修の内容としては、社内にある全ての部署を知ることがメインです。自分の所属予定の部署だけではなく、組織全体の動きを知り視野を広げてもらうために、約2週間ずつかけて全8グループを回り各部署についての理解を深めます。また、外部研修を導入しており、そこでビジネスマナー研修を受講してもらいます。そこに加えて、当社の人材育成における特徴として、「島田塾」というものを実施しています。島田塾では私が自ら講師を担当しており、組織人として成長に必要なスキルを学ぶことを目的とした勉強会です。島田塾は週に1回、4月〜8月まで全21テーマで実施しており、コンテンツの内容としては、テクニカルスキルではなくヒューマンスキルの向上や価値観の浸透を行う場としています。新入社員には全員参加してもらっており、その他の社員に関しても受講したいという希望がある人は参加することが可能です。テーマの中には「働くとは」という価値観や姿勢といった部分を重要視して行っており、当社のような製造業ではものづくりの経験を積んだり研究することでテクニカルに関するスキルは早く身につけやすいと感じています。しかし、魅力的な人材のベースとなるのはやはりヒューマンスキルであって、ヒューマンスキルの上にテクニカルスキルが形成されますよね。そのため、最初に考え方や働く上でのポジティブなマインドを発信するようにしています。多くの企業では社長が講師を担当することは少ないかもしれませんが、私が講師として「島田塾」を通じて人材育成を担うことにも意味があると思っていますね。小倉様:私は現在入社して3年目になるのですが、アルバイトの経験などを振り返ると、どの会社も基本的にはテクニカルなスキルをメインに教わる機会が多かったと感じています。当社のようにテクニカルスキルではなく、ヒューマンスキルにフォーカスして学ぶことができる会社は他を探してもあまりありませんでした。さらに、その学びの場が社内にあるというのは、受講者側からしても非常に良い環境だと感じています。この学びをノルマとして実施しているのではなく、必要だと感じて代表自ら登壇するという姿勢を目の当たりにすることで、より受講者側も学びたいという意欲に繋がっているのではないでしょうか。特に新卒で入社した際には「働くとは」という意義を理解できずに入社されている人がほとんどだと思います。だからこそ、1番始めのコンテンツで「働くとは」を知ることができ、その後の受講姿勢も変化していると感じています。新卒からこんなに学ぶことができるのは貴重な機会ですよね。島田様:勉強会では難しい内容を学ぶのではなく、ディスカッションを通じて一緒に考える機会を設けるようにしています。その他にも、働くマインドや価値観だけでなく「島田ブック」と呼ばれるカルチャーブックや組織作り、会社の歴史まで幅広いテーマで実施しています。こういった自分の会社について知る機会も重要だと思っています。当社は創立から91年目の会社になるのですが、島田塾では会社設立から会社の変遷、そして社長の生い立ちまで伝えています。小倉様:この話を聞くことでより会社に対しての親近感が沸きますね。今の社長に至るまでの経験を直接耳にすることで、ただ「すごい人なんだ」で終わるのではなく、代表についての理解も深まります。————素敵な取り組みですね!この取り組みを始めた理由についてもお伺いしたいです。島田様:組織のベースとなるのはエンゲージメントだと思っています。そのため、良い社員とは会社への共感度が高い社員だと考えているので、この共感度を上げるための施策の1つとしてこの「島田塾」を実施しています。「島田電機がどのような会社か」についても伝えつつ、「どういう価値観を持って働いてほしいか」という期待についても発信することでそこに共感してほしいと感じています。だからこそ、採用においても「共感採用」を重要視しており、お互いの「らしさ」を全開にした状態で採用を実施しています。当社ではこういう価値観を大事にしているからこそ、「島田塾」の取り組みに繋がっているのではないでしょうか。————その他にも実施している人事制度などのお取り組みはありますか。島田様:人事制度として、働き方やスタンスを3種類の中から自分で決めることができるようにしています。それぞれ技術力を軸に働きたい「コアワーク」、人間力を軸に働きたい「エンワーク」、開発力を軸に働きたい「デベワーク」と定義しており、3つの中から1つ選び、作業着にワッペンとして貼っておくことでそれぞれの働き方やスタンスを社員がそれぞれ把握できるようにしています。例えば「デベワーク」は新しいことへの発想や挑戦を大事にしているため未来志向が強い傾向です。若手社員の中にはそういう志向を持っている社員も在籍している人もいますし、一方で20年、30年働いているからといって必ずしもそういう志向になるとは限りません。スタンスはそれぞれの社員が持っているものなので、こういうスタンスを最初から明示してもらうことが大事だと思っています。その結果、早い段階から挑戦するきっかけを与えることに繋がるなど、1人1人の求める働き方に適した環境を用意しやすくなりますし、周囲の社員もその人の成長を応援しやすくなります。また、自分の役割を示す「等級」が10等級あります。これは組織貢献に対する自分の役割を示したものになります。当社の人事評価はグループ内だけでなく、組織全体に対してどう貢献できるのかを評価するものとなっており、自分の役割を選んでもらい、これもワッペンとして作業着に貼ってもらいます。小倉様:私の場合は人を大事にして働く「エンワーク」、役割は3等級の「業務貢献」を作業着に貼っています。自分で働き方を選べるということは、誰かに言われるよりも行動に責任が生じるため、今まで以上に自発的な行動が生まれていると実感しています。島田様:教育制度としては、「1on1MTG」、「360°FB(フィードバック)」、「SOS」の3つがあります。「SOS」とは「成長応援制度」の頭文字をとった造語で、「イキイキ働きワクワク生きる」を応援する制度です。「イキイキ働き」では業務に直結するような研修、「ワクワク生きる」とは自分らしさを磨くための習い事であれば全て含まれ、会社が費用を負担します。このように当社では1人1人の「らしさ」を非常に大切にしています。また、成長のためにスキルを向上させ、行動を増やすということはもちろん大切なのですが、単純にスキルが向上したから行動が増えるというものではないと私は思っています。スキルにも技術や資格、経験といったテクニカルな領域のものだけでなく、その人の良さや才能、個性、性格といったものもスキルだと考えています。そのため、まずは相手のスキルを認める必要があります。その上で、想いがなければ行動は生まれません。この想いを高めることがエンゲージメントの向上にも繋がると感じており、そのための取り組みを当社では多く実施しています。自身のスキルを認めてもらえる環境があるからこそ、社員も「こういう環境だからこそ会社にもっと貢献したい」という想いを抱くことに繋がり、自発的・主体的な行動に繋がるのではないでしょうか。だからこそ、先ほどお話しした「SOS」などの制度を通じて1人1人の成長を応援する文化が当社には根付いています。————貴社では多様な人材を大切にしているということが伝わってきました。そういった方々が同じ方向を向いて協働するためのポイントやお取り組みはありますか。島田様:当社には働きたくなる、30以上の仕組み仕掛けがあります。これらの取り組みの1つ1つが小さな点ではあるのですが、点と点が線になり、線を繋いで面にしていくことを考えて取り組んでいます。私は環境で人は変わっていくと思っていますし、マインドも変化していくと思っています。当社のように様々な視点での取り組みを実施することで、そこで働く社員も同じ方向を向いて協働しやすい環境に変化したり、社員同士の繋がりをより深めることができているのではないでしょうか。例えば、当社では「社員表彰の賞金額はサイコロで決める」というユニークな仕組みがあるのですが、これを初めて取り入れた時には社員も様々思うことがあったのではないかと思います。この取り組みに限らず、新しいことを導入する際には少なからず抵抗感がある人もいるとは思うのですが、一方でやっていくうちにそれが当たり前になってやれるようになっていきます。それを繰り返していくことで、どんどん当社のマインドに変化していくのではないかなと感じています。この30以上の取り組みは、今っぽく、ユニーク、ゲーム性を取り入れ、社員の参画意識を高めるということを目的としています。そのため、大切なのは社員全員がやりたくなるようなものを実施するということですね。当社では、こういった取り組みだけでなく普段の業務も含め、アイデアを考える際には「アイデアは思いつき、企画は思いやり」と普段から発信しています。つまり、良い企画とは会社、社員、社会が「三方よし」である状態だということです。この「三方よし」が見つけられると、その企画は大体うまくいきます。この考えの元、取り組んできた結果が現在の当社に繋がっているのではないでしょうか。また、当社ではオープンな環境を作るために、物理的に壁を作らない環境へと変化させました。従来では、会議室や部署間で仕切っていたのですが、現在は部署間の仕切りはなく、会議室ものれん1枚を隔てた状態にしていますね。そのため、社内でどんな話がされているのかが自然と耳に入るようになり、何かあった時にも自然と部署の垣根を超えて協力できるようになっています。価値観について————現在貴社が掲げている理念や価値観の中で特に社員の皆様が働く際のベースとなっている考え方はありますか。島田様:多様なフレーズや価値観を普段から発信しているのですが、その中でも共通しているのは「全員主役、全員参加、人も会社もオンリーワン」という考え方だと思います。人の成長なくして会社の発展はないと考えているため、何をやるにしても、「人を大切にすること」や「自分らしく働くこと」がキーワードになっていますね。この考え方は私の過去の経験から抱くようになりました。私は学生時代、勉強が苦手で、自分の個性を大切にしたいという意志が強い性格でした。そんな考えを持ちながら島田電機に入社したのですが、当時の島田電機は「旧態依然の古い町工場」という環境でした。そのため、「自分が働きたい会社じゃない」や「一緒に働きたいと思える人と働きたい」と思っていました。私自身はポジティブな性格だったので、そういった考えをポジティブに捉えて行動し始めたのですが、その中でも、自分の個性を押し殺しながら、会社のために働く日々に疑問を感じていました。その価値観が、現在の取り組みに至るまでの出発点でした。そして、現在も大切にしている考え方は、社長も社員も働きたくなる会社を作るということですね。私は社会人になってから島田電機で現在まで働いてきたのですが、その中でも会社の古い体制を大きく変化させたり、中国進出への挑戦など、様々な経験をしてきました。その経験の中で人からしか新しい発想は生まれないと思いましたし、問題の本質は全て人だと感じ、人に向き合おうと思い現在の取り組みに至っているという経緯があります。————ヒトではなく、モノが中心になりそうだったタイミングはありましたか。島田様:私が若い頃に様々な経験をしている際にはモノが中心だと感じていました。当時は周囲から声を掛けづらいと言われたり、ものづくりの現場を先導していた際には「同じ事務所にいて1度も話したことありませんでした」と社員から言われるほど人とのコミュニケーションが取れていない時期もありました。しかし、その後中国進出へ挑戦した結果、大きく見方が変化しました。それ以降はモノではなく、完全にヒトが中心の組織になりましたね。先ほど「島田塾」のテーマの1つとして「働くとは」のお話をしましたが、そもそも何を持ってそういう価値観を持っているかということが大事だと思っています。島田電機私にとって「働く」とは、人を喜ばせることです。誰かの役に立ち、喜んでもらえるから対価としてお金がもらえていますし、オフィスにある備品も誰かが作ったからこそ便利に使用できていますよね。そのために当社ではものづくりを事業にしていると思っています。人が中心の組織だとお伝えしましたが、決してものづくりを蔑ろにしているわけでなく、当社では目的を1番重視したいと考えています。つまり、ものづくりはあくまで目的のための手段だということです。そのため、売上について言うのではなく、「目的を1番に考えよう」と発信するようにしています。世の中には目標が目的化してしまっている企業もあるのではないかと思っており、なんとなく数字や売上を重視しているという組織も多々あります。しかし、重要なのは「売上を達成して何がしたいのか?」ということで、そこがはっきりしていないことも多いのではないでしょうか。当社では目的をしっかり持った上で目標があると考えているため、人やエンゲージメントを大切にした組織を目指すことを目的としています。また、ものづくりの現場では「生産性向上」もよく耳にするワードだと思います。一方で、当社は人中心の組織作りに注力しているため、様々なイベントやコミュニケーションの機会を設けているため、売上に直接繋がらない時間も積極的に作り出すようにしています。生産性ばかりを追い求めてしまうと、人材教育やコミュニケーションの機会を取ることが難しくなりますが、そういったことにどれだけ時間を割くべきかも難しい問題ですよね。ただ、私はイベントやコミュニケーションの機会というものは社員のパフォーマンスを高めることに繋がると考えています。パフォーマンスが高まると結果的にいい仕事ができて、いい社会になっていくのではないでしょうか。これは必ずしも数字だけでなく、社員1人1人のやりがいや働きがいも含めたものだと思っています。そういう意味では生産性に囚われすぎないことも重要ですね。生産性をあげることだけが目的なのであれば1人1人の業務の役割を明確に分担した方が効果的だとは思います。しかしそれでは仕事がつまらないので、やりがいや働きがいには繋がらないですよね。これからの会社には働きがいが重要になると感じていますし、それが従来の会社と今後の会社の違いでもあります。これまでの組織は会社の目的を達成するために集められた人の集団であるのに対し、これからの組織は会社の取組み・価値観に共感し集まった人の集団だと言えます。そのため、従来のトップダウン式の組織ではなく、今後は1人1人が考えて行動していけるエンゲージメントの高い組織が理想だと感じていますね。会社の歴史について————貴社が現在に至るまでに失敗した経験があればお伺いしたいです。島田様:正直、失敗した経験はありません(笑)というのも、失敗を失敗だと思っていないからです。このマインドはとても大事だと私は思っているのですが、先ほどお話ししたように目的に向けて様々なことを実行していく中で失敗をしたとしても、それはあくまで目的を実現するためのプロセスです。だからこそ、その失敗も含めて学びや経験の糧だと感じているので、失敗だと感じていません。たとえ上手くいかなかったとしても、「次はこうしてみよう」と軌道修正を行うので、最終的には成功だと考えていますね。————島田様のご経験の中で特に価値観やお取り組みなどに影響を及ぼした出来事はありますか。島田様:私の先代の代表からの学びは影響を受けた1つですね。私は現在5代目なのですが、私の叔父が4代目の代表を勤めており、2000年から13年間、私が代表に就任するまでの中継ぎとして協力してくれていました。彼は大手企業で海外赴任を多く経験している方で、外国人学生のホームステイの受け入れなども行っており、グローバルな視点や価値観も持っている方でした。それまでの島田電機は先ほどもお伝えしたように、旧態依然の古い町工場という環境だったため、その価値観でしか見えていなかった考え方を持っていたのですが、その方が代表に就任してからは様々な価値観を教わりました。その方からは「井の中の蛙大海を知らず」、「島田電機は世間のことを全く知らない」と言われました。当時の私は世間のことを知らないということや、そもそもそういった感覚さえもありませんでした。しかし、その言葉をきっかけに「どういうことだろう」と外に目を向けるようになりました。それからは様々なことを知り、このままじゃまずいと感じ、人事制度、設備投資、営業活動、ISO取得などに取り組みましたね。その際、人事制度の改革で年功序列をやめて、評価基準を明確にしたのですが、その結果2/3の社員が辞めてしまうという出来事もありました。当時思い切って改革を行えたからこそ、今の島田電機があるため、結果的には人事制度の改革をやってよかったなと感じています。しかし、その一方で今振り返ると辞めさせずに改革を行うこともできたのではないかとも思う部分はありますが、それは今の私の経験値や知識があるからこそだと思います。当時はこれ以上の手段は難しかったのではないでしょうか。現在は多様性の受け入れが当たり前になっていますし、自分らしさを大切に働いて欲しいと思っていますが、その根底には「島田電機の価値観に共感しているからここで働いている」というのが大前提としてあると思っており、ここをブラさずに今後も多様性を大切にしていきたいです。また、下請けから脱却するために中国へ進出したというのも大きなきっかけの1つでした。国内の業界の中ではある程度すでに立ち位置ができていたこともあり、営業活動をせずとも仕事の依頼がくるのが当たり前でした。しかし、中国ではそういう基盤もない状態の0からのスタートでした。この中国での経験を通じて、仕事を得ることの厳しさを知るだけでなく、自分の会社の良いところを振り返るきっかけになったり、どのような市場があり、そこにどうアプローチをかけるべきなのかなど、多くのことを考えさせられるきっかけになりました。0から雇用なども含め経営に関する学びを得ることができた結果、「人の大切さ」を感じる経験へ繋がりました。さらに、日本人と中国人の異なる文化や価値観にも触れることができました。その結果、日本人の弱みに気付きました。例えば、日本人同士であれば言わなくてもなんとなく伝わるということが多いと思うのですが、この考え方は海外では通用しませんでした。「綺麗な会社を作ろう」と伝えてもそもそも「綺麗」に対する価値観が1人1人違い、中国では土でできた家に住んでいる人もいるため、「綺麗ってなんですか?」と質問されました。自分が当たり前だと思っている価値観とは全く異なる価値観を持っている人がいるんだな、と感じましたね。この経験を経て2013年に私は代表へと就任し、改めて自分が何を成し遂げたいかを考え、自分が働きたい会社を作ろうと動きました。そして、「人とエンゲージメント中心の会社」を作ることを目的に現在も事業を行っています。社員の皆様について————貴社の変遷をお伺いしてきましたが、貴社ではどのような方が活躍されていますか。島田様:小倉は活躍している代表社員の一人ですね。今回のインタビューに私と一緒に参加しているというのもありますが、何より会社に対しての共感度が非常に高い社員ということが大きいですね。そして、それを自分で考えて言葉にして周囲に発信してくれています。以前「私は経営者として社長対社員という形で1対50でずっとやってきたと」話したことがあるのですが、それに対して小倉は「私が社長側に参加して2対50でやります」と言ってくれました。これは中々言えない言葉だと思いますね。小倉様:面接の時から言っていましたね(笑)島田様:私が求める意識と行動力を持っている人材だと感じています。30年前の島田電機には彼女のようなマインドを持った社員は絶対いませんでした。小倉は広報だけでなく、新卒の採用担当も行っているのですが、彼女がまた発信することで同じマインドの人材を集めることにも繋がっています。実際に、同じマインドを持っている新卒が少しずつ増えていますし、若手社員や女性社員の増加にも貢献してくれています。現在は、20代の社員の割合が3割にもなっていますね。事業について————貴社の事業内容についてもお伺いしたいです。島田様:当社はエレベーターの意匠器具の専門メーカーです。意匠器具とは、押しボタンやエレベーターが到着した際に光る表示やエレベーターが現在どこにいるのかを示すものなど多岐に渡ります。こういった電気製品を専門で作っています。エレベーターと言っても、マンションなどで採用するエレベーターメーカーのカタログに記載されているものもあれば、設計事務所が特別にデザインしたビルに取り付けるオーダーメイドのエレベーターもあります。現在約1/4がオーダーエレベーターと言われており、当社ではオーダーメイドの特注品の制作のみを取り扱っています。そのため、全て意匠器具は受注生産しており、提案・設計を行い制作をしています。この市場では当社のシェアは6割以上となっています。大手のエレベーターメーカーのTOP3は日立さん、三菱さん、東芝さんなのですが、日立さんと東芝さんの意匠器具は全て当社が担当しており、三菱さんの意匠器具も少しだけ作っています。エレベーターの意匠器具をオーダーメイド専門で作っている会社は当社のみです。未来のビジョンについて————今後注力していこうと考えている事業や取り組んでいこうと考えていることはありますか。島田様:メーカーとしてのさらなる自立は今後取り組んでいきたいことの1つです。現在までは下請けとしてエレベーターメーカーから依頼を受けたものを作ってきました。しかし、今後は当社がこの分野で専門的にやってきたノウハウを活かし、自分たちのブランドとして製品ラインナップをカタログとして作成し、それをエレベーターメーカーに使ってもらうという立ち位置を上げた事業を展開していきたいなと思っています。また、エレベーターは建築の中の製品の1つなのですが、こういった領域以外でも何かできないかと考えています。例えば当社が得意とするアクリルやLEDを使用して光らせる機器や意匠板金というステンレスを使用した加工品、サイン表示など、新たな事業に繋げられないかと考え、取り組みの幅を広げています。実際に、麻布台ヒルズのホテルの内装に使用している照明も当社が手掛けました。今後も当社が建築領域でできることを増やしていきたいですね。さらに、当社ではビジョンを新しく作り、「“らしさ”輝く世界をつくる」というものを掲げています。「らしさ」を当社では大切にしているとお伝えしてきましたが、私たちが行っている人中心の組織作りや「らしさ」が輝く組織が誰かのロールモデルになることはできないかなと思っています。中小企業や製造業でもこういった組織作りや働き方ができるということを示していきたいですし、どのように伝えていけるのかを今後も考えていきたいです。実際に組織としては、「管理しない組織」を目指していきたいと思っています。ヒエラルキーがある組織ではなく、「ホラクラシー組織」の実現を目指しています。そもそも、私は人が管理することに疑問を持っているため、「管理」をやめたいです。価値観に共感することで、少なからず自分から行動しようという気持ちも生まれると思っているので、それが積み重なっていくことで管理せずとも自然と組織として動くことができるのではないでしょうか。その代わり、ルールを通じて管理はしていきたいと思っています。ルールを持った上で社員1人1人が行動していける環境になると、従来のような管理をせずとも結果は出せるのではと考えています。そういったフラットな組織作りを今後行っていきたいです。————最後に、今後どのような方と一緒に働きたいですか。島田様:1つは個性を大事にして欲しいと思います。世の中にある会社にもそれぞれ個性がありますよね。例えば食事をする場合も、何でもあります、というお店よりも、このお店は魚が美味しいとか肉がおすすめというように何か1つ個性を持っている方が私は好きです。人も同じだと思っているので、社員にもそういう強みや「らしさ」を大事にしながら働いて欲しいです。また、周囲にポジティブな影響を与えながら働くことができる人と一緒に働きたいですね。技術力があるなど、その人が何ができるかも大事だとは思うのですが、その人によってどういう影響を与えられているのかがより大事だと思っており、周囲にポジティブな影響を与えられる社員は重要だと感じています。組織で集まり仕事をするメリットは新たな価値を創出できることだと考えています。テレワークなど、会社に集まらなくても仕事はできるのかもしれませんが、価値を生み出すことは集まらないとできない部分だと思っています。そして、会社に集まるからには周囲に良い影響を与えながら働いて欲しいですね。