フィグニー株式会社様の育成論育成論について————最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。当社は、従業員数約40人ほどの会社ですが、未経験からエンジニアを育成することに非常に意欲的という開発会社の中では珍しい会社です。育成方法としては大きく3つあります。1つ目は、入社前の採用の段階で実施する試験にあります。未経験から育てることを前提とした際に、未経験でも素質のある人を見極めることができる試験を導入しています。内容としては、プログラミングで必要となる「アルゴリズム」に関するテストで、将来どのエンジニアになる場合でも、1番最初の入り口である基礎力を測っています。2つ目は、開発におけるゼロイチ経験です。中小企業では研修を行う余力があまりないので、研修もしつつ育成もできるコンテンツを考えた結果、1つ目のテストを突破して入社した人には0から開発を行うというゼロイチ経験を積んでもらいます。エンジニアはほとんどのシステムを3ヶ月から1年ほどで作ることが多いのですが、ゼロイチ経験を積んでもらう際には3ヶ月くらいで作れる小さい規模のシステム開発を全てお任せします。先輩の下でエンジニア業務のサポートをするのではなく、メインの担当として参加してもらうため、全ての工程を自分ごととして捉えなければならないことが非常に大変なのですが、この経験を乗り越えると後々エンジニアとして大きく成長する可能性が高まります。ただ、潰れてしまわない様に、必要な際にはベテラン社員がサポートに入る様にしています。あくまでお客様あっての仕事でもあるので、サポートが必要なタイミングは見極める様にしているのですが、常に手を出すのではなく、自分でできる環境を作り、ゼロイチを経験してもらっています。そして、3つ目は、「バディ制度」です。これは、ゼロイチ経験を経て育ってきた社員が増えてきたため、新たに導入した制度で、2年目から4年目までの若手社員が新入社員とペアを組み、開発に関する相談や毎週面談をするなど、成長をサポートする制度です。今まではプロジェクト単位で新入社員をサポートしていましたが、困った時、具体的にどのメンバーに相談していいかわからず悩みをそのままにしてしまうケースがありました。ペアを組ませることでこれを解消し、悩みをすぐにキャッチアップできる仕組みづくりをしています。————より深くお話をお伺いしたいのですが、まず、エンジニア業務で未経験をアサインできる案件がないのではと思ったり、教える事が敬遠されがちかなと思ったのですが、いかがでしょうか。そうですね、最初は敬遠しがちなメンバーもいました。そのため、最初のうちは全て私が教育面を担当していました。私自身、エンジニアをずっとやってきているので、私が頑張ればいいかと思っていましたね。会社規模が40人ほどになる前まではその形で対応できていましたが、今は育成を任せられるメンバーが増えたこともあり、バディ制度を活用しています。また、未経験でアサインできる業務がないという点に関してですが、そもそも開発業界では自社のエンジニアを他社様に貸す「SES」と請負開発として責任を持つ「受託」の2つの事業があります。SESに関しては未経験だと経験もスキルもないので難しいです。ただ、受託であればシステムを完成させるのは新人社員ですが、作った成果物の確認やレビュー、フィードバックをベテラン社員が担うので、そこは問題なく業務を任せることができます。もちろん、失敗しないギリギリのラインも見極めて経験を積んでもらう業務を選ぶこともポイントですね。————元々会社を立ち上げた頃から未経験採用を念頭に置かれていたのでしょうか。立ち上げ当初は考えていませんでした。立ち上げたのは7年前なのですが、自分のスキルに自信があったので、そもそも1人社長でやろうと思っていましたね。ただ、1人でも社長業がかなりありますし、1人でやっていたら1人分のパフォーマンスしか出せないということにも気付いたので仲間を増やそうと採用を始めました。採用する際には、私よりも優秀な人材が欲しいと思ったのですが、それを実現しようとすれば圧倒的な賃金が必要になりますし、多くの就職サービスを活用するとコストが非常に高くなります。中々、中小企業では手が出せないなと思ったのと、当社と同規模の会社と競り合うとなった時に、経験者採用は難しいため、未経験者でも素質がある人を採用しようと思いました。元々人を育てることに関しては、研修の経験もあるので、社員時代から得意でした。そんな中で活用したのがやる気のある人材と出会える「Wantedly」という媒体でした。実際に募集を掲載してみると、多くの希望者から連絡をもらい、半年で10人ほど採用しましたね。「未経験歓迎」の募集はよくあると思うのですが、当社の場合は「大変な部分も多くあるけれど、本当にできる様になるために育てる環境がある。やる気のある人にきて欲しい」としっかり明記していました。当時コロナ禍で、ジョブチェンジしたい人が多かったこともあり、多くの人に需要があったのかなと思います。————ありがとうございます。実際に育成制度を受けた社員の方のお声としてはどのようなものがありますか。最初の3ヶ月で初めてシステムを1人で担当する時には、辛くて泣いてしまう人もいましたし、途中で「無理です」という人もいたりと、4人に1人くらいは退職してしまいました。現在在籍しているメンバーは当時を振り返って「大変だったし、辞めたくなった」という意見もよく聞きます。ただ、ゼロイチ経験を乗り越えたメンバーには前職がエアコンの修理業者だったり教師や事務だった人もいるのですが、「今はエンジニアになって間違いなく良かったと思える」と言っていますね。最初の試験である程度フィルタリングしており、心が折れなければ育つということも入社時点でわかっているので一定の成果は得られているなと感じます。————バディ制度についてもお伺いしたいです。バディ制度は社員同士でサポートする体制なのですが、先輩社員も自分の業務があるため常につきっきりではありません。ただ、当社はリモートワークが主流なので、新人社員は何かあった時にどこに相談すればいいのかわからないですよね。そのため、あらかじめどの社員に質問していけばいいのかを指定したものがバディ制度と考えていただいていいかと思います。バディ制度は、「バディ」という名の通り、何かあった時はお互いが責任を持ちます。例えば、後輩社員の業務が遅れた場合は先輩社員の責任でもありますし、後輩社員が成果を上げれば先輩社員の評価にも繋がるということを、先輩社員にはあらかじめ伝えています。2年目から4年目の経験者だと、人を育てるという意識を持っている人はほとんどいないので、そこを経験してもらうことも目的の1つです。そうすると、育成の意識が生まれますし、育つことが難しいという理由で退職者が出てしまうケースを予防することにも繋がります。当社はこの様な育成を行ってきたため、社員の成長もその分早いのですが、早く成長した人は辞めるのも早いと感じており、課題となっていました。そこで、後輩社員と切磋琢磨できる環境を作ることで、課題の解決に繋がるのではないかと始めたことがきっかけです。————実際にバディ制度で教える側となった社員の方が変化したエピソードなどはありますか。先輩社員役は現在3人なのですが、明らかに変化した社員が多いですね。当社ではSlackというチャットツールを活用してリモート中も社員の調子を測るバロメーターとしているのですが、とある社員は元々物静かな性格で、積極的に発信するタイプではありませんでした。しかし、バディ制度で先輩社員となってからは発信量が増えましたね。それ以前は発信してもプログラミングや言語などの技術系の話ばかりだったのですが、最近は組織に関する話を発信する様になったりと、問題意識が高まってきたのかなと感じています。————今後育成や組織開発をしていくために取り組んでいきたいことはありますか。現在、「みずから動くエンジニア」という育成サービスを法人向けに提供しております。どの会社でも採用に苦労しているという声を聞きますし、中小企業かつIT企業ではないお客様も多いため、意欲的にエンジニア育成を行っている当社が採用から育成までサポートするサービスを提供する様になりました。そもそも採用ができなければ研修を行う対象が居ないというお客様も多いため、研修面だけでなく、採用面もサポートを行っております。業務内容について————エンジニア研修も事業として行われているとのことですが、具体的にどの様なコンテンツを提供されているのでしょうか。研修の内容としては、当社の「ゼロイチ経験」と入社前に実施する「アルゴリズムを考える力」の2点に絞ったものとなっています。エンジニアの育成としては個人向けのプログラミングスクールが主流ではありますが、こういったスクールを卒業してきた子と未経験の子、それぞれと何度か面談してきた中で、そこまでスキルに差はないなと感じています。もちろん、スクールを卒業してきた子は立派なポートフォリオが沢山出てくるのですが、教科書通りに作られていることが多いです。しかし、エンジニアというものは仕組みを理解しておく必要があり、理解できていないと些細なエラーが発生した場合に解決できなかったり、応用編になるとわからないという状況が発生してしまいます。わからないことを調べたりエラーを解決しながら脳をフル回転させて進むことで初めてできる様になると思うので、当社の研修では教えることではなく、調べながらやらせてみることに重きをおいています。そして、できた成果物に対してプロがリアルタイムでフィードバックを行います。このように、私たちが培ってきた育成方法が研修事業にそのまま生きていますね。エンジニアの業務は地味に見えがちですが、常に頭を働かせる必要があります。そのため、研修中はChatGPTなど、AIの使用は禁止しています。AIは便利なのですが、答えまで出してくれるので本人のためになりにくいと思っています。自転車に乗る練習をする際も、自転車の乗り方についての本を100冊読んでも乗れる様にならないですよね。繰り返し練習して何度も転んで時間をかけて乗れる様になります。エンジニアの成長も同じで、何度も繰り返し、エラーを解決して理解してこそスキルが身につくと考えています。————実際に研修を導入された企業様からの声はありましたか。当社の研修はベテランの社員が関わるため、費用は決して安くなく、まだまだ知名度も低いのですが、実際に研修を導入していただいた企業様からは好評のお声をいただいています。直近ではサイバーセキュリティ系の上場企業様のエンジニア育成に携わっており、研修の満足度について、「100点満点中200点だ」と仰っていただきましたね。実際に研修を導入していただければ十分な効果を実感していただけると思っています。当社では研修を発注いただく前に2,3回ほどミーティングを実施させていただいております。ミーティングの際には、他社様の研修とどう違うのかについて、かなり事細かに説明させていただきます。他社様ではリーディングやポートフォリオを重視されている一方で、当社の研修はアウトプットを重視しており、プロのエンジニアによる研修の下、失敗経験を得て理解度を深め、応用力まで身につけることができます。また、実際に現場であった問題などもコンテンツの中に組み込んでいます。当社は開発会社なので最新の小さな案件から大きい案件まで全て最初から請け負って業務を行っています。秘匿情報があるためそのまま出すことは難しいのですが、社内には、研修に活かせる事例やノウハウが溜まっているため、「こういう問題の場合はこういう解決方法がある」という形で研修の際には実例を知ってもらう様にしています。————貴社では様々な事業展開をされていますが、1番の柱となっている事業はどの様なものなのでしょうか。売上の柱で言うと、やはり請負開発ですね。比率としては、システムの受託開発が8割、先ほどお話しした研修事業が2割となっています。当社のメイン事業はエンジニアがお客様のシステムを開発することなのですが、システム開発だけでも領域は非常に幅広いです。その中でも、主軸の領域がVR・AR・MRのアプリケーション開発(https://www.fignny.co.jp/apple-vision-pro/)とお客様の基幹システムのリニューアルの2つです。基幹システムのリニューアルというのはいわゆるDX推進の取り組みの1つで、特に地方では何十年も前に導入した古いシステムを活用されている企業様がまだまだ多くあります。しかし、段々とそのシステムを使える人が退職してしまったり、今のパソコンでは動かないシステムになってしまったりと仕事が回らず危機的状況に陥っています。そこで、当社ではシステムを0から作り変えるということを行っています。これは非常に需要の高い領域なのですが結構大変です。ただシステムを作ればいいわけではなく、例外的なものも含め何十年分の業務フローを理解した上で漏れがない様に新しいシステムにすることは、SNSアプリを作ったりすることとは大きく異なります。古い情報も取りこぼしがない様にシステムへ落とし込む必要があり、苦労する面が大きいため、この領域に手を出す企業は中々ありません。しかし、私は過去に大企業のシステムインテグレーターでそういった業務を行っていたため、得意領域です。だからこそ、ここを強みとして事業の柱として行っています。ただ、今後の事業の割合としては、5:5くらいになるように伸ばしていきたいと思っています。どちらかというと、請負先の企業様でエンジニアが欲しいという声も耳にするので、事業間で連動する部分もあると感じており、さらに注力していきたいですね。理念について————会社の理念や考え方についてもお伺いしたいです。当社では創業時から「変化と不安定を受け入れ、どんな状況でも思考し続ける」という経営理念を掲げています。これは常に思考することのみが安定を生むという意味が込められており、エンジニアらしい価値観だと思っています。昨今では、大学を卒業したり大企業に就職していてもSNSのスキャンダルや株の暴落で安定が失われるなども多々あり、「これなら安定だ」と言えるものがなくなってきている時代だと感じています。他にも、1つの技術トレンドが普及すると、それに伴い今まで有名だったものが無価値になることもある時代なので、前提として世の中は不安定だということを理解して欲しいと考えています。ただ、もちろん安定を求めたい部分もあるので、常に一歩先がどうなるのか、頭をフル回転させた状態で業務などに取り組んで欲しいと社員には日頃から発信しており、それを繰り返すことで結果的に常に頭を働かせている状態が安定を作り出すと思っています。————この価値観は里見さんご自身の経験から感じられる様になったのでしょうか。それはあるのかもしれません。私自身、昔から良いことがあって気が緩んだタイミングで悪いことが起こるという経験がありました。例えば、プログラミングコンテストで優勝したことがあるのですが、その後気が緩んでしまって面接に落ちてしまったり、何かを覚えたり達成したりしてその日は嬉しい思いがあるのですが、1週間くらいすると「このままで大丈夫なのかな」とソワソワしてしまいました。しかし、それで上手く生きてきて、現在に至っているからこそ、この価値観が私の考え方の基盤になっていますね。歴史について————ありがとうございます。この理念を定めてよかったと感じたエピソードがあれば教えてください。実は、当社はゲーム開発を事業として創業しました。私自身オンラインゲームが趣味で、のめり込んだ経験があるのですが、どうせ仕事にするのであれば自分自身が夢中になったものを自分の手で再現してみたいという思いから始まりました。ただ、ゲームを作るだけで何億とコストがかかりますし、非常に多くの人材が必要なだけでなく、作ったゲームがヒットするかどうかは運やプランニング、才能が求められるため、途中で事業方針を変更しました。そして、プログラマーとしてそんなに面白い領域では無いかもしれないのですが、システムやソフトウェア、アプリの受託開発をメイン事業としました。もちろん、当社に入社したメンバーの中には「ゲームを作りたい」という想いを持って入社した人も数名いたのですが、普通の開発をメイン事業にすると決断した際にそれが理由で辞める人はいませんでしたね。事業として方針転換はあったのですが、どの領域でも根本的な業務はプログラミングをするということは変わりません。だからこそ、事業の外見は変わったけれど、コアである仕事内容の部分は変えずに守っていこうと他のメンバーも思ってくれていると感じています。また、当社は昨年M&Aをされているのですが、これもそもそもするつもりは無いとずっと言っていました。ただ、売上面などの色々な事情が重なり、社員全員のお給料も還元していきたいという思いがあったため、M&Aをすることを決断しました。こういった大きな変化を決断する時には社員にも必ず直接説明をするようにしていますし、私が株を持っていることがブレてはいけない軸ではなく、将来達成すべき社員の幸せやゴールに向かうための方向転換の決断なのでブレていないと感じています。こういった決断をする際には、私一人だけに影響するのであれば問題ないのですが、そういうわけにはいかないので、非常に悩みました。常々方針を発信していたので、それが大きく変更することになり、困惑した社員もいるのかもしれないのですが、この理念が浸透していたり、共感してくれる社員が多くいたからこそ、変化にも恐れずついてきてくれているのかなと感じています。————実際に大きな方針転換をされたにも関わらず、なぜ社員の皆さんが残られたのかというお話をされたことはありますか。直接聞いたことはないのですが、想像はできるなと思っています。ゲーム事業から方針転換をした際も「やりたいことはお金を稼いでからやる」と説明をしました。利益を上げてから最終的にやりたかったことに戻れたら理想だなと思いますし、社員にとってもゲームを作ることだけでなく、それぞれが成長することも目的の1つであるため、それを実現できるのはどの事業をやっていても変わらないということは伝えています。経営理念の話においても、変化させることと、させてはいけないことを社員にちゃんと話したので、そういったことが変化してもなお残り続けてくれている理由の1つなのかなと思います。エンジニアはお給料を上げるだけでなく、成長し続けたいという価値観を持った人が多い職業でもあると感じていますね。社員の皆様について————社員の皆様についてもお伺いしたいのですが、皆様に共通しているポイントはありますか。採用する際には無意識ではあったのですが、結果的に狙い通りでもあったポイントとしては、トラブルを起こす人がいないということかなと思います。例えば発信する声が大きかったり、影響力が強かったり、周囲の意見を気にせずに「こうしたい!」と突き進んでいくことができる人もいますよね。そういうタイプは非常に大きなエネルギーを持っているので、頼りがいがある人材なのですが、小さい規模の中小企業では船頭が2人以上いると社員にとっては方針がわからなくなってしまったり意見の対立が起きてしまったりとデメリットの方が大きいと考えています。そのため、基本的には私の方針に対して協力的な姿勢を持ってくれる人というのが前提条件になっていたのかもしれません。実際に今もそういう人が集まっているのですが、その代わりエネルギーの量としては控えめな人が多い傾向かなと感じる一方で、それでも現在の規模まではその価値観は正解だったかなと感じています。しかし、今後はまた違うかなと思っており、私の意見に反発してでも大きなエネルギーを持って変革していく人材もそろそろ必要だなと思っていますね。————社員の皆様が活躍したエピソードがあればお伺いしたいです。エンジニアはお客様からの要件通りに実装することが通常の業務です。そのため、どのエンジニアもプロジェクトを割り当てられると、求められている要件通りに作ることが多いのですが、それ以外の、作られたものをお客様に出す前の確認や、お客様との商談などの領域は全て私が担当していました。こう言った領域は大抵のエンジニアからするとあまり大変そうに見えない部分だと思っているのですが、実際は1番大変だったりします。しかし、新たにエンジニアの研修事業を始めた際に、私が忙しくなったタイミングで、その領域まで手が回らなくなってしまいました。その時に、とある2人の社員が「里見さんは今忙しいから」と自分たちでお客様と商談して、納品し、請求書を出すところまで持って行ったことがあります。これは教えていない業務だったにも関わらず、主体的に動いてくれたことに非常に感動しましたね。この件の前に社員を評価するタイミングがあり、自発的に行動したことを評価し、昇給させました。その一件以来、社員全員が言っていないことも察知して少しずつ行動するようになった雰囲気があります。その中でも飛び抜けて主体的だった2人が今回こういったアクションを起こしてくれましたね。また、メンタル的な話や業務における前向きな話をするのは、私と社員の間ではあったのですが、社員同士の間ではあまりありませんでした。何かあると社員は基本的に私に報告を上げ、指示を仰ぐため、例えば「あの人がよくない行動をしている」ということを他の社員が注意することはほぼありません。しかし、ここ1年でそういった行動がSlack上で徐々にみられるようになってきました。何がきっかけで変化したのかははっきりとわからないのですが、経営方法を少しずつ変化させてきたことも要因の1つかなと思っています。少しずつ社員同士が議論に発展したり鼓舞しあうことが増え、たとえこれが何かの結果として結びつかなかったとしても、この行為が生まれつつあることに感動しましたし、会社が賞賛するべきだと感じています。未来のビジョンについて————将来のビジョンや今後お取り組みとして考えていることがあればお伺いしたいです。当社は現在従業員数が約40人ほどの会社なのですが、今後この規模を大きくすることにはあまり興味がありません。当社で働く社員には、経験者やベテランが少なく、未経験で入社した人や経験の浅い状態で入社した人ばかりで、そのうち3年から5年勤めている人もいます。そのため、まだまだ全員成長途中だと思っています。私自身やはり人を育てることが好きだなと感じているのですが、今後は育成面に加え、当社で働く社員が他社に転職して10年後到達している給与と比較した時に、当社で10年働いた方が圧倒的に最終的な生涯年収が上がるような環境を作っていきたいです。また、社員だけでなく、お客さんも含め全方位の人に対して、私と関わった以上は「良かった」と思ってもらいたいと感じています。そう考えると、会社を大きくすることよりも、社員1人1人の平均単価を上げていきたいですし、少数精鋭の会社にしていきたいなと考えているため、ゆくゆくはブランド化していきたいです。まだまだ小さい会社の小さい事業なのですが、将来的に「当社で経験を積むことで大企業や有名企業からオファーが来る」という付加価値が発生すると、働く社員も胸を張って働けますし、今後入社してくる人にとっても憧れの会社になりますよね。当社は間口が狭いからこそ、今後良い成長機会を得られる環境があると思っているため、今後は求職者にとっても「この会社に入りたい」と思ってもらえるような会社作りを目指していきたいです。————最後に、里見様は今後どのような人と一緒に働いていきたいですか。情が深い人と働きたいです。昨今では、アメリカチックな考え方を多く耳にする機会が増えましたよね。例えば、よく言われるジョブ型雇用や、アメリカでは会社のフェーズによって雇用したり解雇することが普通なため、その流れが徐々に日本にも入ってきていたり、自身を主張する重要性が説かれてきたり、マネジメントの方法もテクニカルな領域を重要視され出してきています。ただ、日本人は元々協力して空気を読み、あまりトラブルを起こさないようにしてきた国民性でもあるため、これらを全て取り入れることは難しいと思っています。そのため、取り入れられる部分は取り入れよう、といったような視点を持っている人と働きたいです。そのためにはやはり情が大事になると思っており、もちろんお金や専門能力が大事というビジネス的観点も理解しているのですが、最後はお金にならない部分が価値になると感じています。例えば、「ここは妥協せずに残業すべき」とか「このメンバーと働くことは面白いし、このメンバーのためなら自己犠牲を厭わない」と言ったような感情を持った人が理想的ですね。