富士ソフト株式会社様の育成論育成論について————最初に、現在人財育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。富岡様:当社は人財育成方針を定めており、これに則った形で研修をはじめとした人財育成の取り組みを実施しています。自律的な成長を促し、当社が必要とし社会でも通じる様々なキャリア形成に対応できるような人財の育成を掲げていますので、これを実現するための教育体系を作っています。具体的には、階層を「経営職層」「管理職層」「役職者層」「担当者層」の4つに分け、それぞれの役職毎に行う教育を「階層別」「テーマ別」「職種別」「全社共通」「制度」の5つに分けて分類しています。特に階層別の教育では、役職に応じた教育として、「新入社員研修」や「昇格者研修」などそれぞれのステップに合わせてスキルアップできるような研修を行っています。またテーマ別の教育では、1つ上の階層にステップアップすることを目的とした「次世代人財育成教育」や「新任役職者教育」、「グローバル人財育成教育」を行っています。職種別の教育としては、「技術教育」と「営業教育」の大きく2つにカテゴライズしています。それに加え、各事業本部でも教育を行っており、各事業本部の業務内容に応じた専門スキルの教育が含まれています。全社共通の教育としては、コンプライアンスやセキュリティ、各種啓蒙教育を実施しています。最後に制度の教育としては、資格を取得した際に一時金を支給する「自己啓発奨励制度」、難易度が高い資格の取得や会社が推奨するセミナーへの参加を会社が戦略的且つ計画的に支援する「戦略促進資格・推奨セミナー制度」の他、「プロジェクトマネージャー認定制度」、「スペシャリスト制度」の4つがあります。私は人財開発部という部署に所属しており、階層別、テーマ別の教育のうち、「グローバル人財育成教育」を除いた領域と全社共通教育を担当しています。そして職種別と制度の教育に関しては直接教育する立場ではなく、教育がきちんと行われているかを管理・統制する立場で携わっています。————教育の内容も多岐に渡ると思うのですが、富岡様が携わられている領域以外の研修カテゴリーも各事業内で行っていたり、また別の部署で実施されているのでしょうか。富岡様:全社の社員教育に携わる部署は私が所属する人財開発部、「技術教育」をメインで担当する部署は石井が所属する技術管理統括部、そして「営業教育」をメインで担当する営業本部という3つの部署が各専門領域の教育を行っています。そして各事業本部内での教育は、「部所内教育」として事業本部毎にそれぞれ独自の教育を実施しています。石井様:当社の事業は非常に多岐に渡りますので、各事業本部で専門性の高い技術を教育しています。私たち本社側のメンバーが担当する教育では、社員教育における共通部分の育成を目的としています。各事業本部の共通部分に関する研修も担当しており、各事業本部を結びつける役割も担っています。例えば、プロジェクトマネジメントの育成では、全社の高度なPMを集めてPM連絡会という会議を開きノウハウを共有する機会を設けており、こういった取り組みも私たちで企画しています。育成という観点では、こういった研修を用意するだけではなく、場や環境を用意することも私たちのミッションだと捉えています。————これだけ研修が多岐に渡ると管理・統制することも難しいと思ったのですが、お取り組みされる中で工夫されている点があればお伺いしたいです。石井様:過去に研修を増やした結果、管理が非常に大変になり、社員からも、どんな研修があるのかわかりにくいという課題が発生しました。そこで数年前に人財開発部と技術管理統括部で連携し、「FujiEdu」という社内教育のためのシステムを自社開発しました。このシステムを使用することで、教育コンテンツを一覧で見ることができ、いつ何が開催されるのかを簡単に確認できるようになっています。管理職も「そろそろ部内のメンバーにこの教育を受けさせたほうがいいな」ということもわかるようになりました。————研修を増やされた時期もあったとのことですが、貴社では研修や育成といったものはどのくらい重要視されているのでしょうか。石井様:当社では、毎年会社の方針や経営に合わせて研修を見直しています。「次世代人財育成教育」も数年前に開始したコンテンツです。入社後の早い段階から育成を行い、早期に専門職のスキルを向上させていこうという経営方針が打ち出され、私たちが研修の仕組みやコンテンツを作っています。ただ、新たに研修を増やすばかりではなく、本当に必要な研修なのかを判断する必要があるので、そういった観点も持つようにしていますね。毎年、現状の研修を見直しながらコンテンツ内容のチェックを行い、研修を実施しています。コンテンツの効果も考えながら進めています。また、研修の目的に応じて教育の仕方も変化させています。集合研修やeラーニングという違いもありますが、例えばeラーニングの中にも確認問題や演習など様々なコンテンツがあります。学びを更に深めたいものに関しては演習を自己採点してもらうなど、自分事として捉えるeラーニングも作っています。そのため、1つ1つの目的に応じてコンテンツを作成するようにしています。————こういった研修コンテンツは全て自社で作成されているのでしょうか。富岡様:技術教育のコンテンツは自社で作成しています。階層別教育の研修については、以前はほとんど内製していたのですが、現在は研修業者さんに依頼しています。ただ、どういうコンテンツがいいのかということに関しては、役職層など研修を受講する対象者が「こういうスキルを身につけられる」ということをしっかり精査したうえでお願いするようにしています。石井様:外部の研修業者さんに依頼するかどうかの1つの判断軸は、教育の内容に当社のノウハウを含むかどうかだと思っています。例えば、新入社員に教育する、一般的なビジネススキルは当社のノウハウが含まれないので、プロの方にお任せして講義いただくようにしています。しかし、当社が創業以来培ってきたノウハウやナレッジが含まれる内容に関しては、自社内でコンテンツを作成するようにしています。————自社の独自性も学ぶことができる素敵な環境ですね。実際に研修を運営してみて見えた効果や受講者の声としてはどのようなものがあるのでしょうか。石井様:研修の種類が非常に多いのですが、アンケートを取ると受講者からはポジティブな声をいただくことが多いです。一方で、私たちが研修を実施する際の問題として、満足度が高いコンテンツは改善に繋がりにくいということが挙げられます。効果をはかることは非常に難しいのですが、先ほどお話ししたPM連絡会といったコミュニティ活動を推進することに関しては新たな効果に繋がっていると感じています。当社は社員数が多く、様々な部署に専門知識を持った社員が在籍しています。PM連絡会は、そのような色々な知識を持った社員のノウハウが集約される場所となっているので、そこにナレッジが集約し、新たな気付きが生まれることに繋がっています。これをきっかけに当社の新たな強みが生まれることもあります。また、特徴的な研修として「技術発表会」を開催しています。2013年に私たちで企画して始めたもので、月に1回ほど開催し、当社を代表する技術者に社内の研究開発や新しい技術について発表してもらっています。オンライン形式で開催するのですが、発表中は裏側で参加者が社内SNSを使ってコミュニケーションしています。「こんな使い方もあるんじゃないのか」とか「これってこういうことですか」といった会話で盛り上がります。参加者が「知らなかった富士ソフト」や「社内にこんな技術者がいるんだ」などを知る機会になっているようです。様々な発表を聞くことで、技術に対する学びになるだけでなく、当社に対する理解を深めることにも繋がると考えています。当社の社員は様々な専門性を持っていますので、そういった社員を繋ぎ合わせ、新たな学びを作っていくことも学びの1つだと感じています。こういった学びの場を提供することも当社の面白い取り組みの1つです。この取り組みは2018年に「eラーニングアワード」で「バーチャルクラス特別部門賞」を受賞しました。また、「イノベーションカンファレンス」という全社カンファレンスを年に1回実施しています。オンライン形式で1日かけて非常に多くの発表が行われ、まるでお祭りのように全社で非常に盛り上がる取り組みです。当社は国内外の様々な場所に拠点があるため、事業部内でも拠点が離れていることがあります。また、事業部によって全く異なる事業を行っていることもあります。こうした取り組みを通じて、定期的に社員同士が繋がる場を作りたいという思いがあります。————富岡様にもどのような声が上がっているのかなどお伺いしたいです。富岡様:人財開発部が実施している研修は、階層別研修です。ランク毎に研修を実施するキャリア開発の研修となっています。研修の満足度は階層やコンテンツによって全く異なります。昇格者向けの研修では、リーダー層の満足度は高いのですが、マネージャー層からは「すでに知っている内容なのであまり受ける意味がない」といった声もあります。こういった意見も反映しながら、次年度に向けて改善を行うようにしています。ただ、満足度としては7割から8割くらいの高い評価となっています。————研修内容のアップデートをされているということでしたが、今までの研修の変遷としてはどのようなものがあるのでしょうか。石井様:新たな研修コンテンツを実施するより、経営環境の変化に合わせたコンテンツ内容のアップデートが多いです。例えば、当社の成長と環境の変化に伴い、組織管理中心から組織を超えた横連携へとマネージャーに求められることも変化していますし、マネージャーの育成においては、変化がはやく不確実性の高い経営環境において、変化に柔軟に対応するOODAループのような考え方が求められることがあります。また、PM教育のコンテンツは、PM連絡会の参加者と一緒に作成しています。PM連絡会の参加者は、当社の高度なPM知識を持った技術者です。こういった様々な協力を得ながら多くのコンテンツを作っています。2022年度から「PM年次研修」を始めました。これは全社のPM全員に受講してもらうeラーニングの研修です。このコンテンツも当社のエグゼクティブPMの協力を得ながら作成しました。私たち本社側のメンバーとしては、私たちだけでコンテンツを作るのではなく、プロフィット部門のナレッジを集約してコンテンツに生かすようにしています。————ありがとうございます。富岡様も変化は感じられていますか。富岡様:私のところは大きな変化はありません。役職や階層毎のスキル定義をあらかじめ作っており、階層に応じて必要なスキルを明確に定義づけています。この定義に基づいて研修を行っているため、毎年の変化は大きくはありません。ただ、経営や時代の変化に合わせて重要視すべきスキルが変化することもあります。そういった際には、都度研修コンテンツをブラッシュアップするようにしています。————定義についてももう少し詳しくお話をお伺いしたいです。富岡様:基本的な定義としては階層毎のスキル定義がありまして、人財開発部はこの定義に基づいて研修を組んでいます。この定義は2年ほど前に経営層を交えて作成しました。それまではなんとなく「この階層の人はこのスキルや能力が必要だろう」とぼんやりとした認識はあったのですが、明文化されておらず、カタチとして見せられるものまでは落とし込めていませんでした。それを改めて文章にして明確化したのがこの定義です。約2年かけて「富士ソフトの成長を支える人財とはどういう人か」から議論を始め、最終的には「役職毎にどういったスキルが必要なのか」までを、社長を始めとした経営層とも議論を重ね、現在の定義となりました。————ありがとうございます。お2人それぞれの目線で今後やっていきたいことはありますか。富岡様:当社の社員構成で見ると、現場では役職者層よりも担当者層が多く、全体の6割ほどを占めます。今後会社が成長していくためには、担当者層を増やすだけでなく、役職者層も増やし、しっかりしたピラミッド組織作りを行う必要があると感じています。そのため、役職者層をいかに育成するかということが、今後の取り組みの課題だと思っています。また、当社に限らず最近の若手社員は昇格することに対してあまりモチベーションが湧かない風潮がありますよね。そういう社員を役職者層へステップアップさせるために、意識を向けさせることも重要な役割だと思っています。————中々難しい問題ですよね。石井様はいかがでしょうか。石井様:私たちもメインターゲットは同じです。入社5年目くらいまでの若手の担当職が非常に多いため、ここをいかに底上げしていくか、専門性を持って働いてもらえるかがポイントになってきます。そのための教育をどう作り上げるかは、今後取り組みが必要なことの1つです。私たちが本社側で取り組んでいる研修は様々ありますが、各事業部でも様々な研修を実施しています。事業部ごとに業務に応じた専門性を持って研修を実施してはいますが、事業部が異なっても共通する部分もあります。私たち本社側は、各事業本部の研修の共通した部分を集約してコンテンツを作成し、他の事業所へと展開し、事業部間の連携を図っていきたいと考えています。IT業界は非常に速いスピードで技術が進化します。だからこそ、技術者に学びの自由度を持たせたいと感じています。「学び」とは教えられるようなフォーマルな教育だけではないので、もっと技術者にどんどん学んで欲しいですし、学ぶ意識をもって欲しいです。そのため今年度は、その取り組みの1つとして、「学びコンテンツ紹介サイト」というサイトを作りました。これは、社内の教育コンテンツに限らず、世の中にある様々な学びやコンテンツについて、当社の有識者たちが「このコンテンツは参考になる」とおすすめするものに推薦文を書いて公開しているサイトです。また、若手技術者が「こういうスペシャリストになりたい」と将来描くスペシャリストを選択すると、「このコンテンツで勉強するといいよ」とおすすめのコンテンツを表示します。さらに、社員のスキルを管理するシステムとも連携しており、スキルの目標値から「このスキルを勉強したい場合はこのコンテンツがおすすめ」と推薦してくれるような機能もつけ、学ぶきっかけをできるだけ多く作るようにしています。フォーマルラーニングだけでなく、インフォーマルラーニングに関しても、私たちはしっかりサポートしていきたいです。社員の皆様について————お2人から見て、それぞれ提供したコンテンツの効果を感じられた社員の方のエピソードなどがあればお伺いしたいです。富岡様:研修後に、受講者の上長に対して、部下の行動の変化についてアンケート調査をしています。「研修を受けて行動の変化が起きている」という声も多く、研修の効果が出ているのかなということを感じています。研修の際には受講者にも必ずアンケートを実施しているのですが、その時に「この研修に参加してすごくためになりました」とか「現場でも活用したいと思います」といった声をいただくこともあるので、研修をやってよかったなと感じられますね。石井様:教育の評価は難しく、「カークパトリックの4段階評価法」もありますが、実際に教育の効果を見ようとするとノイズが多いですよね。本当にこれが教育の効果なのかを判断するのは非常に難しいところがあります。私たちも評価については非常に悩みながら進めてきましたので、私たちの提供する研修をリピートして活用してくれることに非常にありがたいなと思っています。受講者が「参考になる」、「使える」と評価されているからこそリピートされるのではないかと考えています。特に技術発表会はリピーターも多く、「次はどんな発表があるのか」、「どんな技術を知ることができるのか」と楽しみにしてくれているようです。また、先に述べたように一部のeラーニングでは演習後に自己採点をさせるという取り組みを行っています。自分で演習したものに対して、アウトプットを模範解答を見ながら自分で評価し、自己採点します。演習は自分事として考えさせるということがポイントだったのですが、自己採点させることで、振り返りや受講者自身による即時フィードバックにもつなげています。この一連の流れによって、受講者により理解を深めてもらうことを期待しています。実施前は、自己採点では甘く採点されることもあるのではないかと考えていたのですが、実際には厳しく採点する受講者が多く、たいへん驚きました。社員が自分事として取り組んでいることがわかりました。この仕組みが効果を発揮していて嬉しかったですね。教育の観点では、研修を受講した後に何ができるようになったのかということが大事だと思っています。ただなんとなく「研修が楽しかった」では終わらないよう、学びに繋がり実務に活かせるような仕組みを作っていきたいと考えています。