育成論についてー最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。吉野様:まずは簡単に当社についてご説明いたします。当社は2013年に共同代表である河端と高原の2人によってエンジニアの価値向上を目的にBranding Engineerとして創業し、2020年に当時の東証マザーズに上場、2023年のホールディング体制への移行と同時に現在のTWOSTONE&Sonsという社名に変更しています。株式会社TWOSTONE&Sonsはホールディング会社で、その傘下に十数社ほどグループ会社を抱えるグループ経営を行っています。TWOSTONE&Sonsには経営管理を中心としたいわゆるバックオフィス機能と、グループ横断で事業やサービスの集客支援をするマーケティング機能やグループ全体の新卒採用や中途採用を行う採用機能がメインとなっているため、各事業はそれぞれのグループ会社ごとに事業運営、サービス開発を行うという体制を取っています。このような体制で事業運営をしているため、社員一人ひとりの育成や教育という点に関しては事業会社ごとにカスタマイズされているということが当社の特徴の1つだと思っています。 新卒社員研修ではビジネスパーソンとして最低限の基礎的な内容の教育、社内のルール説明や各種ツールの設定などTWOSTONE&Sonsの人事が担っているものもありますが、各グループ会社に任せている部分もあります。各グループ会社ではそれぞれ異なる事業やサービスを運営しているということもあり、所属部門の事業内容によって必要な知識やスキルも担当業務によって様々です。なので、実際に日常の業務で必要なスキルに関しては各グループ会社ごとに育成カリキュラムを作成して、一緒に働く先輩社員たちが直接教えるという形で育成に取り組んでいます。 ー現在の育成の仕組みは会社を立ち上げた当初から事業部門で育成していこうという価値観だったのでしょうか。現在に至るまでの過程を教えてください。吉野様:会社の立ち上げ当時はまさにスタートアップという感じだったので、先輩が後輩に何かを教えるという余裕すらなく、習うより慣れろという感じで日常の業務を通じて学ぶというような形で、教育の仕組みはあってないようなものだったと思います。事業がある程度軌道に乗り始めてからは時間をかけながら各種業務が型化され、その過程において従来の育成の取り組みから徐々に進化しています。また、元々は人材ビジネスを中心とした単一事業だったものが現在は複数のグループ会社で複数の事業を運営する体制となり、各事業責任者たちも事業部単位での考えではなく代表という立場から「自分たちの会社として」という意識も強まり、組織運営の仕組みがカスタマイズされていく過程の中で育成のプログラムもどんどん体系化されてきたように感じます。 例えば、Branding Careerというグループ会社では新しく入社したメンバーに対して2-3ヶ月の育成プログラムを作り研修を行っています。これは、従来は新しいメンバーが入社するたびに手取り足取り先輩社員が教えていたものを体系化したコンテンツです。Branding Career以外にも新入社員向けの育成プログラムをオリジナルで作成しているグループ会社が多く、今回紹介しきれないくらい各社ともにしっかり作り込まれています。 その他の取り組みとしては、TWOSTONE&Sonsの役員陣や部長陣による横断的な育成の取り組みも行っております。 例えば、TWOSTONE&Sonsの役員でありグループの主力事業を運営するBranding Engineerで事業責任者をしている者は「〇〇塾」というネーミングで勉強会のような取り組みを部門横断で独自に実施しています。その勉強会は定期的に行われており、一例として「成果を生み出すための仕事の仕立て方」といったテーマで社員が集まって議論するなどをしています。 この取り組み以外にも、別の事業責任者はグループ横断でリーダーシップについて研修を行うなど、改めて考えてみると、当社では幹部陣が教育に対する強いマインドを持っており、これも当社グループの特徴の1つだと実感しております。このように、当社グループの方針や文化を会得している一人ひとりの事業責任者に裁量を委ねることで、彼らの考えを彼らなりの言葉や解釈でメンバーに伝承していくという文化を大事にしています。ー実際にこういった研修カリキュラムを通じて社員の方々に変化はありますか。吉野様: 成果や活躍とは少しズレるかも知れませんが、効果という点においては社員の定着率の変化は感じます。当社では新卒採用と中途採用をどちらも積極的に行っておりますが、新卒採用では毎年10人から20人ほどが入社しています。新卒採用自体は7、8年前からスタートしたのですが、以前は新卒で入社した社員がなかなか定着しないという時期もありました。しかし、組織が少しずつ整い始め、先輩が後輩を教える文化が根付くようになったことや、先ほど話したような研修体制が徐々に整ってきたこともあり、直近3-4年くらいに入社した新卒社員の定着率は以前と比べると高まっています。これは、ただ研修体制が整ったというわけではなく、それらを通じて先輩後輩の上下の繋がりも強化されますし、職場内での人間関係が良くなることで心理的な安全性も高まり結果として定着率の向上に繋がっているのではないかと感じています。当社は2024年9月から12期目を迎えており、期初より色々な新しい取り組みを始めています。来期から導入・運用予定なのですが、現在グループ全体の人事制度の再構築を行なっており、人材ポリシーの再設計やミッショングレードの見直しなどを進めております。また、新たな人事施策も作成中で、その中には配置転換や人材抜擢の仕組み化も検討しているので、来期からは当社グループの中で様々なキャリアを築く具体的な事例を数多く作っていきたいと考えています。これは運用が大事になるので、しっかりと作り込んでいきたいですね。また、今後も成長を続けていくことが見込まれる当社グループならではだと思いますが、グループ会社の中で重要なポストが次々に生まれてくる環境でもあるため、そこに人材を抜擢する仕組みを作るなど、次世代のリーダーをどんどん育てていきたいと思っています。理念についてー貴社の理念や文化、社風についてもお伺いしたいです。吉野様:当社は「BREAK THE RULES」という経営ビジョンを掲げています。これは、創業時から大事にしている価値観であり、日常で起きていることや常識に疑いを持ち、あたりまえと言われていることをそのまま受け入れず、自分なりの考えをもち、本質的な価値を見出すという想いが込められております。代表の二人は今でもこの理念を大事にしていますし、このメッセージは社内にも浸透しているものですね。今後もこの理念を大切にして、どんなに事業や組織が大きくなろうとも、ベンチャー企業としてのカルチャーは色濃く残していきたいと考えています。ー働く中でもこの価値観を浸透させるための仕掛けはありますか。吉野様:組織が大きくなるにつれてどうしても代表と社員の距離が遠くなってしまうこともあり、人事が主導となって代表とのコミュニケーション施策やメッセージ動画発信などを行っています。加えて、最近始めたこととして人事メンバーが中心となって「2NAGU通信」という社内報のようなものを運営しており、そのチャンネルの中で役員メッセージの配信やバリューの浸透コンテンツなどを実施しています。また、代表の考えとしても社員一人ひとりの帰属意識をもっと高めていきたいという想いが強まっており、「自分たちは何の会社なのか」「何を目指しているのか」など会社のビジョンや方向性を社内にメッセージとして発信していく機会を増やしております。歴史についてー今まで乗り越えてきたことや大変だったエピソードがあればお伺いしたいです。吉野様:今まさに直面しており、今後も起き続けるだろうということがあります。ホールディング企業としてグループ経営をしているため、グループ会社が10社あれば10人の責任者がいるわけで、事業戦略や計画はもちろんのこと、組織のことであれば採用や育成も含めて事業責任者に大きな裁量を与えて彼らの考えをもとに行っています。当然ながら各社の方針がグループとしての方針と同じではないケースも起きるわけで、その度に各社の責任者とコミュニケーションを取り、お互いが納得感のある形を作りながら各施策を進めております。会社や事業が増えれば増えるほどグループ全体としての横断的な取り組みが難しくなるので、グループとしてのバランスをうまく保つためのコミュニケーションというのは今後も起こり続けますし、ホールディング企業として事業運営していくことの難しさや影響の大きさというものを体感しています。各社の責任者にはもっと大きな裁量のもとでどんどん突き進んでいってほしいので、グループ全体としてのポリシーを定め、グループとして守ることと各社が独自に設計し運用することの線引きを少しずつ明確にしていきながら、各事業の成長を推進し同時にグループとしての良いバランスを構築していくことが重要なポイントだと考えています。だからこそ私自身もそうですし、各事業責任者たちとの関係性をしっかり構築する必要があると感じています。今後も事業責任者は増えていくので一人ひとりとの信頼関係をさらに強くして、グループ全体として同じ目的意識や課題意識を持ち厚みのある幹部陣となっていかなければなりません。だからこそ、グループ全体として成長していくためには、経営におけるメッセージや会社がどこを目指し何の課題を解決していくのか、を伝達していくことにも注力していく必要があると感じています。社員の皆様についてー貴社に在籍している社員の方々についてもお伺いしたいのですが、社員の皆様に共通しているポイントはありますか。吉野様:自身の成長に貪欲で野心的なメンバーが多いと感じています。もう今では新卒で入社した会社で何十年も働いて定年まで勤めあげるということは当たり前の考えではないですし、キャリアの築き方も多様になってきています。もちろん会社としても僕個人としても社員とは1日でも長く一緒に働きたいと思っているのですが、せっかく一緒に働くならば当社での経験が次の新たな挑戦やアクションに繋がるきっかけになってほしいですし、そのようなことは新卒採用の最終面接でも伝えています。そういう意味では、個人的には当社で働くことを何か将来的に新しい挑戦をするための発射台と捉えるくらいでもいいんじゃないかと思っています。逆に言えば我々はそのような成長機会を社員に提供し続けていかなければなりませんね。 そうは言っても、当社グループの中で長く活躍することを期待してしまうのですが(笑)。ーやりたいことを実現するために転職などで環境を変化させることも多いですが、貴社の中で挑戦できる環境があることで、それをきっかけに貴社で活躍し続けることができる方も多いのではないかと思いました。吉野様:採用選考では当社の理念やカルチャーにフィットしているかどうかということはもちろんのこと、挑戦的な気持ちや成長意欲の高さを見ています。そういった方々に入社し活躍いただくためにも、社員がグループの中で常に挑戦できる機会を与え続けることが必要であると思いますし、そういった環境を作ることが私のミッションだとも思っています。当社グループでは様々な会社があり事業も多岐に渡るからこそ、何か新たにやりたいことが見つかった時には、グループ内で異動するなどして新たなキャリアを実現することも1つの選択肢だと考えています。例えば将来的に起業したい社員がいるなら、グループ内で新たな会社を立ち上げて責任者としてやってみるということも今後は増やしていきたいです。今の時代にあった新たなキャリア形成の事例をもっと作っていきたいですね。ー最後に、今後社員の皆様にはどのように成長して欲しいですか。吉野様:せっかく当社のようなベンチャー企業を選んで入社したのであれば、年次や年齢は関係ないので、成果を出してなるべく早い段階でマネージャーや部長のような役職についてほしいですし、将来的には事業責任者やグループ会社の代表に就任するなど、より大きなミッションを担っていってほしいです。社員との面談においては、今後のキャリアに悩んだり転職を検討しているような話になる場合もありますが、その際に私がよく伝えていることが「今まで貯めた会社との信頼残高をゼロにするまで、うちの会社にベットした方が良いのではないか」ということです。入社して少しずつ成果を出しながら周囲との関係も構築していくと、次第に会社と社員との信頼関係は強くなっていきますよね。社員への信頼が高まるからこそ会社は責任あるポストに抜擢し、その人に新たなミッションとして挑戦の機会を与えたいと思うはずです。 逆に社員からすれば何か挑戦したいことが見つかったならば、それまで積み上げた信頼残高をフルベットして「これがやりたい」と会社に直談判してもいいと思っています。あくまでも周囲が納得するレベルの成果を出すことが前提ではありますが。 しっかりと成果を出し続けたメンバーが、うちの会社で貯めた信頼残高を使うことなく辞めてしまうことは非常に勿体無いので、行き詰まったり悩んだりしたときこそ逆に挑戦してみたいことを発信してほしいですね。 仮に次の会社に転職してしまえば、当社で積み上げた信頼残高は残念ながら次の会社で使うことはできず、また新しい環境で1から信頼残高を貯めていく必要があります。 「仕事の報酬は仕事」と言われるように、積み重ねてきた成果を武器に、会社との信頼関係を構築し、時には自ら手をあげて新しいミッションに挑み、どんどん成長していってほしいと考えています。 会社としてもそんなチャレンジングな環境を作り続けていくことは大変ではありますが、それもまた私のミッションでもありますし、当社グループで市場価値の高いキャリアを築く社員を一人でも多く輩出することが、うちの会社で成し遂げたいことの一つでもありますね。