カイシャの育成論──最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。藤岡様:全従業員を対象に1対1の面談制度を実施しています。この制度を運用するために必要な研修がいくつかありまして、それを自社で企画し、実施しています。──面談制度を運用するための研修内容について詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。藤岡様:上司・部下で1対1の面談を行う際に、上司はスタッフに対し高い理想を求めますのでスタッフの不足点ばかりに目が行きがちになります。その状態で面談を実施しますと、スタッフのモチベーションが大きく低下してしまうといった事例が見受けられます。そういった事態を防ぐために、上司側に面談の心構え、捉え方を理解して頂き、ゴール地点を上司と部下が同じように設定し、上司はそのゴールに導くことが必要です。弊社ではこの状態を作るために上司側からスタッフにむけての断定思考を切り外して考えることを学ぶ「育成マネジメント研修」を実施しています。また、コミュニケーションを良くするために、相手のことを相手以上に考える「ロイヤルホスピタリティ・ロジック研修」もあります。また、営利企業として利益を出すために必要な思考を学ぶための「MG研修」も実施しています。──こちらの研修や面談制度を起点として、従業員のケアをしながら、最終的に会社としての一体感を醸成することも大きな目的になっているのでしょうか。藤岡様:そうですね。やはり、人と人のコミュニケーションがなければ、組織を運営するのは絶対に難しいと考えています。コミュニケーションというのは思ってることをお互いにすり合わせしていくことだと考えており、例えば、同じ言葉でも、双方が違う理解をしていることも少なくありません。そのような誤解を防ぐために共通言語を作る必要があり、その意味でも、社内の研修は重要だと考えています。また、1対1の面談の中では、何でも話せばいいということではなく、基本的には会社としてどのような価値観を持っているのか、いわゆる「評価」を一致させていくということも目的としています。例えば、「物を大切にする心」とはどういう概念なのかという話になった時に、人それぞれ異なる考えを持つと思いますが、面談では評価制度で定めている弊社としての考え方、上司の考え、スタッフの考えをある程度一致させ、共通認識を揃える場として重要だと考えています。──御社としての考え方を浸透させ、共通認識を持つことが重要だと考えるようになったきっかけや、これらの取り組みを始めたきっかけは何だったのでしょうか。藤岡様:きっかけは代表の中田からの相談でした。当時、私が子会社の責任者を勤めており、そちらではすでに1対1の面談やその中での評価のすり合わせを実施していました。そのため、本体のロイヤルオートサービスでも同じように実施したいがどう思うか?と相談を受けたのがきっかけです。制度を導入することはできても、実際に運用する人が注意点を理解し実行できる状態に至っておらず、リスクがあると感じていました。当時の社員の状況としては、トラブルが発生しても私のせいじゃないというような他責的な思考が目立っており、この状態で1対1の面談が始まったら、結局数字があがらないのは部下のせいという話で終わってしまい、そこから先の部分が考えられない状態になり,スタッフがみんなやめていく可能性を感じました。そこで、その状況の改善のために、こういった研修や制度を作るに至りました。──実際にこれらの制度を導入する前と後で変化はありましたか。藤岡様:そうですね。自ら考え行動できるっていう人を作ろうというところが最終的な目標だったので、しっかりと研修内容を理解し、実行した人たちはだいぶ成長したと思います。面白いなと思うのは、研修を伝えている講師側よりも、内容を深く理解してくれる社員が出てきている点です。また、その結果として、優秀な人材が残りやすくなったのではないかと感じています。中田様:もうその通りで、逆に変われない人っていうのはできないことを人のせいにしてしまう傾向があり、自分の居場所がなくなってしまい、その結果会社に居づらくなり、退職するケースが多いです。──これらの制度は全てが重なり合ってようやく効果が出る設計でかなり工夫されていらっしゃる印象を受けたのですが、藤岡さんの中でその構想があって、それらを1つずつ組み立てていったのでしょうか。それとも外部の方の意見や社内からの意見などを取り入れた結果、現在の制度に至ったのでしょうか。藤岡様:様々な要素が組み合わさって出来上がったのがこの制度です。私自身、成長に対し低空飛行が続くタイプの人間で、分からないからできない、上手く行かない、どうしたらよいのか、それがなぜおきているのかなどを探し、考えている最中に、中田から新しい外部の研修を放り込まれたり、知らない知識をどんどん入れられたりしていた際、「こういう事か!」と、ある時に全部が繋がった様に感じた瞬間がありました。それを言語化・可視化して、一つずつ制度を構築しながら、中田と何度も意見交換を重ね、2ヶ月ほどで現在の形にまとめ上げました。自分が見えてない場所は自分には分からないので、中田からの視点で私に足りていない部分を補う研修や知識を入れてもらえたことでこの研修がどんどん出来上がったのだと思います。──藤岡様のお話から、中田様は藤岡様を非常に信頼されていらっしゃるように見受けられるのですが、中田様から見て、藤岡様の変化や研修を任せるに至った経緯などについてお聞かせいただけますでしょうか。中田様:私はこの会社では二代目社長なんです。父がこの会社を設立し、長男ということで継いだのですが、継ぐ際にいわゆる自分の右腕左腕となる存在がいなければ、会社を運営していくことは難しいと感じていました。父は昔ながらのトップダウン型経営を行なっており、それを私にも同様に行うように強要されてきましたが、このままトップダウンを続けていては、組織としての成長は頭打ちになるだろうと考えていたため、トップダウンではなく、社員一人ひとりが自ら考え、行動する組織を築きたいとずっと思っていました。そこで、藤岡ともう1名を右腕左腕として選定し、先ほど藤岡が話したように、様々な研修を受けてもらいました。ただ、その研修は私も受講しました。どのような会社や組織を作りたいかを考えた際に、自分に足りないものがあると気づき、それを補うために様々な研修に出ていたら、「あれ?研修の講師はみんな同じことを言っているのでは」と最終的に様々な研修が自分の中でも1つに繋がりました。それぞれ講師の流派は違えども、結局 は同じこと言ってるのだと気づき、今度は右腕左腕として活躍してほしい藤岡ともう1名に同様の気付きや学びを得て欲しいと考えそれらの研修を全て受けてもらいました。他にも、私が出席するセミナーや表彰式などにも同席してもらいました。2名を選んだ理由は、年齢と仕事への姿勢の2点です。年齢の面では、当時、最も若手だったという点が挙げられます。弊社では2011年に新卒採用を開始しましたが、当時の平均年齢が43歳くらいで、新卒入社社員の一つ上の世代の年齢が32歳くらいでした。その中で、32歳と当時最も若手だった藤岡ともう1名の2名を選定しました。また、仕事への姿勢としては、この2名は前向きで自責思考を持ち、自ら問題解決に取り組み、解決していく能力があった点も決め手となりました。──この関係性を10年以上続けてこれた理由として、中田様の働きかけと藤岡様の想いがうまく噛み合ったことが大きいのではないかと思いますが、藤岡様から見て、これまで一緒にやってこれた理由や想いについてお聞かせください。藤岡様:端的に言うと「会社が好き」というところですね。私自身は、自分が不器用な人間だと思っていたので、先代の社長の頃からなぜ自分を重宝してくれるのだろうと常に疑問に思っており、いつか恩返しをしたいという想いで働いていました。一方で、当時は社長からは「あれができていない」など、不足している点ばかりを指摘されることが多くありました。先ほどの話で出てきた右腕左腕だということを直接的に言われたことなく、よくわからないまま様々な場所に連れて行かれたため、いいように使われていると感じ、何度も辞めようと思ったことがありました。それでも、今こうして続けているのは”恩”を感じているからですね。理念について──御社では企業理念や企業文化としてどのようなことを大切にされていらっしゃいますか。中田様:「お客様に満足していただきたい」というのが基本的な考えです。弊社の企業理念や経営理念は、「真面目にやって会社の信用と業績を高めて、地域ナンバーワンを目指しましょう」というものなので、経営理念としてはそれでいいと思いますが、スタッフ側がその理念を基に仕事をするとなると、難しいのではないかと考えています。スタッフが気持ちよく仕事をするために、基本的な考えの中心にお客様を持ってきて、お客様が満足してくれたことに対して、スタッフがやりがいを感じて欲しいと考えています。自分が2013年に社長に就任した際、それまではなかった「ミッション」を新たに設定しました。その使命とは、「お客様の満足のために働きましょう」というものです。──これらの理念を通じてすでに実現されていることや、今後実現していきたいことはございますか。中田様:おそらく、スタッフは「お客様に満足していただきたい」と思って仕事をしているわけではないと思います。しかし、一番の軸としてお客様を中心に考えているため、結果的にお客様から感謝していただいたり、お客様の満足に繋がったり、社員がやりがいを感じたりし、最終的に収益の改善に繋がっていると思います。もし、利益だけを追求する組織であれば、社員は嫌になってしまうだろうと考え、現在は価値を重視した組織へと変化しようとしています。以前は薄利多売のビジネスモデルで事業を展開しており、お客様の数が同業者と比較して非常に多かったため、お客様が来店した際にスタッフが「また来た」と感じてしまう状況を懸念し、「お客様を中心に価値を届ける」という理念を掲げました。スタッフはおそらくその理念を理解して行動してくれているため、最終的に収益の改善に繋がっているのだと思います。ただ、その改善もいわゆるトップダウン型の組織体制の中で進められていたため、頭打ちになってしまいました。その際に、先ほどお話しした研修制度が出来上がったことで、一度停滞していた成長が再び加速したということもあり、今後もこの流れをさらに加速させていきたいと考えています。──代表が交代されてから、会社として新しい流れを作ったり、様々な取り組みを実施していく中で、現在に至るまでに苦労したことや、大変だったエピソードがあれば教えてください。藤岡様:会社の環境としては、スタッフの退職が相次いだことが大きな課題でした。これは研修制度が導入される前の話で、2011年から新卒採用を開始しましたが、2016年から2018年頃にかけて退職が続きました。売上も同時に減少しており、当時は感情的にも苦しい時期でした。また、スタッフの退職以外で言うと、トップダウン体制から現在の体制に移行する時期も大変でした。元々トップダウンでマネジメントされていたものが、急に「自分で考えなさい」と言われても、何を基準に考えれば良いのか、何を求められているのかが分からず、さらに酷い時には「藤岡はやっているけどやっていない」と中田から言われ、それに対して説明を求めても明確な回答が得られず、本当に辞めようと思ったこともありました。当時の私は言われた事はやっている、自分はできていると思い込んでおり、会社から期待されている、本来やるべき、やれるはずの仕事が出来ておりませんでした。人は「できている」と思い込んでしまうと、他者の意見を聞かなくなってしまいます。悩みぬいた末上手く行っていなかった原因は「自分はできている」と思い込んでいる事だと気づき、上手く行かなくてもいいからとりあえずやろうと決めました。その時の経験は、今でも私の中の戒めとなり、何かうまくいかない時や、自分を振り返る際に、自分は「やっているか」と自問自答するきっかけになっています。そのため、今は「できている」という感情を持たないように常に気をつけています。中田様:私が社長に就任し、トップダウン体制から組織体制を切り替える時期は特に大変でした。2013年に私が社長に就任した際、先代の社長は会長として会社に残っており、私は社員に権限委譲を進め、それぞれのスタッフが考えて行動する組織を目指していましたが、会長からは今まで通り社長が全てを管理するよう指示があり、対立していました。電話で大喧嘩になり、会長が会社に来なくなってしまったこともありました。その後も、権限委譲を進めていってたのですが、そこでも苦労がありました。今思えば当然なのですが、権限委譲さえすれば、社員は自ら考えて行動してくれるだろうと安易に考えていましたが、実際は全くうまくいきませんでした。今までトップダウンで指示されていたため、自分で考えることをやめてしまっていた社員に、急に「考えろ」と言っても、「何を考えればいいんですか?」という状態になってしまい、加えて、権限委譲した社員からは「何を考えればいいのか」という質問すらなく、私が社員がやっていると思っていたことは全くできておらず、今まで築き上げてきたものが、またたく間に崩れてしまい、業績も急激に悪化しました。これはまずいと考え、外部から店舗をマネジメントする、いわゆるSV(スーパーバイザー)を採用するなど、様々な対策を講じましたが、それは対処療法に過ぎず、根本的な問題解決には繋がらず、状況はさらに悪化していきました。さらに、私がトップダウンをやめたことで、社員との距離が広がり、「社長は何を考えているのだろうか」と不満の声が多くあがるようになりました。それまでは、ほぼ毎週全店舗に行って会議を行い、社員とコミュニケーションを取っていましたが、権限委譲を進めたことで、店舗に行く機会が減り、社員との接点が薄れてしまっていたので。このままではいけないと考え、現在の1対1の面談制度のきっかけとなる、私1名対全社員160名での全体会議を開催しました。そこで、社員一人ひとりと向き合い、私自身の考えを伝えることで、社員との関係が変わっていきました。しかし、その時点ではマネジメント体制は特に変わりませんでした。その当時、藤岡が責任者を務めていた子会社が非常に好調であったため、これをロイヤルオートサービスでも取り入れたいと考え、藤岡に相談したことをきっかけに、現在の体制へと至りました。社員の皆様について──研修制度や過去の出来事を通じて、実際に活躍された社員の方や、研修をうまく活用した事例はございますか。藤岡様:年1回、今期の目標や昨年の振り返りなどを全社員に向けて報告し、活躍した社員を表彰する経営方針発表会を開催していまして、昨年そこで表彰された社員の変化や活躍は、素晴らしいと思います。 メカニック出身の57歳の店長で、店長歴は15年ほどなのですが、長年、伸び悩んでいた店長でした。自分とこの店を守るという意識が強く、ルールを徹底してスタッフ全員に従わせようとする傾向があり、スタッフの意見を聞く事が上手く出来ず、スタッフが退職してしまう場面もあった為、面談制度を活用して、私との面談を始めました。その際に、ご本人自身の考えや抱えている問題について相談に乗り、ご本人は「自分には無理だ」とおっしゃっていたのですが、「失敗してもいいから一緒に取り組もう」と伝え、店舗の改善を共に行いました。その結果、業績が急回復し、店長自身とスタッフが共に変化していく様子を目の当たりにしました。当時は「あの店長の元で働くのは絶対に無理」と愚痴をこぼす部下もおりましたが、今では「あの店長と一緒に働きたい」という声が溢れるようになりました。加えて、障害者雇用で採用したスタッフが正社員になったり、派遣社員として勤務していた2名が時給が下がってもいいのでここで正社員として働きたいと希望したり、工場長が経営管理部への異動や副工場長が店長にやってみたいという様な希望を申し出たり、様々な変化が起きています。現在はその店舗が困った時の駆け込み寺のような役割を担っており、そのような場所があることで組織運営が非常に円滑に進められていると感じています。未来のビジョンについて──研修という観点から、今後新たに検討されている取り組みがあればお聞かせください。藤岡様:研修について以前から外部に提供したいと考えております。実際にこの研修によって会社が良い方向に変化してきた実績があるので、外部の方から費用をいただき、研修を実施してみたいと考えています。また、現状では私しかこの研修を実施できない状況ですので、私以外の者でもこの制度を運用できるよう、さらにブラッシュアップしていきたいと考えています。中田様:この研修の講師が藤岡しかいないため、他の人が講師を務められるようにしないと、少し厳しいと考えています。藤岡がCOOの仕事をしていることから、この研修の講師を務めることが時間的にかなり厳しくなっており、その部分を改善していきたいです。新たな研修を取り入れたいという考えは、今のところほとんどありません。現在取り組んでいる研修で十分だと考えているため、それをさらに改善していくことはあるかもしれませんが、現時点では、新たな研修を導入することは考えていないです。研修の外部提供については、以前から藤岡と話していることなので、ぜひ実現したいと考えています。そのためには、講師の育成が必要不可欠ですので、まずは社内で藤岡の代わりに研修を実施できる人材を育成したいです。──今後御社として、事業面で新たに行いたいと考えている取り組みや組織の方向性についてお聞かせください。中田様:まだざっくりとして大枠でしかないのですが、我々の業界は自動車業界ですので、遅かれ早かれ電気自動車とか自動運転の時代が到来し、既存の事業はシュリンクしていくと思います。さらに弊社としては、自動車に限らず、「移動体」というものに捉えて、それに関連するサービスの開発・提供に力を入れていきたいと考えています。それが最終的に社会問題の解決やお客様の満足、そしてスタッフの自己実現や働きがいにも繋がると考えていますので、それらをしっかりと推進できる、持続可能な事業モデルを構築していきたいです。そのためには、車という枠にとらわれず、「移動体」という概念で事業を捉え、新たな事業を開発していきたいです。藤岡様:私は仕事のやりがいが非常に大切なものだと考えています。しかし、最近の若い世代を見ていると、やりたいことが見つけられていないように感じられますし、そのような環境で生活していても面白いのか?と疑問に感じます。ですので、少しでも「仕事は面白いものだ」ということを伝えたり、仕事を通じて自己実現することの意義や、それによって得られる人生の豊かさを教えることができるような仕組みも合わせて作っていければ、弊社の事業が車だけでなく、色々な移動体になった後も「ロイヤル」という名前を聞いたときに、すぐに想起される存在になれるのではないかと考えています。そういった取り組みも、今後ぜひ実現できればと考えています。