カイシャの育成論── まず、御社で取り組まれている育成制度について教えてください。山本様: 当社では様々な育成制度を設けていますが、そのうちの3つをご紹介します。1つ目は新卒社員向けの入社前インターンシップ、2つ目が学習LT(Lightning Talk)会、3つ目がキャリアMonthsです。これらは全て2024年12月に策定した人事ポリシーに基づいて体系化されています。── 入社前インターンシップの特徴を教えてください。山本様: インターンシップという形で、入社前の学生さんに当社の中で実際の業務を経験していただいています。特徴としては、お客様とのミーティングに同席していただいたり、普段社員が行っている議事録作成にも携わるような実務体験を通して、入社後がスムーズに始まるよう準備の段階でかなり実践的なものを行っています。毎年同じ形でやっているわけではなく、ご入社される方々の学生生活や事情に応じて設計を変えているのが大きな特徴です。実際に受け入れる事業部側と一緒に相談しながら、どこでインターンシップしてもらうかを決めていて、本当に配属を決めるのと同じくらいのボリュームで検討しています。── お客様先への同席は、学生さんにとってはかなりハードルが高そうですが赤羽様: もちろんお客様にはあらかじめ事情を説明して同席させていただいています。関係性ができていないところにいきなりお願いするようなことはしていませんし、私たちのコンサルタントとお客様がいい関係性を築いているからこそできることです。私たちがいろんな人事の取り組みをやってうまくいったことをお客様にも還元していることをお客様はよく知っているので、そんな取り組みをしているんだね、いいよ、という基本的に肯定的な反応をいただけます。学生だからといって一線を引いて表に出さないということは一切なく、これから一緒に働いていくメンバーの育成を社員だけでなく、お客様を巻き込んでやっていき、それがお客様に還元されていくという前提で同席させていただいています。── インターンシップの歴史について教えてください。赤羽様: 2015年ぐらいから受け入れの研修を始めて、新卒採用した年度は必ず実施しています。一番力を入れたのが採用人数も多かった2017年です。当時新聞にも取り上げていただいたのですが、インターンでの成績優秀者の入社時初任給が変わるという仕組みを発表しました。最大5万円の差をつけたケースもあります。内定から入社までの約1年間、実践的に業務を学んできた人と、全くインターンをしないで入社した人ではスタートの時点で1年分の経験の差があるので、給与に差があって当たり前だという発想でやっていました。── インターンに参加しない選択肢もあるのですか?赤羽様: もちろんあります。絶対にインターンをやらないといけないということはありません。インターンの頻度や時間数もバリバリ参加したい人、そうでもない人と、自分で選べるようになっています。学生さんにもそれぞれの事情があってなかなかインターンに参加できない場合もありますから、現在ではインターンの成績で初任給に差をつけることは積極的に行っていません。当社はフルリモートワーク、フルフレックス制度など社員の働き方の自由度を高くしていて、それはインターンも同じです。強制ではなく、自分で考えたり、時には先輩社員に相談したりして、自律的に働く訓練もしてもらえればと考えています。── 学習LT会についても教えてください。山本様: これは当社の人事ポリシーの「学び続ける人を称賛します」に沿った施策として誕生しました。自ら進んで学んでいく風土を作りたいというところから始まっています。1ヶ月に1回30分間時間を取り、参加は任意ですが、社員の中から3名が立候補で登壇し、1人5分以内で最近学んだことや気づいたことを発表します。テーマは自由で、業務に直接繋がらない自分の趣味や興味のある分野でも構いません。実は事前の社員アンケートで約85%の人が何かしら学んでいることがわかったんです。せっかくこんなに学んでいるなら、ぜひシェアしてほしいということで始めました。── どのようなテーマが発表されるのですか?山本様: 「キャリアコンサルタント資格の勉強で学んだこと」「年俸制移行事例/ストックオプション制度事例」「AIを使った事例探し」「経営戦略と人事戦略の繋がりについて」「睡眠や休養について」「インフレと賃上げと株式投資とは?」など、本当にいろんなテーマで発表してもらっています。お客様とお話しする中でのアイスブレークや、学ぶ風土でお悩みになられている企業様に当社の取り組みとしてご紹介する機会もあります。── キャリアMonthsについても聞かせてください。山本様: 当社の中で、自分のキャリアを自分でしっかりと考えながら、今行っている業務に納得感を持ちつつ、自己実現に近づいていただきたいという思いで開催しています。150人程度の会社なので、何千人もいるような会社ほど色々な部署があって色々なことができるわけではありませんが、そんな中でも自分がやりたいことを見つけ、なぜここにいて、なぜこれに取り組んでいるのかを考えてもらいたいと思っています。毎日忙しく過ごしていると落ち着いてキャリアを考える時間なんてとれないまま時間が経ってしまうので、このキャリアMonthsという期間だけはしっかりキャリアについて向き合っていただきたいと、会社として期間を設定しています。具体的には、2024年12月・2025年1月の2ヵ月間を「キャリアを考える期間」と定め、「私の転機『キャリアチェンジ』を語る」などのウェビナーを5本お届けしました。また、新卒入社のメンバーには研修の一環として、"先輩たちの経験を知り、自分自身のキャリアを考える"時間をつくり、入社してまもなく1年というタイミングでキャリアについて考えてもらいました。会社の理念や考え方── これらの制度の根底にある御社の考え方について教えてください。赤羽様: 私たちはミッションビジョンバリューの下に紐づく人事に対する考え方として「人事ポリシー」を定めています。採用から退職までのライフサイクルにおいて、それぞれの時点における会社のポリシーを全て書き記しています。この人事ポリシーは2024年12月にリリースしたもので、組織が急拡大し、また働き方がリモートワーク中心になったことから、「なんとなく共有されてきたこと」を明文化する必要があると考え策定しました。人事ポリシーの冒頭では「私たちは、多様な働き方を追求し、社員の挑戦と成長、自己実現を支援します。企業の存在意義を深く理解し、バリューを体現する人、学び続ける人を称賛します」と明記しています。── 人事ポリシーの特徴を教えてください。赤羽様: 私たちの人事ポリシーの特徴は、入社から退職まで一連を細かく規定していることです。採用、教育/育成、配置・異動、人事制度、労務管理、代謝/退職という6つのカテゴリーに分けて、それぞれに具体的な施策を紐づけています。例えば採用では「伸びしろを重視し、経験や知識だけではなく、VMVや事業への共感も必須として採用します」と定めており、教育では「学習し続ける人を称賛し、自ら学習する組織風土を醸成することで、さらなるスキルアップを支援します」としています。── 退職についても言及されているのは珍しいですね。赤羽様: 退職についても「退職理由を明確に把握することで組織の問題解決に役立てるとともに、退職後も良好な関係性を維持できるよう努めます」と明記しています。これは私たちの「ワクワク働ける人を増やしたい」という考えに基づいています。当社のワクワクの定義は"挑戦と成長"なんです。本人が考える挑戦や成長が、今のあしたのチームで実現できないのならば、飛び出すこともやむを得ないと思っています。飛び出した人は応援したいですし、いい関係で繋がっていたいと考えています。実際に当社を退職した後に再度入社した社員も数名います。一度辞めた後に戻ってきてくれるのは関係性がいいからだと思います。また、当社を卒業した社員で、現在は業務委託契約で仕事を手伝ってくれている人もいます。山本様: つい最近も、退職したメンバーが期初のキックオフイベントに駆けつけてくれて、社内表彰の年間MVPに輝いた後輩にエールを送る場面がありました。このように良い関係性や繋がりを維持できているのは嬉しいことですね。── 御社のバリューについても教えてください。赤羽様: 当社のバリューは5つありますが、バリュー毎に「DO」というやってほしい行動と「DON'T」というやってはいけない行動がそれぞれ5つ定義されています。例えば「Customer-Centric(カスタマーセントリック)」というお客様を一番に考えるバリューの中にも、「先回りして提案するのがカスタマーサクセスであり、受け身でその場しのぎはダメだよ」といったことを明記しています。バリューは抽象度の高い短文になりがちですが、結局何をすることが奨励されていて、何をしてはいけないのか分かりづらいことが多いと思います。「DO」と「DON'T」を具体的に明示することで、社員が迷わず行動できるようにしています。── 働き方の多様性についてはいかがですか?赤羽様: 人事ポリシーの労務管理の項目では「多様な働き方を歓迎し、法令順守、コーポレートガバナンス、コンプライアンス強化を行うことで、従業員が安心して働くことができ、組織全体の成長と持続可能性に寄与します」と定めています。具体的にはフルリモートワーク、フルフレックス制度、育休復帰支援、法を上回る子の看護休暇日数制定、副業・兼業OK(※会社の許可は必要)、定年制度の廃止、物価上昇手当など多岐にわたる制度を整えています。── 社内公募制度についても教えてください。山本様: 人事ポリシーの配置・異動の項目にも明記されていますが、「自身のキャリアを主体的に形成できる環境を整備し、組織全体のパフォーマンス向上に努め、社員の成長を支援します」という考えから社内公募制度を導入しました。2024年10月から開始し、公募や希望者の数も増えてきています。公募制度をきっかけに、他の部署の業務内容を知り、新しいことに興味が沸いたり、新しい業務に挑戦したいと思ったりされているのではないかと思います。会社の歴史── 歴史の中で大変だった経験もあったのでしょうか?赤羽様: 大失敗だったのは、全員の給与の時給換算額を開示するという制度です。当時「働き方改革」とともに注目され始めた「生産性向上」を促進する新たな試みで、正当な評価制度を導入している会社は全員の成果と報酬を開示すべきだという考えでやったのですが、社内が大混乱になりました。時給換算額なので月給額を発表するわけではないものの、開示されるたびに「あの人より給与が低いなんて耐えられない」などと退職者が続出しました。また中途入社の方はキャリアがある分、新卒入社の管理職を上回る給与で入社するのもよくあることですが、部下の方が給与が高いと知った上司がショックを受けて辞めるということも起こりました。坂本様: 当時の社員たちは、最初は「これだけ時給の高い人の時間を奪うからには、会議でもちゃんと発言して有意義にしなければ」という意識になったりはしていたんですけど、やっぱりいざやってみるとネガティブな部分が出てきました。本来は考えなくてもいいところに、みんなの体力とメンタルを持っていかれる感じがありました。── どのように改善されたのですか?赤羽様: 私が代表に就任した際に検討の上、廃止にしました。離職の原因になっていることも明確でしたので。あれは精神衛生上も良くなかったと思います。こういう大反省もありますが、私たちがある種のラボとして、いろんな人事制度を自社で試してみて、うまくいったものや注意が必要なものをお客様にもお伝えしていきたいと思っています。活躍する社員について── 制度を活用して活躍している社員のエピソードがあれば教えてください。赤羽様: バリューの通りに活躍してくれる社員が増えてきました。以前は成果だけ上げていればいいという考えが目立っていたこともありましたが、バリューを体現していることを第一にしてからは、バリューを大事にし、その結果成果につながっているという社員が増えています。四半期に一度の社内表彰「社長賞」は自薦になっているんです。誰かが推薦してくれるのを待つのではなく、自らが勝ちに行く、取りに行く意気込みのある人だけにチャンスがある仕組みです。坂本様: 僕は部門を横断していろんなプロジェクトに携わることが多いのですが、立ち上げの時に毎回「このプロジェクトで社長賞にエントリーしよう!」と言っています。そうすると、エントリーするためにはエントリーシートを書けるような、バリューに沿った取り組みにしなきゃいけないという会話になってきます。これは各社員へバリューの体現の意識付けに繋げたいというねらいもあります。期末に近づくにつれてメンバー間で「このままだとエントリーできない」という話も出たりしますね。それが、もう一押し頑張る原動力になっています。自薦であることで、自分でアピールしていこう、周りからもいいね!と共感してもらえるような取り組みにしよう、と考えるきっかけになり、表彰そのものとは別軸のところで頑張る要因になっています。徐々にエントリーする人も増えてきて、以前一緒にプロジェクトをやった人が、その後に僕が関わっていないプロジェクトでエントリーしているのを見ると、この楽しさを覚えてくれたのかなと嬉しくなりますね。会社の事業について── 御社での取り組みがお客様にも影響を与えているそうですね。赤羽様: 私たちが自社でやってきたからこそ「それいいね、うちでも取り入れたい」という話があります。例えば、ミッションビジョンバリューを作りたいというご相談や、人事ポリシーについても、構造化したものを見せると「うちに必要なのはこれだ」とおっしゃるお客様もいらっしゃいます。実際に、当社の制度を見本にして実行してくださる企業様もあります。最初は当社のことを"単なる人事評価の会社"だと思っていたけれども、お話しするうちに当社の人事制度や取り組みにも関心を持ってくださったり、共感して取り入れてくださる企業様が増えてきているのはありがたいですね。今、あしたのチームでは人事評価制度サービスの枠を超えて、お客様のミッションビジョンバリューや人事ポリシーの策定に携わる機会も増えています。未来への取り組み、今後やりたいこと── 今後の事業展開について教えてください。赤羽様: 事業としては、当社のビジョン「誰もが"ワクワク"働ける世界を創る。」を実現するためであればどんなサービスでもいいと思っています。ワクワク働く人を増やしていくのは人事面だけではないとも考えています。社員から「こんな取り組みをやってビジョンを実現したい」という提案があり、それがちゃんとビジネスとして成り立つのであれば、事業計画を作ってもらって新規事業として始めることも視野に入れています。場合によってはビジョンを実現するために人事領域から飛び出す可能性もあると考えています。── 組織面での今後の取り組みはいかがですか?赤羽様: 社内ビジネスコンテストのような形で、挑戦と成長を応援していけるものを社内で立ち上げられたらと思っています。社外に飛び出してしまう人を応援するという話をしましたが、できれば飛び出さずに自分たちの中でできるに越したことはありません。もう一つ、働き方にはもう少し多様性が必要だと思っていて、当社がラボのように新しい働き方にトライしたいと考えています。人事ポリシーの等級制度の項目にも「多様なキャリアパスを提供し、仕事とプライベートの両方を充実させながら働き続けることを支援します」と明記しているとおり、育児や介護等、さまざまな事情でフルタイムでは働けないけれど、パフォーマンスの高い方たちを活かしていくような仕組みを考えているところです。── 最後に、今後の活動に対する思いをお聞かせください。赤羽様: 当社のビジョンや人事制度でも"ワクワク=挑戦と成長"を重要視していることをお話ししましたが、社員が"ワクワク"働くためには個々の「ポジティブ・コア(内なる強み・重視している価値観)」を明らかにして、本来持っている能力を引き出していくことが鍵になると考えています。「自分がどんな時にパフォーマンスを発揮できるのか」を認識して自らそこへ持って行けるようにすることですが、これができると個人の成長速度がぐんと上がります。近年当社ではその考えのもとで人材育成に取り組んできて、これをお客様にもご利用いただけるようプロダクト化の準備をしているところです。人材育成は「育ててあげる」「育ててもらう」というものではなく、社員と会社が一緒に成長していくものだと思っています。会社としては、評価や面談を通じて社員のキャリアの可能性を照らして、本人の能力を引き出し、伸ばすこと。そして能力を発揮して活躍できる環境を用意すること。それを継続して「"ワクワク"働く」を当社が体現し、世の中に広げていきたいと考えています。