✦ Interview · No. 0076

建設・不動産業界

株式会社ハウジング重兵衛 / 一般社団法人JMCA

福地 俊之介

2026/02/26

◈ Editor’s Note

「トイレ交換」という一見単純な作業に、100ものチェック項目を設け、技術だけでなく「マインド」を徹底的に叩き込む学校があるのをご存知でしょうか。千葉県の廃校となった小学校をリノベーションし、合宿形式で職人を育成するその場所では、日本の建設業界が抱える深刻な「職人不足」という課題に対する、一つの革命的な解が提示されています。 通常の研修期間を遥かに超える30日間の合宿生活。そこで行われるのは、単なる技術習得ではありません。「愛される職人」を生み出すためのマインド研修と、多能工化による生産性の劇的な向上。なぜ、リフォーム会社が自ら学校を設立し、職人育成に乗り出したのか。その背景には、業界の常識を覆す緻密な経営戦略と、職人の未来を守ろうとする熱い想いがありました──。

カイシャの育成論

──現在、人材育成についてどのようなお取り組みをされているのか、特に「職人学校」のカリキュラムについて教えてください。

福地様:
私たちが運営する職人学校「JMCA」では、リフォーム工事における「多能工(たのうこう)」の育成に注力しています。

具体的には、大工工事だけでなく、設備工事や電気工事など、水回りに関する工事を一人で完結できる職人のことです。

現在のカリキュラムは、30日間の泊まり込みによる合宿形式を採用しています。
イメージとしては自動車教習所の合宿免許に近いですね。

その中で、最初の入り口となる「ベーシックコース」では、徹底して「トイレ交換」に特化した指導を行っています。

──30日間という長期間をかけて、あえて「トイレ交換」に特化されているのには、どのような意図があるのでしょうか。

福地様:
トイレ交換には、リフォーム工事に必要な基礎がすべて詰まっているからです。

設備の配管接続、大工工事としての下地処理、コンセント交換などの電気工事といった要素が含まれており、ここから徐々に技術の枠を広げていくことができます。

私たちの定義する「トイレ交換ができる」というのは、単に便器を取り替えることだけではありません。

お客様への事前の挨拶、インターホンを押してからの立ち振る舞い、工事の経緯のヒアリング、養生、掃除、そして設置後の商品説明、最後の完了報告までを含みます。

これら全てを含めたチェック項目が約100項目あり、減点方式で90点以上取れなければ不合格という厳しい基準を設けています。

他社の短期研修では、取り付け方は学べても、実際の現場でお客様対応まで含めて完結できるレベルには到達しないことが多いのが現状です。

私たちは、卒業後すぐに一人で現場に出られる「即戦力」を育てることにこだわっています。 

──技術面だけでなく、人間性や考え方の部分も重視されていると伺いました。

福地様:
カリキュラムの構成は、ざっくり言うと半分が技術力、もう半分が「マインド(考え方)」の研修になっています。

技術があっても、お客様や社内の仲間から信頼されない職人では意味がありません。

また、せっかく技術を身につけても、会社に戻ってからすぐに辞められてしまっては元も子もありません。

そのため、自社へのロイヤリティを高め、周囲から「安心・信頼される職人」になるための教育を徹底しています。

実際に、現場でどれだけ技術があっても、不平不満が多かったり、会社の行事に参加しなかったりする職人は、組織としてはマイナスになってしまいます。

それならば、最初は技術が未熟でも、前向きで愛想の良い人材を採用し、後から技術を教える方が、結果として成長の幅は圧倒的に広がります。

──実際の現場でお客様の家に上がる研修もあるそうですね。

福地様:
そこが私たちの大きな特徴です。

母体である「ハウジング重兵衛」のリフォーム現場がありますので、研修生は実際の当社の職人が行うトイレ交換の現場に同行し、実地訓練を行うことができます。

研修施設内で完結するのではなく、リアルなお客様の家で緊張感を持って作業することで、技術だけでなく現場での対応力も養われます。

これはリフォーム事業を実業として行っている私たちだからこそ提供できる環境だと考えています。

会社の理念や考え方

──御社が育成において最も大切にされている理念や、職人のあり方について教えてください。

福地様:
私たちの理念は「愛される職人を育み守る」ことです。
単に作業が速い、上手いということ以上に、お客様や仲間から愛される存在であることが重要だと考えています。

また、経営的な視点から言えば、職人を「単能工」から「多能工」へシフトさせることは、職人自身の価値を高めると同時に、会社の利益構造を劇的に改善することに繋がります。

──多能工化がもたらすメリットについて、具体的にお聞かせいただけますか。

福地様:
例えば、キッチンの交換工事を例に挙げましょう。

従来であれば、解体屋、設備屋、電気屋、大工、キッチン組立屋という5つの業種の手配が必要でした。

それぞれに発注すれば、施工費の原価は合計で約16万円かかり、手配する営業担当者の工数も膨大になります。

さらに、業者間のスケジュール調整のために工期も長くなりがちで、予備日を含めて3日程度見ておく必要がありました。

しかし、私たちの育てる多能工であれば、これらを自社の職人2名で、わずか2日間で完結させることができます。
原価で言えば約8万円で済み、会社には7万円以上の利益が残る計算になります。

職人側にとっても、1日あたりの単価が決まっている従来の下請け構造から脱却し、自らが生み出す付加価値を高めることができます。

会社にとっても、正社員として職人を雇用し、育成する経済的なメリットが明確になるのです。

──評価制度にも特徴的な取り組みがあるそうですね。

福地様:
「Lポジションマッピング」に加え、360度評価を導入しています。

職人の評価というと、どうしても施工スキルや技術力に偏りがちですが、私たちはそこに「マインド」の軸を加えています。

同僚、後輩、上司だけでなく、店舗の事務スタッフや営業、設計担当者など、関わる全ての人が評価に参加します。

技術力が高くてもマインドが低い人は評価されませんし、逆に技術はこれからでもマインドが素晴らしい人は高く評価される仕組みです。

また、明確な評価制度がないと、中途採用のベテラン大工と、自社で育成した多能工の若手との間で給与の逆転現象が起きた際に、納得感のある説明ができません。

「大工工事しかできない人」より「水回り全般を一人で完結できる人」の方が会社への貢献度が高いという基準を明確にするためにも、こうした制度設計は不可欠でした。

会社の歴史・転換点

──自社で職人学校を立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

福地様:
最大の理由は、深刻な「職人不足」への危機感です。

私が生まれた頃には約90万人いた大工職人が、2020年時点では30万人まで減少し、さらに10年後にはその半分以下になると予測されています。

実際に当社のリフォーム事業でも、契約をいただいてから工事が始まるまでの期間、いわゆる「着工待ち」が年々伸びてしまうという問題が発生していました。

職人が確保できないために着工が遅れ、その結果、引き渡しと入金も遅れ、本来リフォーム業のメリットであるはずの「資金回収サイクルの早さ」が損なわれ始めていたのです。

「このままでは、いくら売上があっても工事ができずに会社が潰れてしまう」という強い危機感を抱き、2015年から自社での職人育成をスタートさせました。

──そこからどのようにして現在の「学校」という形になったのですか。

福地様:
当初は協力業者会を組織して品質向上を図ろうとしましたが、外部の職人さんにお願いする形では、なかなか私たちの求める品質やマインドまでは浸透しづらいという壁に当たりました。

そこで、「自社で内製化して育てるしかない」と決断しました。
最初は社内の新人研修としてスタートし、新卒社員向けの「リーダーズブートキャンプ」というマインド研修を行っていました。

そこで培ったノウハウや、育成の仕組みが徐々に整ってきたことで、これを自社だけでなく業界全体の課題解決に役立てたいと考え、一般社団法人として学校を設立するに至りました。

現在は、廃校になった旧小学校を借り受け、「グーシュ府馬」という名称で研修施設として運営しています。

教室をそのまま活かした講義室や、校内に設置した個室の寮など、学ぶ環境としても非常にユニークなものになっています。

活躍する社員について

──実際に学校を卒業された職人さんたちは、どのような活躍をされているのでしょうか。

福地様:
卒業生たちは、それぞれの会社に戻ってから即戦力として活躍しています。

期ごとにLINEグループを作っているのですが、そこで「今年はトイレを何台つける」といった目標を共有し合ったり、お互いに情報交換をしたりしています。

特に地方の中小工務店では、職人が研修を受ける機会自体がほとんどありません。
営業職には自己啓発セミナーなどがありますが、職人は現場で覚えるのが当たり前という風潮がいまだに強いのです。

そうした中で、全国から集まった「同期」たちと切磋琢磨し、励まし合える関係が築けることは、彼らにとって大きな財産になっています。

──自社(ハウジング重兵衛)の社員についてはいかがですか。

福地様:
自社で育成した多能工が現場に出るようになってから、生産性は爆発的に向上しました。

また、新卒で入社した社員が3年も経てば、水回り全般をこなす立派な多能工に成長します。

彼らは「憧れられる親方」を目指し、技術だけでなく後輩の指導育成にも力を入れています。

かつての「見て覚えろ」という職人像ではなく、論理的に技術を伝え、マインドセットも指導できる新しいタイプの職人が育ってきています。

会社の事業について

──御社の事業全体の概要について教えてください。

福地様:
私たちの母体である株式会社ハウジング重兵衛は、創業120年を超える企業で、千葉県と茨城県を中心にリフォーム事業を展開しています。

現在は千葉県で売上No.1の実績があり、茨城県でも上位に位置しています。

リフォーム以外にも、新築、不動産、外壁塗装、そして就労支援やカフェ運営など、住まいと暮らしに関わる事業を多角的に行っています。

今回の職人学校「JMCA」は、グループ外の一般社団法人という立て付けにはなりますが、運営は私たちが全面的に行っています。

リフォームの実業でしっかりと利益を上げ、実績を持っている会社が運営しているからこそ、机上の空論ではない、現場で本当に使える技術とノウハウを提供できると自負しています。

未来への取り組み・今後の展望

──最後に、今後の展望や、新たに挑戦していきたいことについてお聞かせください。

福地様:
今後は、カリキュラムの拡充を進めていきたいと考えています。

現在はトイレ交換の「ベーシックコース」と、キッチン交換の「スタンダードコース」が中心ですが、これからはクロス貼りなどの内装工事や、床・壁・天井の下地を組む大工工事に特化したコースも作っていきたいですね。

また、受講生の対象も広げていきたいと思っています。
現在は助成金の関係もあり、企業に雇用されている職人さんが中心ですが、今後は一般の求職者や学生など、「手に職をつけたい」と考えている個人の方も受け入れていきたいです。

──個人の受講生を受け入れることで、どのような未来を描かれていますか。

福地様:
例えば、仕事を探している若者が私たちの学校で技術とマインドを身につけ、卒業後は私たちが提携する全国の優良なリフォーム会社へ就職を斡旋する。

そんな仕組みを作りたいと考えています。

全国各地の会社さんは、喉から手が出るほど職人を求めています。

一方で、職人になりたいけれど学び方がわからない、という人もいます。

私たちがその架け橋となり、大阪出身の子なら大阪の企業へ、というようにマッチングができれば、業界全体の職人不足解消に貢献できるはずです。

かつての「職人の徒弟制度」には良い面もありましたが、現代に合わない閉鎖的な部分もありました。

私たちは、オープンで体系的な教育システムを通じて、新しい時代の職人を育成し、業界全体を盛り上げていきたい。
それが私たちの目指す未来です。

✺ Interviewees

お話を伺った方

  • 福地 俊之介

    建築士として公共施設などの建築プロジェクトに携わり、現場管理の経験を積む。 その後、株式会社ハウジング重兵衛に入社。 部長職として現場調整の統括およびANDPADなどのシステム導入を主導し、同社の業務フロー最適化や情報共有の迅速化を実現し、DX推進を大きく前進させた。 現在は同社のグループである株式会社KENSHIの専務取締役として、自社職人の採用強化と育成体系の構築を牽引し、組織の技術力向上と安定した雇用・育成基盤の整備に尽力している。 また、【多能工職人育成学校 JMCA】の理事長として、自社で培った職人育成のノウハウを体系化し、社会課題である「職人不足の解決」と「職人の価値向上」を目指す教育モデルの普及に取り組む。

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