カイシャの育成論──最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。小畑様:当社が扱う循環器領域は非常に難しい専門分野であり、ドクターは社員を素人だとは思っていません。そのため、最低限の専門的な知識は必須です。これがなければ担当者にもなれないという前提がありますので、まずは最低限の研修を行います。その後はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が中心となり、約1年間は先輩に付きながら基礎知識を身につけてもらうという形です。 ──お取り扱いされる機器や治療法は日進月歩で変わっていくと思いますが、知識習得のための継続的な工夫はありますか。小畑様:医療の治療分野は、毎年のように新しい治療が入ってくるため、ベテランも若手も関係なく勉強し続けなければいけません。メーカーが新しいデバイスや治療法を発表することが多いため、他の業種と比べてもメーカーによる勉強会は圧倒的に多いと思います。 ──専門的な知識に加え、先生方と信頼関係を構築するための営業的なスキルも重要になるかと思います。この「人間力」の部分について、会社として支援していることはあるのでしょうか。小畑様:ここは非常に重要です。当社では、特に若手社員を対象とした研修をほぼ毎年欠かさず実施しています。新卒でも中途でも、入社から7年目以下の社員が対象です。この業界に深く染まりすぎると、視野が狭くなり、考えが硬直してしまう傾向があるため、そうならないように、業界のバックグラウンドがないうちから柔軟性を持ってもらいたいという意図があります。 ──具体的にはどのような内容の研修を実施しているのでしょうか。小畑様:当社の業務のほとんどは、日々のルーチンワークが中心であり、純粋な「販売」という営業要素が少ないのが実情です。先生方が頑張れば売上が上がるという顧客依存の収益構造がバックグラウンドにあります。ルーチンだけこなしていると視野が狭くなるため、そうではなく、循環器科の周辺機器や大きな医療機器などを主体的に「売ってくる」という営業側面に焦点を当てて強化しています。日々の業務で残った時間をいかに営業活動に振り向けるかを意識してもらうための研修です。 岩本様:私もこの研修を受けました。社会人としての基本から始まり、論理的に考える思考法を学びます。ただの御用聞きではなく、「これこれこうだから、こうしましょう」と実際に提案するためにどうしていくべきか、という点を教えてもらいました。研修で学んだ内容を、次の研修までに業務にどう落とし込んだかをグループで発表するという実践的な形式でした。そのため、研修で受けたものを日頃からどの様に活用していくべきかという意識が自然と身についているように感じます。 ──岩本様は研修で得られた学びを、実務にどのように活かされましたか。岩本様:入社してから経験や「なんとなく」でやっていた部分が、研修を通じて「ちゃんと考える」ようにはなったと思います。例えば、資料を一つ作るにしても、「この前研修で言っていたのはこういうことだったんだ」という気づきがありました。意識しながら作る資料とそうでないものとでは、見る人に伝えるべき内容も変わってきてしまいます。資料作り一つを切り出しても、意味や目的があることを理解しながら進めることの大切さに気づくことができています。 岩本様:現場配属後は先輩と半年間はずっと同行していました。病院では、当社が築いてきた基盤があるため、最初から話を聞いてもらえないということは滅多にありませんが、話せる機会があるからこそ、先輩から、患者様やドクターとの「話し方」や「どういうタイプの人間なのか」という具体的な知見を教えてもらえるため、活動がやりやすくなります。今、私がチームで一番下ですが、さらに後輩もいるため、病院での立ち振る舞いや症例の知識を彼らに伝えています。自然と技術が継承される流れが当社にはあると感じます。 会社の理念や考え方──貴社の大切にしている理念について教えてください。小畑様:当社のポリシーは、最終的には患者様に絶対迷惑をかけないことです。我々エム・イーの仕事は、ドクターや病院に対する「サポート役」に徹するという姿勢が根幹にあります。ホームページにもあるように、「縁の下の力持ち」という立ち位置を皆で共有しなければいけないと考えています。 ──しかし、「縁の下の力持ち」に徹すると、営業活動や利益を考えた活動に目が向きづらくなってしまうこともあると思います。小畑様:まさにそこが課題です。誤って、完全な社会奉仕活動になってしまう人もいるため、ビジネスはビジネスとしてきちんと利益を上げていかなければなりません。そのため当社では、利益を上げることを“会社と個人の価値を社会に示す行為として位置づけています。今いただいている利益こそが、担当者一人ひとりの価値そのものだと意識してもらう仕組みにしています。 ──「お客様から『あなたから買いたい』と言わせる」という独特の営業スタイルは、この理念と関連しているのでしょうか。和田様:そうですね。私は物を押し売りすることは絶対にしません。必ず相手から「貴社にお願いしたい」「あなた達から買いたい」と言っていただけるように尽くすのが、私の営業のポリシーです。これが長くお客さんと付き合っていける秘訣だと信じています。私たちはメーカーではなく卸業者であるため、会社の付加価値、そして担当者の付加価値が、競争が激しいこの業界では最も価値が大きくなると考えています。 会社の歴史・転換点──現在の育成体制ができるまでの変遷について教えてください。小畑様:私が2014年から社長を務めているのですが、その頃は正式な研修制度は特になかったですね。私が就任した当初、社員が50人ほどだったのを、5年くらいで一気に100人まで増やしました。人が多くなったとき、やはり全員が同じ方向を向いていくということが非常に重要だと感じ、その一環として研修の必要性を認識しました。 ──最初は小畑様ご自身が研修を行っていたと伺いました。小畑様:最初は外資系企業で私が経験した事などをベースに、最初の5年間は私自身が研修をやっていました。しかし、ずっと私一人でやっていると「それが本当に正しいのか」という話にもなりかねないので、5年ほど経った後からは、外部の研修機関を使うようにしました。外部の目線から見ても同じだということを伝えられるようにしたかったのです。それ以来、研修自体を休止した年は一度もありません。 ──会社の成長の中で、特に苦労された点や乗り越えたハードルはありますか。小畑様:社員がルーチンの仕事を続けていると、「これでずっといいのかな」と疑問に思う人が必ず出てくることです。その人たちに対して、提供できるキャリアやプラスアルファがまだ確立できていないことが、私にとって大きな課題だと思っています。人間関係で辞める人もいますが、自分のキャリアがこのままでは上がらないのではないかと考えて辞めてしまう人もいます。 岩本様:私は新卒で入社して3年経った時に、一度退職して別の世界を見ました。しかし、外に出て改めて当社のエム・イーの仕事を見たときに、自分がやりたかった仕事や社風は、やはりエム・イーだったと再認識し、戻ってきました。 小畑様:私は割と若い社員をどんどん役職に抜擢していくタイプです。若いうちに失敗してもいい、それが勉強になればいいと思って抜擢しています。なので、元々頑張ってくれていた社員が戻ってきたいという話があれば、もちろん機会を与えたいですし、今の社員たちも新しいことに取り組んでいきたいという声を上げてくれれば可能な限り抜擢したいと思っています。たとえば、マネージメントをやりたいという声を上げてくれれば、必ずどこかでそれを登用する機会を与えたいと思っています。 活躍する社員について──当社で特に活躍されている人材に共通する要素は何でしょうか。小畑様:成功者に共通する絶対的な要素、それは「素直さ」だと思っています。人に言われたことがスッと入ってくる人は、この業界では非常に重要な要素です。医療の世界は10年、20年前と今とでは治療法が全く異なり、日進月歩で変わっていきます。この変化を素直に受け入れられるかどうかが成功の鍵です。 岩本様:私自身、自分の長所だと思うのは割と素直に何でも引き入れてやるところです。私から見て尊敬できる、この人みたいになりたいと思う人は、共通して素直で、何でもやるところがあると感じます。 ──素直さがトップレベルの活躍につながっている具体的なエピソードがあれば教えてください。小畑様:ある社員は愛嬌があって、周囲からもよく親しみを込めていじられたり、話題の中心にいる人がいるのですが、営業的には物を売ってくる力が群を抜いています。大きな案件を獲得できる能力は、恐らく社内で一番でしょう。彼は、院長レベルの先生方とも非常にフランクに、素直に話ができるのです。また、私をうまく使うこともします。私を一番同行させているのも彼で、素直さゆえに高いレベルの信頼を得られているのだと思っています。一見すると自由奔放に見えるような人も素直さがあるからこそ、仕事では抜群の成果を出してくれる良い例だと思っています。 会社の事業について──貴社の事業内容と、それが育成方針に与える影響を教えてください。小畑様:当社は主に循環器領域の医療機器の卸売業を営んでいます。東京などの最先端の治療が地方に拡散していく際、どうしても3〜4年のディレイが生じてしまうことがあります。例えば、日本海側の県などはその傾向が強いです。当社の使命は、なるべく早く新しい知識を習得し、先生方に情報提供していくことで、このディレイを解消することです。 デバイスの進化は、患者さんの負担軽減や治癒の方向に進むため、なるべく早く現場に導入すべきだと考えています。日本の医療費全体を見ると、最もお金がかかっているのは再治療や再入院です。最先端の治療を日本全体に普及させることは、医療費の増大を抑制することにもつながります。当社の社員は、その重要な役割を担っているのです。 未来への取り組み・今後の展望──これから挑戦したいこと、経営者としてのビジョンを教えてください。小畑様:現在、長野県内で9割近くのシェアを持っているため、今後は県外への横展開、特に東京や長野県隣県、東北地方での拡大を考えています。今年1月には新しい営業所を立ち上げる予定で、販路の拡大を念頭に大きくしていくことを考えています。 もう一つは、新規事業です。現在の日本の医療体制は、制度やシステムが分野ごとに個別最適の考えで構築されてきたため、全体を見たときに仕組みが分断されていることが非常に多いです。私はITを活用し、在宅の患者さんが安心して医療を受けられる状況を構築したいと思っています。これは、医療業界自体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する中核事業として位置づけ、会社のもう一つの柱にしていきたいと考えています。 組織内部に向けては、組織の活性化がより進むための取り組みを考えています。後任育成や先ほど申し上げた新規事業をゼロから立ち上げ、作り上げていきたいと考えています。