カイシャの育成論──現在、貴社が注力されている育成制度や組織面のお取り組みについて、最初にお聞かせください。末永様: 私たちは、来年創業70周年を迎えますが、その先の100周年に向けて「ビジョン100」という目標を掲げています。会社として成長・進化・挑戦の文化をもっと醸成していこうという思いがあり、売上100億円、顧客満足度・社員満足度100%を目指す取り組みを細かく進めています。特に30年後の組織を担う「主役」となる人材を育てるため、今は新卒の採用と育成に力を入れています。これに加え、目標達成期限が2033年に設定されている売上100億円に向けて、幹部や中堅社員の育成も必須だと考えています。そのための育成プログラムとして、社内では「ネクストエンジントレーニングプログラム」を実施しています。これは幹部向けの勉強会ですが、私自身が一方的に教えるのではなく、皆で学んだことをシェアしたり、最近の取り組みを共有・発表し合ったりする場です。月に1回、継続的に実施しています。 ──社員の方々から能動的にアウトプットしてもらう取り組みもされていると伺いました。末永様: 「チャレンジカップ」という取り組みを年に2回、上期と下期に実施しています。運送業である当社にとって最も重要な安全品質に関する取り組みや、新たな新規事業の提案、あるいはビジョン100に関するテーマなど、各々が好きなテーマを選んで発表してもらいます。最優秀発表者には私から表彰をしています。この他にも、社員が会社全体の教育研修の一環として、外部の公開講座を受講したい場合、会社が費用を全額負担する「外部研修の支援プログラム」も取り入れています。 久野様: 私の担当としては、新卒の内定者教育を自社内でしっかりプログラム化している点も挙げられます。内定者は少数精鋭なので、一人ひとりにコミットし、外部でお金を払って受けるようなビジネスマナー研修や社会人としての準備を、すべて社内で内製化できるように進めています。 ──元々ビジョン100を設定されてから育成も強化されたのでしょうか。それとも、元々土台となる文化が存在したのでしょうか。末永様: ビジョン100を掲げ、そこに向かって育成を強化していったという形です。私が社長に就任して約9年になりますが、就任当初は、古き良き運送会社で、みんな先輩の背中を見て育つというやり方しかありませんでした。就任直後すぐに新しいことを始めても難しいとわかっていたので、少しずつ環境の土壌を耕しながら、徐々に進めていきました。社長になって3〜4年経った頃にビジョンを掲げ、まず外部研修の導入からスタートし、並行して私の勉強会を少しずつ増やしていったという流れです。一気に全てをやらないという点は意識していました。 ──社長ご就任後、反発や思い通りにいかないこともたくさんあったかと思います。それを乗り越えるために工夫された点は何でしょうか。末永様: 反発はたくさんありました。私は長男として3代目になる前提で育ち、アメリカの大学で経営学を学び、外資系コンサルティング会社で働いた経験もあったため、やり方が先代とは全く異なりました。ロジカルに仕組み化を強調したり、白黒をはっきりさせる理詰めの指導をしたりしたのですが、当時の運送業界、特に中小企業においては全く受け入れられませんでした。反発や、現場のドライバーの大量離職も起こりました。そこで、改めて現場や幹部社員との信頼関係ができていないことに気づき、信頼関係を築くための取り組みを始めました。私たちが学んでいる考え方の一つに「選択理論心理学」というものを取り入れ、良好な人間関係を築くための実践しやすい考え方を導入しました。社員満足度向上のために、健康に配慮した手作りのお弁当を無料支給したり、社員だけでなく配偶者にも誕生日プレゼントを渡したりといった取り組みも始めました。また、私自身、現場の方々との交流が少なかったので、定期的に飲み会を開催しました。さらに、私はトラック運転の経験がなかったため、約1年かけて、ドライバーさん20〜30人の横乗りに取り組みました。みんなと同じユニフォームを着て現場を経験することで、時間をかけてコツコツと信頼関係を築いていきました。その結果、離職率はピーク時の65%から、今では10%台まで減少しました。このような結果が出せるようになって初めて、教育や育成、そして皆で新しいことにチャレンジしていこうという取り組みを始めることができました。 会社の理念や考え方──貴社が掲げる「ビジョン100」という理念は、育成方針の根底にある価値観だと感じますが、ビジョン100は、どのような背景を経て制定に至ったのでしょうか。末永様: 私は3代目ですが、2代目であった父が社長を務めていた時代は、荷主様の成長と共に当社も成長してきたという、どちらかというと受け身的な成長でした。戦略的に成長していたわけではなく、目の前の仕事に真摯に取り組み、安全品質のレベルを高く保つことに注力してきました。しかし、3代目となり、未来のビジョンや具体的な戦略が一切ない状態であることに気づきました。これから社長として30年、40年先を見据えた経営をしていくため、能動的な戦略を立てて、会社の未来を具体化していく必要があると考えました。そこで、100周年というテーマを中心に据え、売上100億円を目指す中で、「成長、進化、挑戦」という三つの言葉を選びました。成長というのは、これまでいただいたトラックでの輸送事業を拡大していくことです。進化とは、トラック以外の新しい技術や環境、仕組みを持った荷主様と、新しい物流の形を実現していくことです。挑戦は、物を運ぶだけでなく、物を売る、物を作るという異業種への挑戦です。私たちはこの3本柱で事業を作りながら、100億円の目標を宣言しました。 会社の歴史・転換点──貴社では、将来の幹部を「エンジン」人材と定義されていますが、この「エンジン」となる人材の採用は、過去と比較してどのような変化がありましたか。久野様: 過去、新卒採用は行ってはきていますが、当時は今の「エンジン」というコンセプトに照らした採用はなかったと聞いております。4年ほど前から新卒採用が本格的に動き始め、今は4期生がいます。特に重要視しているのは、自分がその環境に入った時に、いろんなことに挑戦ができる環境であるかという点です。また、入った後の自分の成長イメージがどれぐらい具体的にできるか、そして、人間関係が整ったところで、共に成長を目指し、高め合える(応援し合いながらやっていけるような)環境で仕事をしたいと思える学生さんを探しています。 ──「エンジン」人材を見つけ出すために、一般的な選考手法から変えた点はありますか。久野様: 一般的な適性検査は一切行わず、面接もほとんど行いません。内定者や後輩たちに聞くと、最終の役員面談も面接ではなく、「談笑」に近い形だったという声があります。現場の社員がリクルーターとして、学生さんの自己分析のお手伝いや業界課題解決のワークを一緒に行います。3次選考時を目安に、学生の希望を最大限尊重し、見たい現場を見学できる機会を提供し、自分と物流業界を深く理解しながら「すり合わせ」を行い、この会社と相性がいい、もっと見てみたい、と思ってくださる方々に対して内定を出していきます。これを共感型採用と呼んでおり、理念と会社の目標に一緒になって取り組みたいと思うかどうかが採用基準になっています。最近の内定した方々を見ていると、自分たちはどういう風に活躍していきたいかという、より具体的な目的意識を持っています。配属先に関しても「どこに配属されたとして、どの様な経験を積んでおきたいか」といった具体的な要望が非常に多いです。活動への参加頻度も高いですが、彼らが見据える先の具体性や質は、やはり全然違っているのかなと感じています。 ──新卒の「エンジン」人材である久野様ご自身の入社後のギャップや、挑戦する中で成長を感じている点についてもお聞かせいただけますか。久野様:入社後にギャップを感じたのは事実です。特に、期待される役割に対し、自分の経験や知識が追いついていないと感じた時期がありました。また、人事など会社の根幹に関わる課題が、予想していたよりも難しいという点もギャップとして挙げられます。私は元々公務員を目指していましたが、安定よりも挑戦を選び、入社を決意しました。大変な時期でも、社員の皆様の励ましやサポートを受けながら、知識の導入に時間を当てさせてもらっています。自身の成長や、できることの幅が広がっている実感があるため、前向きに仕事に取り組めています。 ──久野様ご自身の入社の決め手は、どこにありましたか。久野様: 私が入社する時、メンターをしてくださった当時の取締役の方が、私自身と真摯に向き合い、「会社のことに関して一緒にやっていきたい」という熱量を伝えてくださったことです。当時はまだ新卒の成功事例はありませんでしたが、その熱量に触れ、自分と会社を信じてみようと思い入社を決意しました。会社の文化や社員の方々の人柄、その環境にも強く惹かれました。 今後は、私たち「エンジン人材」が、後輩たちにとっての等身大のモデルとなっていきます。また、社員のリアルな挑戦と変化を敏感に感じとり、そこに可能性を見出し入社される方も多くいると考えています。 活躍する社員について──組織変革が進む中で、貴社で活躍されている社員の方の具体的なエピソードがあればお聞かせください。末永様: 新しい領域で活躍している社員の事例として、以前、既存事業の「成長」分野で少し苦労していた一人のベテラン社員がいます。彼はもともと20年以上勤めるドライバーで、情熱を持ってリーダーシップを発揮しようとしていましたが、現場ではなかなかうまくいかず、くすぶっていた時期がありました。しかし、彼を「進化」分野であるAmazonの現場責任者に抜擢したところ、彼は主体的に組織作りを行い、当社にとって全く未経験の領域を切り開いてくれました。Amazonでは週に一度、全国の取引会社間で品質のスコアカードが出るのですが、彼は全国トップ5%に入るような優秀な成績を出しています。長年トラックに乗ってきた彼が、新しい領域にパッとシフトチェンジし、今、リーダーシップを取っていることは、とてもありがたい存在です。 久野様: 私が個人的に模範になっていると感じているのは、広報活動も一緒に担当してくださっている女性社員です。彼女は子育てをしながら時短勤務をされています。元々現場の方ですが、広報や営業といった新しい役割にすごく積極的に動かれ、限られた時間の中で、業務に取り組む姿勢が素晴らしいです。さらに彼女のすごい点は、自分の仕事だけでなく、部下の教育という視点を持って仕事に取り組まれているところです。彼女の仕事への誠実な姿勢や、言ったことをしっかり形にしていく姿が、他の社員にも影響を与えています。彼女のような社員の動きや考え方を見て、「このままじゃまずい」と感じたり、目標設定を高く掲げたりする社員がちらほら見られ、組織の変革が一人から二人へと、徐々に伝播していっていると感じています。 会社の事業について──貴社の事業特性と、それが人材育成に与える影響についてお聞かせください。末永様: 当社は主に運送業を営んでおり、自動車輸送や整備なども行っています。既存の輸送事業を拡大する「成長」、ドローン技術の検討やAmazonとの取引に代表される「進化」、そして異業種(古車の販売や一般ユーザー向け整備)への「挑戦」という三つの柱で事業を推進しています。育成方針もこの事業特性に深く関わっています。私たちが育てたいのは、組織の原動力となる「エンジン」人材です。特に新卒採用では、上から与えられた環境や情報だけでなく、自ら考え、行動し、変化を起こすことができる「遺伝子」を持った人材を採用することに力を入れています。この「エンジン」となる人材が、会社の未来創造チームを牽引し、成長・進化・挑戦を実現していくと考えています。 未来への取り組み・今後の展望──最後に、今後、未来に向けて仕掛けている事業面や組織面の構想についてお聞かせください。末永様: 事業面では、まず「成長」分野において、既存の荷主様から新しいエリアでの話もいただいており、九州内で新しい営業所を作る計画が出ています。「進化・挑戦」分野においては、皆さんがよく聞いたことのあるような大手荷主様と、九州全体でのインパクトのある大きな仕事を模索中です。M&Aも視野に入れながら、拡大のスピードを上げていきたいと考えています。 久野様: 組織面では、新卒採用においては、引き続き会社の長期ビジョンに沿った「投資」として、エンジン人材をしっかり育てていく方針です。彼らが安心して成長しやすい環境作りを、今後も徹底していく必要があります。中途採用、特にドライバー採用は、当社の社員の8割を占める重要な部分です。現状、ドライバーを一人採用するのに、教育費を含めると一般的に70〜80万円ほどかかりますが、これを40万円程度までコストダウンし、かつ応募数を稼いでいく手法を確立中です。さらに、定着率向上のため、現場の教育体制や制度の見直しを進めています。例えば、ドライバーの中にはチーフやリーダーといった役職がありますが、彼らが一般社員と同じ仕事をするだけでなく、期待されているリーダーシップを現場で発揮できるような組織化を強化する必要があります。 私たちは「今を支える採用」と「先を作るための採用」という異なる目的をしっかり理解し、未来に向けて準備を進めています。採用コストの削減は、社員への還元にもつながり、会社の成長を加速させるための楽しみな取り組みになっていくと考えています。