Practice

一次産業でも採用に勝つ。三次産業に見る採用力向上の具体的手法

基幹的農業従事者は2020年の136.3万人から2025年には103.6万人に減り、平均年齢は67.7歳です。地域の紹介やハローワークに頼る採用には限界があり、三次産業の採用ブランディングやSNSでの発信が応用できます。働く意義と成長の道筋を言葉にすれば、仕事の印象は変えられます。

公開日
2025/09/03
更新日
2026/09/28
読了時間
約 11 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
採用採用手法採用広報人手不足

「キツい」「稼げない」「結婚できない」といったイメージから、人材確保に苦戦する一次産業。しかし、三次産業で磨かれた採用ノウハウを応用すれば、一次産業でも人材獲得の可能性は広がります。

一次産業が直面する深刻な人材不足の実態

データで読み解く危機的状況

農業の担い手は急速に減っています。農林水産省「農林業センサス」によると、自営農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は、2020年の136.3万人から2025年には103.6万人へと減少しました。2025年時点で65歳以上が約7割(72.1万人)を占め、平均年齢は67.7歳と高齢化も進んでいます。

担い手の減少と高齢化は、農業だけでなく漁業・林業を含む一次産業全体に共通する構造的な課題です。

従来の採用アプローチの限界

一次産業の多くは、これまで以下のような伝統的な採用手法に依存してきました:

  • 地域内での口コミ・紹介採用
  • ハローワークでの求人掲載
  • 農業高校・水産高校からの新卒採用

しかし、農業高校、水産高校の出身でも卒業したら、大半が一次産業とは関係のない会社に就職するという現実があり、従来手法だけでは限界があることは明らかです。

三次産業で確立された採用の手法

採用ブランディングの力

採用ブランディングとは企業が求職者に向けて、自社が魅力的な雇用主であることを伝え、その魅力を高めるための活動やコミュニケーションを行うこととして、三次産業では確立された手法です。

サービス業で成功している企業の共通点は以下の3つです:

1. ターゲット求職者の明確化 求める人材像を具体的に設定し、その人材が重視する価値観に訴求する戦略を構築

2. 情報発信チャネルの多様化 SNS、オウンドメディア、動画コンテンツなど、複数の媒体を組み合わせた情報発信

3. 双方向コミュニケーションの実現 求職者との対話を重視し、企業の一方的な情報発信ではなく、相互理解を深めるアプローチ

SNSの生の声を重視するZ世代の採用

SNSを活用した採用は、三次産業で広く取り入れられています。特にSNSネイティブであるZ世代の新卒採用では、企業の公式サイトや求人広告などの良いところだけを載せた媒体より、リアルな生の声や企業の本当の姿が見えるSNSの口コミや投稿を信頼する傾向があるとされています。

仕事の意義を語り、候補者の体験を整える

価値創造ストーリーの可視化

三次産業で効果的な「価値提案」を一次産業に応用します。

従来の訴求: 「農業で働きませんか?年収300万円、土日休み」

価値創造ストーリー型の訴求: 「あなたが育てた野菜が、1000家族の笑顔を作る。テクノロジーと伝統を融合させた次世代農業で、食の未来を変えませんか?」

実装のステップ:

  1. 自社の社会的価値を言語化する: 食料安全保障への貢献、地域経済活性化への寄与、環境保全への取り組み
  2. 働く意義を具体的に示す: 生産した農作物がどのような流通ルートを通り、最終消費者に届くかを可視化、顧客からの感謝の声や反応を共有
  3. 成長ストーリーを描く: 入社1年目、3年目、5年目でどのようなスキルが身につくか、将来的な独立支援制度や事業承継の可能性

デジタル発信力の強化

SNS採用(ソーシャルリクルーティング)は、採用ブランディングを行う上でも取り入れたい手法です。三次産業で広く使われているこの手法を、一次産業に応用します。

Instagram活用戦略:

  • 朝の作業風景をタイムラプス動画で投稿 収穫作業の美しさや、朝日に照らされた農場の魅力を視覚的に伝える
  • 社員の一日密着ストーリーズ 実際の労働環境や休憩時間の様子をリアルタイムで発信
  • 季節ごとの変化を定点観測 農作物の成長過程や季節による仕事内容の変化を継続的に発信

YouTube活用戦略:

  • 「未経験から始める○○農業」シリーズ 新人社員の成長記録を1年間追跡する長期コンテンツ
  • 技術紹介動画 最新農業機械の操作方法やスマート農業の導入事例
  • 経営者インタビュー なぜこの事業を始めたのか、どのような未来を描いているかを語る

候補者体験(CX)の設計

三次産業で重視される「顧客体験」の概念を「候補者体験」として応用します。

採用プロセスの改革:

興味喚起段階

  • Web上での農場バーチャルツアー
  • 現役社員とのオンライン座談会
  • 1日体験プログラムの提供

検討段階

  • 詳細な労働条件や福利厚生の透明な開示
  • 先輩社員によるメンターシップ制度の説明
  • キャリアパスの具体的提示

応募・選考段階

  • オンライン面接の導入による地理的制約の解消
  • 実技試験ではなく意欲や学習能力を重視した選考基準
  • 選考結果の迅速な連絡と丁寧なフィードバック

入社前段階

  • 入社前研修プログラムの提供
  • 住環境サポート(社宅提供や住居紹介)
  • 必要な資格取得支援

待遇・環境の戦略的改善

柔軟に採用条件を緩和している点でも特徴が見られ、具体的には、シニア層への採用範囲の拡大や経験職種の条件緩和を行うといった三次産業の成功事例を参考に、一次産業でも応用可能な改善策を実装します。

労働環境の現代化:

  1. 技術導入による労働負荷軽減: IoTセンサーによる農場管理の自動化、ドローンを活用した農薬散布、自動収穫機械の導入
  2. 働き方の多様化: 繁忙期・閑散期に応じた柔軟な労働時間制、副業・兼業の積極的受け入れ、リモートワーク可能な管理業務の分離
  3. 福利厚生の充実: 社会保険完備、有給休暇取得推進、研修・資格取得支援制度

6次産業化による魅力度向上

6次産業とは、1次産業である農業や漁業において、加工の2次産業、サービスや販売の3次産業まで、1次から3次を融合することで産業の可能性を広げていく取り組みとして注目されている手法を採用戦略に活用します。

多角化事業による仕事の魅力向上:

  • 農業×IT: データ分析やシステム開発に関わる業務
  • 農業×マーケティング: 自社商品のブランディングや販売戦略
  • 農業×教育: 農業体験プログラムの企画・運営
  • 農業×観光: アグリツーリズムの推進

取り組みの例に学ぶ実践的ノウハウ

新規採用が途絶えている農業法人の場合

課題: 数年にわたり新規採用がない状況

考えられる施策:

  1. 採用専用Instagram開設
  2. 毎日の作業風景を動画で発信
  3. 社員の素顔を伝えるインタビュー記事作成

漁師の高齢化に悩む漁協の場合

課題: 漁師の高齢化と後継者不足

考えられる施策:

  1. YouTubeチャンネル「漁師の日常」開設
  2. 最新漁業技術の紹介動画作成
  3. 漁師体験ツアーの定期開催

人事担当者が知るべき実装のポイント

段階的な取り組み開始

すべての施策を同時に始めるのではなく、以下の順序で段階的に実装することが重要です:

フェーズ1(1-3か月): 現状分析と基盤整備

  • 自社の強み・魅力の棚卸し
  • ターゲット人材の明確化
  • 基本的なWeb環境の整備

フェーズ2(4-6か月): 情報発信開始

  • SNSアカウント開設
  • 定期的なコンテンツ発信
  • 体験プログラムの企画

フェーズ3(7-12か月): 採用プロセス改善

  • 選考方法の見直し
  • 候補者体験の向上
  • 効果測定と改善

社内体制の構築

一次産業での採用改革には、経営陣の理解と社内体制の整備が不可欠です:

役割分担の明確化:

  • 経営陣:方針決定と予算確保
  • 現場責任者:実務レベルでの改善提案
  • 若手社員:SNS運営やコンテンツ作成

外部リソースの活用:

  • 採用コンサルタントとの連携
  • SNS運営代行サービスの利用
  • 動画制作会社との協力

効果測定とPDCAサイクル

三次産業で重視される「データドリブン」なアプローチを一次産業でも実装します:

測定すべきKPI:

  • SNSフォロワー数・エンゲージメント率
  • 採用サイトへのアクセス数
  • 体験プログラム参加者数
  • 応募者数・内定承諾率
  • 新入社員の定着率

改善サイクル:

  • 月次での数値レビュー
  • 四半期での戦略見直し
  • 年次での大幅改善実施

一次産業特有の課題への対応策

季節性による労働条件の不安定さ

解決策:

  • 閑散期における他業務(加工・販売・研修)の創出
  • 複数農場間での労働力シェアリング
  • 年間を通じた安定収入保証制度の導入

地理的制約による人材プールの限定

解決策:

  • UIターン希望者向けの特別プログラム
  • オンライン面接による全国からの募集
  • 移住支援制度との連携

技術継承の困難さ

解決策:

  • ベテラン技術者による動画マニュアル作成
  • 段階的なスキル習得プログラム
  • メンター制度の導入

経営層が押さえるべき投資対効果

初期投資の算定

採用力向上のための初期投資として、以下が必要です:

必須投資項目:

  • Web環境整備: 50-100万円
  • SNS運営体制構築: 月10-20万円
  • 採用コンサルティング: 300-500万円/年

期待できる効果:

  • 採用コストの削減
  • 離職率の改善
  • 新たな人材による生産性の向上

長期的な競争優位性

一次産業における採用力向上は、以下の長期的メリットをもたらします:

  1. 持続可能な事業体制の構築
  2. 技術革新への対応力向上
  3. 地域リーダー企業としてのブランド確立
  4. 6次産業化への発展基盤の整備

まとめ:一次産業の未来を切り開く採用戦略

高齢化によって生産効率が低下し、後継者不足が課題となっている一方で、人手を最小限に抑えながら生産効率を上げる方法が求められている現在、採用力の向上は一次産業にとって生存をかけた重要課題です。

三次産業で成果を上げてきた採用ノウハウを一次産業に応用することで、「キツい」「稼げない」「結婚できない」というネガティブなイメージを払拭し、「やりがい」「成長」「安定」を提供する魅力的な職場として再ブランディングすることが可能です。

重要なのは、伝統的な手法に固執するのではなく、時代の変化に合わせて採用アプローチを進化させることです。SNSネイティブ世代にリーチし、彼らが重視する価値観に訴求する戦略こそが、一次産業の未来を支える人材確保の鍵となります。

今こそ、三次産業で磨かれた採用ノウハウを一次産業に導入し、日本の食と農を支える次世代人材の獲得に向けて行動を起こすときです。人材育成のプロフェッショナルとして、私たちはこの変革をサポートし、一次産業の持続可能な発展に貢献してまいります。

お問い合わせはこちら

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

Next step

記事の内容を、自社に当てはめてみませんか。

Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。

✦ SHARE with カイシャの育成論

メディアでも、深く発信しています。

自社メディア『SHARE with カイシャの育成論』では、企業インタビューと人事用語辞典を通じて、より深い知見をお届けしています。