こんにちは。WONDERFUL GROWTH編集部です。
貴社のDX推進は、人材の面で順調に進んでいるでしょうか。情報処理推進機構(IPA)が2025年6月に公開した「DX動向2025」によれば、DXを推進する人材の「量」について「大幅に不足している」「やや不足している」と回答した日本企業は合計85.1%に達しました。一方で、同じ調査において米国企業は「過不足はない」「やや過剰である」の合計が73.6%、ドイツ企業は52.5%となっており、深刻な人材不足を訴えているのは実質的に日本だけという構図が浮かび上がっています。
さらに経済産業省は「DXレポート」のなかで、老朽化した基幹システム(レガシーシステム)を刷新できないまま放置した場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じ得ると警告してきました。いわゆる「2025年の崖」です。同省の試算では、IT人材の不足は2030年に最大で約79万人に達するとされています。「崖」の年とされた2025年を越えた今、企業の課題は「危機の予告」から「現実への対応」へと確実に移っています。
くわえて、変革の手段そのものも大きく変わりました。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、生成AIを「積極的に活用する」「活用領域を限定して利用する」と回答した日本企業は49.7%(前年度42.7%)まで増えています。ただし業務での利用率は日本が55.2%にとどまり、中国95.8%・米国90.6%・ドイツ90.3%と比べて大きな差が残ったままです。DXはいま、生成AIやデータ活用を前提とした「AX(AIトランスフォーメーション)」の局面へと入りつつあり、求められる人材像も更新を迫られています。
こうした状況の根本には、「自社にとってどのようなデジタル人材が、どれだけ必要なのか」という人材定義の曖昧さがあります。必要な人材像が定まらないまま場当たり的な採用や研修を重ねても、投資は成果に結びつきません。本記事では、最新の公的指針をふまえて、DX推進に不可欠な4つのデジタル人材像と、自社で人材を育てるための実践ステップを整理します。
なぜ「DX人材の定義」が最重要なのか
DX推進では、システムやツールを導入するだけでは成果は生まれません。それらを使いこなし、業務やビジネスモデルそのものを変革できる人材がいて初めて、投資が価値へと変わります。外部採用に依存するだけでなく、既存社員がデジタルを理解し活用できる状態をつくることが、組織全体の変革には欠かせません。
必要な人材像を明確に定義することには、次のような効果があります。
- 採用の精度向上:必要なスキルセットが明確になり、的確な人材を効率的に採用できます。
- 育成計画の具体化:既存社員に対する研修・育成プログラムを、役割に合わせて設計できます。
- 投資対効果の向上:必要な人に必要なスキルを集中的に習得させることで、DX投資の回収率が高まります。
- 全社の方向性の統一:社員一人ひとりが自分の役割を理解し、変革への納得感が生まれます。
人材像を定義するうえで、いまや最も参照すべき公的な指針が、経済産業省とIPAが策定する「デジタルスキル標準(DSS)」です。2026年4月には大型改訂版である「ver.2.0」が公開され、AX(AIトランスフォーメーション)の進展とデータ活用の重要性の高まりを背景に、データ整備・活用を担う「データマネジメント類型」が新たに設けられました。これにより、DXを推進する人材の類型は、従来の5つから次の6つへと拡張されています。
デジタルスキル標準ver.2.0が定めるDX推進人材の6類型:ビジネスアーキテクト/デザイナー/データサイエンティスト/データマネジメント/ソフトウェアエンジニア/サイバーセキュリティ(出典:IPA・経済産業省「デジタルスキル標準ver.2.0」2026年4月)
以下では、この公的な6類型を踏まえつつ、多くの企業がまず押さえるべき中核的な人材像を「4つのタイプ」に整理して解説します。自社のDXステージや業種、規模に照らして、どのタイプが不足しているかを確認しながらお読みください。
DX推進に不可欠な4つのデジタル人材像
1. DX戦略をかたちにする人材(ビジネスアーキテクト)
核となる特徴
- デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルや業務プロセスを構想する力
- データにもとづく経営判断・投資判断を支える力
- 部門を横断して変革をリードするリーダーシップ
求められるスキル
- デジタル技術の事業への応用可能性を見極める力
- デジタル時代に適したビジネスモデルの設計力
- 変革マネジメント力とステークホルダーマネジメント力
日本企業のDXが進まない最大の理由の一つが、この戦略人材の不足です。IPA「DX動向2025」では、日本企業が最も不足を感じている人材として「ビジネスアーキテクト」が挙げられており、DXの構想段階から導入・検証までを担う人材の薄さが、成果創出の停滞に直結していると指摘されています。なお、デジタルスキル標準ver.2.0では、このビジネスアーキテクト類型が「ビジネスアーキテクト」「ビジネスアナリスト」「プロダクトマネージャー」の3つのロールに再定義され、役割がより具体的に示されました。
2. データを価値に変える人材(データサイエンティスト/データマネジメント)
核となる特徴
- データの収集・整備・分析・可視化に関する専門知識
- 統計学や機械学習などの数理的な素養
- ビジネス課題をデータで解決へ導く応用力
求められるスキル
- SQL、Python、Rなどを用いたデータ分析・活用スキル
- データの品質・整合性・利用ルールを管理するデータマネジメントの知識
- AIの実装・運用やAIガバナンスに関する理解
生成AIの活用が広がるほど、その土台となるデータの精度や整合性を確保する役割の重要性が高まります。デジタルスキル標準ver.2.0で「データマネジメント類型」(データスチュワード・データエンジニア・データアーキテクト)が新設され、データサイエンティスト類型にAI実装・運用やAIガバナンスのスキルが加えられたのは、この潮流を端的に示しています。分析人材だけでなく、データを安全かつ使える状態に整える人材まで含めて育てる視点が欠かせません。
3. デジタル技術を実装する人材(ソフトウェアエンジニア)
核となる特徴
- クラウド、AI、IoTなどの先端技術に関する知識と実装スキル
- アジャイル開発やDevOpsといった新しい開発手法の実践力
- セキュリティやコンプライアンスへの深い理解
求められるスキル
- クラウドプラットフォーム(AWS、Azure、Google Cloudなど)の技術知識
- モダンなプログラミング言語やフレームワークの活用スキル
- 自動化とCI/CDパイプラインの構築能力、生成AIを活用した開発の実践
この領域の人材は市場での需要が高く、確保が特に難しいのが実情です。近年は生成AIやAIエージェントを用いた開発支援が広がり、一人あたりの生産性を高める動きも進んでいます。外部採用に頼り切るのではなく、既存のIT部門人材のスキルを引き上げる発想が、現実的な解になります。
4. 変革を現場で推進する人材(デザイナー/DX推進リーダー)
核となる特徴
- デジタルとビジネスの両領域を理解するT型・π型の素養
- 組織のデジタル変革を現場で前へ進める実行力
- 部門間の調整や社内の抵抗感を解きほぐす調整力
求められるスキル
- プロジェクトマネジメントスキル
- デザイン思考やリーンスタートアップなどの方法論の実践
- ユーザーや関係者に価値を正しく伝えるコミュニケーション能力
このタイプは、DX推進の現場で実務を担うキーパーソンであり、理想的には各部門に配置することが望まれます。デジタルスキル標準ver.2.0では、デザイナー類型において、製品・サービスの意義や使い方を正しく伝える役割として「コミュニケーションデザイナー」が新設されました。技術を成果に変えるには、こうした「伝える・つなぐ」力を持つ人材が不可欠であることを示しています。
T型・π型人材という考え方:DX時代に求められる多様な専門性
今日のDX推進で特に注目されるのが、T型人材やπ(パイ)型人材と呼ばれる人材像です。
T型人材とは、一つの専門分野に深い知識と経験を持ちながら(Tの縦棒)、隣接する他分野にも幅広い知見を有する人材(Tの横棒)を指します。たとえば、データサイエンスを専門としつつ、ビジネス戦略やプロジェクトマネジメントにも通じている人材です。
π(パイ)型人材は、さらに発展して2つ以上の専門分野に深い知識を持つ人材です。エンジニアリングとマーケティングの両方に精通している人材などが該当します。複数の専門性を掛け合わせることで、独創的な発想を生み出せる点が大きな強みです。
DX推進では、こうしたハイブリッド型の人材が特に力を発揮します。DXは「テクノロジー」「ビジネス」「組織変革」という複数の領域を横断する取り組みだからです。近年は、これらの横棒部分に「生成AIを使いこなす基礎力」が加わりつつあります。専門性に加えて、AIを前提に物事を考えられるかどうかが、変革のスピードを左右する時代になっています。
DX人材を育てる5つの実践ステップ(実施チェック付き)
DX人材の不足に対して、企業はどう動くべきでしょうか。ここでは、自社で人材を育てるための5つのステップを、実施状況を点検する「実施チェック」とともに紹介します。各ステップを順に進めることで、無理のない内製化が可能になります。
ステップ1:人材像とスキルギャップを「定義」する
最初に行うべきは、自社に必要なデジタル人材像を言語化することです。前述のデジタルスキル標準(DSS)を物差しとして使えば、ゼロから定義する必要はありません。6類型を参照しながら、自社のDX戦略に必要な役割を選び、現状の社員スキルとの差(ギャップ)を可視化します。
実施チェック:自社のDX戦略に必要な人材類型を、デジタルスキル標準の6類型に対応づけて整理できていますか。各役割について「現状の人数・スキル」と「必要な人数・スキル」のギャップを一覧にできていますか。
ステップ2:全社員のDX・生成AIリテラシーを底上げする
一部の専門人材だけを育てても、組織全体は変わりません。まずは全社員を対象に、DXリテラシーと生成AIの基礎を学ぶ機会を用意します。デジタルスキル標準の「DXリテラシー標準」は、全てのビジネスパーソンが身に付けるべき素養を定義しており、全社研修の設計指針として活用できます。生成AIについては、使い方だけでなく、情報漏えいなどのリスクと社内ルールをあわせて学ぶことが重要です。
実施チェック:全社員向けのDX・生成AIリテラシー研修を、年間計画に組み込めていますか。生成AIの利用範囲・禁止事項を定めた社内ガイドラインを整備し、周知できていますか。
ステップ3:実践プロジェクトでOJTを回す
スキルは座学だけでは定着しません。小さく始めて素早く検証するPoC(概念実証)や、アジャイル開発チームへの参加を通じて、実務のなかで学ぶ機会をつくります。通常業務から一時的に離れ、集中的に変革に取り組む「出島」型の組織を設ける企業もあります。
実施チェック:育成対象者が参加できる実プロジェクト(PoC・アジャイル開発など)を用意できていますか。学んだスキルを試し、振り返る場を業務のなかに組み込めていますか。
ステップ4:社内アカデミーと外部・産学連携でリスキリングを仕組み化する
育成を一過性で終わらせないために、学びを仕組みとして根づかせます。社内にデジタルアカデミーを設けて段階的な学習を提供する企業や、IT企業からの人材受け入れ、大学・研究機関との産学連携を活用する企業が増えています。すべてを自前で抱え込まず、外部の力を組み合わせる発想が現実的です。IPAのポータルサイト「マナビDX」では、研修事業者が提供する学習コンテンツがデジタルスキル標準に紐づけて整理されており、教材選びの起点として役立ちます。
実施チェック:継続的に学べる社内の仕組み(アカデミー・学習プラットフォームなど)を整えられていますか。外部研修・産学連携・人材受け入れなど、社外資源の活用方針を決められていますか。
ステップ5:挑戦を後押しするデータドリブンな組織文化を醸成する
人材が力を発揮するには、組織文化の変革も欠かせません。失敗を許容する心理的安全性、小さく試して素早く改善するアジャイルな姿勢、そして経験や勘だけに頼らずデータにもとづいて判断する文化を育てます。経営層自身がデジタルへの理解を深め、率先して学ぶ姿勢を示すことが、文化醸成の起点になります。
実施チェック:新しい挑戦や失敗を前向きに評価する仕組み・評価制度になっていますか。経営層がデジタル・生成AIの研修を受け、変革の旗振り役を担えていますか。
DX人材育成に成功する企業に共通する3つの特徴
1. 経営層のコミットメントと理解
DX人材育成は人事部門だけの課題ではなく、経営戦略の中核に位置づけるべきテーマです。経営層自身がデジタルリテラシーを高め、必要なリソースを配分し、変革を自分ごととして語れるかどうかが、成否を分けます。先進企業では、経営層が率先してデジタル研修を受講し、全社の学ぶ文化を牽引している例が知られています。
2. 明確な人材像と評価基準の設定
必要な人材像を定義し、それを評価する基準を設けることが重要です。具体的には、次のような取り組みが有効です。
- 役割ごとのスキル要件の明確化:デジタルスキル標準を土台に、各役割に求めるスキルと行動を定義します。
- スキルマッピングとギャップ分析:現状と目標のスキルレベルを可視化します。
- 育成と連動した評価・報酬制度:スキル習得への動機づけを設計に組み込みます。
大手企業のなかには、DX人材を複数のロールに細分化し、それぞれに必要なスキルセットを定義することで、効果的な育成計画につなげている例もあります。デジタルスキル標準ver.2.0は、こうした自社版の人材定義をつくるうえでも有用な参照軸となります。
3. 持続可能な学習エコシステムの構築
DX人材育成は一度きりのプログラムではなく、継続的な取り組みとして設計する必要があります。
- 自律的に学ぶ文化の醸成:自己啓発の意欲を高める仕組みづくり
- ナレッジ共有の場の整備:社内外の知見を共有・活用できる環境づくり
- 継続的なスキル更新の機会提供:技術の進化に合わせた学びの場の確保
社員が自ら学習テーマを選び、必要な研修を受けられる仕組みを導入し、人材育成を継続している企業も増えています。重要なのは、学びが個人の意欲任せにならないよう、会社として後押しする設計にすることです。
まとめ:DX人材育成は「人への投資」から始まる
DX推進では、テクノロジーへの投資と同等以上に、「人への投資」が重要です。IPA「DX動向2025」が示すとおり、日本企業の85.1%がDX人材の不足を訴えるなか、明確な人材像にもとづく戦略的な育成こそが、デジタル時代の競争力を左右します。生成AIやデータ活用が前提となる「AX」の時代には、その必要性はいっそう高まっています。
本記事で紹介した4つのデジタル人材像と5つの実践ステップ、そしてデジタルスキル標準ver.2.0という公的な物差しを参考に、自社に最適なDX人材育成戦略を構築していただければ幸いです。
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参考文献・出典
- 情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025 ─ 日米独比較で探る成果創出の方向性」(2025年6月公開)
- IPA・経済産業省「デジタルスキル標準(DSS)ver.2.0」(2026年4月公開)
- 経済産業省「DXレポート ─ ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」(IT人材不足は2030年に最大約79万人、経済損失は最大年間12兆円)
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」(2025年7月公開、企業の生成AI活用方針・利用率)
- IPA ディスカッション・ペーパー「DX動向2025 ─ AI時代のデジタル人材育成」(2025年)
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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