「また優秀な社員が辞めてしまった…」。そんな悩みを抱える経営者や人事担当者は少なくありません。厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、日本の離職率は14.2%です。また、同省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、新規大学卒就職者の就職後3年以内の離職率は33.8%(令和4年3月卒)に達しています。「給与や待遇を改善しているのに、なぜ離職が減らないのか」と頭を悩ませている方も多いと思います。
離職の背景には、「承認欲求の不満足」があることも少なくありません。人間の基本的欲求である承認欲求が職場で満たされないと、社員は「この会社では自分の価値が認められない」と感じ、転職を検討するようになります。適切な「認める技術」を身につければ、こうした離職の防止が期待できます。
承認欲求が離職に与える深刻な影響
仲間外れにされたときの脳の反応
ナオミ・アイゼンバーガー氏、マシュー・リーバーマン氏らの研究(Science誌、2003年)では、仲間外れにされたときに、身体の痛みの研究と同じように脳の前帯状皮質の活動が高まり、その活動は本人が感じた苦痛の強さと関連していました。職場で無視されたり、存在を認められなかったりすることも、心の痛みとして受け止められる可能性があります。
この「社会的な痛み」が続くと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増え、以下のような悪循環が生まれるおそれがあります:
- 集中力・判断力の低下:慢性的なストレスにより前頭前野の機能が低下
- 創造性の阻害:不安や緊張により新しいアイデアを生み出す能力が制限
- 職場への愛着度低下:組織への帰属意識が薄れ、離職意向が高まる
承認欲求の2つのタイプとその特徴
心理学者アブラハム・マズローは、1943年の論文で、承認(尊重)の欲求を、他者からの評価や称賛を求めるものと、自分自身の達成や自信にかかわるものの2つに分けて説明しています。これを職場に当てはめると、承認欲求は次の2つに整理できます:
①外的承認欲求(他者承認)
- 他者からの評価や賞賛を求める欲求
- 「褒められたい」「認められたい」という気持ち
- 満たされやすいが、継続的な供給が必要
②内的承認欲求(自己承認)
- 自分自身の価値や成長を実感したい欲求
- 「成長している」「貢献できている」という実感
- より深い満足感をもたらし、持続性が高い
効果的な人材マネジメントには、この両方のバランスが重要です。
週30分の承認タイムから、日々の声かけへ広げる
承認の基盤作り(週1回、30分の投資から)
毎週金曜日の30分を「承認タイム」として確保し、次の観点から部下の行動を振り返ります:
- 存在承認:その人がいることの価値を認める
- 例:「〇〇さんがいてくれるおかげで、チームの雰囲気が明るいです」
- 過程承認:結果だけでなく、取り組む姿勢やプロセスを認める
- 例:「今回のプロジェクトで、丁寧にリサーチを重ねている姿勢が素晴らしいですね」
- 成果承認:具体的な成果や結果を認める
- 例:「今月の売上目標を達成できたのは、〇〇さんの粘り強い営業活動のおかげです」
背景にある知見 報酬や承認を受けたときに働くドーパミンは、意欲や学習に関わるとされています。定期的な承認により、ポジティブな行動パターンが強化されると考えられます。
個別最適化された承認戦略の構築
承認スタイル診断の実施
部下一人ひとりの承認スタイルを把握するため、以下の簡単な質問を行います:
- 「どんな時に最もやりがいを感じますか?」
- 「過去に最も嬉しかった上司からの言葉は何ですか?」
- 「チーム内での自分の役割をどう捉えていますか?」
この回答を基に、個人に最適化された承認アプローチを設計します。
承認パターンの例
- 達成志向型:具体的な数字や成果を交えた承認
- 協調志向型:チームや周囲への貢献を讃える承認
- 成長志向型:スキルアップや学習成果に焦点を当てた承認
- 安定志向型:継続的な努力や責任感を評価する承認
日常的な承認コミュニケーションの仕組み化
ポジティブなやり取りを増やす仕組みの導入
心理学者ジョン・ゴットマンの夫婦関係の研究では、安定した関係の夫婦は、対立している場面でも、ポジティブなやり取りがネガティブなやり取りの5倍以上あるとされています(ゴットマン研究所)。これを職場に応用し、以下の仕組みを構築します:
週次実施項目
- 月曜日:週間目標設定時の承認
- 前週の成果を具体的に承認してから今週の目標を設定
- 水曜日:中間フォロー時の承認
- 進捗確認と合わせて、取り組み姿勢を承認
- 金曜日:週間振り返り時の承認
- 成果と成長を多面的に承認
即時承認の習慣化 良い行動を見つけたら、24時間以内に承認することで、行動と報酬の関連性を脳に定着させます。
組織全体での承認文化の醸成
ピアフィードバックシステムの導入
上司からの承認だけでなく、同僚同士の相互承認を促進する仕組みを構築します:
- 月次感謝カードの実施
- 月1回、お互いの貢献に感謝を表すカードを交換
- 全社で共有し、承認の見える化を実現
- チーム承認ミーティング
- 週次ミーティングの最後10分で、メンバー同士の承認タイムを設ける
- 成功事例の社内共有
- 四半期ごとに承認によって成長した事例を社内で発表
承認コミュニケーション導入の効果測定
定量的な効果指標
承認コミュニケーション施策の効果を以下の指標で測定します:
短期指標(3か月以内)
- 離職率の変化
- 従業員エンゲージメントスコア
- 1on1ミーティングの満足度
中長期指標(6か月〜1年)
- 昇進・昇格希望者数の増加
- 社内紹介採用数の増加
- 顧客満足度スコアの向上
継続的改善のための振り返り
月次振り返り項目
- 承認の頻度と質は適切だったか
- 個人の承認スタイルに合致していたか
- 組織全体の承認文化は向上しているか
このデータを基に、承認アプローチの継続的な改善を図ります。
共通認識をつくり、内発的動機と結び付けて習慣にする
共通認識の醸成
組織全体で「承認の重要性」について共通認識を持つことが成功の鍵です。管理職向けの承認研修を実施し、全社的な取り組みとして位置づけます。
内発的動機づけとの連動
単なる外的な承認だけでなく、社員の内発的動機(やりがい、成長実感、貢献感)と結びつけることで、持続的な効果を生み出します。
システム化と習慣化
属人的な取り組みではなく、組織の仕組みとして承認コミュニケーションを定着させることで、管理職の異動や新人教育においても一貫性を保てます。
まとめ:承認が生み出す組織変革
承認コミュニケーションは単なる「褒める」技術ではありません。人間の基本的欲求に基づいたマネジメント手法であり、適切に実施することで、以下のような組織の変化が期待できます:
- 離職率の低下:承認欲求が満たされることで定着率の向上が期待できる
- エンゲージメントの向上:内発的動機が高まり、生産性の向上につながる
- 組織文化の改善:相互承認により協働性の高い職場環境を構築
- 人材採用力の強化:社員の満足度向上により紹介採用の増加が期待できる
重要なのは、まず週1回30分の「承認タイム」から始めることです。小さな一歩から始めて、徐々に組織全体に浸透させていくことで、成果につなげることができます。
あなたの組織でも、科学的根拠に基づいた承認コミュニケーションを導入し、人材定着と組織成長を同時に実現しませんか?
当社では、承認コミュニケーションをはじめとする人材育成の専門研修を提供しております。組織の課題に合わせたカスタマイズ研修で、確実な成果創出をサポートいたします。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
Next step
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