「うちの会社、なぜか優秀な人から辞めていく…」そんな悩みを抱えている経営者や人事担当者の方は少なくないでしょう。実は、その背景には「職場でのマウンティング行動」という見えない組織破壊要因が潜んでいる可能性があります。
厚生労働省の令和4年「雇用動向調査」によると、転職入職者が前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた人は男性で8.3%、女性で10.4%で、いずれも「その他」を除く理由の中で3番目に多くなっています。職場の人間関係は、人材流出の要因の一つといえます。特に、マウンティング行動は表面化しにくいものの、組織の心理的安全性を損ない、生産性低下や離職率上昇を招くおそれのある問題です。
優位を誇示して相手を圧迫する、職場マウンティング
職場マウンティングとは、同僚や部下に対して自分の優位性を誇示し、相手を心理的に圧迫する行動のことです。心理学者アルフレッド・アドラーの理論でいうところの「優越コンプレックス」の表れとも言えるでしょう。
マウンティング行動の典型例
- 「私の時代は…」「君たちは甘い」といった経験値アピール
- 学歴や資格、過去の実績を不必要に強調する
- 他人のアイデアに対して「それ、前にやったことがある」と否定的な反応を示す
- 部下や後輩の成果を軽視し、自分の指導力を過度に強調する
- 会議で発言者を遮り、自分の知識をひけらかす
発言が減り、優秀な人から辞め、生産性が落ちる
心理的安全性の破壊
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「心理的安全性」は、現代の組織運営において極めて重要な概念です。Googleの調査「プロジェクト・アリストテレス」でも、高いパフォーマンスを発揮するチームの最も重要な要素として心理的安全性が挙げられています。
マウンティング行動は、この心理的安全性を根本から破壊します。メンバーは「発言すると否定されるのではないか」「自分の能力が低いと思われるのではないか」という不安を抱き、積極的な発言や提案を控えるようになります。結果として、イノベーションの源泉である多様なアイデアが生まれなくなり、組織の創造性が著しく低下してしまうのです。
人材流出の加速化
マウンティング行動が横行する職場では、特に優秀で自尊心の高い人材から離れていくおそれがあります。彼らは、自分の価値を正当に評価してくれる環境を求めて転職しやすいと考えられるからです。
組織にとって将来を担う貴重な人材を失うことは、長期的な競争力の低下に直結する深刻な問題です。
組織全体の生産性低下
脳科学の研究では、自分でコントロールできないストレスを受けると、比較的軽いものであっても、高度な思考を担う前頭前野の働きが急速に大きく低下することが示されています(Arnsten, Nature Reviews Neuroscience, 2009)。マウンティング行動により慢性的なストレス状態に置かれた職場では、以下のような現象が起こりやすくなります:
- 会議での建設的な議論の減少
- 新しいアイデアや提案の激減
- チーム間の連携不足
- ミスやトラブルの増加
- 残業時間の増加(効率性の低下)
実態の診断、行動指針の策定、定着への取り組み
組織の現状を客観的に把握する(診断フェーズ)
まず重要なのは、組織内のマウンティング行動の実態を正確に把握することです。表面化しにくい問題だからこそ、系統的なアプローチが必要です。
具体的な実行方法:
- 匿名アンケートの実施
- 心理的安全性測定尺度(Edmondson, 1999)を活用
- 「チーム内で意見を述べることに不安を感じるか」
- 「失敗について話し合える雰囲気があるか」
- 「困難な問題について相談できるか」 などの項目で5段階評価
- 1on1面談での聞き取り
- 人事担当者が直接従業員と対話
- 「職場で感じているストレス」「改善してほしいこと」をヒアリング
- 匿名性を保証し、率直な意見を収集
- 行動観察の実施
- 会議や日常業務での人間関係を客観的に観察
- 発言頻度、割り込み行為、否定的反応の頻度を記録
この診断により、問題の所在と深刻度を数値化し、改善の優先順位を明確にできます。
共通認識の形成と行動指針の策定(意識改革フェーズ)
診断結果を基に、組織全体でマウンティング問題への共通理解を深め、望ましい行動指針を策定します。人は共通の目標や価値観を持つことで、協調行動を取りやすくなると考えられます。
具体的な実行方法:
- 全社研修の実施
- マウンティング行動の心理的メカニズムを科学的に説明
- 組織への悪影響を具体的な数値で示す
- 望ましい行動例と避けるべき行動例を明確化
- 心理的安全性向上研修
- Googleがre:Workで公開している、チームの効果性に関するディスカッションガイドなどを活用
- 建設的なフィードバック方法の習得
- 多様性を尊重するコミュニケーションスキルの向上
- 行動指針の策定
- 「発言者の意見を最後まで聞く」
- 「批判ではなく建設的な提案を行う」
- 「他者の成果を正当に評価し、称賛する」 など、具体的で実行可能な行動指針を設定
継続的な仕組み化と効果測定(定着化フェーズ)
行動変容には継続的な取り組みが不可欠です。ロンドン大学(UCL)の研究チームの調査(Lally et al., 2010)によると、新しい行動が習慣化するまでには平均66日かかり、人によって18〜254日と大きな差があるとされています。そのため、長期的な支援体制が必要です。
具体的な実行方法:
- メンタリング制度の導入
- 上司と部下が定期的に1on1を実施
- コミュニケーションの質的向上を図る
- マウンティング行動の早期発見・修正
- ピアフィードバックシステム
- 同僚同士が建設的なフィードバックを交換
- 360度評価を活用し、多面的な視点で行動改善を促進
- 効果測定の継続
- 3か月ごとの心理的安全性測定
- 離職率、エンゲージメント指標の追跡
- 生産性指標(売上、品質、納期等)のモニタリング
- 成功事例の共有
- 改善された部署やチームの事例を社内で紹介
- 良い行動変容を起こしたメンバーを表彰
- ポジティブな変化を組織全体で共有
外部研修の活用で加速する組織変革
これらのステップを自社だけで実行するのは困難な場合も多いでしょう。そこで重要になるのが、専門的な知見を持つ外部研修の活用です。
外部研修を利用することで、以下のメリットを得ることができます:
- 客観的な視点:内部では気づきにくい問題点を第三者が指摘
- 専門的ノウハウ:心理学や組織行動学の最新知見に基づいた手法
- 豊富な経験:他社の成功・失敗事例を活用した効果的なアプローチ
- 中立的な立場:社内の利害関係に左右されない公正な指導
特に、研修後のフォローアップ体制が整っている外部パートナーを選ぶことで、一過性の取り組みではなく、持続的な組織変革を実現できます。
まとめ:今日からできる小さな一歩
職場マウンティングは、放置すれば組織の根幹を蝕む深刻な問題です。しかし、研究の知見を踏まえて取り組むことで、改善につなげることができます。
まず今日からできる第一歩として、以下のことを始めてみてください:
- 現状把握:簡単なアンケートで心理的安全性を測定
- 意識啓発:管理職に対してマウンティング問題の重要性を伝達
- 行動観察:会議や日常業務での人間関係に注意を向ける
重要なのは「完璧を目指さず、小さな一歩から始める」ことです。組織変革は一朝一夕にはいきませんが、適切なアプローチを続けることで、成果につなげることができます。
優秀な人材が安心して能力を発揮できる組織づくりは、経営者と人事担当者の重要な責務です。根拠に基づいた人材育成に取り組むことで、組織は変わっていくことができます。
職場マウンティング対策や心理的安全性向上に関する具体的な研修プログラムにご興味をお持ちの方は、ぜひ私たちの専門スタッフにご相談ください。あなたの組織に最適化されたソリューションをご提案いたします。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
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Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。