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「関係の質」から業績を変える|ダニエル・キムの成功循環モデル

成果が出ないとき、多くの組織は目標の強化や個人の頑張りに打ち手を求めがちです。ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」は、結果から手をつけるほど悪循環に陥り、関係の質から始めると好循環が回ると説きます。ただし、関係の質を高めることは、仲良くなることとは違います。

公開日
2026/07/07
更新日
2026/09/28
読了時間
約 10 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
組織開発人間関係心理的安全性エンゲージメント

日本で意欲的に働く社員は7%、数字を追う施策の限界

多くの企業が、社員のやる気や職場の一体感が業績を左右すると感じながらも、その打ち手を業績目標の強化や個人の頑張りに求めてしまいがちです。ギャラップ社が2025年に公表した「State of the Global Workplace」によると、日本で仕事に意欲的かつ積極的に取り組む社員(エンゲージメントの高い社員)の割合はわずか7パーセントで、世界平均の21パーセントを大きく下回り、調査対象国のなかでも世界最低水準にとどまりました。数字を追う施策だけでは、こうした状況を反転させることは難しいと考えられます。

そこで改めて注目されているのが、組織の成功循環モデルです。これはマサチューセッツ工科大学(MIT)組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム氏が提唱したフレームワークで、組織の成果は「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」という4つの質が循環することで生まれると説明します。信頼にもとづく関係の質が高まると、前向きで質の高い思考が生まれ、それが主体的な行動につながり、最終的に結果の質を押し上げるという考え方です。業績を変える起点は、結果への圧力を強めることではなく、関係の質を高めることにあります。

好循環と悪循環、そして起点の誤り

成功循環モデルを実務に活かすには、モデルの構造を正しく理解することが出発点になります。

関係の質から始まる好循環(グッドサイクル)

グッドサイクルは、関係の質を起点に回り始めます。メンバー同士が信頼し合い、率直に意見を言い合える関係があると、一人ひとりが安心して考えを深められ、思考の質が高まります。質の高い思考は、指示を待つのではなく自ら動く主体的な行動を生み、行動の質が上がります。その結果として成果が積み上がり、結果の質が高まると、さらに関係の質が強まるという上向きの循環が生まれます。ダニエル・キム氏のモデルの核心は、結果を直接追うのではなく、まず関係の質に投資することが、遠回りに見えて最も確実な成果への道になるという点にあります。

結果から始まる悪循環(バッドサイクル)

一方でバッドサイクルは、結果の質を起点に回ります。成果が上がらないとき、まず数字や結果への圧力を強めると、メンバーは責任の押し付け合いや対立に向かい、関係の質が下がります。関係が悪化すると、率直な発言が減って思考の質が落ち、受け身で防衛的な行動が増えて行動の質も低下します。結果としてさらに成果が出なくなり、いっそう結果への圧力が強まるという下向きの循環に陥ります。短期の成果を焦るほど悪循環が加速する点が、この考え方の重要な示唆です。

多くの組織が起点を誤る理由

頭では関係の質が大切だと理解していても、現場では結果から入ってしまう組織が少なくありません。業績目標や評価は結果の質で測られるため、管理職の関心が最も見えやすい結果に向かいやすいからです。リクルートマネジメントソリューションズが2024年9月に公表した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2024年」では、管理職が難しいと感じ、かつ最も時間を使っていることの第1位はいずれも『メンバーの仕事に向けたやる気を高めること』でした。関係や意欲づくりの重要性は現場でも実感されている一方で、その難しさゆえに結果の質への圧力に流されやすい構造があると考えられます。

1on1と問いかけで関係の質を高め、行動と成果につなげる

以下のステップに順に取り組み、関係の質を起点とした好循環を組織に定着させます。

自組織がどちらの循環にあるかを見極める

最初に行うべきは、自分たちのチームがグッドサイクルとバッドサイクルのどちらに近いかを見極めることです。会議で率直な意見が出ているか、失敗が責任追及ではなく学びとして扱われているか、成果が伸び悩んだときに関係が悪化していないかを観察します。バッドサイクルの兆候が見えるときほど、結果への圧力を一段強める前に、いったん関係の質に立ち返る判断が求められます。現状認識をチームで共有することが、改善の出発点になります。

チームがグッドサイクルに近いかどうかは、次のような様子から見えてきます。

  • 直近の会議で、成果が出ていない原因を『人』ではなく『仕組みや状況』の問題として話し合えている。
  • メンバーが安心して意見や懸念を口にでき、発言が一部の人に偏っていない。

関係の質を高める対話の場をつくる

次に、関係の質を意図的に高める場を設けます。代表的な手段が1on1ミーティングで、業務の進捗確認だけでなく、相手の考えや状態に関心を向け、信頼を積み重ねる時間として活用します。前述のリクルートマネジメントソリューションズの2024年調査でも、管理職としてのやりがいの上位は『メンバーが成果をあげたとき』『メンバーが成長したとき』であり、メンバーとの関わりが管理職の充実感の中心になっています。対話の場は、関係の質と管理職自身のやりがいの双方を支える基盤になります。

対話の場が信頼を積み重ねる時間になっているかは、次の点に表れます。

  • 1on1の最初の数分を近況や相手の関心事に充て、本題の指示から入らないよう心がけている。
  • 話す割合が上司に偏らず、メンバーが話す時間を毎回十分に確保できている。

思考の質が上がる問いかけに切り替える

関係の質が整ってきたら、思考の質を引き上げる関わりに移ります。答えを与えるのではなく、『どうすればうまくいくと思うか』『何が障害になっているか』と問いかけることで、メンバーが自ら考える機会をつくります。関係の質が低い状態で問い詰めると萎縮を招きますが、信頼関係のうえでの問いかけは、当事者意識と質の高いアイデアを引き出します。上司が答えを独占しないことが、思考の質を高める鍵になります。

問いかけ中心の関わりに切り替わったかどうかは、次の習慣で分かります。

  • 指示や結論を伝える前に、まずメンバー自身の考えを問う一言を挟んでいる。
  • 出てきた意見をすぐに否定せず、いったん受け止めてから一緒に検討している。

主体的な行動を後押しし、挑戦を支える

思考の質が高まったら、それを行動に移せるよう後押しします。メンバーが自ら考えた案を試せる裁量を与え、失敗しても学びとして扱う姿勢を明確に示すことで、行動の質が上がります。ここで結果だけを厳しく問うと、メンバーは失敗を避けて挑戦しなくなり、バッドサイクルに逆戻りしてしまいます。小さな挑戦を認め、行動そのものを支援することが、主体性を育てる土台になります。

挑戦を支える土台として、次のことを整えます。

  • メンバーに任せる範囲と判断してよい基準を、あらかじめ言葉にして伝えてある。
  • うまくいかなかった取り組みを責めずに、次への学びとして一緒に振り返っている。

結果を関係の質に還元し、循環を回し続ける

最後に、生まれた成果を関係の質へと還元し、循環を持続させます。成果が出たときは個人の手柄で終わらせず、協力し合えたプロセスや貢献を具体的に認め合うことで、関係の質がさらに強まります。前述の2024年調査でも、管理職が上手くいっている理由の上位に『協力し合える職場づくりをできているから』が挙がっており、成果を関係づくりに結びつける視点の有効性がうかがえます。結果を次の関係の質の起点に変えることで、グッドサイクルは回り続けます。

成果を次の関係の質につなげているチームでは、次のことが習慣になっています。

  • 成果を振り返る際、数字に加えて協力や工夫のプロセスにも具体的に触れている。
  • 貢献したメンバーの名前と行動を挙げて感謝を伝え、チーム内で共有している。

関係の質は「仲良し」を目指すことではない

成功循環モデルでしばしば生じる誤解が、関係の質を高めることを、対立を避けて表面的に仲良くすることだと捉えてしまう点です。しかし、ここでの関係の質とは、率直に意見をぶつけ合っても信頼が崩れない状態を指します。異なる意見や耳の痛い指摘が安心して出せるからこそ、思考の質が高まり、成果につながります。摩擦を避けるだけの馴れ合いは、むしろ思考の質を下げ、成果を遠ざけます。関係の質への投資とは、健全な意見の対立を支える信頼を築くことだと理解しておく必要があります。

まとめ

組織の成功循環モデルは、ダニエル・キム氏が示したとおり、関係の質を起点にすると思考・行動・結果の質が連鎖的に高まるという考え方です。成果が出ないときほど結果への圧力を強めがちですが、それはバッドサイクルを加速させます。日本のエンゲージメントが世界最低水準にある今こそ、まず関係の質に投資する発想が求められます。

現状の見極めから対話の場づくり、思考を引き出す問いかけ、主体的行動の後押し、そして成果の関係への還元までが、グッドサイクルを回し続けるための一連の流れです。関係の質は仲良しを目指すことではなく、率直に意見を交わせる信頼を築くことだという点を押さえ、日々のマネジメントに落とし込んでいくことが、業績を持続的に変える近道になります。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

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