Practice

戦略人事(HRBP)とは?ウルリッチの4つの役割で人事を経営の力に変える5ステップ

人材が競争資源となる時代、人事は管理部門から経営のパートナーへと変わることが求められています。人的資本開示の義務化を背景に、ウルリッチの4つの役割とHRBPを軸として、戦略人事を自社に根づかせ人事を経営の力に変える5つの実践ステップを、公的データと実施チェック付きで解説します。

公開日
2026/07/08
更新日
2026/07/08
読了時間
12
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
戦略人事HRBP人的資本経営ウルリッチ人事戦略

なぜ今、戦略人事(HRBP)が求められるのか

人材が最大の競争資源とされる時代に、人事部門が果たすべき役割は大きく変わろうとしています。その象徴が、有価証券報告書における人的資本の情報開示です。金融庁の改正開示府令により2023年1月から義務化され、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、大手企業約4,000社が人材育成方針や女性管理職比率などの指標の開示を求められるようになりました。さらに内閣官房・金融庁・経済産業省による人的資本可視化指針の見直しを受け、2026年3月期以降は開示内容が段階的に拡充される見込みです。人事は経営戦略と地続きの領域として、投資家からも注視される存在になったのです。

しかし、日本企業の人事部門の実態はこの変化に追いついていません。パーソル総合研究所が実施した人事部門に関する調査では、経営戦略と連動した「戦略人事」を実現できている日系企業は約3割(29.7パーセント)にとどまり、実現できていないとする企業の方が多いことが報告されています。同調査では、戦略人事が機能しない要因として最も多く挙げられたのが「人事部門のリソースの問題」でした。管理業務に追われ、経営に資する打ち手にまで手が回らないという構図です。

こうした課題を解く鍵とされるのが、米国ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が1997年の著書『Human Resource Champions(邦題:MBAの人材戦略)』で提唱した戦略人事モデルです。ウルリッチは、人事が「何をしているか」ではなく「経営にどのような価値を提供できるか」という観点から、人事部門の役割を4つに整理しました。すなわち「戦略パートナー」「管理のエキスパート」「従業員チャンピオン」「変革エージェント」です。本記事では、この4つの役割と、それを担う専門職であるHRBP(HRビジネスパートナー)を軸に、人事を経営の力へと変えるステップを解説します。

ウルリッチが示した人事の4つの役割

ウルリッチのモデルは、人事の役割を「時間軸(戦略的か、日常業務か)」と「対象(プロセスか、人か)」の2軸で整理したものです。この2軸を掛け合わせることで、人事に求められる4つの役割が浮かび上がります。

役割1:戦略パートナー(経営と人事戦略を連動させる)

経営戦略や事業戦略を実現するために、人材や組織の観点から必要な打ち手を設計し、経営陣とともに実行する役割です。事業計画を「人と組織の計画」に翻訳し、必要な人材要件や組織体制を先回りして整えます。この役割を事業部門の現場で担う専門職が、後述するHRBPであり、モデルの中核といえます。

役割2:管理のエキスパート(人事インフラを効率化する)

採用手続き、給与計算、勤怠管理、社会保険といった人事の基幹業務を、正確かつ効率的に運用する役割です。地味に見えますが、この土台が揺らげば戦略的な活動に割く時間は生まれません。近年はHRテクノロジーで定型業務を省力化し、生み出した時間を戦略的な役割へ再配分することが、現代的な意義になっています。

役割3:従業員チャンピオン(従業員の声を代弁し貢献を引き出す)

従業員の声に耳を傾け、その関与度や貢献意欲を高める役割です。エンゲージメント調査やキャリア開発支援、働きやすい環境づくりを通じて、従業員一人ひとりが能力を発揮できる状態をつくります。「人材を資本として捉え、その価値を高める投資を行う」という人的資本経営の発想は、この役割の延長線上にあります。

役割4:変革エージェント(組織の変化を推進する)

事業環境の変化に合わせて、組織文化や働き方そのものを変えていく推進役です。制度変更や組織再編、風土改革の場面で、抵抗感を和らげながら従業員を新しい方向へ導きます。人事が「変化を仕掛ける側」に回る役割であり、人的資本経営を開示対応で終わらせず組織の実力向上につなげるうえで欠かせません。

HRBP(HRビジネスパートナー)とは何か

HRBP(Human Resource Business Partner)とは、ウルリッチの4つの役割のうち特に「戦略パートナー」を、事業部門の現場に入り込んで担う専門職です。本社人事が全社の制度設計を担うのに対し、HRBPは特定の事業部門に伴走し、その事業の目標達成を人と組織の側面から支援します。事業責任者にとっての「人事の相談相手」として、要員計画や後継者育成、組織課題の解決を事業の動きに合わせて進める点が特徴です。

もっとも、日本でのHRBPの普及はまだ途上にあります。パーソル総合研究所の調査では、HRBPを設置していると回答した人事管理職は約1割(11.3パーセント)にとどまりました。肩書きを置くだけでは不十分で、経営と現場の双方を理解し両者をつなぐ実質を伴わせられるかが問われます。次章では、戦略人事への転換がなぜ進まないのかを整理します。

戦略人事への転換がうまくいかない3つの要因

多くの企業が戦略人事やHRBPの必要性を認識しながら、実装に踏み出せずにいます。その背景には、大きく3つの構造的な要因があります。

要因1:管理業務に追われ戦略に時間を割けない

前述のパーソル総合研究所の調査で最大の要因とされたのが、人事部門のリソース不足です。給与計算や労務手続きといった定型業務が時間の大半を占め、事業戦略の議論や人材ポートフォリオの設計まで手が回りません。管理のエキスパートの役割が非効率なままだと、戦略パートナーに投資する余力が生まれない悪循環に陥ります。

要因2:人事が経営の意思決定に関与できていない

人事部門が経営会議や事業計画の策定に参画しておらず、決まった方針を後から実行するだけの立場に置かれているケースです。この構造では、人材や組織の観点を戦略の上流に反映できません。ウルリッチが「人事は何ができるか(doable)ではなく何を提供できるか(deliverable)で語られるべきだ」と述べたのは、この受け身の姿勢への警鐘でした。

要因3:HRBPを担える人材が育っていない

事業と人事の双方を理解し、経営陣と対等に議論できる人材は簡単には育ちません。従来型の労務管理を中心にキャリアを積んだ人事担当者にとって、事業のP/Lを読み解き、事業責任者に人と組織の提言を行うことは大きな飛躍です。育成の道筋や評価の仕組みを整えないまま肩書きだけを与えても、HRBPは形骸化してしまいます。

戦略人事(HRBP)を実装する5つのステップ

ここからは、ウルリッチの4つの役割を自社に根づかせ、人事を経営の力へと変えていくための具体的な手順を5つのステップで解説します。各ステップには現場で使える実施チェックを添えますので、自社の状況と照らし合わせながら進めてください。

ステップ1:経営戦略を「人と組織の要件」に翻訳する

最初の一歩は、自社の経営戦略や事業計画を、人材・組織の言葉に置き換えることです。「3年後にこの事業を倍にする」という目標を、どのような人材が何人必要で、どんな組織能力を高めるべきかへと具体化します。この作業を経営陣と一緒に行うことで、人事は初めて戦略パートナーの立場に立てます。人的資本経営で開示が求められる指標も、この翻訳から逆算して設計すると一貫性が生まれます。

  • 実施チェック:中期経営計画から、今後必要となる人材要件と組織能力を3つ以上書き出せていますか。
  • 実施チェック:その人材・組織要件について、経営陣と認識をすり合わせる場を持てていますか。

ステップ2:4つの役割で自社人事の現状を棚卸しする

次に、ウルリッチの4つの役割を物差しにして、自社の人事部門が今どこに時間と労力を使っているかを可視化します。多くの企業では管理のエキスパートに偏り、戦略パートナーや変革エージェントの活動がほとんどないことに気づくはずです。現状の配分を客観的に把握することが、どこを削り、どこに投資すべきかを判断する出発点になります。

  • 実施チェック:人事部門の業務時間を4つの役割ごとにおおまかに配分し、割合を出せていますか。
  • 実施チェック:最も手薄になっている役割と、その理由を言語化できていますか。

ステップ3:管理業務を効率化し戦略に使う時間を生み出す

戦略パートナーの活動時間は、管理のエキスパートの役割を効率化することで生み出します。定型的な手続きや問い合わせ対応をHRテクノロジーや業務標準化で省力化し、浮いた時間を戦略的な活動へ意図的に振り向けます。重要なのは、削減した時間を「何に使うか」を先に決めておくことです。目的を定めずに効率化だけを進めても、別の雑務に埋もれてしまいます。

  • 実施チェック:自動化・標準化できる定型業務を洗い出し、削減目標を設定できていますか。
  • 実施チェック:生み出した時間を戦略的な活動に振り向ける計画を立てていますか。

ステップ4:HRBPを設置し事業部門に伴走させる

戦略パートナーの役割を現場で機能させるために、事業部門に伴走するHRBPを配置します。いきなり全社で始める必要はなく、まずは経営課題の大きい事業や、人材の流動性が高い部門で試行するのが現実的です。HRBPが事業責任者と定期的に対話し、要員計画や組織課題を一緒に考える体制をつくることで、人事は事業のパートナーとして認知されていきます。

  • 実施チェック:HRBPを試行的に配置する事業部門を1つ以上選定できていますか。
  • 実施チェック:HRBPと事業責任者が定期的に対話する場を仕組みとして設けていますか。

ステップ5:人事の役割変化を育成と評価で支える

最後に、新しい役割を担える人事人材を育て、その貢献を正しく評価する仕組みを整えます。事業理解や課題解決、対人影響力といった、戦略パートナーや変革エージェントに必要な力を計画的に伸ばします。あわせて、評価軸を「手続きの正確さ」だけでなく「経営や事業への貢献」に広げることで、変化が一過性で終わらず組織に定着します。

  • 実施チェック:人事担当者に求める新たな能力を定義し、育成の機会を用意できていますか。
  • 実施チェック:人事の評価項目に、経営や事業への貢献を測る視点を組み込めていますか。

まとめ

戦略人事とは、人事を管理部門から経営の意思決定に関わる立場へと引き上げる考え方です。ウルリッチが示した4つの役割、すなわち戦略パートナー、管理のエキスパート、従業員チャンピオン、変革エージェントは、人事が経営に提供すべき価値を整理する優れた地図となります。そして、その戦略パートナーの役割を事業の現場で担うのがHRBPです。

人的資本の情報開示が義務化され、人材への投資が投資家からも評価される時代において、人事の変革は選択肢ではなく必然です。まずは経営戦略を人と組織の要件に翻訳し、4つの役割で現状を棚卸しするところから始めてみてください。管理業務の効率化で時間を生み出し、HRBPを試行し、育成と評価で支える。この流れを地道に回すことが、人事を経営の力へと変える確かな道筋になります。

戦略人事・HRBP育成/人的資本経営研修のご相談はWONDERFUL GROWTHへ

WONDERFUL GROWTHでは、人事部門を経営のパートナーへと進化させる戦略人事・HRBP育成研修や、人的資本経営を推進するマネジメント研修をご提供しています。人事を経営の力に変えたいとお考えの方は、ぜひ資料をご請求ください。

サービス資料を請求する(無料)

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

Related Download

研修プログラム カタログ

WG が提供するテーマ別研修プログラム 18 種の全容・カリキュラム・対象者をまとめた資料です。

✦ SHARE with カイシャの育成論

メディアでも、深く発信しています。

自社メディア『SHARE with カイシャの育成論』では、企業インタビューと人事用語辞典を通じて、より深い知見をお届けしています。