Insights

研修の学びはなぜ行動に変わらないのか|脳科学から見る記憶の定着

研修の学びが行動に変わらないのは、分かりやすく伝えることに力を入れる一方、覚えたことを保ち、思い出す段階の支えが弱いからです。一度に詰め込むより間隔を空けて学ぶこと、読み直すより思い出す練習をすることが、記憶の定着を助けます。脳科学の知見をもとに、研修設計に生かせる7つの方法を考えます。

公開日
2023/03/30
更新日
2026/09/28
読了時間
約 8 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
研修効果心理学研修設計

「なぜ研修を受けても行動が変わらないのか」「どうすれば学習効果を最大化できるのか」といった悩みを抱える人事担当者や経営者の方は少なくないでしょう。

こうした課題を考えるうえで参考になるのが、脳科学や認知心理学の研究です。

人間の脳がどのように学び、記憶し、行動を変えるのかという知見を研修の設計に活かすことで、学んだ内容を定着させ、行動につなげやすくなります。

大切なのは、わかりやすく伝えるだけで終わらせず、間隔を空けた復習や思い出す練習を研修に組み込み、学んだ内容を記憶に保って使える状態にすることです。

脳科学から見る学習と記憶の仕組み

まずは、人間の脳がどのように学習し、記憶するのかという基本的なメカニズムを理解しましょう。

記憶の形成プロセス

脳科学研究によれば、記憶の形成は大きく分けて以下の3段階のプロセスを経ます:

  1. 符号化(Encoding): 情報を取り込み、脳内で処理する段階
  2. 保持(Storage): 取り込んだ情報を保存する段階
  3. 検索(Retrieval): 必要なときに記憶を引き出す段階

これら3つのプロセスのいずれかが上手く機能しないと、いわゆる「学んだことを忘れてしまう」という現象が起こると考えられています。

特に企業研修において、多くの場合「符号化」には力を入れるものの(=わかりやすい研修を提供する)、「保持」と「検索」のプロセスをサポートする仕組みが弱いことが指摘されています。

記憶の種類と学習効果

脳科学では、記憶を以下のように分類しています:

  1. 短期記憶(ワーキングメモリ): 一時的に情報を保持する記憶
  2. 長期記憶: 長期間保持される記憶
    • 宣言的記憶(顕在記憶): 意識的に想起できる記憶
    • 意味記憶: 事実や概念に関する記憶
    • エピソード記憶: 個人的な経験に関する記憶
    • 非宣言的記憶(潜在記憶): 意識せずに発揮される記憶
    • 手続き記憶: スキルや習慣に関する記憶

効果的な学習には、異なる種類の記憶を連動させることが重要だと考えられています。特に「意味記憶」(知識)と「手続き記憶」(スキル)を結びつけることが、学んだことを実務で使えるようにするうえで大切です。

神経可塑性と学習

「神経可塑性(ニューロプラスティシティ)」とは、脳が新たな経験や学習に応じて構造的・機能的に変化する能力を指します。かつては「大人になると脳は変化しない」と考えられていましたが、現在の脳科学では生涯を通じて脳は変化し続けることが明らかになっています。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマイケル・メルツェニック名誉教授らの研究では、成人の脳でも、経験や訓練によって神経回路が再編成されることが示されています。

これは企業における人材育成においても極めて重要な意味を持ちます。年齢や経験に関わらず、適切なアプローチによって従業員の能力開発と行動変容を促すことができるのです。

間隔を空けた学習や思い出す練習で、記憶を行動につなげる

脳の学習メカニズムは、学ぶ間隔の空け方、思い出す練習、複数の感覚の活用、感情の関与、集中力と睡眠の質、学び合いの場づくりを通じて、企業の人材育成に活かせます。

スペーシング効果を活用した学習設計

脳科学的根拠: 集中的な一度の学習(マッシング)よりも、間隔を空けた複数回の学習(スペーシング)の方が長期記憶に残りやすいことが、多くの研究で示されています。カリフォルニア大学サンディエゴ校のセペダらによる2006年の分析では、317件の実験の結果を統合し、学習の間隔と、覚えてから思い出すまでの期間の組み合わせによって、記憶に残る量が変わることを示しています。

  • 1日集中型の研修から、週1回×4週間などの分散型研修への移行
  • 研修後の定期的なフォローアップセッションの実施
  • モバイルラーニングを活用した小刻みな復習機会の提供

アクティブリコールを促す学習法

脳科学的根拠: 単に情報を何度も見直すよりも、情報を思い出す行為(アクティブリコール)が長期記憶の形成に効果的であることが、ワシントン大学(セントルイス)のローディガーとカーピッキーによる研究(2006年)などで示されています。この研究では、文章を読み直した学生よりも、思い出すテストを受けた学生の方が、2日後や1週間後に多くの内容を覚えていました。

  • クイズ形式の復習セッションの導入
  • 学んだ内容を他者に教える機会の設定
  • 研修内容の要約や振り返りレポートの作成

多感覚学習による記憶強化

脳科学的根拠: 視覚、聴覚、触覚など複数の感覚を使う学習は、単一の感覚に頼る学習よりも記憶に残りやすいとされています。

  • 視覚教材(図表、動画)と聴覚教材(講義、音声)の組み合わせ
  • ロールプレイやシミュレーションによる体験型学習
  • 図や絵を描くことでの視覚的思考の促進

感情的関与を高める学習体験

脳科学的根拠: 感情は記憶の形成に大きな影響を与えるとされています。特に扁桃体と海馬の相互作用によって、感情を伴う経験は長期記憶に残りやすいと考えられています。

  • ストーリーテリングを取り入れた学習コンテンツの設計
  • 実際の業務課題に基づいたケーススタディの活用
  • 学習者同士の意味のある対話と共有体験の創出

マインドフルネスと集中力の向上

脳科学的根拠: 注意力と集中力は学習効果に直結します。マインドフルネス瞑想については、脳の構造に影響するという研究があります。例えば、マサチューセッツ総合病院とハーバード大学医学部の研究チームが2011年に発表した研究では、8週間のマインドフルネスプログラムの参加者で、学習や記憶に関わる海馬などの灰白質の濃度が高まっていました。

  • 研修セッション前の短時間マインドフルネス実践
  • 集中力を維持するための適切な休憩の挿入(ポモドーロテクニック等)
  • デジタルデトックスを取り入れた深い学習環境の構築

グーグルでは、マインドフルネスを取り入れた社内研修「Search Inside Yourself」が開発されました。

睡眠の質向上による学習効果の最大化

脳科学的根拠: 睡眠中に、海馬から大脳皮質へと記憶の転送と固定化が行われると考えられています。レム睡眠とノンレム睡眠は、それぞれ異なる形で記憶の統合と強化に関わるとされています。睡眠研究で知られるマシュー・ウォーカー教授(現カリフォルニア大学バークレー校)らが2007年に発表した研究では、一晩眠らずに過ごしただけで、新しいことを覚えるときの海馬の働きが低下し、記憶が残りにくくなることが示されています。

  • 重要な学習の前後に良質な睡眠を確保することの奨励
  • 睡眠の質を高めるための企業文化の構築(残業削減など)
  • パワーナップ(短時間仮眠)を取り入れた研修設計

社会的学習と協調学習の活用

脳科学的根拠: 他者の行動を観察するときにも、自分が同じ行動をするときと同じように活動する「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があります。ミラーニューロンは、1980年代から1990年代にかけて、イタリアのパルマ大学の研究チームがサルの脳で発見しました。人の脳にも同様の働きをする領域があると報告されていますが、学習や他者の理解にどこまで関わるかについては議論が続いています。

  • ペアやグループでの問題解決活動の設計
  • メンタリングやコーチングによる社会的学習の促進
  • 優れた実践者の行動モデリングと観察学習の機会創出

WONDERFUL GROWTHの人材育成支援

当社WONDERFUL GROWTHでは、感覚と経験だけに頼らず、脳科学・心理学・行動経済学などの学術知見を統合し、人と組織の成長を再現可能な仕組みとして設計しています。

研修の学びを行動につなげる人材育成に興味をお持ちの企業様は、ぜひ一度WONDERFUL GROWTHにご相談ください。貴社の人材育成課題に合わせたプランをご提案いたします。お問い合わせはこちらからお気軽にご連絡ください。

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

Next step

記事の内容を、自社に当てはめてみませんか。

Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。

✦ SHARE with カイシャの育成論

メディアでも、深く発信しています。

自社メディア『SHARE with カイシャの育成論』では、企業インタビューと人事用語辞典を通じて、より深い知見をお届けしています。