「優秀な人材ほど辞めてしまう」「せっかく採用しても3年以内に半数が離職する」。このような人材流出の悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。部下の定着を左右する要素の一つが、上司の「聞く力」です。
近年の組織行動学では、上司のコミュニケーション能力、特に「傾聴スキル」が、部下のエンゲージメントや離職意向に影響するとされています。
深刻化する人材流出と上司の責任
厚生労働省の「雇用動向調査」によると、2024年の日本の年間離職率は14.2%でした。また、同省の「新規学卒者の離職状況」では、2022年3月に大学を卒業して就職した人の33.8%が3年以内に離職しています。人材獲得競争が激化する中、一人の離職が企業に与える損失は小さくありません。米国人材マネジメント協会(SHRM)は、離職にかかるコストが本人の年収の150%に達することもあり、管理職では200〜250%にのぼると紹介しています。
厚生労働省の「雇用動向調査」(2024年)でも、転職入職者が前職を辞めた理由をみると、女性では「その他の個人的理由」を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.8%)に次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」(11.7%)が多くなっています。直属の上司との関係性は、部下の去就を左右する要因の一つと考えられます。
心理的安全性、承認、自己効力感をもたらす「聞く力」
心理的安全性の向上
ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱する「心理的安全性」は、チームパフォーマンスを左右する重要な要素です。上司が部下の話に真摯に耳を傾けることで、部下は「自分の意見や感情を安心して表現できる」という感覚を得られます。
この心理的安全性が確保されると、部下は失敗を恐れず挑戦的な業務に取り組むようになり、結果として組織への帰属意識や仕事への満足度が向上します。
承認欲求の充足
人間の基本的欲求の一つである「承認欲求」は、マズローの欲求階層説でも重要な位置を占めています。上司が部下の話を最後まで聞き、共感を示すことで、部下は「自分は価値のある存在として認められている」という実感を得られます。
特に、業務の成果だけでなく、プロセスや努力、悩みに対しても関心を示して聞くことで、部下の内発的動機が向上し、組織へのコミットメントが強化されます。
自己効力感の醸成
上司が部下の課題や悩みを丁寧に聞き、一緒に解決策を考えることで、部下の「自分にはできる」という自己効力感が育まれます。この自己効力感は、困難な状況に直面した際の粘り強さや、新しいスキル習得への意欲向上につながり、結果として組織での成長実感と定着率向上をもたらします。
1on1の時間を確保し、聞き方を段階的に身につける
環境設定と時間確保(開始から2週間)
まず、部下との1on1面談を月2回以上の頻度で設定しましょう。重要なのは、中断されない環境を作ることです。
- 会議室を確保し、スマートフォンは机に置かない
- 面談時間は最低30分を確保
- カレンダーに「1on1(部下名)」として固定枠を設定
- 「今日は君の話を聞かせてほしい」という姿勢で臨む
アクティブリスニングの基本技術習得(開始から1か月)
効果的な傾聴には技術が必要です。以下の基本技術を意識して実践してください。
- オープンクエスチョン:「どう思う?」「なぜそう感じるの?」
- ペーシング:相手の話すスピードに合わせる
- ミラーリング:「つまり○○ということだね」と要約して返す
- 非言語コミュニケーション:うなずき、前傾姿勢、アイコンタクト
感情への共感と承認(開始から6週間)
部下の感情面にも注意を向け、共感を示すことが重要です。
- 「それは大変だったね」「よく頑張っているね」という承認の言葉
- 感情を言語化:「少し疲れているように見えるけど、どう?」
- 判断や評価を控え、まず受け入れる姿勢を示す
課題解決への協働アプローチ(開始から2か月)
聞くだけでなく、一緒に解決策を考えることで信頼関係を深めます。
- 「どうしたらいいと思う?」と部下の意見を先に聞く
- 複数の選択肢を一緒に検討する
- 「私はこう思うけど、君はどう?」と対話的に進める
- 決定事項は部下に選択してもらう
継続的フォローアップ(開始から3か月以降)
聞く力は継続的な実践により向上します。
- 前回の面談内容を記録し、次回に確認する
- 「前回話していた○○、その後どう?」というフォロー
- 部下からのフィードバックを求める
- 他の上司と聞く力向上の取り組みを共有する
組織的な取り組みで効果を最大化
個人の努力だけでなく、組織全体で聞く力向上に取り組むことで、より大きな効果が期待できます。
推奨される組織的施策:
- 管理職研修での傾聴スキル研修の実施
- 1on1面談の制度化と運用ガイドライン策定
- 部下からの上司評価項目に「聞く力」を追加
- 聞く力に優れた管理職の表彰制度導入
- 外部講師による実践的な研修プログラムの活用
まとめ:聞く力が創る持続可能な組織
上司の聞く力向上は、単なるコミュニケーションスキルの改善にとどまりません。部下の心理的安全性を高め、承認欲求を満たし、自己効力感を醸成することで、組織全体のエンゲージメント向上と持続可能な成長を実現します。
重要なのは、聞く力を「スキル」として体系的に学び、継続的に実践することです。個人の努力と組織的な支援が組み合わさることで、離職率の大幅な改善と、より魅力的な職場環境の創造が可能になります。
面談の時間の確保から、アクティブリスニングの基本、感情への共感と承認、課題解決への協働、継続的なフォローアップまでの取り組みは、どの組織でも明日から実践できる内容です。しかし、より効果的な聞く力向上と組織的な定着率改善を目指すなら、専門的な研修プログラムの活用をお勧めします。体系的なカリキュラムと実践的な演習を通じて、管理職の聞く力を確実に向上させ、あなたの組織の人材定着率向上を実現しませんか。
聞く力向上研修や1on1面談制度の構築について、より詳しい情報をお求めの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
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Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。