ハラスメントの相談窓口は、多くの企業がすでに設けています。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)に、その状況が表れています。パワーハラスメント(以下、パワハラ)の予防・解決に取り組む企業のうち、「相談窓口の設置と周知」を実施している企業は86.0%でした。ところが、パワハラを受けた人のうち「社内の相談窓口に相談した」人は4.5%です。窓口が使われるかどうかを分けるのは、設置の有無よりも、相談を受ける人の対応力と、相談の後に会社が動いた実績です。
パワハラを受けた人の36.9%は、何もしていない
この調査は厚生労働省の委託事業として行われ、2024年5月に公表されました。企業調査は2023年12月に従業員30人以上の企業・団体を対象に行われ、有効回答は7,780件です。労働者等調査は2024年1月に、全国の企業・団体に勤める20〜64歳の男女8,000名を対象に行われました。
労働者等調査では、過去3年間に勤務先でパワハラを受けた人は19.3%、セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)を受けた人は6.3%でした。パワハラを受けた後の行動(複数回答)で最も多いのは、「何もしなかった」の36.9%です。続くのは「家族や社外の友人に相談した」の19.3%、「社内の同僚に相談した」の18.3%、「社内の上司に相談した」の17.9%でした。「社内の相談窓口に相談した」は4.5%にとどまります。
目を引くのは、「会社を退職した」が14.9%あることです(調査の対象は現在働いている人のため、退職後に転職や再就職をした人に限った値です)。窓口に相談した人よりも、職場を去った人のほうが多いことになります。セクハラでは「何もしなかった」が51.7%とさらに高く、「社内の相談窓口に相談した」は2.8%でした。
企業調査では、過去3年間にパワハラの相談があった企業は64.2%でした。相談は確かに届いていますが、届いているのは職場で起きていることの一部です。窓口は設けられていても、設置と利用の差は開いたままです。
「相談しても変わらない」という見通しが相談を妨げている
何もしなかった理由として最も多かったのは、「何をしても解決にならないと思ったから」です。パワハラで65.6%、セクハラで52.7%を占めました。相談の手段を知らないことよりも、相談した先の結果に期待が持てないことが、相談を妨げています。
会社が知っていても、半数超が対応していない
この見通しには根拠があります。自分がパワハラを受けていることを勤務先が「認識していた」と答えた人は37.1%でした。その人たちに勤務先の対応を尋ねると、「特に何もしなかった」が53.2%で最も多くなっています。セクハラでも、勤務先が認識していたと答えた人は23.9%、そのうち「特に何もしなかった」は42.5%でした。
相談したことを理由に不利益な取扱い(解雇・降格・減給・不利益な配置転換など)を受けたという回答も、パワハラで6.1%、セクハラで10.0%ありました。勤務先がハラスメントと認めたかどうかについては、「ハラスメントがあったともなかったとも判断せずあいまいなままだった」が、パワハラで61.4%、セクハラで47.5%と最も多くなっています。相談が放置されたり、あいまいに終わったりした経験は、周りの社員にも伝わります。次に困った人が黙ることを選ぶのは、自然な成り行きです。
担当者の対応力を整えている企業は半数に届かない
企業の側の備えにも偏りがあります。パワハラの予防・解決に取り組む企業のうち、「相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするための対応(マニュアルの作成、研修等)」を実施している企業は47.8%でした。相談者や行為者のプライバシーを保護する措置の実施と周知は55.9%、相談したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨の定めと周知・啓発は67.8%です。窓口そのものは、取り組む企業の86.0%が設けています。相談を受ける人の準備と、相談者を守る約束の周知は、それに追いついていません。
取り組みを進める企業が挙げた課題で最も多かったのは、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」の59.6%でした。企業の側が判断に自信を持てないと、窓口は、ハラスメントと言い切れる案件だけを受け付ける場になりやすいと考えられます。相談する側も、自分の受けた言動がハラスメントに当たるのか確信が持てず、窓口を訪ねることをためらいます。
窓口を「判定の場」から「早めに話せる場」に変える
使われる窓口にするために見直すのは、受け付ける範囲、相談を受ける人、相談した後の流れと結果の伝え方です。
図解01
窓口を
設置と利用の差
パワハラの
パワハラを
パワハラの
パワハラを
- 1受け付けるのは、
該当するか 微妙な 段階から「ハラスメントかどうか 分からない 段階でも 相談できます」 - 2相談を
受ける 担当者と 管理職に、 聞き方を 教える事実と 受け止めを 分けて 聞くこと、その 場で 結論を 出さないこと - 3相談した
後の 流れと、 相談者が 守られることの 周知相談の 受付から 事実の 確認、 対応の 決定、 本人への 報告までの 流れ - 4対応した
結果を、 個人が 特定されない 形で 社内に 返す相談の 件数と、どのような 対応を 取ったかの 概要
受け付けるのは、該当するか微妙な段階から
厚生労働省のパワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、相談窓口に、広く相談に対応するよう求めています。パワハラが現実に生じている場合に加えて、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合も対象です。この考え方を、窓口の案内文にそのまま書きます。「ハラスメントかどうか分からない段階でも相談できます」と明示し、その後の対応は本人の意向を確かめてから決める運用にすると、相談する側の迷いが減ります。
相談を受ける担当者と管理職に、聞き方を教える
指針は、担当者が適切に対応できるようにする例を挙げています。担当者と人事部門が連携できる仕組み、留意点を記したマニュアル、相談対応についての研修です。研修では、事実と受け止めを分けて聞くこと、その場で結論を出さないこと、本人の望みを確かめることを練習します。実際の場面を想定した演習が向いています。
管理職にも同じ準備が要ります。調査では、窓口よりも上司や同僚に相談した人のほうが多く、最初に話を聞くのは現場の上司であることが少なくありません。部下から相談を受けたときに一人で抱え込まず、本人の了解を得て窓口や人事につなぐ手順を、管理職研修で扱います。
相談した後の流れと、相談者が守られることの周知
相談をためらう人が知りたいのは、話した内容が誰に伝わり、その後に何が起きるかです。相談の受付から事実の確認、対応の決定、本人への報告までの流れを文書にまとめて、あらかじめ社員に示します。労働施策総合推進法は、相談したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。この点と、相談者のプライバシーが守られることを、就業規則と社内の案内の両方に書きます。
社内の人には話しにくいという声に備えて、社外の窓口もあわせて置く方法があります。調査では、相談窓口を設けている企業のうち「社内のみに設置している」が55.7%、「社内と社外の両方に設置している」が41.2%でした。
対応した結果を、個人が特定されない形で社内に返す
「何をしても解決にならない」という見通しを変えるのは、会社が動いた事実です。年に1回でも、相談の件数と、どのような対応を取ったかの概要を、個人や部署が特定されない形で社員に伝えます。相談した本人には、対応の経過と結果を、期限を決めて報告します。結論が出るまでに時間がかかる場合も、途中の状況を伝えれば、放置されたという受け止めを減らせます。
2026年10月1日からは、カスタマーハラスメントと、求職者等へのセクハラについても、防止措置が事業主の義務になりました。相談を受ける範囲が広がるいまは、窓口の運用をまとめて見直す機会です。
相談件数の少なさを、安心の材料にしない
相談が1件もないことは、ハラスメントが起きていないことを意味しません。受けた人の多くが何もしないという調査結果を踏まえると、件数が少ない窓口ほど、使われていない可能性を疑う必要があります。運用を見直した後に、ハラスメントに当たるか分からない段階の相談が増えてくれば、窓口は機能し始めています。
件数のほかに、社員アンケートで「窓口を知っているか」「相談したら対応してもらえると思うか」を定期的に尋ねると、信頼の変化を追えます。受付から最初の返答までの日数を記録しておくことも、運用の目安になります。
調査では、勤務先がハラスメントの予防・解決に「積極的に取り組んでいる」と答えた人のうち、パワハラを経験した人は15.2%でした。「あまり取り組んでいない」と答えた人では35.1%です。勤務先の取り組みへの評価が高いほど、同僚や上司に相談した割合が高く、「何もしなかった」の割合が低いことも示されています。
まとめ
相談窓口は多くの企業にありますが、パワハラを受けた人のうち窓口に相談した人は4.5%で、36.9%は何もしていません。背景には、相談しても変わらないという見通しと、それを裏づける会社の対応があります。受け付ける範囲を広げ、相談を受ける人を育て、相談した後の流れと結果を社員に伝えることが、窓口を立て直す道筋です。まずは、自社の窓口の案内文を読み返し、相談した後に何が起きるかが書かれているかを確かめてください。
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出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」報告書(2024年5月公表。企業調査は2023年12月実施、労働者等調査は2024年1月実施)/厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)/厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(2026年10月2日参照)
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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