退職につながる不満を、深刻化する前に拾う場
1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に一対一で対話する場として、多くの企業に広がっています。パーソル総合研究所が2025年2月に公表した「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」によれば、直近半年で1on1を実施したと答えた割合は55.7%にのぼります。導入目的の第1位は「社員の主体性・自律性の向上」(52.5%)であり、人材育成と定着の中核施策として位置づけられていることがわかります。
一方で同調査は、約3人に1人が1on1の効果を実感できていないという課題も明らかにしています。リクルートマネジメントソリューションズの実態調査でも、導入率は従業員3,000名以上で75.6%、700〜2,999名で69.9%、100〜699名で57.7%と規模によって差があり、「導入はしたものの機能していない」状態が少なくありません。
1on1が成果を左右する理由は、離職の構造にも表れています。エン・ジャパンの「『本当の退職理由』調査(2024)」では、退職時に本当の理由を会社へ伝えなかった人が半数以上(54%)を占め、本当の退職理由のトップは「人間関係」でした。職場の人間関係の悪化を理由に挙げた割合は35%から46%へと上昇しています。厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)でも離職率は14.2%で推移しており、表に出ない不満を早期に把握できる対話の場が、定着の鍵を握っています。
本当の退職理由は会社に届きにくいものです。だからこそ、評価とは切り離された1on1の対話が、不満が深刻化する前のシグナルを拾う役割を担います。
目的の混同や上司の話しすぎが、1on1を形骸化させる
1on1が「実施しているのに効果が出ない」状態に陥るのには、共通する構造的な原因があります。
目的が共有されず、評価面談と混同されている
1on1は本来、部下の成長と内省を支援する場です。しかし目的が合意されていないと、上司が進捗確認や指示出しの場として使い、部下は「評価されている」と身構えてしまいます。結果として本音が出ず、対話が表面的なものに終わります。
上司が「話す場」にしてしまい、傾聴が不足している
1on1の主役は部下です。ところが上司が話す時間が大半を占めると、部下が考えを深める機会が失われます。パーソル総合研究所の調査で「上司と部下が本音で話せる関係になっている」と答えた割合が40.2%にとどまるのは、傾聴の不足が一因と考えられます。
単発で終わり、継続と改善の仕組みがない
1on1は一度実施しただけでは信頼関係も行動変容も生まれません。記録や振り返りがなく、上司の進め方を改善する仕組みも整っていないと、回を重ねても質が上がらず、やがて予定が後回しにされて形骸化します。
目的の合意に始まり、記録と振り返りで続ける
図解01
目的の
- 1目的を
合意する評価面談や 進捗会議とは 別の 場 - 2続けられる
場を 設計する2週間に 1回・ 30分程度を 目安 - 3傾聴と
問いかけ部下が 7割以上を 話す - 4フィードバックと
次の 一歩次回までの 行動を 部下自身の 言葉で 決める - 5記録と
振り返り前回の 合意事項を 今回の 冒頭で 振り返る
部下:7割以上を話す。上司:開かれた問いかけ。中心にあるもの:部下の成長と定着。
目的を定義し、部下と合意する
最初に「この1on1は何のための時間か」を上司と部下で言語化し、合意します。評価や進捗管理ではなく、部下の成長・キャリア・コンディションを支援する場であることを明確に伝えます。目的が共有されると、部下は安心して本音を話せるようになります。
目的について合意できたかどうかは、次の状態で確かめます。
- 1on1の目的を、部下が自分の言葉で説明できる。
- 評価面談や進捗会議とは別の場であることを、初回にはっきり伝えている。
場を設計する(頻度・時間・アジェンダ)
効果的な1on1には、続けられる設計が欠かせません。頻度は2週間に1回・30分程度を目安とし、部下が話したいテーマを事前に共有できる軽いアジェンダを用意します。話題は仕事の悩み、キャリア、体調や人間関係まで幅広く扱えるようにし、上司の都合で安易に日程を変更しないことが信頼につながります。
続けられる設計になっているかどうかは、日程の扱い方に表れます。
- 次回の日程と、部下が持ち込みたいテーマが事前に決まっている。
- 直近3回の1on1を、予定どおり実施できている。
傾聴と問いかけで部下に主導権を渡す
1on1では、上司が話す時間を意識的に減らし、部下が7割以上を話す状態を目指します。「どう感じていますか」「何が障害になっていますか」といった開かれた問いかけで内省を促し、相手の言葉を最後まで聴ききります。沈黙を恐れず、答えを急かさない姿勢が、本音と気づきを引き出します。
部下に主導権を渡せたかどうかは、対話の中身から判断できます。
- 直近の1on1で、部下の発話時間が上司を上回っていた。
- 指示や結論ではなく、問いかけで対話を進められた。
フィードバックと次の一歩を具体化する
傾聴で終わらせず、部下の成長を後押しするフィードバックを行います。良い点は具体的な行動に触れて承認し、改善点は人格ではなく事実と影響を示して伝えます。そのうえで「次の1on1までに何に取り組むか」を部下自身に決めてもらい、小さな次の一歩を合意します。行動が具体化されることで、対話が成果に結びつきます。
対話を成果に結びつけられたかは、次の点で振り返ります。
- フィードバックを、具体的な事実や行動に基づいて伝えた。
- 次回までの行動(ネクストアクション)を、部下自身の言葉で決めた。
記録・振り返りと上司のトレーニングで継続する
1on1の質は、継続と改善の仕組みで決まります。話した内容と合意した行動を簡潔に記録し、次回の冒頭で前回の振り返りから始めます。あわせて、上司自身が傾聴やフィードバックのスキルを学ぶ機会を設けることが重要です。1on1は属人的な才能ではなく、訓練で習得できる技術だからです。組織として研修やロールプレイの場を用意することで、管理職全体の対話力が底上げされます。
継続と改善の仕組みが回っていれば、次のことが習慣になっています。
- 前回の合意事項を、今回の冒頭で振り返っている。
- 上司自身も、傾聴やフィードバックを学ぶ機会(研修・練習)を得ている。
1on1の効果をどう測定するか
1on1を投資として続けるには、効果を可視化する視点が役立ちます。まず「実施できているか」という量(実施率・継続率)を確認し、次に「部下がどう受け止めたか」という質を、簡単なサーベイで把握します。さらに、エンゲージメントスコアや離職率、目標達成度といった成果指標と照らし合わせることで、1on1が組織にもたらす変化を捉えられます。短期で結論を出さず、半年から1年の単位で推移を見ることが大切です。
数値だけでなく、「部下が自分から相談に来るようになった」「退職の兆しを早く察知できた」といった現場の変化も、定着への重要なサインです。量と質、定量と定性の両面から見ることで、次に打つべき改善策が明確になります。
まとめ
1on1ミーティングは、導入すること自体が目的ではありません。目的の共有、続けられる場の設計、傾聴と問いかけ、具体的なフィードバックと次の一歩、そして記録と上司のトレーニングによる継続を丁寧に積み重ねることで、1on1は形だけの面談から、部下の成長と定着を生む対話へと変わります。本音が表に出にくい時代だからこそ、評価から切り離された一対一の対話が、人と組織の力を引き出します。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
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