給与よりも「能力を活かせるか」が問われる時代に
厚生労働省が2025年10月24日に公表した「新規学卒就職者の離職状況」によると、2022年3月に大学を卒業した新規学卒者のうち、3年以内に離職した人の割合は33.8%でした。前年度から1.1ポイント低下したものの、大卒者のおよそ3人に1人が入社3年以内に離職している状況は続いています。
この数字を見て、「給与や待遇に不満があるのだろう」と考える人事担当者は少なくないでしょう。株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2026年6月に発表した「若手の離職実態調査2026」によると、社会人1〜3年目のうち62.2%が「会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しており、離職を意識すること自体は珍しくありません。同調査は2026年2月19日から25日にかけて、社会人1〜3年目(大学・大学院卒)968名を対象に実施されました。しかし同調査は、「給与や待遇への不満が離職の主な原因である」という前提を見直す必要があることを示しています。
「能力を活かせないこと」が離職理由の2位に浮上
同調査で「実際の離職理由」を尋ねたところ、最も多かったのは「労働環境・条件がよくない」(22.4%)でした。これは2023年の前回調査でも上位であり、傾向は変わっていません。
注目すべきは2位以下の変化です。「仕事で自分の能力や持ち味を発揮できない」が21.6%で2位となり、前回調査の12位から大きく順位を上げました。一方、「給与水準に満足できない」は前回2位(18.4%)から今回6位(8.0%)へと後退しています。
「辞めたいと思った理由」(離職想起理由)では、依然として「仕事にやりがい・意義を感じない」(21.8%)や「給与水準が満足できない」(19.5%)が上位を占めています。つまり、辞めたいと感じる段階では給与への不満が大きく作用していても、実際に離職を決断する段階では「自分の能力や持ち味を発揮できているか」のほうが決め手になっている、というギャップが浮かび上がります。
調査を担当した同社測定技術研究所の主任研究員・松本洋平氏は、「実際の離職要因として、給与水準といった人事側でコントロールできる要因が減り、現場の運用力が問われる部分や、仕事の内容・職場との関係性など現場のマネジメントの要因が大きく示された」と述べています。
待遇改善だけに投資しても、若手の定着には直結しにくい可能性があるということです。同調査は、離職を防ぐ鍵として上司との関係性・職場との関係性・個人の状態という三つの観点を示しており、これをもとに人事・現場が取り組める三つの設計を整理します。
定着を左右する三つの設計
設計1:上司との「仕事の進め方」の相性を点検する
調査では、上司との相性に関する項目の中でも「上司と自分の仕事の進め方が合っている」という点で、離職想起がある在職者と実際の離職者の差が最も大きく出ました。反りが合わない上司との関係そのものより、日々の仕事の進め方のズレが定着に影響しているといえます。
実施ステップ
- 月1回の1on1を、仕事の進め方だけを話し合う回に充てる
- 指示の出し方・報告の求め方について、部下から率直な感想を聞く機会を設ける
- 管理職研修に「部下ごとに進め方を合わせる」観点を組み込む
実施チェック
- 1on1で進め方そのものを議題にした回が、過去3か月に1回以上あるか
- 部下が上司の指示スタイルにやりにくさを感じていないか、匿名で確認できる手段があるか
- 管理職が自分のマネジメントスタイルの癖を言語化できているか
設計2:率直に言い合える心理的安全性をつくる
職場との関係性では、「職場のメンバーには思ったことを率直に言い合える安心感がある」「職場の目標や成果をメンバーとともに達成したいと思う」という項目で、離職想起の有無による差が大きく見られました。制度や待遇よりも、日々のやり取りの安心感が定着を支えていることがうかがえます。
実施ステップ
- チーム内で「言いにくいことを言ってもよい」という前提を、リーダーが明言する場を設ける
- 会議で若手から先に発言してもらう、反対意見を歓迎するなどのルールを試す
- チームの心理的安全性を簡易サーベイで定点観測する
実施チェック
- 若手が会議で意見を述べる機会が定期的に確保されているか
- 反対意見や懸念を伝えた社員が不利益を受けていないか
- チームの目標を若手も「自分ごと」として語れているか
設計3:自立的に仕事を進め、成長を実感できる状態を設計する
調査では、離職想起がありながらも実際には離職しなかった人は、スキル習得や自立的な仕事の遂行、成長実感、成果への意欲、会社への誇りといった項目で高い傾向が見られました。任される経験と、その積み重ねを本人が実感できる仕組みが、踏みとどまる力になっているといえます。
実施ステップ
- 本人の力量より少し背伸びが必要な業務を、フォロー体制とセットで任せる
- 半年・1年単位で「できるようになったこと」を本人と上司で言語化する機会を設ける
- 裁量の範囲をあらかじめ明確にし、任せた後に細かく口を出さない
実施チェック
- 直近半年で新しい役割や裁量を任された若手社員が、どの程度いるか把握しているか
- 成長実感を確認する面談やサーベイの機会が定期的にあるか
- 若手本人が「次に挑戦したいこと」を言語化できているか
まとめ
給与や制度の整備は、若手の離職を防ぐための土台として引き続き重要です。しかし今回の調査結果は、それだけでは定着に直結しにくくなっていることを示しています。上司との仕事の進め方、職場の心理的安全性、そして本人が成長を実感できる裁量設計。この三つを、待遇面の対策と並行して見直すことが欠かせない時期に来ています。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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