Practice

更年期の不調を誰にも相談できない社員に、職場ができること

更年期の症状が中等度以上だった女性の65.5%が、症状を誰にも相談したことがないと答えています。経済産業省は、女性特有の健康課題による経済損失を年間3.4兆円と試算しました。制度を整えるだけでなく、管理職を含めた研修で理解を広げることが、実効性を左右する分かれ目です。

公開日
2026/08/09
更新日
2026/09/28
読了時間
約 10 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
女性活躍健康経営法改正

「更年期かもしれない」と感じても、忙しさを理由に受診を後回しにしている社員は、多くの職場に一定数存在すると考えられます。厚生労働省と経済産業省がそれぞれ公表した最新の調査・試算は、この「後回し」が個人の問題にとどまらず、企業経営にとっても見過ごせない規模の損失につながっていることを示しています。

更年期の悩みを抱える女性の65.5%が「誰にも相談していない」

厚生労働省が推進する国民運動「スマート・ライフ・プロジェクト」が2026年2月27日に公表した実態調査によると、更年期を過ぎた女性のうち症状が中等度以上だった人の65.5%が、症状について病院や家族・友人など誰にも相談したことがないと回答しました。相談した人に限ると、そのうち50.0%が病院・クリニックを受診しており、受診者は全員が更年期障害と診断されています。受診さえすれば診断と対応につながる可能性が高いにもかかわらず、多くの人が症状を一人で抱え込んでいるのが実情です。同調査では、職場で困った症状として「疲れやすく、長時間働くのがつらくなった」がもっとも多く挙げられ、次いでホットフラッシュ(急なほてり・動悸・めまい)による集中力の低下が続きました。

更年期を過ぎた女性のうち、症状が中等度以上だった人の65.5%が「誰にも相談したことがない」と回答しています。相談しなかった理由としてもっとも多かったのは「相談しても解決しないと思ったから」でした。
(厚生労働省「スマート・ライフ・プロジェクト」女性の更年期に関する意識の実態調査(2026年2月27日発表))

女性特有の健康課題は、個人の問題であると同時に、企業経営にとっても無視できない規模の損失を生んでいます。経済産業省が2024年2月に公表した試算によると、対象は月経随伴症状・更年期症状・婦人科がん・不妊治療の4項目です。症状がありながら対策を取れていない人の欠勤・パフォーマンス低下・離職や、それに伴う追加採用コストなどを積み上げた経済損失は、社会全体で年間3.4兆円にのぼります。このうち更年期症状による損失は1.9兆円で、4項目の中でもっとも大きな割合を占めています。逆に、日本のあらゆる企業がこうした健康課題への支援に取り組んだ場合、年間1.1兆円のプラスの効果が見込めるとも試算されています。

2026年4月施行の改正女性活躍推進法で何が変わったか

2026年4月1日、改正女性活躍推進法が施行されました。今回の改正では、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の企業に「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が新たに義務づけられ、301人以上の企業でも公表項目が拡大されています。

あわせて、法律上「女性活躍の推進は、女性の健康上の特性に留意して行うべきである」ことが明確化されました。これを受けて、一般事業主行動計画の策定にあたっては、男女の性差を踏まえ、とくに職場における女性の健康上の特性に係る取り組みを実施することが望ましいとされています。男女間賃金差異や女性管理職比率のように一律で公表が義務づけられた項目とは異なり、行動計画の中でどう取り組むかは各企業の判断に委ねられている点には注意が必要です。

厚生労働省は、女性の健康支援に関する基準を満たした企業を対象に、既存の「えるぼし」認定を拡張した「えるぼしプラス」「プラチナえるぼしプラス」という認定制度もあわせて創設しました。認定を受けるには、次の4つの基準をすべて満たす必要があります。

  • 女性の健康上の特性に配慮した休暇制度などを設けていること
  • 配慮に関する方針を示し、制度内容とともに労働者へ周知していること
  • 配慮に関する研修その他、労働者の理解を促進する取り組みを実施していること
  • 配慮に関する業務を担当する者を選任し、労働者からの相談に応じさせる措置を講じていること

経済産業省の調査では、従業員側の約7割が「健康や体に関する十分な支援がない」と感じている一方、企業側では約3割が「何をすればよいか分からない」、約2割が「当事者である従業員と話ができない」と回答しており、従業員と企業の間には認識のずれがあります。制度と実態のこのギャップを埋めることが、今回の法改正が投げかけている課題だといえます。

取り組みを始める前の注意点

健康支援の制度を設計するにあたっては、2つの点に注意が必要です。第一に、更年期障害や不妊治療は男性にも関係する健康課題であり、「女性だけ」を対象とした特別扱いにせず、性別を問わず誰もが活用できる制度として設計することが求められます。第二に、健康情報はとくに配慮を要する個人情報です。相談内容の秘密が守られる体制を整えないまま制度だけを整備すると、かえって従業員が利用をためらう原因になりかねません。

実態の把握から経営指標への位置づけまで、支援の進め方

各ステップは、経済産業省と厚生労働省が示す考え方に基づいています。

匿名アンケートで実態を把握する

社内の状況を知らないまま施策から着手すると、現場のニーズとずれた投資になりかねません。まずは男女を問わずすべての労働者を対象に、匿名のアンケートを実施しましょう。確認すべき項目は、抱えている健康課題、仕事への影響度(欠勤につながるアブセンティーイズムと、出社していても効率が落ちるプレゼンティーイズムの両方)、症状や対処法に関するヘルスリテラシー、会社に求める支援内容の4点です。

実態把握の仕組みとしては、次の状態を目指します。

  • 男女を問わず全従業員を調査対象にしている
  • 回答者が特定されない匿名設計になっている
  • 集計結果を経営層と共有し、施策の優先順位づけに使う仕組みがある

ヘルスリテラシー向上の研修を実施する

実態をつかんだら、次は理解を広げる番です。とくに管理職や男性従業員への理解促進が重要になります。当事者だけが知識を持っていても、上司や周囲の理解がなければ、休暇取得や配慮の申し出はしにくいままです。研修会の開催に加えて、啓発冊子の配布や解説動画の配信など、忙しい従業員でも触れやすい手段を組み合わせるとよいでしょう。

研修が理解の広がりにつながっているかどうかは、次の状態から判断できます。

  • 管理職向けの研修を年1回以上実施している
  • 当事者への配慮だけでなく、周囲の理解を促す内容になっている
  • 研修後にアンケートなどで理解度の変化を確認している

休暇制度と柔軟な働き方を整備する

理解が広がったら、実際に休みやすく働きやすい仕組みを整えます。生理休暇を取得しやすい環境の整備、通院のための時間単位・半日単位の休暇、在宅勤務など柔軟な勤務形態の導入が代表的な施策です。すでに関連する休暇制度がある企業でも、取得率が低い場合は、申請のしにくさが利用の妨げになっていないかを見直す必要があります。

休暇制度が実際に使われるものになっているかは、次の点に表れます。

  • 既存の休暇制度の取得率と、取得しにくい理由を把握している
  • 時間単位・半日単位で休暇を取得できる設計になっている
  • 制度の存在と申請方法が全従業員に周知されている

相談しやすい体制をつくる

制度を整えても、相談先がなければ活用は進みません。産業医・保健師などの産業保健スタッフや外部のEAP(従業員支援プログラム)と連携した相談窓口を設置し、オンラインでの相互交流の場や婦人科検診の受診支援なども組み合わせて、相談のハードルを下げましょう。

相談のハードルが下がった職場では、次の状態が整っています。

  • 相談窓口の存在と利用方法が全従業員に周知されている
  • 相談内容の秘密が守られる運用になっている
  • 相談後のフォローアップ体制が用意されている

行動計画へ位置づけ、経営指標としてモニタリングする

最後に、ここまでの取り組みを一時的な施策で終わらせず、経営の仕組みに組み込みます。女性活躍推進法にもとづく一般事業主行動計画に女性の健康支援の取り組みを明記し、えるぼしプラスの認定基準と自社の充足状況を照らし合わせましょう。健康経営に取り組む企業の株価が、市場平均を上回って推移してきたとの分析もあります。女性の健康支援についても、単発の施策で終わらせず、人的資本投資の一環として毎年の効果測定と改善を伴うPDCAで取り組むことが望まれます。

取り組みを経営の仕組みに組み込めたと言えるのは、次の状態に達したときです。

  • 一般事業主行動計画に女性の健康支援の取り組みを盛り込んでいる
  • えるぼしプラスの認定基準に対する自社の充足状況を確認している
  • 取り組みの効果を毎年振り返り、改善につなげる仕組みがある

まとめ

女性特有の健康課題への支援は、対象者だけの取り組みでは機能しません。管理職を含めた組織全体のヘルスリテラシーと、相談しやすい職場文化があってはじめて、制度は実際に使われるようになります。制度を整えるだけでなく、経営層・管理職への研修を通じて理解を広げることが、実効性を左右する分かれ目になります。

女性の健康支援や、管理職・全社向けのヘルスリテラシー研修の設計についてご相談をご希望の方は、下記より資料請求ページへお進みください。

資料請求はこちら

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

Next step

記事の内容を、自社に当てはめてみませんか。

Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。

✦ SHARE with カイシャの育成論

メディアでも、深く発信しています。

自社メディア『SHARE with カイシャの育成論』では、企業インタビューと人事用語辞典を通じて、より深い知見をお届けしています。