一定の年齢で管理職を外れる「役職定年」は、いまも多くの企業で続いています。人事院の調査では、役職定年制がある企業の95.3%が今後も制度を続けると答えました。一方、役職定年を経験した50代では、37.7%が仕事へのやる気の低下を感じたとする調査があります。ベテラン社員の力を生かせるかどうかは、制度の有無よりも、役職を外れる前後の数年間に、本人の役割と上司との対話をどう整えるかにかかっています。
役職定年は55歳、配置先は同格のスタッフ職が最も多い
人事院の「令和5年民間企業の勤務条件制度等調査」(2023年10月1日現在。常勤従業員50人以上の企業が対象で、4,208社が回答)によれば、事務・技術関係職種の従業員がいる企業のうち、役職定年制がある企業は16.7%でした。役職を外れる年齢は、部長級・課長級ともに55歳とする企業が最も多く、部長級で33.5%、課長級で40.3%です。役職定年後の配置先は「同格のスタッフ職」とする企業が最も多く、部長級で42.1%、課長級で40.6%を占めます。
東京商工リサーチが2025年6月に行った調査(有効回答6,483社)でも、役職定年制を導入している企業は21.8%でした。導入している企業の割合は、資本金1億円以上の大企業で41.0%、1億円未満の中小企業で17.8%と、規模による差が開いています。「導入していたが廃止」は2.6%にとどまり、「導入を検討している」企業も10.6%ありました。
高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用の確保を事業主に義務づけ、70歳までの就業機会の確保を努力義務としています。55歳で役職を外れ、65歳まで働くとすれば、役職のない立場で過ごす期間は10年に及びます。役職定年の後の年月は、定年までの短い残りの期間とは言えなくなっています。
役職を外れた直後に、やる気と会社への信頼が揺らぐ
パーソル総合研究所の「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年5月実施。従業員300人以上の企業に勤め、年齢を理由に役職を退いた経験がある50代の正社員300名)では、役職定年を経験した人の37.7%が「仕事に対するやる気・モチベーションが低下した」と答えました。「喪失感・寂しさを感じた」は34.3%、「会社に対する信頼感が低下した」は32.3%です。役職定年の直後の年収は、平均で23.4%下がっていました。
変化は行動にも表れます。「重要な仕事は若手や中堅メンバーに譲るようにしていた」が26.7%、「新しいことに挑戦しなくなった」が24.7%でした。後進に道を譲ること自体は自然な流れですが、挑戦をやめた状態が10年続けば、本人にとっても組織にとっても大きな損失になります。
図解01
役職を
- 仕事に対するやる気・
モチベーションが 低下した37.7% - 喪失感・
寂しさを 感じた34.3% - 会社に対する
信頼感が 低下した32.3%
記号1つが10%(役職定年を経験した人の割合)
役職定年後のことを考えずにいた人ほど、変化に戸惑う
同じ調査を読み解いたパーソル総合研究所のコラムは、役職定年の前に「仕事に対する考え方を変えていた」人ほど前向きな変化を経験し、具体的なキャリアプランを立てていたことが後ろ向きな変化を防ぐ備えになっていたと指摘しています。反対に、全体の2割近くが「役職定年後について考えないようにしていた」と答え、そうした人ほど役職定年の直後に後ろ向きな変化を経験していました。
役職定年への備えを、本人の心構えに任せきりにはできません。何歳で、どの役職を外れ、その後にどんな役割と処遇が待っているのかを知らなければ、考え方を切り替えようがないためです。会社の側から、時期に応じて情報と対話の機会を用意することが要ります。
50代に入ったら、役職のない働き方を本人と話し始める
役職定年を迎える数年前は、制度の中身を本人に正確に伝える時期です。役職を外れる年齢、その後の配置先の考え方、給与の変わり方を、就業規則や人事制度の資料に沿って説明します。知らされないまま迎えると、変化そのものより「聞いていなかった」ことへの不信が残ります。
あわせて、キャリア研修やキャリア面談で、これまでの経験のうち何を後の世代に渡せるか、役職がなくても続けたい仕事は何かを、本人が言葉にする機会を設けます。上司が同席する面談は評価の場と切り離し、本人の考えを聞くことに徹すると、話が深まります。
役職を外れる前に、次の役割と期待を言葉にして渡す
役職定年の半年ほど前には、役職を外れた後の役割を具体的に決めておきます。人事院の調査で最も多かった「同格のスタッフ職」への配置でも、肩書きを替えるだけで仕事の中身があいまいなままでは、本人は何を期待されているのか分かりません。役割には、たとえば次のようなものがあります。
- 専門性を生かす役割:技術や顧客との関係など、本人にしかない知識を使う仕事を任せる
- 後進を育てる役割:新任の管理職や若手の相談役として、経験を伝える場をつくる
- 部門をまたぐ役割:部署の境界にある課題や、新しい取り組みの立ち上げを担う
役割を伝えるときは、期待する成果と評価の基準もあわせて示します。年収が下がる場合は、その理由と、新しい役割で何を評価するのかを、本人が納得できるまで説明することが欠かせません。
役職を外れた後の1年は、元部下との関係を整え直す
役職を外れた直後は、周りの社員も戸惑います。かつての部下が上司になる職場では、指示の出し方や会議での発言の順番に気をつかい、互いに遠慮が生まれがちです。新しい上司には、年上の部下に何を任せ、どう相談するかを前もって考えておくよう、人事から働きかけます。
役職定年後の最初の1年は、上司との1on1を定期的に設け、新しい役割が本人の力に合っているか、仕事の量や裁量に無理がないかを確かめます。会社への信頼感の低下を3割を超える人が経験している以上、役職を外れた直後こそ、会社の側から関わり続ける姿勢を示すことが大切です。
まとめ
役職定年制がある企業の多くは、今後も制度を続ける意向です。制度を残すのであれば、役職を外れる数年前から制度を正確に伝え、外れる前に次の役割と評価の基準を渡し、外れた後の1年は上司との対話を続けることが要ります。まずは、自社で役職定年を迎える社員とその時期を一覧にし、一人ひとりと話し始める時期を決めることから始めてください。
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出典:人事院「令和5年民間企業の勤務条件制度等調査」(2023年10月1日現在)/東京商工リサーチ「早期・希望退職」「役職定年」に関するアンケート調査(2025年7月9日公表)/パーソル総合研究所「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年5月実施)、同研究所コラム「役職定年制度の運用実態とその功罪」
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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