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「103万円の壁」が178万円に|配偶者手当と扶養控除の実務を整える5つの実践ステップ

「103万円の壁」は令和7年度・令和8年度の税制改正で178万円まで引き上げられました。一方、配偶者手当の基準を据え置く企業は今も少なくありません。税と社会保険、二つの壁を整理し、人事が取るべき5つの実践ステップを解説します。

公開日
2026/08/25
更新日
2026/08/25
読了時間
9
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
年収の壁配偶者手当扶養控除税制改正

「103万円の壁」は2年連続の税制改正で178万円に

長年、パートやアルバイトで働く人の「手取りが減らない年収の上限」として知られてきたのが「103万円の壁」です。この基準は、令和7年度税制改正(2024年12月成立、2025年1月施行)と令和8年度税制改正(2025年12月19日に与党が税制改正大綱を公表し、2026年3月31日に法律が成立、原則2026年4月1日施行)により、2年連続で引き上げられました。所得税がかかり始める給与年収の目安は、2024年までの103万円から、2025年は160万円、2026年は178万円へと段階的に広がっています。

背景にあるのは、基礎控除と給与所得控除の引き上げです。令和8年度改正では、基礎控除の本則額が物価上昇率に連動して58万円から62万円へ引き上げられ、あわせて給与収入665万5,556円以下の人を対象とする基礎控除の特例が一律42万円となりました(2026年・2027年分の時限措置)。本則と特例をあわせた基礎控除は104万円です。給与所得控除の最低保障額も本則65万円から69万円に引き上げられ、時限の特例5万円を加えると74万円になります。基礎控除104万円とあわせると178万円という水準です。

配偶者手当の基準を103万円のまま据え置く企業は今も2割

制度が変わっても、企業側の手当基準は自動的には変わりません。厚生労働省・都道府県労働局が公表している「『配偶者手当』の在り方について」(人事院「職種別民間給与実態調査」に基づく、令和7年4月更新)によると、家族手当制度がある事業所は74.5%、そのうち配偶者に家族手当を支給している事業所は53.5%、さらに配偶者の収入による支給制限を設けている事業所は47.0%にのぼります。制限額の内訳は103万円が20.4%で最多、130万円が16.2%、150万円が3.5%と続きます。2016年の調査では収入制限のある配偶者手当のうち103万円を基準とする事業所が37.6%を占めていたため、8年間でほぼ半減したとはいえ、なお2割の企業が旧基準のまま据え置いていることになります。

手当基準は現場の働き方にも影響しています。厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」では、有配偶の女性パートタイム労働者の21.8%が、年収を一定額以下に抑える「就業調整」をしていると回答しました。就業調整をする理由としては、130万円を超えると社会保険の被扶養者から外れることを挙げた人が57.3%、103万円を超えると所得税がかかることを挙げた人が49.6%、配偶者の税制上の控除が減ることを挙げた人が36.4%、配偶者の勤務先の配偶者手当がもらえなくなることを挙げた人が15.4%という結果でした。税制の壁だけでなく、企業が独自に設ける配偶者手当の基準も、人材の働き方を左右していることがわかります。

「壁」は一つではない─税金の壁と社会保険の壁を分けて理解する

「年収の壁」は一つの基準を指す言葉のように見えて、実際には性質の異なる複数の基準の総称です。整理すると次のとおりです。

  • 123万円の壁(税金):扶養控除・配偶者控除の対象となるかどうかの基準です。令和7年度税制改正で103万円から123万円に引き上げられました。
  • 160万円の壁(税金):配偶者特別控除が満額(38万円)となる配偶者の給与収入の上限です。令和7年度税制改正で150万円から160万円に引き上げられました。
  • 178万円の壁(税金):本人に所得税がかかり始める給与年収の目安です。令和8年度税制改正により、2026年・2027年分に限り178万円まで引き上げられています(時限の特例を除いた本則ベースでは131万円です)。
  • 特定親族特別控除(税金・新設):19歳から22歳の学生など「特定親族」がいる場合に令和7年度税制改正で新設された控除です。これまで103万円が目安とされてきた学生アルバイトの収入基準が、150万円まで広がりました。
  • 106万円の壁(社会保険):週20時間以上・月額賃金8.8万円以上などの条件を満たすと、勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が生じる基準です。対象となる企業規模の要件は現在の「51人以上」から2027年10月に「36人以上」へ、2035年10月には企業規模を問わず全企業に拡大される予定です。月額8.8万円という賃金要件自体を撤廃する規定も年金制度改正法に盛り込まれていますが、施行日は本記事の執筆時点(2026年8月)で政令が未制定のため確定していません。
  • 130万円の壁(社会保険):配偶者の社会保険の扶養に入れる年収の上限です。今回の税制改正の対象外で、従来どおり変更はありません。

税金の壁が引き上げられても、社会保険の壁は別の法律・別のスケジュールで動いています。「103万円の壁がなくなった」という情報だけを見て社会保険の扱いまで変わったと誤解すると、給与計算や手当支給の実務でミスにつながりかねません。

人事が押さえるべき5つの実践ステップ

ステップ1 自社の配偶者手当・家族手当の収入基準を洗い出す

就業規則・給与規程・賃金テーブルを確認し、配偶者手当(家族手当・扶養手当)に収入制限があるかどうか、あるとすれば103万円・106万円・130万円・150万円のいずれを基準にしているかを特定します。あわせて対象となる従業員数と支給総額を把握しておくと、後の労使協議で具体的な議論がしやすくなります。

実施チェック:現行の収入制限額と対象人数を一覧化し、根拠となる就業規則の条文番号まで確認したか。

ステップ2 制度を見直すかどうかを労使で協議する場を設ける

厚生労働省の資料でも、配偶者手当の見直しは労働契約法第9条・第10条を踏まえ、労使の話し合いを経て決定するよう求められています。改定する場合も据え置く場合も、経営層・人事・労働組合や従業員代表を交えて方針を議論し、賃金原資総額の維持や経過措置の要否を検討します。

実施チェック:協議の場と決定までのスケジュールを設定し、経過措置(基本給への組み入れなど)の要否まで論点に含めたか。

ステップ3 税金の壁と社会保険の壁を切り分けて従業員に説明する

「103万円の壁がなくなった」という断片的な情報だけが先行すると、社会保険の扶養(130万円)まで基準が変わったと誤解する従業員が出てきます。税金の壁(123万円・160万円・178万円)と社会保険の壁(106万円・130万円)を分けて説明する資料やQ&Aを用意し、パート・アルバイト従業員に周知します。

実施チェック:税と社会保険を分けた説明資料を作成し、対象従業員への説明会や個別案内を実施したか。

ステップ4 就業調整をしていた人材のシフト・労働時間を再設計する

税金の壁が広がったことで、これまで年収を抑えていた人材が労働時間を伸ばせる余地が生まれています。本人の希望をヒアリングした上でシフトを見直し、必要に応じて「年収の壁・支援強化パッケージ」(106万円の壁を越えても手取りを減らさない取組をする企業への助成、130万円の壁を一時的に超えても事業主の証明により扶養を継続できる特例)の活用もあわせて検討します。

実施チェック:就業調整をしていた従業員の希望労働時間をヒアリングし、必要な助成金・特例の活用可否を確認したか。

ステップ5 給与計算・源泉徴収の実務を新基準に更新する

基礎控除・給与所得控除の引き上げは、令和8年分の所得税から適用されます。給与計算システムや源泉徴収税額表が新基準に対応しているかをベンダーに確認し、年末調整に向けて扶養控除等申告書の様式変更にも対応します。

実施チェック:給与計算システムの税制対応状況をベンダーに確認し、年末調整の様式変更を把握したか。

まとめ

「103万円の壁」は、この2年で160万円、178万円へと形を変えました。しかし税金の壁が広がったからといって、社会保険の壁や自社の配偶者手当の基準まで自動的に変わるわけではありません。制度の違いを正しく整理し、就業規則の点検から従業員への説明、シフト設計、給与実務の更新までを一連の流れとして進めることが、人材の働き控えを解消し、限られた人員を戦力として活かすことにつながります。

「配偶者の働き方に中立的な制度となるよう、見直しを進めることが望まれます」(厚生労働省・都道府県労働局「『配偶者手当』の在り方について」より)

制度改正への対応や人材育成の進め方でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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