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東京しごと財団の「『年収の壁突破』総合対策促進奨励金」を人材活用に生かす

年収の壁を意識して働く時間を抑えるパートの人材は、本来の力を十分に発揮できていません。東京しごと財団の「『年収の壁突破』総合対策促進奨励金」は、企業がこの壁を越えて働ける環境を整える取り組みを後押しする制度です。制度の概要と申請の進め方を押さえておけば、国の支援策と組み合わせて活用できます。

公開日
2025/07/10
更新日
2026/09/28
読了時間
約 10 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
年収の壁助成金非正規雇用離職防止

人手不足が深刻化する中、多くの企業が一つの課題に直面しています。それは、いわゆる「年収の壁」によって有能な人材が就業調整を行い、本来の能力を十分に発揮できない現実です。働く女性が増える一方で、非正規雇用で働く有配偶の女性の中には、「年収の壁」を意識して就業調整を行い、自ら労働時間を抑えている人もいます。

この問題に向き合う制度として、東京しごと財団が推進する「『年収の壁突破』総合対策促進奨励金」があります。

年収の壁による就業調整が、企業の人材活用を狭めている

企業が直面する深刻な人材活用の限界

所得税が発生する「103万円の壁」の引き上げについては、働き控えが解消し人手不足の緩和につながるとの期待から、企業の関心も高まっています。

年収の壁とは、主に以下の3つの基準を指します。

1. 103万円の壁(税制上の扶養控除) 令和6年分までは、年収が103万円を超えると所得税が発生し、配偶者控除の対象外となっていました。48万円(基礎控除)+55万円(給与所得控除)=103万円という計算式により、この金額を超えると税負担が始まる仕組みです。この基準は令和7年度の税制改正で見直されています(後述)。

2. 106万円の壁(社会保険適用拡大) 従業員数51人以上の企業で週20時間以上働くパートなどの方は、所定内賃金が月額8.8万円(年収約106万円)以上などの要件を満たすと、勤務先の健康保険・厚生年金に加入し、配偶者の扶養から外れます。これにより、社会保険料の負担が生じます(厚生労働省)。

3. 130万円の壁(社会保険上の扶養) 年収が130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れ、自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要が生じます。

これらの壁により、パートやアルバイトの方などが、いわゆる「年収の壁」を超えて働くと税や社会保険料の負担が生じるのではないかと気にして、「もっと働きたい」と思っても働けないという問題がありました。

人材定着と企業成長への深刻な影響

この就業調整行動は、企業の人材戦略に深刻な影響を与えています。採用・定着面では、繁忙期に必要な労働力を確保できない、経験豊富な人材の労働時間が制限される、新規採用コストが継続的に発生するといった問題が生じます。人材育成面では、年収制限により本来の働く意欲を抑制されている人材は長期的なキャリア形成への意欲も低下しがちであること、短時間勤務の制約によりより高度な業務への挑戦機会が限定されること、職場内でのスキル伝承やナレッジ共有の機会が減少することが課題となります。

東京しごと財団「『年収の壁突破』総合対策促進奨励金」の仕組みと活用

制度概要と対象企業

本事業は、働く意欲のある女性が就業調整を行うことなく能力を十分に発揮できる環境を整備するため、「年収の壁」の原因の一つともなっている配偶者手当の見直しや、社会保険に加入した非正規雇用者向けの手当等の新設を行った都内の中小事業主に奨励金を交付するものです(東京しごと財団、令和7年度)。

奨励金には2つのコースがあります。「配偶者手当見直しコース」は、都内で事業を営み、就業規則に「配偶者の収入要件がある配偶者手当」の規定があり、事前エントリー日から過去5年以内にその支給実績がある事業者が対象です。「社会保険加入促進コース」は、新たに社会保険の対象となった非正規雇用者が負担する社会保険料に関する手当等を新設する事業者が対象です。奨励金額は各コース30万円で、2コースとも実施した場合は50万円です(令和7年度)。

手当規定の見直しから効果測定までの作業

現状分析と課題特定 では、自社の就業規則における配偶者手当の規定を確認し、過去5年間の配偶者手当支給実績を調査、従業員の就業調整状況をヒアリング調査し、人手不足や業務効率の課題を数値化します。

制度設計と社内調整 では、配偶者の収入要件見直し案を策定し、労働組合や従業員代表と協議、就業規則改定案を作成して経営陣への提案と承認取得を行います。

申請手続きと実施 では、特設WEBサイトから事前エントリーを行って交付申請書類を準備し、就業規則を正式改定して従業員へ制度変更を周知します。

効果測定とフォローアップ では、労働時間増加の実績測定、従業員満足度調査の実施、人材定着率の改善効果測定、生産性向上効果の定量分析を行います。

人材育成・定着につながる相乗効果の創出

年収の壁解消がもたらす人材育成メリット

年収の壁を取り払うことで、企業は以下のような人材育成上の恩恵を受けることができます。第一にキャリア継続意識の向上です。年収制限を解消することで、従業員は長期的なキャリア形成を展望できるようになり、企業への帰属意識が向上します。第二にスキル開発機会の拡大です。労働時間の制約が解除されることで、従業員はより幅広い業務に従事でき、研修やセミナーへの参加も可能になります。第三に組織内コミュニケーションの活性化です。年収制限の解消により、従業員がより積極的に職場活動に参加できるようになり、組織全体の活性化が期待できます。

定着率向上のための統合的アプローチ

年収の壁解消と併せて実施すべき人材定着施策として、メンター制度の導入(メンターがいると新人の心理的安全性が高まり、定着率が格段に上がる)、スキルマップによる成長の可視化(現場の管理職が部下の現状を客観的に判断でき、納得感のある育成計画・目標を立てられる)、研修効果の持続と定着支援(研修後の2〜3か月の間、さまざまなアプローチを続けて受講者の実践の第一歩を促す)が挙げられます。

政府支援策との連携で最大効果を実現

国の年収の壁・支援強化パッケージとの併用

東京都の奨励金に加えて、国の「年収の壁・支援強化パッケージ」も活用できます。106万円の壁への対応では、新たに社会保険の適用を行い、収入を増やす取組を行った事業主に、労働者1人当たり最大50万円が助成されます(キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」)。130万円の壁への対応では、繁忙期に労働時間を延ばすなどして収入が一時的に上がっても、事業主が証明することで引き続き扶養に入り続けられる仕組みが設けられています(厚生労働省)。

最新の税制改正との整合性

令和7年度の税制改正により、これまでの103万円の壁が160万円の壁に見直されたため、働く時間をふやすことで手取りもふえる可能性があります(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。この変化を踏まえ、企業は中長期的な人材戦略を再構築する絶好の機会を迎えています。

成功事例から学ぶ実践的ノウハウ

企業規模別成功パターン

中小企業の成功要因は、経営トップの強いコミットメント、従業員との密接なコミュニケーション、段階的な制度変更による影響の最小化です。成長企業の戦略的活用としては、人材確保競争力の向上、企業ブランドイメージの向上、優秀人材の長期確保が挙げられます。

効果測定指標の設定

制度導入効果を適切に測定するための主要KPIとして、定量指標では従業員の平均労働時間増加率、離職率の改善度、生産性向上率、採用コスト削減額を、定性指標では従業員満足度スコア、エンゲージメント指数、職場環境改善度を設定します。

配偶者手当の調査、制度改定案、申請の順に進める

Phase1:現状把握(1か月) では、自社の配偶者手当制度の詳細調査、従業員の就業調整実態調査、競合他社の動向調査、制度変更の影響シミュレーションを行います。

Phase2:計画策定(2か月) では、制度改定案の作成、社内関係者との協議、申請書類の準備、変更スケジュールの策定を行います。

Phase3:実施・運用(3か月〜) では、奨励金申請の実施、就業規則の正式改定、従業員への説明会開催、効果測定システムの導入を行います。

まとめ:持続可能な成長を実現する人材戦略

東京しごと財団の「『年収の壁突破』総合対策促進奨励金」は、単なる助成制度を超えて、企業の人材戦略を根本から見直す契機となる重要な制度です。

年収の壁は手取り収入が減るためマイナスイメージが強いですが、超えることで年金受給額や手当金が増えるなど、メリットもあります。このような長期的視点に立った人材活用により、企業は持続可能な成長基盤を構築できます。

人材不足が常態化する現代において、年収の壁を取り払い、働く意欲のある人材がその能力を最大限発揮できる環境づくりは、企業の競争力向上に直結します。この制度を戦略的に活用し、採用・育成・定着の好循環を実現することで、あなたの会社も次のステージへと成長できるはずです。

制度活用と併せて、体系的な人材育成プログラムの導入をお考えの企業様は、ぜひ私どもの研修サービスについてもご検討ください。年収の壁解消により新たに生まれる成長機会を最大化するための、実践的な研修プログラムをご提供いたします。

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本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

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