なぜ採用は「仕組み改善」だけではうまくいかないのか
採用市場の逼迫は続いています。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」によると、正社員が不足していると感じる企業の割合は50.6%で、4月としては4年連続で半数を超えました。中途採用に積極的な企業も、マイナビの「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」で90.1%にのぼります。限られた人材を多くの企業が奪い合う構図が定着しています。
さらに深刻なのは、採用できても定着しないという問題です。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」では、令和4年3月に卒業した大学卒就職者の就職後3年以内の離職率は33.8%にのぼります。事業所規模が小さいほど離職率は高く、従業員5人未満では6割を超えます。採ること自体が難しく、採った後に辞められるリスクも高い。これが多くの企業の現実です。
こうした状況で、多くの企業は採用フローの見直し、選考基準の整理、面接の標準化、採用管理システム(ATS)の導入といった「仕組み」の改善に力を注ぎます。仕組みの整備は確かに重要です。しかし、それだけでは成果が頭打ちになる場面が少なくありません。見落とされがちなのが、採用媒体とサービスへの理解の浅さです。どの媒体に、どのような候補者が、どんな期待を持って集まるのか。その特性を理解しないまま出稿や依頼を重ねても、母集団も訴求もかみ合わないのです。
本記事では、なぜ採用媒体・サービスへの理解が浅くなってしまうのかを3つの視点で整理したうえで、その理解を深めるための5つのステップを、実施チェックとともに解説します。仕組みづくりと並んで採用の成否を分ける、見過ごされがちな要因に光を当てます。
採用媒体・サービスへの理解が浅くなる3つの要因
採用媒体やサービスへの理解は、なぜ浅くなりがちなのでしょうか。背景には、担当者個人の努力だけでは説明できない、構造的な3つの要因があります。
要因1:「とりあえず大手媒体」で思考が止まっている
一つ目は、実績のある大手媒体に頼り、前例を踏襲したまま媒体選びの思考が止まってしまうことです。マイナビの調査では、採用につながったサービス・手法は「転職サイト」が29.7%で最多でした。一方で、利用者のうち採用に至った割合を示す「採用到達率」が最も高いのはダイレクトリクルーティングであり、リファラル採用も45.7%と高い水準にあります。よく使われている媒体が、自社にとって最も成果の出る手段とは限りません。手段が目的化し、「なぜその媒体なのか」を問い直さないまま運用を続けると、より適した選択肢を見落とします。
要因2:媒体・サービスごとの「特性の違い」を把握していない
二つ目は、それぞれの媒体・サービスが持つ特性の違いを、正しく把握できていないことです。転職サイト、求人検索エンジン、人材紹介、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、SNSは、集まる候補者の層、採用までのスピード、費用のかかり方、母集団の作り方がまったく異なります。たとえばリファラル採用は利用率でこそ上位に入らないものの、採用到達率は高いという特徴があります。こうした違いを理解せずに一律に扱えば、それぞれの強みを引き出すことはできません。特性の理解は、媒体を使いこなすための前提です。
要因3:自社の魅力と求める人物像を言語化できていない
三つ目は、媒体・サービス以前に、自社が「誰に・何を」訴求するのかを言語化できていないことです。どれほど媒体の特性を理解しても、求める人物像や自社の魅力があいまいなままでは、求人票もスカウト文も候補者に響きません。人材紹介会社やダイレクトリクルーティングを使う場合も、担当者やエージェントに自社の魅力が具体的に伝わらなければ、適切な候補者は紹介されません。理解の欠如は媒体側だけの問題ではなく、自社側の言語化不足にも根ざしているのです。
採用媒体・サービスへの理解を深める5つのステップ
採用媒体・サービスを使いこなす鍵は、自社のゴールを起点に、媒体の特性を理解し、両者を結びつけ、成果を測って改善し続けることにあります。ここでは、人事・採用担当者が実践できる5つのステップに分け、各ステップに実施チェックを添えます。
ステップ1:採用のゴールとターゲットを具体化する
まず、媒体を選ぶ前に、採用の目的と対象を具体化します。誰を、何人、いつまでに、なぜ採用するのか。求める経験・スキル・志向、そして自社が提供できる魅力を言語化しましょう。ターゲットが具体的であるほど、どの媒体・サービスが適しているかの判断精度は高まります。ここがあいまいなまま媒体を選ぶと、以降のすべての工程がぶれてしまいます。
- 実施チェック:求める人物像を、経験・スキル・志向のレベルまで具体的に言語化できていますか。
- 実施チェック:候補者に提示できる自社の魅力を、他社と比較して説明できる状態になっていますか。
ステップ2:媒体・サービスの特性を比較して理解する
次に、各媒体・サービスの特性を一覧で比較し、理解を深めます。転職サイト、求人検索エンジン、人材紹介、ダイレクトリクルーティング、リファラル、SNSについて、集まる層、母集団の規模、採用までのスピード、費用構造、そして採用到達率のような成果指標を整理しましょう。公開情報や各サービスの担当者からの情報を集め、自社の過去実績と照らし合わせることで、比較の解像度が上がります。
- 実施チェック:利用を検討する媒体・サービスの特性を、同じ観点で比較した一覧を作成していますか。
- 実施チェック:各媒体について、費用だけでなく「採用に至った割合」まで把握していますか。
ステップ3:ターゲットと媒体を「接点」で結びつける
ターゲットと媒体の理解がそろったら、両者を候補者の行動から結びつけます。求める人材がふだんどこで情報を得て、どのように転職を検討するのかを考え、その接点に合った媒体・サービスを選びます。たとえば、転職潜在層にはダイレクトリクルーティングやリファラル、急ぎの補充には人材紹介というように、目的と対象に応じて使い分けます。一つの媒体に固執せず、複数を組み合わせる発想も有効です。
- 実施チェック:ターゲットが情報収集・転職検討をする場面を想定し、媒体を選べていますか。
- 実施チェック:目的や対象に応じて、複数の媒体・サービスを使い分ける設計になっていますか。
ステップ4:媒体の担当者・エージェントと深く連携する
媒体・サービスの効果は、提供側との連携の深さによっても大きく変わります。人材紹介会社やダイレクトリクルーティングのサービスを使う際は、求める人物像や自社の魅力、選考で重視する点を具体的に共有し、こまめにフィードバックを交わしましょう。担当者を「発注先」ではなく「採用のパートナー」として巻き込むことで、紹介やスカウトの精度は高まります。自社理解を渡すことが、相手の理解を引き出す近道です。
- 実施チェック:媒体・エージェントの担当者に、求める人物像と自社の魅力を具体的に共有していますか。
- 実施チェック:紹介や応募の質について、担当者と定期的にフィードバックを交わしていますか。
ステップ5:媒体ごとの成果を測定し、投資を最適化する
最後に、媒体・サービスごとの成果を測定し、投資配分を継続的に見直します。応募数だけでなく、書類通過、内定、入社、そして定着まで、媒体ごとに追いかけることが重要です。費用対効果の高い媒体に資源を寄せ、成果の出ない媒体は見直す。この改善を回すことで、理解は経験として蓄積され、次の採用の精度が上がっていきます。採用は一度きりの発注ではなく、学習を重ねる活動なのです。
- 実施チェック:応募から入社・定着までを、媒体・サービスごとに分けて記録していますか。
- 実施チェック:成果データにもとづいて、媒体への投資配分を定期的に見直していますか。
仕組みと媒体理解は「両輪」で考える
ここまで媒体・サービスへの理解の重要性を述べてきましたが、選考の仕組みが不要だという意味ではありません。むしろ、仕組みと媒体理解は補完し合う両輪の関係にあります。優れた媒体選定で質の高い母集団を形成できても、選考プロセスが煩雑だったり、面接での体験が悪かったりすれば、候補者は途中で離れてしまいます。逆に、選考の仕組みだけを磨いても、そもそも母集団が自社のターゲットとずれていれば、成果にはつながりません。
大切なのは、どちらか一方に偏らず、両輪として捉えることです。自社の採用がうまくいかないとき、仕組みの改善に手詰まりを感じているなら、一度、媒体・サービスへの理解という別の軸から見直してみる価値があります。母集団の入り口を最適化することと、選考の体験を磨くこと。この両面から採用を設計することが、成果への近道になります。
まとめ
採用がうまくいかない要因は、選考の仕組みだけにあるのではありません。人手不足が続き、採っても定着しにくい今の市場では、どの採用媒体・サービスを、どの層に、どう使うのかという理解の深さが、成果を大きく左右します。よく使われる媒体が最も成果の出る媒体とは限らず、それぞれの特性を踏まえた使い分けと、自社の魅力の言語化が問われます。
理解を深めるには、採用のゴールとターゲットの具体化、媒体特性の比較理解、ターゲットと媒体の接続、担当者との深い連携、そして成果測定にもとづく最適化という5つのステップが有効です。仕組みづくりと媒体理解を両輪としてまわすことで、採用は「たまたまの成功」から「再現できる成果」へと変わっていきます。自社の採用を、媒体・サービスへの理解という視点から見直してみてはいかがでしょうか。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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