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アンダーマイニング効果とは?報酬設計が社員のやる気を奪う仕組みと防ぐ5ステップ

報酬を手厚くしたのに、かえってやる気が下がる。仕事に熱意を持つ日本の社員はわずか6%です。デシの実験で知られるアンダーマイニング効果の仕組みと、意欲を奪わない報酬・評価設計の5ステップを解説します。

公開日
2026/07/19
更新日
2026/07/19
読了時間
11
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
人材育成報酬設計モチベーション

なぜ今、アンダーマイニング効果が問われるのか

報酬や評価を手厚くしたのに、かえって社員のやる気が下がった。そうした経験を持つ管理職は少なくありません。企業は人材への投資を増やし続けています。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によると、教育訓練費用を支出した企業は54.9%、OFF-JT(通常の業務を離れて行う教育訓練)を受講した労働者は37.0%、自己啓発を実施した労働者は36.8%といずれも前回から上昇しました。学びと成長を後押しする環境は整いつつあります。ところが、そこで働く人の意欲そのものは高まっていないという指摘があります。

その象徴が従業員エンゲージメントの低さです。米国の調査会社ギャラップが2024年に公表した「State of the Global Workplace(世界の職場の現状)」では、仕事に熱意を持って取り組む日本の従業員の割合はわずか6%で、世界平均の23%を大きく下回り、調査対象国のなかでも最低水準にとどまりました。制度や報酬を整えるだけでは、人のやる気は引き出せない。この現実を心理学の視点から説明するのが、アンダーマイニング効果です。

アンダーマイニング効果とは、もともと興味や楽しさから自発的に取り組んでいた活動に対して、金銭などの外的な報酬を与えることで、かえって本人のやる気(内発的動機づけ)が低下してしまう現象を指します。この効果は、アメリカの心理学者エドワード・デシが1971年に行った実験で確かめられ、のちにデシとリチャード・ライアンが1985年に体系化した自己決定理論(Self-Determination Theory)の重要な柱となりました。報酬設計を誤ると、社員のやる気を高めるどころか奪ってしまう。本記事では、その仕組みと、意欲を損なわない報酬・評価のあり方を、人事・管理職が現場で使える5つのステップで解説します。

報酬が社員のやる気を奪う3つの要因

なぜ、良かれと思って与えた報酬が意欲を下げてしまうのでしょうか。デシとライアンの自己決定理論は、人が生まれ持つ三つの心理的欲求、すなわち自律性・有能感・関係性が満たされるほど、質の高い動機づけとパフォーマンスが生まれると説明します。アンダーマイニング効果は、報酬の与え方がこの三つの欲求を損なうときに起こります。ここでは、やる気を奪う典型的な要因を三つに整理します。

要因1:報酬が「やらされ感」を生み、自律性を奪う

一つ目は、報酬によって行動の理由が「自分がやりたいから」から「報酬がもらえるから」へとすり替わってしまうことです。デシの1971年の実験では、パズルを楽しんで解いていた学生に金銭報酬を与えると、報酬をもらった学生は、報酬のない学生に比べて自由時間に自発的にパズルへ取り組む時間が短くなりました。報酬が「行動をコントロールするもの」として受け取られると、人は自分で選んで行動しているという感覚(自律性)を失います。自律性が損なわれると、報酬がない場面ではやる気が続かなくなるのです。

要因2:評価や締めつけが、有能感と関係性を損なう

二つ目は、報酬や評価が監視や締めつけと結びついて伝わることです。心理学者マーク・レッパーらが1973年に行った実験では、絵を描くのが好きな幼児を三つのグループに分け、あらかじめ「上手に描けたらご褒美をあげる」と約束したグループは、報酬を約束されなかったグループに比べ、後日自由時間に絵を描く時間が短くなりました。報酬を条件として提示されると、活動そのものの楽しさよりも報酬の獲得が目的になり、意欲が外的なものへと置き換わります。同様に、成果だけを厳しく評価し続ける関わりは、社員の有能感(自分はできるという感覚)や、上司との信頼関係(関係性)を弱め、内発的な意欲を細らせます。

要因3:報酬が目的化し、仕事の意味が見えなくなる

三つ目は、報酬が繰り返されるうちに、それ自体が目的になってしまうことです。自己決定理論では、内発的動機づけと外発的動機づけは対立するものではなく、自己決定の度合いに応じて連続的に変化すると考えます。報酬に依存した状態が続くと、社員は「報酬に見合う分だけ働く」という発想になりやすく、仕事の意味や面白さから意欲を得る回路が弱まります。とくに金銭報酬が目立つほど、内発的動機づけの低下は顕著になると指摘されています。

やる気を奪わない報酬・評価を設計する5つのステップ

  • アンダーマイニング効果は、報酬を一切与えなければ避けられる、というものではありません。報酬や評価は必要です。大切なのは、自律性・有能感・関係性という三つの欲求を損なわない設計にすることです。ここでは、報酬をコントロールの手段ではなく成長を支える情報として機能させる5つのステップに分け、各ステップに実施チェックを添えます。

ステップ1:報酬を「コントロール」ではなく「情報」として設計する

まず、報酬や評価をどのような意味合いで伝えているかを見直します。同じ報酬でも、「これをやれば報酬をやる」という条件づけ(コントロール的な伝え方)は自律性を奪いますが、「あなたの取り組みが成果につながった証として」という承認(情報的な伝え方)は有能感を高めます。デシとライアンは、報酬が本人の有能さを知らせる情報として受け取られるときには内発的動機づけが損なわれにくいことを示しました。報酬の金額や制度だけでなく、それをどう位置づけて伝えるかが分かれ道になります。

  • 実施チェック:報酬や評価を伝える際、「取り組みや成長の成果を認めるもの」として説明できている。
  • 実施チェック:「これをやれば報酬」という条件づけ一辺倒になっていないか、伝え方を点検している。

ステップ2:金銭報酬は成果の承認として明確な基準で運用する

金銭報酬を否定する必要はありません。生活の基盤である給与や、公正な成果配分は、むしろ関係性や納得感の土台になります。問題になるのは、内発的に取り組んでいる活動に対して、思いつきで金銭を持ち出したり、基準があいまいなまま報酬を乱発したりする場合です。金銭報酬は、何に対して報いるのかという基準を明確にし、成果を承認する仕組みとして安定的に運用しましょう。基準が透明であれば、報酬は「操作された」という感覚を生みにくくなります。

  • 実施チェック:金銭報酬や賞与の基準が、社員に分かる形で明確に共有されている。
  • 実施チェック:内発的に取り組んでいる業務に、場当たり的な金銭報酬を持ち込んでいないか確認している。

ステップ3:言葉による称賛でエンハンシング効果を生かす

アンダーマイニング効果には、逆に内発的動機づけを高める効果も知られています。それがエンハンシング効果です。すでに意欲を持って取り組んでいる相手に、言葉による称賛や前向きなフィードバックを与えると、本人の有能感や自己決定の感覚を損なわずに、やる気をさらに高めることができます。ただし、称賛が「もっと頑張らせるための道具」と受け取られると逆効果になります。結果だけでなく工夫やプロセスに具体的に言及し、心からの承認として伝えることが、エンハンシング効果を引き出す鍵です。

  • 実施チェック:結果だけでなく、取り組みの工夫やプロセスに具体的に触れて称賛している。
  • 実施チェック:称賛が「コントロールの手段」ではなく、率直な承認として伝わっているか意識している。

ステップ4:自律性を高め、仕事の意味とつながりを支える

報酬設計と並行して、三つの心理的欲求そのものを満たす関わりを増やします。自律性を高めるには、仕事の進め方や手段を本人に任せる余地をつくること。有能感を支えるには、少し背伸びをすれば届く挑戦と、成長を実感できるフィードバックを用意すること。関係性を育むには、上司やチームとの信頼できるつながりを保つことが有効です。とくに、この仕事が誰の役に立ち、どのような意味を持つのかを共有すると、報酬に頼らない内発的な動機づけが育まれます。報酬は動機づけの一部にすぎず、意味とつながりこそが土台になります。

  • 実施チェック:仕事の進め方や手段について、本人が選べる余地を意図的に残している。
  • 実施チェック:その仕事が誰の役に立ち、どのような意味を持つかを本人と共有している。

ステップ5:制度全体を「やる気を削がない」視点で点検する

最後に、個別の関わりだけでなく、評価・報酬の制度全体をアンダーマイニング効果の視点から点検します。過度に細かい成果連動、順位づけによる過当競争、報酬を人質にした締めつけは、自律性や関係性を損ないやすい仕組みです。制度を設計・運用する際は、「この仕組みは社員の自律性・有能感・関係性を高めるか、それとも削ぐか」を判断基準に加えましょう。報酬制度は放置すると徐々にコントロール色を強めがちです。定期的に見直し、意欲を支える方向へ調整し続けることが大切です。

  • 実施チェック:評価・報酬制度を、自律性・有能感・関係性を高めるかという観点で定期的に点検している。
  • 実施チェック:過度な成果連動や順位づけが、社員の意欲を削いでいないかを確認する機会を設けている。

よくある誤解:報酬そのものが悪いわけではない

アンダーマイニング効果をめぐるよくある誤解は、「報酬を与えるとやる気が下がるのだから、報酬はない方がよい」という極端な解釈です。しかし、自己決定理論が問題にしているのは報酬の有無そのものではなく、報酬の与え方が人の自律性・有能感・関係性を損なうかどうかです。公正な給与や、成長を認める承認は、むしろ意欲を支えます。逆効果になるのは、内発的に楽しんでいる活動をコントロールする手段として報酬を使ったり、報酬を目的化させたりする場合です。

もう一つの誤解は、金銭報酬さえ増やせばやる気は上がるはずだ、という思い込みです。金銭は生活や公正さの土台としては重要ですが、それだけで内発的な意欲を生み出すことはできません。仕事の意味、成長の実感、信頼できる人間関係といった要素と組み合わせてはじめて、報酬は動機づけの一部として生きてきます。報酬は万能ではなく、使い方次第で薬にも毒にもなる。この前提を持つことが、意欲を引き出すマネジメントの出発点です。

まとめ

アンダーマイニング効果とは、内発的に取り組んでいた活動に外的な報酬を与えることで、かえって本人のやる気が低下する現象です。デシの1971年の実験で確かめられ、デシとライアンの自己決定理論のなかで、自律性・有能感・関係性という三つの心理的欲求と結びつけて説明されてきました。報酬が「やらされ感」を生み、評価や締めつけが有能感と関係性を損ない、報酬が目的化するとき、社員の内なる意欲は静かに削られていきます。

これを防ぐには、報酬をコントロールではなく情報として設計し、金銭報酬は明確な基準で運用し、言葉による称賛でエンハンシング効果を生かし、自律性と仕事の意味を支え、制度全体を意欲の観点から点検するという5つのステップが有効です。報酬は、使い方を誤ればやる気を奪い、正しく使えば成長を後押しします。社員の内発的な動機づけを尊重した報酬・評価の設計こそが、人が本来の力を発揮できる職場をつくる鍵になります。

WONDERFUL GROWTHでは、社員の内発的な動機づけを引き出す評価・フィードバックの考え方や、自律性と成長実感を支えるマネジメント研修をご提供しています。報酬設計とモチベーションの関係を見直したい方は、ぜひ資料をご請求ください。

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本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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