2026年に入り、上場企業による「早期・希望退職」の募集が相次いで報じられています。人員削減というと業績不振企業の対応というイメージを持たれがちですが、足元で目立つのは、業績好調な企業による人員の最適化です。本稿では、東京商工リサーチの最新データから現状を確認します。そのうえで、見落とされがちな「残った社員」のエンゲージメントをどう守るか、三つの実践的な設計をご紹介します。
上場企業の早期・希望退職、募集人数は前年比78.5%増
東京商工リサーチが2026年2月に発表した調査によると、2025年に早期・希望退職の募集を行ったことが判明した上場企業は43社(前年57社)で、募集人数は1万7,875人(前年比78.5%増)に達しました。これは東日本大震災が発生した2012年の1万7,705人を上回り、2009年以降で3番目に高い水準です。募集を行った企業の数自体は前年から約2割減少していますが、1社あたりの募集規模が拡大したことで、総人数は大きく増加しました。
特徴的なのは、募集企業の約7割にあたる29社が直近決算で黒字だった点です。黒字企業による募集人数は1万5,205人にのぼり、全体の85.0%を占めています。三菱電機、パナソニックホールディングス、三菱ケミカルグループ、明治ホールディングス、ソニーグループ、日清紡ホールディングスなど、業績自体は堅調な企業が名を連ねています。東京商工リサーチは、事業転換を見越した「黒字リストラ」が今後さらに広がる可能性があると指摘しており、2026年についても早期・希望退職の募集がもう一段強まる可能性を示唆しています。
見落とされがちな「残った社員」への影響
早期・希望退職をめぐる報道では、対象者への支援策や再就職支援に関心が集まりがちです。しかし、人事・経営の観点でもう一つ注意すべきなのが、募集の対象にならず社内に残った社員への影響です。海外の人事領域では、この状態を指して「職場のサバイバー症候群(workplace survivor syndrome)」と呼びます。残った社員の心中では、人員削減を免れた安堵感の一方で、同僚を失った罪悪感や「次は自分かもしれない」という不安が入り混じります。これが、士気の低下、会社への信頼低下、静かな退職、離職率の上昇といった変化につながるとされています。
Bizreportが実施した「2022 Layoff Aftermath Survey」では、人員削減を免れた従業員の71%が仕事へのモチベーション低下を、65%が業務負担の増加を、61%が自分の会社を人に勧めにくくなったことを回答しています。人員の最適化そのものの是非は経営判断ですが、実施後に「残った社員」へのフォローを怠ると、削減による収益改善効果が組織力の低下によって相殺されかねません。ここからは、この影響を防ぐための三つの実践的な設計をご紹介します。
「残った社員」のエンゲージメントを守る三つの設計
設計1:再編の理由と基準を「対話」で説明する
全社説明会での一方向の告知だけで終わらせず、部門単位・少人数での対話の場を設けることが重要です。なぜこの再編が必要なのか、どのような基準で対象者を選定したのかを、経営陣自身の言葉で説明できるかどうかが、残った社員の納得感を左右します。説明が不十分なまま時間が経過すると、憶測が憶測を呼び、社内の不信感が固定化してしまいます。
実施チェック:全社説明会に加えて部門別・少人数の対話の場を設けたか/対象者選定の基準と評価の一貫性を説明できる状態にしているか/疑問や不安を受け止める窓口(人事・上長・産業医等)を用意したか
設計2:業務再配分とマネジャーの傾聴力を同時に整える
人員が減れば、残った社員の業務量は必然的に増えます。増加分を可視化せず「なんとかやってほしい」という曖昧な依頼のままにすると、疲弊と不満が蓄積します。あわせて、現場マネジャーには1on1や傾聴のトレーニングを行い、部下の負荷や心理状態を早期に把握できる体制を整えることが欠かせません。
実施チェック:再編前後の業務量・役割分担を可視化し、優先順位を明確にしたか/マネジャー向けに1on1・傾聴の研修機会を用意したか/一時的な業務過多に対する応援体制やアウトソーシングの選択肢を検討したか
設計3:退職者だけでなく「残った社員」の声を定点観測する
退職者への面談は実施していても、残った社員の状態を継続的に把握できていない企業は少なくありません。パルスサーベイ等を用いて定点観測を行い、結果を経営層・管理職にフィードバックする運用まで含めて設計することで、エンゲージメントの変化を早期に察知できます。
実施チェック:再編後複数回にわたりパルスサーベイ等で定点観測する計画があるか/退職者だけでなく残った社員の声を拾う仕組みがあるか/サーベイ結果を経営層・管理職に共有し、次の対策に反映する運用があるか
まとめ
早期・希望退職の募集は、もはや業績不振企業だけの選択肢ではなくなっています。人員の最適化を実施する企業にとって、対象者への対応と同じくらい重要なのが、社内に残った社員のエンゲージメントをどう守るかという視点です。理由と基準を対話で伝えること、業務再配分とマネジャーの傾聴力を整えること、そして残った社員の声を定点観測すること。この三つの設計を組織にあらかじめ組み込んでおくことが、再編後の組織力を左右します。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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