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管理職研修が現場で活きない理由と、行動変容を生む研修設計の5ステップ

教育研修費は社員1人あたり年36,036円と増え続ける一方、研修で学んだ内容のうち現場で実践されるのは1〜2割にとどまるとも言われます。管理職研修が現場で活きない構造的な理由を公的データから読み解き、行動変容を生む研修設計の5ステップを実施チェック付きで解説します。

公開日
2026/06/15
更新日
2026/06/15
読了時間
15
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
研修設計管理職研修人材育成

「管理職研修を実施したのに、現場のマネジメントがなかなか変わらない」。人材育成に携わる方であれば、一度はこうした手応えのなさを感じたことがあるのではないでしょうか。研修そのものの満足度は高いのに、数か月後に職場をのぞくと、以前と同じやり方に戻っている。これは担当者の力量の問題ではなく、研修という仕組みが抱える構造的な課題に起因しています。

本記事では、管理職研修が現場で活きない理由を公的調査のデータから読み解いたうえで、学んだ内容が実際の行動につながる「研修転移」を高めるための研修設計を、5つのステップと実施チェックに分けて解説します。人材育成のご担当者はもちろん、研修投資の費用対効果に課題を感じている経営層の方にも、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。

管理職研修への投資は増えている。しかし「現場で活きている」実感はあるか

企業の教育研修への投資は、着実に回復しています。産労総合研究所の「2025年度(第49回)教育研修費用の実態調査」によると、2024年度の従業員1人あたり教育研修費は36,036円で、前年度から1,430円増加し、コロナ禍前の水準に近づきました。企業規模別では大企業が39,553円、中堅企業が36,195円、中小企業が31,788円となっています。

研修の実施率も高い水準にあります。厚生労働省の「令和6年度能力開発基本調査」では、正社員に対してOFF-JT(通常の業務を離れて行う教育訓練)を実施した事業所は71.6%、計画的なOJTを実施した事業所は61.1%でした。多くの企業が、時間と費用をかけて管理職をはじめとする社員の育成に取り組んでいることがわかります。

ところが、その投資が成果に結びついているかというと、話は別です。研修分野の研究では、研修で学んだ内容のうち、実際に現場で実践されるのは10〜20%程度にとどまると指摘されています(関根雅泰ほか、中原淳編『人材開発研究大全』所収の研修転移に関する研究)。つまり、せっかくの研修費用の8割前後が、行動の変化という形では回収できていない可能性があるのです。

この「学んだことが現場で活かされ、効果が持続する」度合いを表す概念が研修転移(Transfer of Training)です。立教大学の中原淳教授らは、研修転移を「研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、かつその効果が持続されること」と定義しています。管理職研修の費用対効果を考えるうえで、いま最も注目すべき視点と言えます。

特に管理職は、本人が成長するだけでなく、その下にいる複数のメンバーの働きやすさや成長にまで影響が及ぶポジションです。前掲のリクルートマネジメントソリューションズの調査でも、管理職の役割は部下の管理・監督にとどまらず、人事施策の運用やプレイング業務まで広がり続けていることが指摘されています。役割が複雑になるほど、研修で得た学びを現場の行動に落とし込む難しさも増していきます。だからこそ、管理職研修は「実施したかどうか」ではなく「現場の行動が変わったかどうか」で設計を考える必要があるのです。

なぜ管理職研修は「やりっぱなし」で終わるのか — 3つの構造的要因

研修転移が起きにくい背景には、担当者の努力だけでは越えられない3つの構造的な要因があります。まずはこの「壁」を正しく認識することが、設計を見直す出発点になります。

要因1:研修が「単発のイベント」で完結し、現場と切り離されている

多くの管理職研修は、1日や2日の集合研修として設計され、終了した瞬間に「完了」とみなされがちです。しかし人は、学んだ直後から急速に記憶を失っていきます。研修当日に高まった意欲も、現場に戻って通常業務の波に飲まれれば、数日で薄れてしまいます。研修前の課題意識づくりと、研修後の実践支援が欠けていると、学びは一過性のイベントで終わり、行動には定着しません。

要因2:学びの70%は「経験」から生まれる(70:20:10の法則)

リーダーシップ開発の調査から導かれた「70:20:10の法則」(ロミンガーの法則)は、人の成長に寄与する要素の割合を、業務経験が70%、上司や周囲からの薫陶(他者からの助言やフィードバック)が20%、研修や読書などの公式な学習が10%と示しています。これは、米国の人材開発企業ロミンガー社のロンバルドとアイヒンガーが、経営幹部への調査をもとにまとめたものです。

この法則が示すのは、研修(10%)を孤立させず、経験(70%)と他者からの関わり(20%)に接続して初めて、学びが大きな効果を生むということです。研修を「点」で終わらせるのではなく、現場の経験と上司の関与に橋を架ける設計こそが、研修転移の鍵を握ります。

要因3:管理職本人も上司も多忙で、実践を支える余力がない

研修後の実践には、本人の意志に加えて、上司や組織の後押しが欠かせません。ところが現実の管理職は、極めて多忙です。リクルートマネジメントソリューションズの「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2024年」では、管理職の約9割がプレイヤー業務を兼務している実態が示されています。プレイングマネージャーとして自分の業務目標も背負う中で、研修で学んだ新しい行動を試し、定着させる時間的・精神的な余裕を持ちにくいのです。学んだことを実践する時間そのものが確保されていなければ、どれほど質の高い研修であっても行動は変わりません。

さらに、研修を受けた管理職を送り出した上司(部長層など)が、その学びに無関心であれば、現場での実践は孤立します。「学んだことを試してよい」という許可と支援が組織から与えられないと、研修転移は進みません。

見直しの前に知っておきたい、管理職研修で陥りがちな3つのパターン

構造的な要因を踏まえると、研修転移を妨げる「やってしまいがちな進め方」が見えてきます。設計を見直す前に、自社の研修が次の3つのパターンに当てはまっていないかを確認してみてください。

  • 満足度アンケートだけで効果を判断している:研修直後の「満足した」「学びがあった」という反応は、行動が変わったことを意味しません。満足度が高くても現場で実践されなければ、研修転移は起きていないと考えるべきです。
  • 一度に多くを詰め込みすぎている:限られた研修時間にテーマを盛り込みすぎると、受講者はどれも中途半端にしか持ち帰れません。「現場で実践する行動」を1つか2つに絞るほうが、結果的に定着します。
  • 現場の上司が研修にかかわっていない:受講者を送り出す上司が研修内容を知らないと、現場での実践は孤立します。学びを後押しする立場の人を巻き込めていないことが、転移を妨げる最大の盲点になりがちです。

行動変容を生む管理職研修の設計5ステップ

ここからは、研修転移を高めるための具体的な設計手順を5つのステップに分けて解説します。重要なのは、研修当日だけでなく「研修前」「研修中」「研修後」を一連のプロセスとして設計することです。各ステップの末尾に「実施チェック」を添えましたので、自社の研修設計を点検する観点としてご活用ください。

ステップ1:経営課題から逆算して到達目標を定義する(研修前)

最初に行うべきは、「この研修を通じて、管理職にどのような行動を取れるようになってほしいのか」を、経営課題や現場課題から逆算して具体的に言語化することです。「マネジメント力を高める」といった曖昧な目標ではなく、「メンバーとの1on1で、相手の成長課題を引き出す問いを立てられる」のように、観察可能な行動レベルまで落とし込みます。到達目標が行動で定義されていれば、研修内容も効果測定の基準も自ずと定まります。このとき、経営層や受講者の上司と到達目標をすり合わせておくと、研修が組織の期待と一致し、後のステップで現場の協力を得やすくなります。

実施チェック:研修の到達目標を、現場で観察できる「具体的な行動」として記述できていますか。その目標は、解決したい経営課題・現場課題と結びついていますか。

ステップ2:自社の文脈に引き寄せた内容に設計する(研修前〜研修中)

汎用的な理論やフレームワークをそのまま伝えるだけでは、受講者は「良い話だったが、自分の職場とは違う」と受け止めてしまいます。研修転移を高めるには、自社で実際に起きている事例やデータを教材に組み込み、受講者が「これは自分の課題だ」と当事者として捉えられる状態をつくることが重要です。事前に受講者へアンケートを取り、現場の悩みを収集して題材に反映させると、自分ごと化が一段と進みます。

実施チェック:研修教材に、自社の事例・データ・現場の悩みを反映していますか。受講者が「自分の職場の課題」として議論できる題材を用意できていますか。

ステップ3:研修中に「現場での行動計画」を言語化させる(研修中)

研修の最後に、学びを「知識」で終わらせず「行動の計画」に変換する時間を必ず設けます。「明日から、誰に対して、どの場面で、何を実践するのか」を、受講者自身の言葉で具体的に書き出してもらいます。曖昧な決意表明ではなく、いつ・何を・どうするかが特定された行動計画にすることで、研修後の最初の一歩が踏み出しやすくなります。可能であれば、受講者同士でこの計画を宣言し合い、相互にコミットメントを高める仕掛けも有効です。

実施チェック:受講者全員が、研修後に実践する具体的な行動計画(対象・場面・行動)を文章で持ち帰れる構成になっていますか。

ステップ4:研修後の実践を支援する仕組みをつくる(研修後)

研修転移の成否を最も大きく左右するのが、この研修後の支援です。70:20:10の法則が示すとおり、学びを定着させるのは現場での経験と他者からの関わりです。研修から2〜4週間後にフォローアップの場(オンラインでの振り返り会など)を設け、行動計画の進捗と手応えを共有します。あわせて、受講者の上司に対しても「部下が研修で何を学び、何を実践しようとしているか」を共有し、現場で声をかけ、挑戦を後押ししてもらうよう働きかけます。本人だけでなく上司を巻き込むことが、実践を孤立させない決め手になります。たとえば、研修翌週に上司との1on1で行動計画を共有する、1か月後に受講者同士で実践状況を報告し合う、といった仕掛けをあらかじめ研修プログラムに組み込んでおくと、支援が個人の善意任せにならず、仕組みとして機能します。

実施チェック:研修後一定期間内に振り返りの機会を設けていますか。受講者の上司に学習内容を共有し、現場での実践支援を依頼できていますか。

ステップ5:4段階で効果を測定し、次の設計に活かす(研修後)

最後に、研修の効果を測定し、改善のサイクルを回します。効果測定の枠組みとして広く知られるのがカークパトリックの4段階評価モデルです。レベル1「反応(満足度)」、レベル2「学習(理解度)」、レベル3「行動(現場での実践)」、レベル4「結果(業績や組織への影響)」の4段階で評価します。多くの企業はレベル1のアンケートで止まりがちですが、研修転移の観点で本当に見るべきはレベル3の「行動の変化」です。一定期間後に本人と上司へ行動の変化を確認し、その結果を次回の研修設計(ステップ1の到達目標)にフィードバックすることで、研修の質は回を重ねるごとに高まっていきます。

実施チェック:満足度(レベル1)だけでなく、現場での行動変化(レベル3)まで確認していますか。測定結果を次回の研修設計に反映する流れができていますか。

「研修前・研修中・研修後」で見る研修転移を高めるチェックリスト

ここまでの5ステップを、研修のタイミング別に整理すると次のようになります。管理職研修を企画する際の点検リストとしてご活用ください。

タイミング

やるべきこと

ねらい

研修前

経営課題から行動レベルの到達目標を定義し、自社事例を教材に反映する

学ぶ目的を明確にし、自分ごと化を促す

研修中

学びを具体的な行動計画へ変換し、受講者同士で宣言し合う

知識を実践の意図に変える

研修後

振り返りの場を設け、上司を巻き込み、行動変化まで測定する

経験と他者の関わりで学びを定着させる

よくある質問

Q. 管理職研修の効果は、どのくらいの期間で測ればよいですか

研修直後の理解度や満足度はその場で確認できますが、行動の変化(カークパトリックのレベル3)は、現場で実践する時間が必要なため、研修後1〜3か月程度の期間を見て確認するのが現実的です。さらに業績や組織への影響(レベル4)は、半年から1年単位で変化を捉える視点が求められます。短期の満足度と中長期の行動変化を分けて測ることが大切です。

Q. 予算や時間が限られています。何から手をつけるべきですか

最も費用対効果が高いのは、研修後の支援(ステップ4)の仕組みを整えることです。新しい研修プログラムを導入しなくても、既存の研修に「行動計画の作成」と「研修後の振り返り・上司の巻き込み」を加えるだけで、研修転移は大きく改善します。まずは1つの研修で試し、効果を確かめてから横展開すると、限られた資源でも着実に成果を積み上げられます。

Q. 研修は外部に委託すべきですか、内製すべきですか

外部委託は専門的な知見や体系化されたプログラムを得やすく、内製は自社の文脈に密着した内容にしやすいという特徴があります。研修転移の観点で重要なのは、どちらを選ぶかよりも、研修前後の設計(到達目標の定義、現場での実践支援、効果測定)を自社で主体的に担えるかどうかです。外部に委託する場合も、これらの工程を委託先と一緒に設計できるパートナーを選ぶことをおすすめします。

まとめ:研修は「点」ではなく「線」で設計する

管理職研修が現場で活きないのは、研修内容の質だけの問題ではありません。研修を単発のイベントとして切り離し、現場の経験や上司の関与と接続できていないことに、より大きな原因があります。研修転移という視点に立ち、「研修前・研修中・研修後」を一連の線として設計し直すことで、同じ研修費用からでも、行動変容という成果を引き出せる可能性は大きく高まります。

まずは自社の管理職研修について、本記事のチェックリストで「研修後の支援」がどこまで設計されているかを点検することから始めてみてはいかがでしょうか。研修を実施すること自体が目的化していないかを問い直すことが、投資を成果に変える第一歩になります。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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