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研修の効果測定はなぜ難しいのか|カークパトリックの4段階とROI

研修に費用と時間をかけていても、その成果を説明できる企業はごく一部です。成果が表れるまでの時間差、研修以外の要因との切り分け、金銭への換算という壁があるためです。カークパトリックの4段階とROIを共通の言葉にして、設計の段階から行動の変化と業績を測る方法を取り上げます。

公開日
2026/06/03
更新日
2026/09/28
読了時間
約 8 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
研修効果研修設計人的資本経営

研修にお金はかけているのに、成果を測れていない

人材育成の重要性は、かつてないほど高まっています。厚生労働省の「令和6年度能力開発基本調査」によると、OFF-JT(業務を離れて行う研修)や自己啓発支援に費用を支出した企業は54.9%、正社員に対してOFF-JTを実施した事業所は71.6%に上ります。多くの企業が、研修にコストと時間を投じているのが実情です。

ところが、その効果を説明できている企業はごく一部にとどまります。同じ調査では、能力開発や人材育成について何らかの問題があるとする事業所が79.9%と約8割に達し、内訳は「指導する人材が不足している(59.5%)」「人材を育成しても辞めてしまう(54.7%)」「人材育成を行う時間がない(47.4%)」が上位を占めました。『日本の人事部 人事白書2022』でも、研修の成果が出ていると実感している企業は、階層別に見ても最大で14%程度にとどまるという結果が示されています。

研修費は「支出」できても、その成果を数字で語れる組織は多くありません。効果測定は、研修を「コスト」から「投資」へと変えるための共通言語です。

まず、測定を難しくしている壁を確かめ、そのうえでカークパトリックの4段階モデルとフィリップスのROIモデルを手がかりに、研修の成果を示す方法を考えます。

時間差、ほかの要因、金額への換算が測定を難しくする

多くの企業が効果測定でつまずく背景には、成果が表れるまでの時間差、研修以外の要因との切り分けにくさ、金銭価値への換算の難しさという共通の壁があります。まずはこれらの壁を理解しておくことが、現実的な測定への第一歩です。

成果が表れるまでに時間差がある

研修直後に測れるのは「満足度」や「理解度」までです。学んだことが現場の行動に表れ、さらに業績として実を結ぶまでには、数か月から年単位の時間がかかります。研修当日のアンケートだけで判断すると、本当の効果を取り逃がしてしまいます。

研修以外の要因と切り分けにくい

売上や離職率といった成果は、景気・人事異動・他の施策など、研修以外の要因にも左右されます。「その成果が本当に研修によるものか」を完全に証明するのは難しく、ここで測定そのものをあきらめてしまう企業が少なくありません。

金銭価値への換算が難しい

ROIを算出するには、成果を金額に換算する必要があります。フィリップスのROIモデルでも、最大の難所は「研修が生み出した金銭的価値の見極め」だとされています。完璧な精度を求めるよりも、合理的な前提を置いて概算する姿勢が現実的です。

効果測定の地図|カークパトリック4段階+ROI

研修評価の世界標準が、ドナルド・カークパトリックが提唱した「4段階モデル」です。効果を次の4つの段階に分けて捉えます。

  • レベル1 反応(Reaction):受講者の満足度・有用感。研修直後のアンケートで測定します。
  • レベル2 学習(Learning):知識・スキルの習得度。理解度テストや実技チェックで測定します。
  • レベル3 行動(Behavior):学びが現場の行動に表れたか。上司評価・行動観察・360度評価などで測定します。
  • レベル4 結果(Results):業績や組織指標への影響。売上・生産性・離職率・クレーム件数などで測定します。

ここで注意したいのは、レベル1の満足度が高いことと、研修が成果につながることは別だという点です。「良い研修だった」という感想(レベル1)に安心せず、現場の行動(レベル3)まで見届ける姿勢が欠かせません。多くの企業はレベル1〜2で止まりがちですが、経営層が本当に知りたいのはレベル3〜4です。

さらに、ジャック・フィリップスは1996年、この4段階に第5レベルとして「ROI(投資対効果)」を加えました。算出式自体はシンプルです。

研修のROI(%)=(研修で生じた利益 − 研修コスト)÷ 研修コスト × 100。研修コストには、会場費・教材費・講師料に加え、受講者の人件費や研修中の機会損失費用も含めて考えます。

図解01

経営層が本当に知りたいのはレベル3〜4

多くの企業はレベル1〜2で止まりがち

  1. レベル1反応受講者の満足度・有用感
  2. レベル2学習知識・スキルの習得度
  3. レベル3行動学びが現場の行動に表れたか
  4. レベル4結果業績や組織指標への影響
  5. レベル5ROI投資対効果

レベル2のあと:多くの企業はレベル1〜2で止まりがち

現場の行動(レベル3)まで見届ける姿勢が欠かせません。出典:ドナルド・カークパトリックの4段階モデル/ジャック・フィリップスのROIモデル(1996年)

測る深さを研修ごとに決め、行動と業績の変化を追う

効果測定は「研修が終わってから考える」ものではありません。設計の段階から組み込むことが成功の条件です。

研修前に「成果の定義」を決める

最初に、その研修によって受講者の行動と業績がどう変わってほしいのか(レベル3・4)を、具体的に言語化します。ゴールが曖昧なまま始めると測定指標も後付けになり、効果を語れなくなります。

研修後に「誰の」「どの行動」「どの指標」が変わるべきかを1文で書ければ、成果の定義はできています。

どのレベルまで測るかを決める

すべての研修をレベル4・ROIまで測る必要はありません。重要度やコストの高い研修ほど深く、それ以外は反応・学習までと、メリハリをつけます。測定にかける労力もまた「投資」だからです。

測定レベル(レベル1〜4/ROI)は、研修ごとに事前に決めておきます。

行動変容(レベル3)を測る仕組みを埋め込む

最も重要で、最も抜け落ちやすいのがレベル3です。研修の1〜3か月後に、上司による行動チェック、本人の実践報告、1on1での振り返りなどを仕組みとして設定します。「やりっぱなし」を防ぐ、学びの転移(トランスファー)の設計が鍵になります。

研修後のフォロー(行動を確認する機会)が日程として組み込まれていなければ、学びは「やりっぱなし」になりがちです。

業績指標(レベル4)と接続する

研修のねらいに対応する業績指標を、あらかじめ1〜2個に絞って追跡します。受講グループと非受講グループを比較したり、研修の前後で同じ指標を比べたりすると、研修以外の要因の影響をある程度切り分けられます。

成果を判断する業績指標とその比較方法(前後比較・対照群)が決まっていれば、研修以外の要因の影響もある程度切り分けられます。

ROIとして経営の言葉に翻訳する

最後に、レベル4の成果を金額に換算し、コストと比較してROIを概算します。精緻さよりも、前提を明示した「説明できる概算」が経営の意思決定には有効です。たとえば、総コスト200万円の営業研修を受けたチームが、半年間で粗利を約300万円押し上げたと見積もれる場合、ROIは(300万円 − 200万円)÷ 200万円 × 100 = 50%と概算できます。対象期間・比較方法・換算根拠といった前提をセットで示すことが、数字を独り歩きさせないコツです。

数字に表れにくい定性的な効果(受講者の意欲向上やチームの雰囲気の変化など)も併記すると、研修の価値を立体的に示せます。

報告では、金額換算の前提を明記したうえで、定量・定性の両面から成果を示します。

効果測定は「人的資本経営」の土台になる

人的資本の情報開示が広がるなか、「人にいくら投資し、どのような成果が出たのか」を説明する力は、人事部門だけでなく経営全体の課題になっています。研修の効果測定は、単なる事後評価ではなく、次の投資判断を高度化し、社内外に人材投資の価値を示すための経営インフラです。まずはレベル1から始め、重要な研修だけでもレベル3・4へと広げていくことで、組織の学習投資は着実に「説明できる投資」へと変わっていきます。

まとめ

研修は「実施して終わり」ではなく、「成果を測り、次に活かす」ことで初めて投資になります。カークパトリックの4段階とROIという共通言語を持ち、研修前に成果を定義し、測る深さを決め、行動と業績の変化を追う流れを設計の段階から組み込んで回すことが、限られた育成予算を最大化する近道です。

WONDERFUL GROWTHでは、研修の設計から効果測定・改善までを一貫して支援しています。自社の研修を「成果が見える投資」に変えたい方は、ぜひ一度ご相談ください。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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