株式会社帝国データバンクが2026年8月17日に発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」によると、正社員の不足を感じている企業の割合は51.3%でした。7月としては4年連続で5割を超えており、前年同月(2025年7月、50.8%)から0.5ポイント上昇し、高水準で推移しています。非正社員の不足感は28.8%で、2025年4月以降は3割を下回る水準が続いており、正社員の不足感だけが高止まりしているのが特徴です。
業種別に見ると、正社員では「金融」が67.1%で最も高く、「建設」(66.0%)、「運輸・倉庫」(65.6%)など、あわせて6業種で6割を超えました。同調査では、人手不足を背景とした倒産(人手不足倒産)が2026年上半期に227件発生し、上半期としては5年連続で前年を上回り過去最多を更新したことも報告されています。業種別では建設業が65件、サービス業が59件、運輸・通信業が38件と続いており、案件や受注はあっても働き手を確保できずに対応しきれない企業が増えているのが実情です。
こうした数字が示しているのは、人手不足が景気の一時的な波ではなく、生産年齢人口の減少や熟練した人材の高齢化・引退を背景とした構造的な課題だという点です。人事担当者・経営層にとっては、「採用を強化すれば解決する」という前提そのものを見直す必要が出てきています。
出典:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(2026年8月17日発表)
採用を増やすだけでは埋まらない
有効求人倍率が高い職種や専門性の高い業務では、求人を出しても応募が集まらない状態が続いています。賃上げによって採用力を高めようとする動きも広がっていますが、人件費の上昇分を価格に転嫁できなければ、採用コストの引き上げそのものが経営を圧迫します。前出の調査でも、資材や賃金の高騰で原価が上がり、取れるはずの利益が目減りしているという企業の声が紹介されています。
採用だけで人手不足を埋めようとする発想には、すでに限界が見えています。今いる社員の力を最大限に引き出し、少ない人数でも業務を止めない体制をつくることが、採用強化と並行して取り組むべき現実的な選択肢になります。その代表的な手法が「多能工化」です。
「多能工化」という選択肢
多能工化とは、一人の社員が複数の業務・工程を担えるようにする人材配置の考え方です。トヨタ自動車の生産方式(トヨタ生産方式)の中で提唱されたとされる考え方で、特定の担当者しかできない「単能工」の状態を解消し、欠勤や繁閑差、退職といった変動要因に組織全体で対応できるようにすることを目的としています。
似た施策に「ジョブローテーション」がありますが、目的は異なります。ジョブローテーションは主に人材育成やキャリア形成を目的として担当業務を定期的に変える施策であるのに対し、多能工化は日々の人員配置そのものの柔軟性を高めることを目的とします。両方を組み合わせて運用している企業も少なくありません。
厚生労働省は、職種別・業種別に習熟レベルを段階的に示す「職業能力評価基準」や、キャリアマップ・職業能力評価シートの様式とマニュアルを公開しています。これらは、多能工化のスキル評価の土台として活用できます。中小企業庁も「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」の中で、スキルマップを用いた人材活用の取り組みを紹介しています。自社で一からフォーマットを設計しなくても、公的機関が用意した枠組みを土台にできる点は、特に中小企業にとって着手のハードルを下げる材料になります。
出典:厚生労働省「職業能力評価基準」/中小企業庁「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」
人員配置を柔軟にする5つの実践ステップ
多能工化は、担当を入れ替えてみるだけでは定着しません。現状把握から評価制度への反映まで、段階を踏んで進める必要があります。
ステップ1 現状のスキルを「見える化」する
まず、部署やチームの主要業務を洗い出し、誰がどの業務をどの程度のレベルでこなせるかを一覧にする「スキルマップ」を作成します。習熟度は、厚生労働省の職業能力評価基準を参考に、レベル1(見習い・要指導)からレベル4(指導可能)程度の段階で整理すると、社内の共通言語にしやすくなります。このステップで見えてくるのが、担当者が休むと誰も代わりが務まらない「属人化業務」です。多能工化の初手は、この属人化業務の洗い出しにあります。
実施チェック:主要業務を洗い出し、担当者以外に代替できる人がゼロの業務を特定しましたか。
ステップ2 育成の優先順位を決める
すべての業務を同時に多能工化することはできません。欠員が出たときの影響が大きい業務、繁忙期に人手が偏りやすい業務から優先順位をつけ、誰が・どの業務を・いつまでに習得するかの目標を具体的に設定します。
実施チェック:育成の優先度が高い業務を3つ選び、担当者と目標時期を決めましたか。
ステップ3 OJTとOFF-JTを組み合わせて育成計画を実行する
優先順位が決まったら、実際の業務を通じた指導(OJT)と、研修や資格取得支援などの体系的な学習(OFF-JT)を組み合わせて育成を進めます。小さな業務から任せる範囲を広げる、指導担当者を明確に決めるといった工夫が定着率を左右します。人材開発支援助成金など公的な助成制度を活用すれば、教育コストの負担を抑えることもできます。
実施チェック:誰が・いつまでに・何を教えるか、指導担当と期限を文書で明文化しましたか。
ステップ4 手当・評価制度と連動させる
多能工化が形だけで終わる企業の多くは、スキルを増やしても評価や待遇に反映されないという壁にぶつかっています。習得したスキルの幅や段階を評価制度や手当に反映し、社員から見て頑張った分が報われる仕組みにすることが、取り組みを継続させるための分かれ目になります。
実施チェック:スキル習得が給与・評価にどう反映されるかを、社員に説明できる状態になっていますか。
ステップ5 スキルマップを定期的に更新し、体制を検証する
人員構成や業務内容は時間とともに変化するため、スキルマップは一度作って終わりにせず、半期に一度など定期的に見直します。繁忙期を想定した人員配置のシミュレーションや、退職・異動が発生した場合の代替可能性を事前に確認しておくことで、実際に欠員が出たときの混乱を最小限に抑えられます。
実施チェック:半期に一度、スキルマップの見直しと、再配置を想定した訓練を行う運用になっていますか。
まとめ
正社員の人手不足を感じる企業は51.3%にのぼり、7月としては4年連続で5割を超えました。人手不足倒産も過去最多を更新するなか、採用の強化だけでこの状況を打開するのは容易ではありません。今いる社員のスキルの幅を広げる多能工化は、採用市場の動向に左右されにくい、社内で完結できる対応策です。スキルの見える化から評価制度への反映まで、段階を踏んで着実に進めることが、変化に強い組織づくりにつながります。
人員配置の柔軟化や多能工化の推進体制づくりでお悩みの際は、WONDERFUL GROWTHの人材育成研修サービスをご検討ください。スキルマップの設計から評価制度への落とし込みまで、貴社の状況に合わせてご支援いたします。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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