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退職金の「増額・導入」が「減額・廃止」を上回る――人材の定着と採用に活かす報酬設計の三つの視点

東京商工リサーチの2026年調査によると、退職金の「増額・導入」は7.8%で「減額・廃止」1.9%を上回りました。退職給付制度がある企業は74.9%にとどまる中、人材の定着と採用に活かす報酬設計の三つの視点を解説します。

公開日
2026/08/20
更新日
2026/08/20
読了時間
8
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
退職金退職給付制度報酬設計人事戦略人材定着

退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%です。厚生労働省の調査では、この数字は5年前の80.5%から5.6ポイント低下しました。一方で、東京商工リサーチが2026年6月に実施した調査では、2023年以降に退職金を「増額・導入」した企業が7.8%で、「減額・廃止」した1.9%を上回っています。退職金は今、静かに、しかし確実に位置づけを変えつつあります。

本記事では、公的統計と最新の民間調査データをもとに、退職給付制度の現在地を確認したうえで、人材の定着と採用にどう活かすか、三つの視点で解説します。

退職給付制度がある企業は74.9%、5年で5.6ポイント低下

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(退職一時金・退職年金)制度がある企業の割合は74.9%です。平成30年調査の80.5%と比べると5.6ポイント低下しており、退職給付制度は緩やかな縮小傾向にあります。企業規模別にみると、「1,000人以上」が90.1%であるのに対し、「30〜99人」は70.1%にとどまり、企業規模が小さいほど制度がある割合は低くなります。

制度の中身にも幅があります。退職給付制度がある企業のうち、「退職一時金制度のみ」が69.0%、「退職年金制度のみ」が9.6%、「両制度併用」が21.4%です。退職一時金制度の支払準備形態をみると、自社で積み立てる「社内準備」が56.5%である一方、中小企業を中心に、勤労者退職金共済機構が運営する「中小企業退職金共済制度(中退共)」を活用する企業も42.0%にのぼります。自社だけで準備することが難しい中小企業にとって、外部の共済制度は現実的な選択肢の一つです。

定年退職者への支給額にも変化がみられます。勤続20年以上かつ45歳以上で定年退職した大学・大学院卒(管理・事務・技術職)への退職給付額は、令和5年調査で平均1,896万円でした。平成30年調査の1,983万円と比べると87万円の減少です。退職金は、長期勤続への「まとまった対価」として機能してきましたが、その水準は緩やかに見直されつつあります。

退職金の「増額・導入」が「減額・廃止」を上回る

東京商工リサーチが2026年6月1日から8日にかけて実施した調査(有効回答6,473社)によると、2023年以降の退職金制度について「変更していない」と回答した企業は72.5%(4,694社)でした。一方、「退職金への拠出を増額した」「退職金制度を導入した」を合計した「増額・導入」は7.8%(508社)で、「拠出を減額した」「制度を廃止した」を合計した「減額・廃止」の1.9%(125社)を上回りました。今後の見通しについても、「増額・導入を検討している」が3.0%で、「減額・廃止を検討している」の0.9%を上回っています。

産業別にみると、「増額・導入」の割合が最も高いのは建設業の12.3%で、卸売業の8.4%が続きました。一方、金融・保険業では「増額・導入」がゼロで、「制度を廃止した」が3.7%にのぼっています。人手不足が深刻な業種ほど、退職金を人材確保の手段として積極的に使う傾向がうかがえます。

中小企業を中心に、賃上げの結果増額されるのみならず「退職金制度を導入した」「退職金への拠出の増額・導入を検討している」とする企業もあり、その合計は中小企業では6.2%に及んだ。
(出典:東京商工リサーチ「2026年『退職金』に関するアンケート調査」2026年6月17日発表)

注目したいのは、「減額・廃止」に動いた企業の理由が、企業規模によって異なる点です。大企業では「確定拠出年金の利用を推奨するため」が50.0%で最も多く、従業員自身に資産運用を委ねる方向へ舵を切っています。一方、中小企業では「成果主義への移行のため」が38.3%、「インフレ率と同等以上の運用が見込めないため」が29.1%で上位を占めました。物価上昇のなかで、退職時にまとめて受け取る資産の実質的な目減りを懸念する声が背景にあります。

さらに、退職金の拠出を減らした企業が、その原資をどこに振り向けたかをみると、「既存従業員の月給を引き上げた」が48.9%で最多となり、「中途の新規採用者の月給を引き上げた」23.9%、「福利厚生を拡充した」20.8%、「新卒者の月給を引き上げた」15.6%と続きました。退職金という「将来の後払い」の一部を、「今の給与」や「入り口の採用力」に振り替える動きが進んでいることがわかります。

人材の定着と採用に活かす報酬設計の三つの視点

ここでは、退職給付制度をめぐるこうした変化を踏まえ、自社の報酬設計を見直す際の三つの視点を解説します。

視点1.自社の退職給付制度の「現在地」を点検する

まず着手すべきは、自社の退職給付制度が、同業他社や採用競合と比べてどの水準にあるかを把握することです。制度の有無、一時金と年金の別、支給水準は、求職者が入社を決める際の判断材料であると同時に、既存社員が「この会社に長くいる意味」を考える材料にもなります。自社での積み立てが難しい場合は、中小企業退職金共済制度など外部の仕組みを活用する選択肢もあります。制度の存在を知らない、あるいは内容を正しく理解していない社員が一定数いる企業も少なくありません。

実施チェック

  • 自社の退職給付制度の有無、種類(一時金・企業年金・併用)を、最新の状態で文書化しているか
  • 同業他社や採用競合の水準を、求人票や業界データで確認したか
  • 制度の内容を、対象となる社員全員が正しく理解できる形で周知しているか

視点2.原資の使い道を「採用」と「定着」のどちらに効かせるか設計する

退職金制度を見直す場合、生まれた原資をどこに振り向けるかは、単なる会計上の配分ではなく、人材戦略そのものの選択です。既存社員の月給に反映すれば定着への訴求力が高まり、新卒・中途の初任給に反映すれば採用競争力が高まります。福利厚生の拡充に回すという選択肢もあります。どの目的を優先するかを曖昧にしたまま制度変更を進めると、狙った効果が得られないまま、単なる「退職金の削減」という印象だけが残りかねません。

実施チェック

  • 退職金制度を見直す目的が「採用力の強化」か「定着の強化」か、あるいはその両立かを明確にしたか
  • 原資の振り向け先について、経営層と人事で認識を一致させたか
  • 制度変更後の効果を、採用充足率や定着率などの指標で検証する計画があるか

視点3.変更する場合は「理由」を制度として示し、丁寧に説明する

退職金の減額や廃止は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があり、就業規則の変更手続きや、対象となる社員への説明・合意形成に慎重な対応が求められます。東京商工リサーチの調査でも、変更理由として「成果主義への移行」や「運用環境の変化」が挙げられており、多くの企業が制度変更の背景を明確に持っていることがわかります。理由を曖昧にしたまま変更を進めると、社員の不信感を招き、かえって離職を後押ししかねません。

実施チェック

  • 制度変更の理由を、社内外に説明できる形で文書化したか
  • 就業規則の変更にあたり、必要な手続き(労働者代表からの意見聴取等)を確認したか
  • 変更後、対象となる社員への説明の場を設け、質問に答える機会を用意したか

「後払いの安心」から「選べる報酬」へ

退職金は、長年「年功序列」や「終身雇用」を前提に、会社に長くとどまることへの対価として機能してきました。しかし転職が珍しくなくなり、確定拠出年金やNISAなど資産形成の選択肢も広がった今、退職金のあり方そのものが曲がり角を迎えています。大切なのは、増やすか減らすかという二択ではなく、自社が採用と定着のどちらに、どのような形で報酬を届けたいのかを、あらためて言語化することです。

自社の退職給付制度が今どの位置にあるのか、まずは点検することから始めてみてはいかがでしょうか。報酬制度の設計や人事戦略の見直しについて、専門的な支援をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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