人手不足倒産441件・過去最多が映す経営リスク
帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」によると、従業員の退職や採用難、人件費の高騰などを原因とする人手不足倒産(法的整理・負債1000万円以上)は、2025年度に441件発生しました。前年度の350件から約1.3倍に増え、年度ベースで初めて400件を超え、3年連続で過去最多を更新しています。
業種別では建設業が112件と最も多く、全体の25.4%を占めました。次いでドライバー不足が深刻な道路貨物運送業が55件、老人福祉事業が22件、飲食店が21件、労働者派遣業が12件と、人の手に頼る度合いが高い労働集約型の産業で軒並み過去最多を更新しています。
注目すべきは、人手不足倒産のうち従業員や経営幹部の退職を原因とした「従業員退職型」が118件にのぼり、年度として初めて100件を超えたことです。同調査では、従業員の退職が相次いだことで例年どおりの受注ができなくなり事業継続を断念した建設会社や、若手従業員の連続的な退職をきっかけに事業停止に至った企業の事例が紹介されています。
求めるスキルを有する人材の応募が少なく、仮に応募があっても、自社よりも賃金水準の高い他企業へと流出してしまう(帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」より、企業の声)
人手不足はもはや「採用がうまくいかない」という人事部門の課題ではなく、事業の存続そのものを左右する経営リスクになっています。
なぜ「採用で埋める」戦略だけでは会社を守れないのか
構造要因1:求人を出しても人が来ない労働市場
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」によると、2026年4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、正社員の有効求人倍率は0.99倍です。数字だけ見るとほぼ拮抗しているように見えますが、これは全国・全企業規模をならした平均値です。
企業規模別に見ると景色は一変します。リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」では、大卒全体の求人倍率が1.66倍であるのに対し、従業員300人未満の企業に限ると8.98倍に達しました。求人総数39.9万人に対して就職希望者は4.4万人にとどまり、計算上は35.4万人分の採用枠が埋まりません。中小企業にとって「募集すれば採れる」という前提は、すでに成立していないのです。
構造要因2:賃金競争では大手に勝ちにくい
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」では、正社員が不足していると感じる企業は52.3%と、1月としては4年連続で半数を超えました。業種別では建設(69.6%)、情報サービス(69.2%)、メンテナンス・警備・検査(67.4%)が上位を占めます。
不足が続けば賃上げ競争になりますが、原資に限りがある中小企業が大手と同じ土俵で勝負を続けるのは容易ではありません。同調査でも、賃金だけに頼らない総合的な魅力の構築が不可欠であると指摘されています。
構造要因3:一人の退職が連鎖し、事業が止まる
従業員退職型の倒産には共通の経路があります。キーパーソンの退職によって残った社員の負荷が増え、それが次の退職を呼び、気づいたときには受注や納品を維持できる体制が失われている、という連鎖です。採用で穴を埋めようとしても、前述のとおり補充には時間がかかるため、退職の連鎖には追いつけません。
つまり、人手不足倒産への最も確実な備えは、「辞めない組織」と「育つ仕組み」を先につくっておくことです。
「採れない前提」で会社を守る5つの実践ステップ
ここからは、採用市場の動向に左右されにくい組織をつくるための実践ステップを、実施チェックとともに紹介します。
ステップ1:人材リスクを棚卸しする
最初に行うべきは、自社の「属人化の地図」を描くことです。主要な業務を書き出し、それぞれについて「担当できる人が何人いるか」「その人が退職した場合、業務が何日止まるか」を評価します。退職の影響が大きい業務とキーパーソンを特定できれば、打ち手の優先順位が明確になります。
- 実施チェック:主要業務ごとの担当者と代替可能性を一覧化し、影響度を3段階で評価しましたか。
ステップ2:業務の標準化と多能工化を進める
「一人が抜けると止まる業務」を減らすには、手順の文書化と複数人での担当体制が基本です。マニュアルの整備、二人一組での業務遂行、計画的なジョブローテーションを通じて、特定の個人に依存しない体制へ段階的に移行します。建設業や運送業のように資格が必要な業務では、資格取得の支援計画もここに含めます。
- 実施チェック:一人にしか担当できない業務の件数を把握し、削減目標と期限を設定しましたか。
ステップ3:計画的な育成投資で「社内で育てる力」を高める
採用は市場環境に左右されますが、育成は自社でコントロールできます。スキルマップで社員一人ひとりの現在地と到達目標を可視化し、OJTを「現場任せの経験学習」から「期限と到達基準を定めた育成計画」へ転換しましょう。社内に教える人材がいない領域は、外部研修を組み合わせることで補えます。
- 実施チェック:役割ごとに「いつまでに、何ができるようになるか」を定めた育成計画がありますか。
ステップ4:定着につながるマネジメントへ転換する
退職の引き金の多くは、仕事内容そのものよりも、職場の人間関係や上司とのコミュニケーションにあります。定期的な1on1ミーティングで小さな不満や不安を早期に拾い、成果だけでなく成長や貢献を言葉にして承認する。こうしたマネジメント行動は訓練で身につけられるものであり、管理職教育は定着への投資として費用対効果が高い領域です。
- 実施チェック:管理職の役割に「部下の定着」を明示し、面談の実施状況を定点観測していますか。
ステップ5:賃金以外の魅力を設計し、発信する
帝国データバンクの調査が示唆する総合的な魅力とは、成長機会、仕事の裁量、柔軟な働き方、職場の人間関係といった、賃金以外の魅力の組み合わせです。これらを意図的に設計し、求人票や採用サイト、社員の言葉を通じて発信できれば、賃金競争から一歩離れた採用・定着戦略が可能になります。育成に本気で取り組む会社であること自体が、強力な採用メッセージになります。
- 実施チェック:自社で働く理由を、給与以外で3つ、社員自身の言葉で語れる状態になっていますか。
育成・定着は「守り」であり、最大の「攻め」でもある
従業員の退職で倒れる会社が過去最多になったという事実は、裏を返せば、定着と育成に成功した会社が生き残り、選ばれる時代になったということです。定着率が高まれば採用と引き継ぎの負荷が減り、技能が組織に蓄積し、生産性と顧客からの信頼が高まります。その評判がさらに採用力を高めるという好循環は、企業規模の大小を問わず実現できます。
人手不足倒産441件という数字を、自社の人材戦略を見直す機会として活かしてください。
まとめ
2025年度の人手不足倒産は441件と3年連続で過去最多を更新し、従業員退職型も初めて100件を超えました。従業員300人未満の企業の大卒求人倍率が8.98倍に達するいま、「採用で埋める」前提の人員計画は構造的に成立しにくくなっています。人材リスクの棚卸し、業務の標準化と多能工化、計画的な育成、定着につながるマネジメント、賃金以外の魅力づくりという5つのステップで、「採れない時代」にも揺らがない組織をつくりましょう。
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参考・引用元
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」(2026年4月9日) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-laborshortage-br25fy/
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」(2026年2月20日) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260220-laborshortage202601/
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73416.html
- リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」 https://www.works-i.com/surveys/report/250424_recruitment_saiyo_ratio.html
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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