「入社した会社で長く働きたい」。多くの新入社員は、そう考えて社会人生活をスタートします。ところが現実には、入社から3年のあいだに少なくない人数が職場を去っていきます。この理想と現実の隔たりは、採用にかけたコストを無駄にするだけでなく、現場の負担増や育成投資の損失にも直結します。
厚生労働省「新規学卒者の離職状況」によると、新規大学卒就職者の就職後3年以内離職率は34.9%(令和3年3月卒業者)にのぼります。直近の令和4年3月卒業者では33.8%とわずかに低下したものの、依然として3人に1人が3年以内に離職する「3年3割」の水準が続いています。
注意したいのは、若手が最初から早期離職を前提としているわけではない、という点です。マイナビ「2026年卒 大学生キャリア意向調査」では、入社予定先が決まっている学生の58.8%が「入社予定先企業で長く働きたい」と回答し、「1年以内に転職を考えたい」と答えた人はわずか0.9%でした。長く働く意思を持って入社した人材が、なぜ短期間で去ってしまうのか。その答えの多くは、入社後の体験設計、すなわちオンボーディングにあります。
なぜ「入社直後」が定着の分かれ道になるのか
早期離職は、入社して何年も経ってから静かに進むものではありません。むしろ、その芽は入社直後の数か月のうちに表れます。
マイナビ「2024年卒 入社半年後調査」では、入社を決めたときと比べて勤務先への満足度が「下がった」人が40.1%にのぼり、「上がった」人の18.6%を大きく上回りました。入社前後で最も大きなネガティブなギャップを感じた項目は「仕事内容」で、28.3%の人が挙げています。期待と現実のずれが、入社後の早い段階で生じていることがうかがえます。
この傾向は新卒に限りません。マイナビ「中途採用実態調査2025年版」によると、企業の人事担当者が「早期離職」と認識する勤続期間は、平均して「入社してから9.6カ月以内」でした。2025年上半期に早期離職者がいた企業は65.4%にのぼります。新卒・中途を問わず、入社からおよそ1年、とりわけ最初の数か月が定着の分かれ道になっているのです。
オンボーディングとは――単発の新人研修との違い
オンボーディング(on-boarding)とは、新しく加わった人が組織に定着し、いち早く力を発揮できるよう支援する一連のプロセスを指します。入社初日の事務手続きや、数日間の集合研修だけを指す言葉ではありません。入社前の内定者フォローから、入社後数か月にわたる継続的な受け入れまでを含む、設計された体験の総体です。
従来型の新人研修が「知識やスキルを一度に教える場」だとすれば、オンボーディングは「新しい環境になじみ、成果を出せるようになるまでを継続的に支える仕組み」です。具体的には、次の3つの適応を同時に進めることが求められます。
- 職務への適応:担当業務の内容と進め方を理解し、小さな成果を出せる状態になること
- 人間関係への適応:上司・同僚・関係部署との関係を築き、安心して相談できる相手を持つこと
- 組織文化への適応:会社の価値観や暗黙のルールを理解し、自分の居場所を感じられること
この3つのうちどれかが欠けると、本人は「うまくやれていない」という感覚を抱きやすくなります。オンボーディングの設計とは、これらの適応を偶然や本人の努力任せにせず、意図的に後押しする仕組みをつくることにほかなりません。
早期離職を防ぐオンボーディング設計の4ステップ
ここからは、オンボーディングを仕組みとして設計するための具体的な手順を、4つのステップに分けて解説します。各ステップの末尾に「実施チェック」を添えましたので、自社の現状と照らし合わせながらお読みください。
ステップ1 入社前に期待値をそろえる
ギャップは入社後に突然生まれるのではなく、採用段階での「伝え方」に起因することが少なくありません。仕事内容へのネガティブなギャップが最も多いという調査結果は、入社前に伝えた情報と実際の業務との間にずれがあることを示唆します。採用の段階で、良い面だけでなく業務の難しさや負荷も率直に伝えておく考え方は、RJP(Realistic Job Preview)と呼ばれ、入社後の幻滅を防ぐうえで有効とされています。
あわせて、内定から入社までの期間に接点を保ち、入社初日に「歓迎されている」と感じられる準備を整えておくことが、最初の安心感につながります。
実施チェック
- 募集・面接の段階で、仕事の良い面と大変な面の両方を具体的に伝えている
- 内定者に対し、入社までに業務や職場の様子を知る機会を設けている
- 入社初日の受け入れ準備(座席、機材、関係者への周知など)を事前に終えている
ステップ2 最初の90日の体験を設計する
入社後の最初の3か月は、定着の土台が固まる重要な期間です。この時期に「自分はここで通用する」「相談できる相手がいる」という手応えを得られるかどうかが、その後の定着を大きく左右します。やみくもに情報を詰め込むのではなく、段階的に役割を広げ、小さな成功体験を積み重ねられるように設計します。
具体的には、30日・60日・90日といった節目ごとに「この時点で何ができていればよいか」という目安を本人と共有し、達成を一緒に確認していく方法が有効です。到達点が見えることで、本人は自分の成長を実感でき、上司も支援すべきタイミングを逃しにくくなります。
実施チェック
- 入社後3か月の到達目標を、本人と上司で共有している
- 早い段階で達成できる小さな業務を用意し、成功体験を意図的に設計している
- 分からないことをすぐ聞ける相手(次に述べるメンターなど)を明示している
ステップ3 上司と現場の関わり方を決める
オンボーディングの成否は、現場の関わり方に大きく左右されます。とりわけ、上司による定期的な対話と、相談役となる先輩社員の存在は、新入社員の不安をやわらげるうえで効果的です。受け入れをなんとなく現場任せにすると、配属先によって体験の質が大きくばらつき、定着率にも差が生まれます。
上司は、業務の指示だけでなく、本人の状態を確認する場を意図的に設けます。週に一度などの頻度で短い1対1の対話(1on1)を行い、進捗だけでなく不安や悩みにも耳を傾けることが望まれます。あわせて、年齢の近い先輩をメンターやバディとして配置すると、上司には言いにくい小さな疑問を解消しやすくなります。
実施チェック
- 上司と新入社員の定期的な1対1の対話を、仕組みとして設けている
- 相談役となるメンターまたはバディを、配属先ごとに決めている
- 受け入れの手順を標準化し、配属先による体験の差を抑えている
ステップ4 定点観測し、改善し続ける
オンボーディングは「一度つくって終わり」ではありません。施策が実際に機能しているかを定期的に確認し、改善を重ねることで初めて成果につながります。本人の状態を早めに把握できれば、離職の兆しに気づき、手を打つ余地も生まれます。
入社後30日・90日・半年といった節目で、簡単なアンケートや面談を通じて適応の状態を確認します。「仕事内容」「人間関係」「組織文化」という3つの観点で見ると、どこにつまずきがあるかを把握しやすくなります。得られた声は、次の入社者に向けた受け入れ設計の改善に生かします。
実施チェック
- 入社後の節目ごとに、適応状態を確認する機会を設けている
- 「仕事・人間関係・文化」の観点で、つまずきの所在を把握している
- 集めた声を、次のオンボーディング改善に反映する流れがある
オンボーディングを「仕組み」として根づかせる留意点
最後に、オンボーディングを一過性のイベントで終わらせず、組織の仕組みとして根づかせるための留意点を3つ挙げます。
第一に、属人化を避けることです。特定の担当者の熱意に依存した受け入れは、その人が異動すれば失われます。手順をチェックリストとして文書化し、誰が担当しても一定の質を保てるようにします。
第二に、人事と現場の役割を分けて明確にすることです。制度や共通研修の設計は人事が担い、日々の業務指導や声かけは現場が担う、というように分担を定めておくと、「誰かがやるだろう」という空白が生まれにくくなります。
第三に、中途入社者にも目を向けることです。早期離職と認識される期間が「入社9.6カ月以内」と短くなっている今、即戦力と見なされがちな中途入社者こそ、放置されて孤立しやすい存在です。経験者であっても、組織文化や人間関係への適応には支援が必要であるという前提に立つことが大切です。
まとめ
新入社員の多くは、長く働く意思を持って入社します。その意思が早期離職に変わってしまう背景には、入社前後の期待と現実のギャップ、そして入社直後の支援不足があります。オンボーディングを「入社前の期待値調整」「最初の90日の体験設計」「上司と現場の関わり」「定点観測と改善」という4つの観点で設計し直すことで、定着と早期戦力化は両立できます。まずは自社の受け入れプロセスを、本記事の実施チェックに沿って点検することから始めてみてはいかがでしょうか。
WONDERFUL GROWTH では、新入社員の定着と早期戦力化を支援する研修・オンボーディング設計のご相談を承っています。自社に合った受け入れの仕組みづくりにご関心のある方は、以下より資料をご請求ください。
出典・参考資料
- 厚生労働省「新規学卒者の離職状況」(令和4年3月卒業者・令和3年3月卒業者)
- マイナビ「2026年卒 大学生キャリア意向調査 8月<就職活動・進路決定>」
- マイナビ「2024年卒 入社半年後調査」
- マイナビ「中途採用実態調査2025年版」
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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