中途採用の「前職照会」はまだ少数派――実施企業はわずか13.5%
中途採用の合否判断は、書類選考と数回の面接だけで行われることが大半です。しかし、面接で語られた実績と、入社後に実際に発揮される実績との間には、しばしば差が生じます。日本の人事部が実施した「人事白書2025」によると、中途採用でリファレンスチェック(バックグラウンドチェック)を実施している企業はわずか13.5%にとどまり、「今後も実施する予定はない」と回答した企業は49.5%にのぼります。従業員5,001人以上の企業でも実施率は24.1%であり、企業規模を問わず、前職照会という選考プロセスはまだ一般的とはいえません。
一方で、実施している企業に効果を尋ねると、63.1%が「早期離職防止に効果がある」と回答し、実施企業の68%が「リファレンスチェックの結果を採用可否の判断材料として活用している」と答えています。つまりリファレンスチェックは、導入した企業にとっては手応えのある選考手法でありながら、大多数の企業にとっては手つかずのままという状態にあります。
中途採用でリファレンスチェックを実施している企業はわずか13.5%。実施企業の63.1%は「早期離職防止に効果がある」と回答している――『日本の人事部』人事白書2025より
本記事では、リファレンスチェックの基本的な考え方と、個人情報保護の観点を踏まえた導入の5つの実践ステップを解説します。
リファレンスチェックとは何か
リファレンスチェックとは、候補者本人の同意を得た上で、前職・現職の上司や同僚など第三者に対し、勤務実績や実務能力、人柄、マネジメントスタイルなどを確認する選考手法です。候補者自身が申告する経歴やスキルを第三者の証言と照らし合わせることで、面接だけでは把握しづらい、入社後の再現性を確認する狙いがあります。
似た言葉に「バックグラウンドチェック」があります。バックグラウンドチェックは、学歴・職歴など申告内容に虚偽がないかや、犯罪歴の有無といった事実確認に重点を置く調査であり、リファレンスチェックとは主眼が異なります。両者を区別せずに運用すると、後述する個人情報保護法上の要配慮個人情報の扱いを誤るおそれがあるため、自社がどちらを、何の目的で実施するのかを最初に切り分けておく必要があります。
リファレンスチェックを導入する5つの実践ステップ
ステップ1 確認したい項目と実施目的を先に決める
リファレンスチェックを「なんとなく実施する」企業ほど、質問項目が曖昧になり、結果の解釈にも一貫性がなくなります。面接だけでは確認しきれない項目、例えばマネジメント経験の実態やチームでの役割、退職理由に矛盾がないかなどのうち、何を優先的に確認したいのかを、採用要件と紐づけて言語化しておくことが出発点になります。
実施チェック:確認したい項目を、面接評価シートや職務要件定義書と紐づけて3〜5項目に絞り込んでいますか。
ステップ2 候補者本人から明確な同意を得る
職業安定法第5条の5は、求職者等の個人情報の収集を業務の目的の達成に必要な範囲内に限り、その目的を明らかにして行うことを企業に求めています。また、病歴や犯罪歴などの要配慮個人情報は、個人情報保護法上、原則として本人の同意なく取得することができません。リファレンスチェックにおいても、調査目的・照会先の選び方・確認する質問項目を候補者に事前説明した上で、同意を得てから実施することが前提になります。同意を得ずに前職へ照会する運用は、法的なリスクだけでなく、候補者からの信頼を損なう行為にもなりかねません。
実施チェック:調査目的・照会先・質問項目を明記した同意書を用意し、記録の残る方法で同意を取得していますか。
実施チェック:同意を得られなかった候補者を、選考上不利益に扱わない運用になっていますか。
ステップ3 照会先は複数・多角的に選ぶ
候補者本人が推薦する照会先だけに依頼を絞ると、性質上、候補者に有利な証言に偏りやすくなります。可能な範囲で、候補者からの推薦者に加え、直属の上司やプロジェクトで関わった同僚など、複数名かつ異なる立場の照会先を組み合わせることで、人物像を多角的に確認できます。
実施チェック:照会先を候補者の推薦のみに依存せず、複数名・複数の立場から確認できる設計になっていますか。
ステップ4 内定判断に間に合うタイミングで実施する
リファレンスチェックは、最終面接の後に実施する企業が多い一方、選考の早い段階で行い、最終面接での確認材料として活用する企業もあります。内定通知の直前に慌てて依頼すると、照会先との日程調整が間に合わず、結果を待たずに内定を出さざるを得ない事態にもなりかねません。選考フローのどの時点でリファレンスチェックを組み込み、結果が出るまでに何営業日を見込むかを、あらかじめ採用スケジュールに織り込んでおく必要があります。
実施チェック:リファレンスチェックの実施から結果回収までの標準日数を選考フローに組み込み、内定判断のスケジュールと矛盾しない設計にできていますか。
ステップ5 結果を「唯一の判断材料」にしない
リファレンスチェックには限界もあります。照会先の立場や関係性によって回答に偏りが生じる可能性があるほか、回答内容そのものの裏付けを取ることが難しい場合もあります。結果だけで合否を決めるのではなく、面接評価や適性検査などと組み合わせた総合判断のプロセスに位置づけることが重要です。あわせて、取得した個人情報をいつまで保管し、誰がアクセスできるのかという管理ルールも、実施前に定めておく必要があります。
実施チェック:リファレンスチェックの結果を単独の合否基準にせず、面接評価等と合わせた総合判断のプロセスに位置づけていますか。
実施チェック:取得した情報の保管期間とアクセス権限を定めていますか。
自社実施と外部サービス活用、どちらを選ぶか
リファレンスチェックの実務は、人事担当者が自ら照会先に連絡する方法と、専門の外部サービスに委託する方法に大別されます。自社実施は候補者との関係性やコストの面で柔軟に対応できる一方、担当者自身の主観やバイアスが結果に反映されやすいという弱点があります。外部サービスの活用は、第三者による客観的な聞き取りと、同意取得や記録管理の実務を仕組み化しやすい利点があります。自社の採用規模と、社内でどこまで運用を継続的に回せるかを踏まえて選択することが望ましいでしょう。なお、個人情報保護法や職業安定法の解釈に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士など専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
まとめ
中途採用におけるリファレンスチェックは、実施している企業がまだ13.5%にとどまる一方、実施企業の6割以上が早期離職防止への効果を実感している、伸びしろの大きい選考手法です。重要なのは、候補者の同意取得や要配慮個人情報の扱いといった法的な留意点を踏まえた上で、確認項目の設計から結果の位置づけまでを一貫した仕組みとして運用することです。面接だけでは見えない、入社後の再現性を確認する仕組みを、自社の採用プロセスにどう組み込むか、検討してみてはいかがでしょうか。
- 出典:『日本の人事部』人事白書2025(中途採用におけるバックグラウンドチェック・リファレンスチェックの実施状況に関する調査結果)
- 出典:職業安定法第5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)、個人情報保護法(要配慮個人情報の取得制限に関する規定)
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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