カテゴリ:採用 / 想定読者:人事担当者・経営層 / 公開予定:2026年版
はじめに:「即戦力が採れない」時代の現実
新規事業の立ち上げ、欠員補充、事業拡大。人材ニーズが顕在化したとき、多くの人事担当者は「経験者をできるだけ早く採りたい」と考えます。しかし2025年から2026年にかけて、その前提は急速に成り立たなくなりつつあります。
マイナビキャリアリサーチLabの「中途採用状況調査2025年版」によると、2024年に中途採用に積極的だった企業の割合は90.2パーセントに達し、9割を超える企業が経験者の獲得競争に参戦しています。一方で、求人倍率はIT、医療、建設をはじめとする多くの業界で高止まりしており、「経験者が採れない」という声は採用現場の共通言語になりつつあります。
こうした流れのなかで、いまもっとも実務的な打ち手として再評価されているのが「未経験者を採用し、自社で育ててハイパフォーマーへと押し上げる」という戦略です。本稿では、未経験者を確実に戦力化するための採用設計、オンボーディング、公的助成金の活用方法を、一次情報をもとに整理します。
第1章 なぜ未経験者でもハイパフォーマーになれるのか
1-1. 「経験」より「学習可能性」を見るという発想転換
ハイパフォーマーとは、組織の成果に対して中央値を大きく上回る貢献を示す人材を指します。一般に、組織の成果のおよそ8割は上位2割の人材が生み出すと言われます。重要なのは、この上位2割は「最初から経験を持っていた人」ではなく、「入社後に行動特性を獲得した人」が中心であるという点です。
近年、採用学の研究領域では、入社後のパフォーマンスを予測する変数として「過去の職務経験」よりも「学習可能性(learning agility)」「認知能力」「誠実性などのパーソナリティ特性」のほうが説明力が高いことが繰り返し示されています。つまり、未経験であっても、これらの要素を見極められれば、入社後にハイパフォーマーへと育つ確率は十分に高いのです。
1-2. 日本の労働市場の構造的特徴
厚生労働省「中途採用・経験者採用者が活躍する企業における情報公表その他取組に関する調査研究 結果報告書」(2025年3月)は、日本の中途採用には「採用時に求められる経験・知識・スキルが必ずしも厳格な要件として運用されておらず、入社後のポテンシャルを重視する傾向が強い」という特徴があると指摘しています。これは裏を返せば、未経験者の採用と戦力化に関しては、欧米よりも日本企業のほうが構造的に向いているということでもあります。
第2章 未経験採用で陥りやすい3つの落とし穴
未経験者を採用してもハイパフォーマーに育たない、あるいは早期離職してしまうケースには、共通したパターンが存在します。代表的な3つを整理します。
落とし穴1:選考基準が「人柄が良さそう」で止まっている
経験を要件にできない採用では、面接官の主観に頼るほど採用精度は下がります。構造化された選考基準を持たないまま「印象が良い人」を採用し続けると、入社後の活躍度に大きなばらつきが生じ、結果として育成コストも肥大化します。
落とし穴2:オンボーディングが「導入研修」で終わっている
厚生労働省の同調査では、企業が実施する中途入社者向けオンボーディング施策の上位は「上司との面談」(55.9パーセント)、「導入研修」(50.0パーセント)、「社内の相談窓口の案内」(35.9パーセント)、「同僚等とのコミュニケーション施策」(35.6パーセント)でした。一方、ユームテクノロジージャパンの調査では、大企業の人事担当者の6割以上が中途人材のオンボーディングに苦戦しており、特に社風やコミュニケーションスタイルの違いに難しさを感じていると回答しています。未経験者の場合、業務スキルの習得に加え、「組織への適応」というもう一つの山を越える必要があるため、研修だけでは足りないのです。
落とし穴3:「育成は配属先の上司任せ」になっている
入社後の育成設計が現場の上司の力量に依存していると、配属ガチャによってハイパフォーマー化の確率が大きく変動します。マネジメント能力にばらつきがある以上、人事部としての標準化された育成プロセス、面談ガイドライン、振り返りの型を提供することが不可欠です。
第3章 未経験者をハイパフォーマー化する5ステップ設計
ここからは具体的な設計図に踏み込みます。各ステップには「実施チェック」を添えていますので、自社の現状に照らしてご活用ください。
ステップ1 採用要件を「行動特性」ベースで定義する
業務経験の有無ではなく、「入社後3年以内にハイパフォーマーになっている社員」の行動特性を起点に要件を組み立てます。たとえば、未知の業務に対する取り組み方、フィードバックを受けたときの反応、目標設定の粒度などです。社内のハイパフォーマー数名にインタビューを行い、共通する5つから7つの行動を抽出することから始めるとよいでしょう。
実施チェック:
- 社内のハイパフォーマー上位2割に行動特性インタビューを実施したか
- 経験要件と行動要件を分けて求人票に明記したか
- 行動要件は「観察可能な動詞」で記述されているか
ステップ2 構造化面接で評価のばらつきを抑える
面接官ごとに質問が異なる、評価軸が共有されていないという状態は、未経験者採用では致命的です。同じ質問を同じ順番で投げかけ、同じ評価指標で点数化する「構造化面接」に切り替えるだけで、採用後の活躍度の予測精度は大きく向上することが示されています。
実施チェック:
- 評価項目ごとに5段階の行動アンカーを文書化したか
- 面接官全員が事前にキャリブレーション研修を受けたか
- 最終判定は単独ではなく合議で行う運用になっているか
ステップ3 入社初日からの90日プランを設計する
オンボーディングの質は、入社初日から90日間でほぼ決まります。30日目までに到達してほしい状態、60日目、90日目とマイルストーンを定義し、各マイルストーンに対応する研修、面談、業務目標を「日付つき」でスケジュール化します。
実施チェック:
- 30日目、60日目、90日目の到達目標を本人と上司が合意しているか
- 週次1on1の議題テンプレートが整備されているか
- メンター制度や同期コミュニティなど、心理的安全性を担保する仕組みがあるか
ステップ4 育成KPIを業績KPIと別建てで管理する
売上やアポ数といった業績KPIだけを追いかけると、未経験者は短期で疲弊します。「資格取得」「特定業務の独力遂行」「社内認定の通過」など、成長そのものを可視化するKPIを別建てで設計してください。これは本人のモチベーション維持だけでなく、上司側の育成行動を促すうえでも有効です。
実施チェック:
- 業績KPIと育成KPIが分けて設計されているか
- 育成KPIの達成度が人事評価に反映される仕組みになっているか
- 半期ごとに育成KPIの妥当性を見直すレビュー機会があるか
ステップ5 1年後にハイパフォーマー候補を再選抜する
採用時のポテンシャル評価は完璧ではありません。入社1年後に、行動特性、業績、周囲からの評価をもとに「ハイパフォーマー候補」を改めて選抜し、追加的な育成投資を集中させます。これにより、採用と育成の投資効率は大きく改善します。
実施チェック:
- 1年後の再選抜基準が事前に明文化されているか
- 選抜された人材に対する追加育成プログラムが用意されているか
- 選抜から漏れた人材にも次の機会を提示できる仕組みがあるか
第4章 公的助成金を活かす――2026年度の人材開発支援助成金
未経験者の戦力化に必要な研修コストは、決して小さくありません。ここで活用したいのが、厚生労働省の「人材開発支援助成金」です。
2026年度(令和8年度)の制度では、令和8年3月2日からの改正により、支給対象訓練の拡充や分割支給申請の導入など、企業が活用しやすい方向への見直しが行われています。中小企業がAI研修やDXリスキリングを実施する場合には、訓練経費の最大75パーセント、賃金助成1,000円毎時が支給対象となります。1事業所あたりの年間上限額は2,500万円(成長分野等人材訓練は1,000万円、自発的職業能力開発訓練は300万円)です。
ポイント:未経験採用と研修設計を一体で計画し、申請段階から助成金の活用を組み込んでおくと、育成投資の自己負担額を大幅に圧縮できます。研修ベンダーや社労士と早期に連携することをおすすめします。
制度の最新情報は必ず厚生労働省の公式サイト(人材開発支援助成金)でご確認ください。改正は年度ごとに行われるため、申請時点で最新版を参照することが重要です。
第5章 まとめ:採用の難しさは「育成設計」で乗り越える
経験者が採れないという悩みは、見方を変えれば「自社で育てれば、市場全体より早く必要な人材を確保できる」というチャンスでもあります。重要なのは、未経験者を勘で採用するのではなく、行動特性に基づく要件定義、構造化面接、90日オンボーディング、別建ての育成KPI、1年後の再選抜という5ステップを、人事部が設計図として握ることです。
人材育成は属人化させず、再現可能なプロセスとして組織に埋め込んでこそ、未経験者の採用がハイパフォーマー創出という戦略的な打ち手に変わります。
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WONDERFUL GROWTHでは、未経験採用後の戦力化を前提とした研修設計、オンボーディングプログラム、人材開発支援助成金を活用した費用最適化のご支援を行っています。自社の採用課題に合わせたカスタマイズ研修や、ハイパフォーマー候補の特定・育成プログラムの構築にもご対応しております。
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主な参考資料・出典
厚生労働省「中途採用・経験者採用者が活躍する企業における情報公表その他取組に関する調査研究 結果報告書」2025年3月(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001489721.pdf)
マイナビキャリアリサーチLab「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」(https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250326_93514/)
厚生労働省「人材開発支援助成金」公式案内ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
ユームテクノロジージャパン株式会社「中途人材オンボーディングに関する調査」プレスリリース(https://umujapan.co.jp/info/difficulty-in-onboarding/)
『日本の人事部』人事白書2025(https://jinjibu.jp/research/)
※ 本記事の統計値および制度概要は2026年5月時点で公開されている情報を整理したものです。実際の制度活用にあたっては、必ず最新の公式情報をご確認ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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