Insights

リスキリングが進まないのは、社員の意欲のせいか

リスキリングに取り組んでも実務の成果につながらず、最後まで学び続ける社員は一部にとどまる。原因は意欲より、学ぶ内容が実務と切り離され、学ぶ時間も、学んだことを試す場も用意されていないことにあります。2年後の事業課題から逆算し、学んだ直後に試す業務まで設計することが、学びを成果に結びつけます。

公開日
2026/05/07
更新日
2026/09/28
読了時間
約 13 分
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
リスキリング研修設計研修効果

はじめに:リスキリングが「動いているのに進まない」という現実

「リスキリングに取り組み始めたが、実務での成果につながらない」「学習を始めた社員のうち、最後まで完走するのは一部だけ」。こうした声が、人事ご担当者や経営層から数多く寄せられています。

実際、データもこの実感を裏付けています。パーソルイノベーションが2025年1〜2月に実施した調査によれば、直近1年間にリスキリング施策を実施した企業は41.7%にとどまりました。さらに大企業では63.3%が実施している一方、中小・スタートアップ企業では33.4%と、規模間の格差が鮮明です。

そして、より重要なのは、施策を実施した企業でも失敗が起きているという点です。同社が2025年5月に実施した調査(2025年6月版として公表)では、失敗例として「研修・学習内容が実務にマッチしていなかった」が45.6%で最多、「従業員任せになり、成果に繋がらなかった」が37.2%、「対象者が学習を完了できなかった」が35.1%と続きました。

厚生労働省「能力開発基本調査」(2023年度)でも、人材育成や能力開発に関して「何らかの問題がある」と回答した事業所は79.8%にのぼります。つまり、リスキリングが進まないのは個別企業の偶発的な失敗ではなく、設計と運用に共通する構造的な問題が背景にあるということです。

進まない原因は、意欲ではなく設計と運用にある

学習内容が「現場の実務」と切り離されている

最大の失敗要因として挙げられている「研修内容が実務にマッチしていない」(45.6%)は、研修担当者の関心が「何を教えるか」に向きすぎ、「現場で何ができるようになる必要があるか」から逆算する設計が抜けていることに起因します。汎用的なeラーニング教材を一斉配信する手法は、受講管理は容易でも、現場の業務フローや判断基準とは結びつきにくくなります。

結果として、社員は「研修で学んだ知識」と「自分の業務で問われる判断」が地続きにならず、学習が単発のイベントとして終わってしまいます。

学習が「業務の片隅」に追いやられ、時間が確保されていない

「従業員任せになり、成果に繋がらなかった」(37.2%)が示すのは、学習を業務時間として正式に位置づけていない構造です。学習の時間が業務として確保されていなければ、企業内の学習は成果につながりにくくなります。

しかし日本企業では、リスキリングを「自己啓発の延長」と扱い、繁忙期の前倒し業務や残業の合間で消化させるケースが少なくありません。これは学習者の意欲ではなく、組織側の優先順位設計の問題です。

「学んだスキルを試す場」が業務側に用意されていない

パーソルイノベーションが2025年1〜2月に実施した調査では、「会得したスキル・知識を実践する場がなかった」が31.8%と上位に挙がっています。研修部門が育成プログラムを設計しても、現場の業務アサインや評価制度がその新しいスキルの活用を前提としていない場合、学習の成果は薄れやすくなります。

新しいスキルは、実務で繰り返し使わなければ定着しにくいとされています。「学んだ後にどこで使うのか」を設計時点で決めていないこと自体が、構造的な失敗要因なのです。

事業課題からの逆算と、学習時間・実践機会の確保

「2年後の事業課題」から逆算してスキル要件を定義する

はじめに行うべきは、研修テーマを決めることではなく、「2年後に自社の事業が直面する課題」を経営層と人事で言語化することです。たとえば「主力商材のサブスクリプション転換」「海外市場への進出」「生成AIを前提とした業務再構築」などです。

そのうえで、各課題に対して「どの職種の、誰が、どの判断を、どのレベルでできる必要があるか」を分解します。職種別・等級別の「期待される行動」を一覧化することで、研修テーマは初めて事業課題と接続されます。

経営計画と人材育成計画を同じ会議体で議論していることが、研修テーマを事業課題につなげる前提です。スキル要件は「知識」ではなく「行動・判断」で定義します。ハイパフォーマー2〜3名へのインタビューで要件の裏取りが済んでいれば、定義は完了です。

学習を「業務時間」として正式に位置づける

学習の効果を高めるには、学習時間を確保することが前提になります。具体的には、対象者ごとに月間の「学習可能時間」を就業規則・労務管理上で明文化し、上長との1on1で進捗を確認する運用を組み込みます。

ここで重要なのは、学習時間を確保するために、同時に「やめる業務」を明確化することです。学習だけ追加しても、現場は持ち時間の奪い合いになり、最終的に学習の優先順位が最下位に落ちます。

対象者の月間学習時間が、労務管理上の業務時間として記録されていれば、学習は正式な業務として扱われています。学習時間の確保と引き換えに削減・委譲する業務を同時に決めておくと、現場で持ち時間の奪い合いが起きにくくなります。上長が学習の進捗を1on1の正式な議題として扱っていることが、運用が根づいたかどうかの目安です。

「学んだ直後に試す業務」を設計時点で割り当てる

スキル定着の鍵は、研修後30〜60日以内に「学んだスキルを使わざるを得ない業務」が割り当てられているかにあります。これを実現するためには、人事部門と現場マネージャーが研修設計の初期段階から共同設計を行う必要があります。

具体的には、研修終了直後に着手する「実践プロジェクト」「業務改善テーマ」「他部門協働タスク」を、研修申込みの段階でセットで定義します。これにより学習者は「学ぶ目的」が明確になり、現場マネージャーは「育成成果を引き受ける当事者」になります。

研修の申込み時点で、終了から60日以内の実践機会まで確定していれば、学習者には学ぶ目的が伝わります。その実践機会では、現場マネージャーがレビューの責任を持ちます。実践の内容が人事評価のどこにつながるのかも、この段階で決めておきます。

効果測定を「研修後アンケート」から「行動・成果指標」に切り替える

多くの企業の効果測定が、研修直後の満足度アンケートで終わっているのは、Kirkpatrickモデルの第1〜第2段階(反応・学習)までしか追跡できていないことを意味します。投資対効果(ROI)を経営層に説明するためには、第3段階(行動変容)、第4段階(業績インパクト)まで指標を引き上げる必要があります。

現実的には、行動指標として「研修内容に基づく実務行動の頻度」、業績指標として「対象部門の生産性・品質・離職率の変化」を3か月・6か月・12か月のタイミングで定点観測する設計が有効です。

効果測定の指標が「満足度」だけで終わっている場合、研修の投資対効果を経営層に説明できません。行動変容を観察する手段として、360度評価、業務ログ、上長レビューを定めます。12か月後の業績指標と研修コストがCFOまたは経営層に報告される運用になっていれば、測定の仕組みは整っています。

助成金制度を活用して「投資余力」を確保する

厚生労働省の「人材開発支援助成金」には、事業展開やDXの推進に伴う訓練を対象とした「事業展開等リスキリング支援コース」があります。要件を満たせば、中小企業では訓練経費の75%が助成され、訓練期間中の賃金助成(1人1時間あたり1,000円)も併用できます(2026年4月時点の同省リーフレット。eラーニングなどによる訓練は経費助成のみ)。中小企業ほど活用余地が大きく、限られた予算でも質の高い外部プログラムを導入する余地が生まれます。

一方で、助成金は「申請要件を満たす運用設計」が前提です。要件を後から取り繕うのではなく、スキル要件の定義から効果測定までを設計する時点で、助成金の対象要件を満たすカリキュラム・時間配分・記録方式を組み込むことが重要です。

まず人事部門が、自社で利用可能な助成金コースを一覧にします。助成金の要件と研修の設計を最初から整合させておけば、申請の際に慌てずに済みます。申請業務を担当する責任者(社内または社労士)も、あらかじめ明確にしておきます。

失敗を回避するための推進体制と運用上の落とし穴

「人事だけで進める」設計はほぼ確実に失敗する

リスキリングの失敗事例を分析すると、人事部門が単独で完結させようとした取り組みほど成果が出ない傾向があります。理由は単純で、学習成果を活かす場(現場)、評価する仕組み(評価制度)、投資判断(経営層)のいずれも、人事部門の管轄外で動くからです。

成果を出している企業に共通するのは、人事・現場マネージャー・経営層の三者が、研修設計の初期段階から同じテーブルで議論する体制を組んでいる点です。

「学習中の心理的安全性」を軽視しない

リスキリング対象者は、慣れた業務を一時的に手放し、新しい領域で成果を出す必要があります。この過程で「失敗を許容される空気」がない職場では、学習行動そのものが心理的にブロックされます。

研修プログラムの一部として、心理的安全性を担保するためのマネージャー研修や、対象者同士のピアラーニングの場を組み込むことを推奨します。

「短期成果を求めすぎる」と、本質的なスキル獲得が阻害される

経営層から「研修の成果はいつ出るのか」と問われ、6か月以内の業績インパクトを過剰に約束してしまうと、対象者は表層的なアウトプットに走り、本質的な能力獲得が後回しになります。

効果測定の設計においては、3か月・6か月では「行動変容指標」、12か月以降に「業績指標」を観察する、というように時間軸を分けて経営層に説明する姿勢が、長期的な成功確率を高めます。

成果を出す企業は、リスキリングを経営の問題として扱う

実際に成果を出している企業の取り組みを観察すると、業種や規模に関わらず、次の取り組みが共通して見られます。

  • 研修テーマを決める前に、「2年後の事業課題」と「対象者の現在地」のギャップを定量的に把握している
  • 学習時間と実践機会を評価制度・労務管理に組み込み、「やる人だけがやる」状態を避けている
  • 効果測定を、研修部門のレポートではなく「経営会議の定例議題」として取り扱っている

言い換えれば、リスキリングは「研修の問題」ではなく「経営の問題」として扱う必要があるということです。

まとめ:リスキリング成功の本質は「学ばせる」ではなく「使える設計」

リスキリングが進まない原因は学習者の意欲ではなく、設計と運用の構造にあります。

学習内容が現場実務と切り離されている

学習時間が業務として確保されていない

学んだスキルを試す業務が用意されていない

そして、これらを解消する道筋は、事業課題からの逆算、学習時間の業務化、実践機会の事前設計、行動・成果指標による効果測定、助成金の活用に集約されます。

「学ばせる」発想から、「使える設計」へ。この視点の転換が、人材育成投資を経営的成果に変換する出発点になります。

貴社の人材育成プログラムを、成果に直結する設計に再構築しませんか

WONDERFUL GROWTHは、人事部門・現場マネージャー・経営層の三者を巻き込んだ研修設計と、学んだ後の実践機会・効果測定までを一体で支援する研修サービスを提供しています。

「研修を実施しているのに成果が見えない」「リスキリングに着手したいが、どこから手をつければよいか分からない」。そうしたお悩みをお持ちの方は、まずは無料の資料請求・ご相談をご活用ください。

研修サービスの資料請求・無料相談はこちら 研修プログラムの設計支援、内製化伴走、効果測定の仕組み構築まで、貴社の現場課題に合わせて個別にご提案します。無料の資料請求・お問い合わせはこちら:https://wonderful-growth.com/contact

参考情報・出典

パーソルイノベーション「企業におけるリスキリング施策の実態調査(2025年6月版)」(日本の人事部)

みらいワークス総合研究所「リスキリングに取り組む企業は41.7%、7割以上が成果を実感/パーソルイノベーション調べ」

帝国データバンク「リスキリングに関する企業の意識調査(2024年)」

JMAM「経済産業省も注目のリスキリングとは?」

厚生労働省「能力開発基本調査」

OECD『Training in Enterprises』(2021)

インターネット・アカデミー「【2025年度】人材開発支援助成金の変更点」

注:統計値は出典時点のものであり、最新の状況は出典先サイトにてご確認ください。

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

Next step

記事の内容を、自社に当てはめてみませんか。

Growth Survey は、心理的安全性・エンゲージメント・行動変容を定量化し、組織の現在地を可視化するサーベイです。 まずは3分診断で、おおよその現在地をつかむこともできます。

✦ SHARE with カイシャの育成論

メディアでも、深く発信しています。

自社メディア『SHARE with カイシャの育成論』では、企業インタビューと人事用語辞典を通じて、より深い知見をお届けしています。