自己啓発に取り組む社員は「3人に1人」という現実
厚生労働省が2025年6月に公表した「令和6年度 能力開発基本調査」によると、過去1年間に自己啓発を行った労働者は36.8%にとどまりました。前回調査から2.4ポイント上昇したとはいえ、およそ3人に1人という水準です。雇用形態別に見ると、正社員でも45.3%と半数に届かず、正社員以外は15.8%にとどまっています。
国際比較では、さらに厳しい姿が浮かびます。パーソル総合研究所の「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」では、勤務先以外で成長を目的とした学習や自己啓発について「特に何も行っていない」と答えた人の割合が、日本は52.6%と、調査対象の18か国・地域の中で最も高い結果でした。全体平均が18.0%であることを踏まえると、日本の突出ぶりが際立ちます。
この数字を「社員の意欲の問題」と片づけてしまうと、打ち手を見誤ります。同じ能力開発基本調査では、キャリアコンサルティングを行う仕組みを正社員に導入している事業所は49.4%と、前回から7.8ポイント上昇し、約半数まで広がっています。相談の器は整いつつあるのに、学びの行動にはつながっていない。ここに、多くの企業が見落としているギャップがあります。
キャリアオーナーシップとは何か
キャリアオーナーシップとは、社員一人ひとりが「自分のキャリアは自分のものである」という所有意識を持ち、主体的に将来を描いて学び、行動する状態を指します。似た言葉に「キャリア自律」がありますが、キャリア自律が主体的な意思決定と学習の継続に重心を置くのに対し、キャリアオーナーシップは自らのキャリアの結果に責任と誇りを持つという意識の面をより強く含みます。
経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)でも、人的資本経営を実現する共通要素の一つに「リスキル・学び直し」が挙げられ、社員が自律的にキャリアを考え、主体的に学び続けることを支援する仕組みと文化の構築が求められています。人手不足が深刻化し、一人あたりの生産性向上が急務となるなかで、キャリアオーナーシップの醸成は「あれば望ましい」施策から「経営に直結する」テーマへと、位置づけが変わりました。
「支援すると辞めてしまう」という誤解
キャリア自律を促すと転職を後押しするのではないか、という懸念を耳にすることがあります。しかし実務では逆で、キャリアを一緒に考えてくれる会社ほど、社員は「ここで成長できる」と感じ、エンゲージメントと定着が高まる傾向があります。放任と自律は異なります。目標や機会を示さずに「自分で考えて」と丸投げするのは放任であり、キャリアオーナーシップの支援とは呼べません。
キャリアオーナーシップを育てる5つの実践ステップ
ここからは、明日から着手できる具体的な手順を、5つのステップに分けて示します。各ステップに「実施チェック」を添えましたので、自社の状況と照らし合わせてご確認ください。
ステップ1 キャリアと学びの現状を可視化する
最初に行うべきは、現状の把握です。社員がどのようなキャリアを望み、どの程度学べているのかを可視化しないまま施策を打つと、的外れな研修を増やすだけに終わります。従業員意識調査にキャリアと学習に関する設問を加え、部署別・階層別に学びの実態を把握します。あわせて、いま保有しているスキルと今後必要になるスキルの差を棚卸しします。
- 実施チェック:直近1年の自己啓発の実施率を、部署別・階層別に把握できていますか。
- 実施チェック:今後3年で自社に必要なスキルを、現在の保有状況と対比できていますか。
ステップ2 キャリアを語り合う対話の仕組みをつくる
次に、キャリアを言語化する対話の場を、制度として整えます。厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック」のように、節目ごとにキャリア面談とキャリア研修を組み合わせて提供する仕組みが有効です。評価面談とは切り離し、直属の上司ではなくキャリアコンサルタントや別部署の管理職が聞き手となることで、社員は本音を話しやすくなります。
- 実施チェック:評価とは独立したキャリア面談の機会を、年1回以上設けていますか。
- 実施チェック:面談の聞き手に、傾聴とフィードバックの研修を提供していますか。
ステップ3 学びを時間と費用の両面で支える
意欲があっても、時間と費用の壁で学びを諦める社員は少なくありません。就業時間内に学習の時間を確保する、eラーニングや書籍購入・資格取得の費用を補助するといった具体的な後押しが、行動を変えます。人材開発支援助成金などの公的支援を活用すれば、企業の費用負担を抑えながら教育訓練を拡充できます。
- 実施チェック:学習を業務時間として認める制度や、費用を補助する仕組みがありますか。
- 実施チェック:活用できる助成金を確認し、教育投資の原資に組み込んでいますか。
ステップ4 挑戦の場を社内に用意する
学んだ知識は、実践の場がなければ定着しません。社内公募制度、社内副業、フリーエージェント制度などを通じて、社員が自らの意思で新しい仕事に挑戦できる道筋をつくります。異動を「会社が決めるもの」から「社員が手を挙げられるもの」へと広げることが、オーナーシップを実感させる転機になります。
- 実施チェック:社員が自ら手を挙げて異動や新しい仕事に挑戦できる制度がありますか。
- 実施チェック:挑戦の結果が不本意でも、キャリアの糧として扱う運用になっていますか。
ステップ5 学びと挑戦を後押しする評価と上司の関わりを整える
最後に、学びと挑戦が報われる評価と、それを支える上司の関わりを整えます。学習や新たな挑戦をプロセスとして評価に反映し、上司が日々の1on1で部下のキャリアに関心を示すことで、「学ぶ人が損をしない」文化が根づきます。制度を導入して終わりにせず、上司自身がキャリアを語り学ぶ姿勢を見せることが、何よりの後押しになります。
- 実施チェック:学習や挑戦のプロセスを、評価に組み込んでいますか。
- 実施チェック:管理職に、部下のキャリアを支える対話の役割を明確に伝えていますか。
「仕組みを入れる」から「仕組みを機能させる」へ
ここまで見てきたように、キャリアオーナーシップの醸成で成否を分けるのは、制度の有無そのものではありません。前述の調査が示すとおり、相談の仕組みは約半数の企業に広がりつつあります。問われているのは、その器を実際の学びと挑戦の行動につなげられるかどうかです。現状把握から始め、対話・学びの機会・挑戦の場・評価と文化までを一つの流れとして設計することが、社員が自ら学び続ける組織への近道となります。
まずは、自社のどのステップが手薄かを一つ見極め、小さく着手することをおすすめします。学びの文化は、一度に完成するものではなく、対話と機会の積み重ねによって少しずつ根づいていきます。
研修設計・キャリア支援のご相談を承ります
WONDERFUL GROWTHでは、キャリアオーナーシップの醸成に向けた現状把握から、キャリア研修や管理職向けの育成支援まで、企業の実情に合わせた設計をご支援しています。自社の学びの文化づくりに課題を感じている方は、下記より資料をご請求ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。