なぜ今、エンジニアの評価制度が重要なのか
デジタル化の加速により、技術職の確保と定着はあらゆる企業の経営課題になっています。経済産業省が公表した「IT人材需給に関する調査」(2019年4月公表、みずほ情報総研への委託調査)では、IT市場の需要が高い伸びで推移した場合、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると試算されました。需要が中位で推移する場合でも約45万人の不足が見込まれており、人材の獲得競争は今後も続くと考えられます。
不足は現場の実感としても表れています。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」(2025年6月公表)によると、日本企業の85.1%がDXを推進する人材が不足していると回答しました。前年の「DX動向2024」でも、DX人材が「大幅に不足している」と答えた企業は62.1%と、調査開始以降はじめて過半数を超えています。限られた技術人材に活躍し続けてもらうには、その働きを正しく評価し、成長と処遇に結びつける制度が欠かせません。本記事では、技術職に適した評価制度を設計する手順を解説します。
エンジニアの評価がうまくいかない3つの要因
エンジニアの評価は、営業職などと比べて難しいとされます。従来型の評価制度をそのまま当てはめると、不満や不公平感を生みやすくなります。その背景にある3つの要因を整理します。
要因1:成果が数値で見えにくい
営業のように売上や契約数で成果を測れる職種と異なり、エンジニアの貢献は数値化が難しいという特徴があります。障害を未然に防いだ働きや、保守しやすい設計にした工夫は、目に見える数字として表れにくいものです。一方で、作成した行数や対応件数といった測りやすい指標だけに頼ると、本質的な価値を見誤ります。何をもって成果とするかの定義が、評価の出発点で問われます。
要因2:評価者が技術を理解できていない
エンジニアの仕事は高度に専門的であり、技術に明るくない評価者には、その難易度や質を判断することが困難です。評価者が内容を理解できないまま評価を下すと、被評価者は「正当に見てもらえていない」と感じ、納得感が損なわれます。技術的な貢献を適切に評価できる仕組みや、技術に精通した評価者の関与が求められます。
要因3:昇進の道がマネジメントしかない
従来の多くの企業では、昇給や昇進の道が管理職への登用に限られていました。しかし優れた技術者が必ずしも優れた管理者になるとは限らず、マネジメントを望まない人材も少なくありません。技術を深める道に処遇上の上限があると、専門性の高い人材ほど不満を抱き、社外へ流出しやすくなります。キャリアの選択肢が一本しかないこと自体が、評価と定着の障害になっているのです。
エンジニアを正しく評価し育てる5つのステップ
- ここからは、技術職に適した評価制度を構築する手順を5つのステップで解説します。各ステップには現場で使える実施チェックを添えますので、自社の制度設計に照らして確認してください。
ステップ1:複線型のキャリアパスを用意する
評価制度の土台として、マネジメント職と専門職の2つの道を並列に用意する「複線型キャリアパス(デュアルラダー)」の整備が重要です。人を率いて昇進する道に加え、技術を極めることで昇格・昇給できる道を明示します。「テックリード」「アーキテクト」「スペシャリスト」といった上位の技術ポジションを設けることで、マネジメントに進まなくても実力に応じた処遇を受けられる道筋が見えます。まずキャリアの複線化を制度として決めることが、その後の評価軸設計の前提になります。
- 実施チェック:マネジメント職と専門職の双方に、同等の等級・処遇水準が設定されているか確認する。
- 実施チェック:各コースで期待される役割と到達像を、社内に文書で明示する。
ステップ2:技術力・成果・行動の3つの軸で評価する
エンジニアを一つの物差しで測ることは適切ではありません。少なくとも「技術力(専門的な知識・スキル)」「成果(業務を通じた貢献)」「行動(チームへの貢献や姿勢)」という3つの観点をバランスよく組み合わせることが望まれます。技術力だけでは組織への貢献を見落とし、成果だけでは目に見えにくい価値を評価できません。3つの軸を明確に分け、それぞれに評価項目を設けることで、多面的で納得感のある評価に近づきます。
- 実施チェック:技術力・成果・行動の3つの軸それぞれに、具体的な評価項目を設定する。
- 実施チェック:3つの軸の比重(配点)が、職種や等級の役割に合っているか見直す。
ステップ3:スキルマトリクスで技術力を見える化する
技術力を主観に頼らず評価するには、求められるスキルと習熟度を一覧化した「スキルマトリクス(スキルマップ)」が有効です。参考になるのがIPAの「ITスキル標準(ITSS)」です。ITSSはIT分野の職種を分類し、各分野について個人の能力や実績に基づく7段階のレベルを定義しています。近年はDX推進人材の役割やスキルを示した「デジタルスキル標準(DSS)」も整備されました。これらを参考に自社版のスキルマトリクスを作れば、誰にどの技術が備わり、何が不足しているかが可視化され、評価と育成の両方に活用できます。
- 実施チェック:職種ごとに必要なスキル項目と習熟度レベルを、一覧として定義できているか確認する。
- 実施チェック:スキルマトリクスを評価だけでなく、育成計画や配置の判断にも連動させる。
ステップ4:目標管理で成果と成長を結びつける
成果の評価には、期初に目標を設定し期末に達成度を振り返る目標管理の仕組みが役立ちます。ここで重要なのは、目標を業務成果だけでなく、本人の技術的な成長にも結びつけることです。「担当システムの安定稼働」といった成果目標と、「新しい技術領域を習得する」といった成長目標を組み合わせることで、日々の業務が本人の市場価値の向上につながります。技術に精通した上位者が目標設定と振り返りに関わることで、評価の納得感も高まります。
- 実施チェック:設定した目標に、業務成果と技術的成長の両方の観点が含まれているか確認する。
- 実施チェック:期中に進捗を確認する面談を設け、目標を期末の一度きりで終わらせない。
ステップ5:市場価値を踏まえて報酬に反映する
技術人材の獲得競争が激しい中では、社内の評価だけで報酬を決めると、市場実勢との乖離が生じやすくなります。高いスキルを持つ人材が、より高い処遇を求めて社外へ移ることも珍しくありません。外部の給与相場や需給を定期的に把握し、評価結果を報酬へ反映する際の判断材料とすることが求められます。専門職の等級と報酬レンジを、市場価値も踏まえて設計することで、優れた技術者に長く活躍してもらう基盤が整います。
- 実施チェック:職種・スキル水準ごとの外部給与相場を、定期的に確認しているか点検する。
- 実施チェック:専門職コースの報酬レンジが、市場価値と大きく乖離していないか見直す。
評価制度を形骸化させないために
制度を整えても、運用が伴わなければ形だけのものになります。とりわけエンジニアの評価では、評価者が技術内容を理解できることが要になります。技術に精通した上位者を評価に関与させる、あるいは評価者に対して技術理解を補う教育を行うなど、評価の担い手を育てる視点が欠かせません。また、評価基準や結果を本人に開示し、対話を通じて次の成長につなげることで、評価は処遇を決めるだけの手続きから、人材を育てる仕組みへと変わります。
まとめ
エンジニアの評価が難しいのは、成果が見えにくく、評価者が技術を理解しづらく、昇進の道が限られてきたためです。これを乗り越えるには、複線型キャリアパスで専門職の道を用意し、技術力・成果・行動の3軸で多面的に評価し、スキルマトリクスで技術力を可視化し、目標管理で成長と結びつけ、市場価値を踏まえて報酬に反映する。この5つのステップが、技術職を正しく評価し育てる骨格になります。
経済産業省やIPAの調査が示すとおり、技術人材の不足は今後も続く見通しです。だからこそ、限られた人材の働きを正当に評価し、成長と処遇で報いる制度の価値は高まっています。まずは自社のキャリアパスが専門職の道を用意できているかを点検するところから、制度の見直しを始めてみてください。
WONDERFUL GROWTHでは、技術職の特性を踏まえた評価制度の設計や、評価者・管理職の育成研修をご提供しています。エンジニアを正しく評価し育てる仕組みづくりにご関心のある方は、ぜひ資料をご請求ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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