有期契約で働く人は全国に約1,560万人おり、そのうち約3割が通算5年を超えて契約を更新しているとされています(厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」)。同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者本人の申込みによって期間の定めのない労働契約に転換される「無期転換ルール」は、2013年4月の施行から10年以上が経ちました。しかし、リクルートワークス研究所が2024年12月に公表した調査によると、非正社員の62.3%はこの制度の内容を知らず、実際に無期転換を利用した人はわずか7.4%にとどまります。制度が存在することと、現場で活用されていることの間には、大きな隔たりがあります。
無期転換ルールとは何か
無期転換ルールは、2012年に改正され2013年4月1日に施行された労働契約法第18条に基づく制度です。同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、契約社員やパート、アルバイト、嘱託など名称を問わず有期契約で働く労働者が申込みをすると、使用者はこれを承諾したものとみなされ、期間の定めのない労働契約に転換されます。転換後の労働条件は、契約期間を除き、直前の有期労働契約の内容がそのまま引き継がれるのが原則です。対象は企業規模を問わず、すべての企業です。派遣社員の場合は、派遣元企業が無期転換ルールへの対応を担います。
通算契約期間のカウントは2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が対象のため、無期転換申込権は早いケースで2018年4月1日から本格的に発生しています。さらに2024年4月からは、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、企業が「無期転換を申し込むことができる旨」と「無期転換後の労働条件」を書面で明示することが労働基準法施行規則の改正により義務づけられました。制度の周知を労働者本人の理解に委ねてきた企業にとって、対応が必須になった点は見過ごせません。
データで見る無期転換ルールの実態
制度の運用実態を見ると、認知と活用の両面でギャップが浮かび上がります。
リクルートワークス研究所「働き方のこれからに関する1万人調査」(2024年10月実施、同年12月25日公表)によると、無期転換ルールを利用してすでに無期雇用に切り替えている非正社員は7.4%(パート・アルバイト6.5%、契約社員・嘱託10.5%)にとどまる一方、制度の内容を「知らなかった」と回答した非正社員は62.3%にのぼりました。
一方で、制度を認知している人に限ると、無期雇用を希望する割合は非正社員で59.2%、契約社員・嘱託では62.7%に達します。無期転換を利用した人と、権利がありながら利用しなかった人とでは、その後のキャリア志向にも差が見られます。利用者は70.7%が「今の会社で同じ職種で働き続けたい」と回答したのに対し、未利用者は53.5%にとどまり、17.2ポイントの開きがありました(同調査)。同研究所の「全国就業実態パネル調査」の分析では、契約社員の無期雇用契約率は2017年の9.8%から2023年には18.9%まで上昇しており、契約社員のおよそ5人に1人が無期雇用契約で働く状況になっています。
企業側の認知は、労働者本人よりも進んでいます。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した「多様化する労働契約の在り方に関する調査」(2020年3月公表)では、無期転換ルールについて「知っていることがある」企業は85.4%にのぼり、フルタイム契約労働者を雇用する企業の81.9%、パートタイム契約労働者を雇用する企業の77.0%が「何らかの形で無期契約にしていく」と回答しています。企業は制度を理解していても、その情報が労働者本人まで十分に届いていない状況がうかがえます。
無期転換ルールを人材定着につなげる5つの実践ステップ
ステップ1 有期契約労働者の在籍実態を棚卸しする
雇用している有期契約労働者について、人数、契約の更新回数、通算契約期間、無期転換申込権が発生する時期を一覧化します。同一使用者との契約が対象になるため、部署や事業所をまたいで異動している場合も通算して管理する必要があります。
- 実施チェック:有期契約労働者ごとに、無期転換申込権が発生する契約更新日を一覧で管理できているか
ステップ2 契約更新のたびに無期転換申込機会を明示する
2024年4月の労働基準法施行規則改正により、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、申込みが可能である旨と転換後の労働条件を書面で明示することが義務になりました。契約更新通知書のひな形を見直し、明示欄を追加します。
- 実施チェック:契約更新通知書に、無期転換申込機会と転換後の労働条件を明示する欄を設けているか
ステップ3 無期転換後の雇用区分を設計する
無期転換後の位置づけは、有期契約時と同じ労働条件のまま無期化する「無期転換社員」、勤務地や職務を限定した「多様な正社員」、通常の「正社員」の三つに大別されます。いずれを軸にするかを就業規則で定め、既存の正社員との違いをあらかじめ明確にしておくことが、転換後のトラブルを防ぎます。
- 実施チェック:無期転換後の雇用区分と処遇を就業規則等に明文化しているか
ステップ4 制度を知らせる機会を面談に組み込む
前述の調査が示すとおり、非正社員の62.3%は制度を知らない一方、知っている人の約6割は無期雇用を希望しています。書面での明示に加えて、契約更新時の面談や説明会で口頭でも制度を説明する機会を設けることで、周知の実効性を高められます。
- 実施チェック:契約更新面談の場で、無期転換ルールについて口頭説明を行う運用になっているか
ステップ5 雇止めの検討は慎重に行う
無期転換ルールの適用を避ける目的で、無期転換申込権が発生する前に雇止めを行うことは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制するという労働契約法第18条の趣旨に照らして望ましくありません。契約が反復更新されてきた実態や、更新への期待に合理的な理由がある場合は、雇止め法理(労働契約法第19条)により雇止めが無効と判断されることもあります。更新上限の設定や雇止めを検討する際は、事前に社会保険労務士や弁護士に相談する体制を整えておきます。
- 実施チェック:更新上限の設定や雇止めの判断について、社会保険労務士や弁護士に事前相談する体制があるか
まとめ
無期転換ルールは、有期契約労働者の雇用を安定させるための法制度であると同時に、人手不足が続く採用市場において、既に自社を知る人材に長く働いてもらうための実務的な選択肢でもあります。制度を整備するだけでなく、対象となる本人にその内容が伝わっているかを継続的に点検することが、活用率を高める鍵になります。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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