厚生労働省が公表した令和6年(2024)人口動態統計(確定数)によると、2024年の合計特殊出生率は1.15で、前年の1.20から低下し、過去最低を更新しました。出生数も68万6,061人となり、統計開始以来はじめて70万人を下回っています。少子化に歯止めがかからないなか、企業に求められているのは「産んでからも、育てながら働き続けられる」職場づくりです。
この流れを受けて、2025年4月と10月に段階的に施行された改正育児・介護休業法では、子の看護休暇の対象拡大や残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大に加え、10月からは「柔軟な働き方を実現するための措置」が新たに事業主の義務となりました。制度の導入は済ませたものの、運用面での悩みを抱えている人事担当者の方も少なくありません。
2025年10月義務化「柔軟な働き方を実現するための措置」の中身
厚生労働省によると、事業主は3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者(日々雇用を除く)に対して、職場のニーズを把握したうえで、次の5つの措置のなかから2つ以上を選択して講じる義務があります。
- 始業時刻等の変更(フレックスタイム制または時差出勤)
- テレワーク等(月10日以上)
- 保育施設の設置運営等
- 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)
- 短時間勤務制度
労働者は、このうち事業主が講じた措置のなかから1つを選んで利用できます。措置を選ぶ際には、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)等からの意見聴取の機会を設けることも求められます。
さらに、3歳未満の子を養育する労働者に対しては、子が3歳になる誕生日の1か月前までの1年間に、講じた措置の内容や申出先などを個別に周知し、利用の意向を確認することも義務付けられています。継続雇用1年未満の労働者や、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は、労使協定を締結すれば対象外とすることも可能です。
大手法人の77.8%が先行対応、残る最多の課題は「従業員間の公平性」
統合人事システム「COMPANY」を提供するWorks Human Intelligenceが、同製品を利用する大手法人72社を対象に2025年1〜2月に実施した調査によると、10月の義務化に先立ち、77.8%の法人がすでに2つ以上の措置を実施済みでした。特に「始業時刻等の変更」と「短時間勤務制度」の導入が先行しており、法改正をきっかけに「養育両立支援休暇」を新たに取り入れる動きもみられます。
一方で、対応を進める法人が最も多く挙げた課題は「従業員間の公平性」で、34.7%にのぼりました。同調査では、公平性への懸念は主に、職種の違いと子育ての有無をめぐって語られています。ひとつは、テレワークが可能な職種と、店舗や製造現場のように利用しにくい職種との間に生じる差です。もうひとつは、子育て中の社員と、そうでない社員との間の負担や待遇の差です。実際、83.3%の法人が「法人全体で同じ措置を実施する」と回答しており、選べる措置の種類が職種によって偏ることが、不公平感の一因になっている様子がうかがえます。
こうしたなかでも、37.5%の法人が「育児中以外の従業員も利用できる制度や施策を検討した、または今後検討する」と回答しており、対象を育児中の社員に限定しない方向での制度設計も進んでいます。また、育児中の従業員の満足度を高めるために最も重要な要素として、87.5%の法人が「制度を利用できる職場環境」を挙げました。制度そのものよりも、気兼ねなく使える空気づくりが鍵になっていることがうかがえます。
77.8%の法人が2つ以上の措置を実施済みである一方、最多の課題は「従業員間の公平性」(34.7%)。出典:Works Human Intelligence「育児・介護休業法改正、柔軟な働き方を実現するための措置に関する実態調査」(2025年3月17日発表)
制度を形だけにしない運用
図解01
制度を
従業員間の公平性
2つ
最も
2つ
最も
- 1個別周知と
意向確認を 「確実な 仕組み」にする3歳未満の 子を 養育する 社員を 定期的に 抽出 - 2「公平性」を
両面で 点検する職種・ 部署間と 子の 有無間 - 3「使ってよい」という
空気を 職場全体でつくる制度の 趣旨を 対象者以外にも 共有
個別周知と意向確認を「確実な仕組み」にする
法定の個別周知・意向確認は、対象者本人に確実に伝わって初めて意味を持ちます。人事の手作業だけに頼ると抜け漏れが生じやすいため、対象者の抽出から周知、記録までの流れを、あらかじめ確実な仕組みとして整えておくことが大切です。
個別周知と意向確認の流れが仕組みとして回っているかどうかは、次の状態で判断できます。
- 3歳未満の子を養育する社員を、人事システムで定期的に抽出できている
- 周知のタイミング(3歳の誕生日の1か月前までの1年間)を、管理職任せにせず人事側で把握している
- 面談・書面・メール等、周知と意向確認の実施記録を残している
- 妊娠・出産の申出時や育児休業からの復帰時にも、意向確認の機会を設けている
「公平性」を、職種・部署間と子の有無間の両面で点検する
調査が示すとおり、公平性の課題は「職種・部署間」と「子の有無間」の両方で生じます。どちらか一方の視点だけで制度を設計すると、もう一方で不満が生じかねません。
「職種・部署間」と「子の有無間」の両方に目を配れているかは、次の取り組みに表れます。
- テレワークや時差出勤が使いにくい現場職・店舗職について、短時間勤務や養育両立支援休暇など代替の選択肢を用意している
- 措置を「全社一律」にするか「職種・事業所別」にするかを、業務実態に照らして意図的に決めている
- 制度利用者の業務を代替する周囲の社員への、業務調整や評価上の配慮を検討している
- 子育て中でない社員も使える休暇や福利厚生の拡充を、あわせて検討している
「使ってよい」という空気を職場全体でつくる
87.5%の法人が最も重要だと回答した「制度を利用できる職場環境」は、制度の説明だけでは生まれません。制度の趣旨を対象者以外にも共有し、利用を特別視しない文化を根づかせる働きかけが必要です。
利用を特別視しない職場に近づいていれば、次のような働きかけが続いています。
- 制度の対象者だけでなく、職場全体に法改正の趣旨と制度内容を説明する機会を設けている
- 管理職向けに、利用申請を受けた際の対応や業務調整の進め方を伝えている
- 制度利用者・非利用者双方の声を、定期的なサーベイや1on1で拾う機会がある
- 経営層が制度の意義を発信し、利用しやすい雰囲気づくりを後押ししている
まとめ
「柔軟な働き方を実現するための措置」は、多くの大手法人にとってすでに対応済みの制度です。しかし本当の難しさは、導入後にあります。職種や子の有無によって生まれる公平性の課題に向き合い、対象者への周知を確実な仕組みとして整え、職場全体で使いやすい空気をつくる。これらを丁寧に積み重ねることが、少子化が進むなかでも社員が働き続けられる職場をつくる土台になります。
貴社の両立支援制度の設計や、管理職・全社員向けの周知研修について、外部の知見を取り入れたいとお考えでしたら、お気軽にご相談ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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