「良いリーダーさえいれば、組織の成果は伸びる」。多くの企業で、この発想は今も人材マネジメントの中心にあります。しかし、その前提は静かに揺らぎ始めています。総務省の「就業構造基本調査」によると、2022年には就業者数が578万人増加しました。その一方で、課長級以上にあたる管理的職業従事者の数は、同じ時期に92万人減少しています。人手が足りないというより、組織を率いる立場の人材そのものが足りなくなっているのです。
こうした状況を受けて、パーソル総合研究所は2026年、部下の立場で働く社員(フォロワー)の行動に着目した大規模な定量調査「フォロワーシップに関する定量調査」を実施しました。本記事では、この調査結果をもとに、フォロワーシップの基本的な考え方と、組織の成果につなげるための実践ステップを解説します。
フォロワーシップとは
フォロワーシップとは、部下の立場で働くメンバーが、組織の成果に向けて主体的に行動することを指す概念です。米国の経営学者ロバート・E・ケリーが1992年に提唱した古典的なモデルでは、高い思考力と積極的な組織への関与を併せ持つ人物を「模範的フォロワー」と位置づけました。
この分野の研究は、リーダーシップ研究に比べて大きく遅れています。学術論文検索サービス「Google Scholar」で調べると、「リーダーシップ」「リーダー行動」「上司行動」に関する論文は17,600件ヒットするのに対し、「フォロワーシップ」「フォロワー行動」「部下行動」は2,150件にとどまります。実務の現場でも、上司や管理職に何が求められるかは繰り返し語られてきましたが、部下に何が求められるかは十分に言語化されてきませんでした。
フォロワーの5つのタイプ|「理想の右腕」は存在しない
今回の調査では、フォロワーシップ行動の特徴によって部下層を分類すると、大きく5つのタイプに分かれることが分かりました。「自己成長タイプ」「職人タイプ」「気づかいタイプ」「まとめ役タイプ」「批判者タイプ」です。
今回の分類では、あらゆる行動に秀でた「万能型」のタイプは見つかりませんでした。主体性があり、協調性もあり、必要な場面では言うべきことを言ってくれる、そうした「理想の部下」を、多くの経営者やリーダーは暗黙のうちに求めがちです。しかし、現実の職場にそのような人材はほとんど存在しません。実務を先回りして進める人もいれば、場を整える人、あえて本音を言う人もいます。それぞれが異なる形で、チームを支えているのです。
組織の成果を左右する5つの行動「FIVESモデル」
パーソル総合研究所の分析からは、部下の数多くの行動の中から、組織パフォーマンスに実際にプラスの影響を与える5つの行動が抽出されました。研究チームはこれを「FIVESモデル」と呼んでいます。
- 場づくり:周囲が仕事をしやすいよう配慮し、建設的に議論し、職場の雰囲気を整える行動
- 踏み出し:自分の役割に閉じこもらず、必要な場面では一歩前に出て動く行動
- 本音発言:必要な違和感や矛盾を、空気を読んで黙るのではなく率直に言葉にする行動
- 寄り添い:同僚の感情を支え、感謝や労いを伝え、悩みに耳を傾ける行動
- 学び共有:うまくいった理由や失敗の背景を言葉にし、個人の経験をチームの知恵に変える行動
強い組織とは、目立つ一部の個人が引っ張る組織ではなく、こうした地味な行動が日常的に循環している組織だといえます。
見過ごされる貢献|上司の「盲点」と人事評価のズレ
今回の調査では、「上司が重視する部下の行動」と「実際に組織パフォーマンスへ好影響を与える行動」を分けて分析しました。その結果、「踏み出し」と「場づくり」は上司からも見えやすく、組織にも好影響を与えていることが分かりました。その一方で、「学び共有」と「本音発言」は組織パフォーマンスへの好影響が確認されているにもかかわらず、現場の上司からは軽視されやすい傾向が見られました。
さらに、5つのフォロワータイプと人事評価との間にもズレが見られます。「職人タイプ」「気づかいタイプ」「まとめ役タイプ」は組織パフォーマンスへの貢献が大きいにもかかわらず、人事評価は低めです。「自己成長タイプ」「批判者タイプ」はフォロワーシップ行動としては消極的であるにもかかわらず、人事評価は高い傾向が見られました。企業が評価しやすいのは、目につきやすい成長意欲です。しかし、実際に職場を支えているのは、こうした見えにくい行動を担う社員でもあります。
フォロワーシップを職場で育てる5つの実践ステップ
フォロワーシップは生まれ持った資質ではなく、職場の設計次第で引き出せる行動です。ここでは、人事担当者が着手しやすい5つのステップをご紹介します。
ステップ1:フォロワーシップ行動を可視化する
まず着手すべきは、自社の職場で実際にどのようなフォロワーシップ行動が起きているかを把握することです。サーベイや360度評価に、場づくり、踏み出し、本音発言、寄り添い、学び共有に相当する設問を組み込み、部下層の行動を定点観測します。感覚的な評価に頼らず、行動を言葉にして測定することが出発点になります。
実施チェック:自社のサーベイ項目に、5つの行動に対応する設問が含まれているかを確認します。
ステップ2:「理想の部下」像を手放す
管理職研修や評価者研修では、しばしば単一の「理想の部下」像が前提とされがちです。しかし、調査が示すとおり、あらゆる行動に秀でたフォロワーは存在しません。管理職には、部下ごとに異なる強みを把握し、その組み合わせでチームを機能させる視点を持ってもらう必要があります。
実施チェック:管理職研修に、部下のタイプ別の強みを言語化し共有するワークを組み込んでいるかを確認します。
ステップ3:評価制度に「見えにくい貢献」を組み込む
職人タイプや気づかいタイプのように、組織パフォーマンスへの貢献が大きいにもかかわらず評価が低めになりやすい層がいます。目標達成度や成長意欲だけで評価が決まる制度では、こうした貢献が正しく反映されません。評価項目に、場づくりや寄り添いといった行動を反映させる仕組みを検討します。
実施チェック:人事評価の項目に、成果指標に加えて職場を支える行動が反映されているかを確認します。
ステップ4:管理職に「引き出す関わり方」を教育する
フォロワーシップは、上司の関わり方によって発揮されやすくもなれば、抑え込まれもします。部下の意見を求める、任せる場面を意図的につくる、指摘を歓迎する姿勢を示すなど、管理職がフォロワーシップを引き出す関わり方を学ぶ機会を設けます。
実施チェック:管理職研修のカリキュラムに、部下の主体的な行動を引き出すコミュニケーション技術が含まれているかを確認します。
ステップ5:「本音発言」と「学び共有」を促す場をつくる
調査で明らかになったとおり、本音発言と学び共有は組織への好影響が大きい一方、現場では見過ごされやすい行動です。定例会議の中に、率直な意見交換の時間や、成功と失敗を共有する時間を意図的に組み込むことで、これらの行動を職場の習慣として根付かせます。
実施チェック:会議体の中に、本音の意見交換や経験共有のための時間が定例化されているかを確認します。
まとめ
管理職やリーダーに組織の成果を委ねる発想には、すでに限界が見え始めています。パーソル総合研究所の調査が示すとおり、職場を実際に支えているのは、多様な形でチームに関わる部下たちの行動です。フォロワーシップを可視化し、正しく評価し、引き出す仕組みを整えることは、管理職育成と並ぶ、費用対効果の高い施策になります。自社の職場でどのようなフォロワーシップ行動が起きているか、まずは把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。
組織開発や管理職育成、フォロワーシップを引き出す研修設計について、WONDERFUL GROWTHにご相談ください。貴社の課題に応じた具体的な支援内容をご案内いたします。
出典:パーソル総合研究所「フォロワーシップに関する定量調査」(2026年5月13日公開コラム『もう管理職だけに背負わせない、部下のフォロワーシップの時代へ』小林祐児氏執筆)/総務省「就業構造基本調査」/Robert E. Kelley (1992) The Power of Followership, Doubleday Business.
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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