「転職したい」は1,023万人、「転職した」は330万人
総務省統計局が2026年2月に公表した「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均」によると、転職等希望者は1,023万人となり、前年に比べて23万人増加しました。2年ぶりの増加です。推移をたどると、2015年の812万人から10年間で211万人増えており、この10年間で最も多くなっています。
これに対し、同じ調査における転職者数は330万人でした。前年から1万人の減少で、4年ぶりに前年を下回っています。2025年の就業者数は6,820万人ですから、およそ6.7人に1人が転職などの就業の変化を希望している計算になる一方で、実際に職場を移った人はおよそ21人に1人にとどまります。
転職等希望者は1,023万人で前年から23万人の増加。対して転職者は330万人で1万人の減少。「移りたい」と考える人が増えるなかで、実際の移動はむしろ減りました。(総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均」)
ここで一つ、数字の読み方に注意が必要です。この二つは同じ人を追跡した数値ではありません。転職等希望者は調査時点での希望を尋ねた人数であり、転職者は過去1年間に離職を経験して現在就業している人の数です。したがって、単純に差し引いて「693万人が我慢している」と言い切ることはできません。それでも、規模の対比としては十分に示唆的です。希望する人の数に対して、実際に動いた人の数はおよそ3分の1にとどまります。この落差が、多くの職場の前提になっています。
離職率には表れない層が広がっている
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、個人的理由による離職率は10.7%で、前年から0.7ポイント低下しました。事業所側の理由による離職率も0.8%へと0.1ポイント下がりました。数字だけを見れば、離職はむしろ落ち着いているように映ります。
しかし、転職を望む人は増え、実際に辞める人は減っている。この二つを重ね合わせると、企業の内側で起きていることが見えてきます。退職届は出ないけれども、意欲はすでに社外を向いている。そうした社員が、離職率という指標にはまったく表れないまま、日々席に着いているということです。
人事にとって厄介なのは、この層が課題として可視化されない点です。退職者が出れば面談が行われ、記録が残り、対策が議論されます。ところが、辞めずにとどまった人の「本当は辞めたかった」は、どこにも記録されません。組織の問題は、離職率が改善したという報告の裏側で、そのまま温存されていきます。
辞めた人の理由は、辞めていない人の不満でもある
では、実際に転職した人は何を理由に前の職場を離れたのでしょうか。「令和6年雇用動向調査」で転職入職者が前職を辞めた理由を見ると、男性では「定年・契約期間の満了」が14.1%で最も多く、以下「給料等収入が少なかった」10.1%、「職場の人間関係が好ましくなかった」9.0%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」8.6%、「会社の将来が不安だった」7.4%の順でした(「その他の個人的理由」を除く)。女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が12.8%で最も多く、「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%、「給料等収入が少なかった」8.3%の順でした。
前年からの変化に目を向けると、男性で上昇幅が最も大きかったのは「会社の将来が不安だった」の2.2ポイント、次いで「給料等収入が少なかった」の1.9ポイントでした(いずれも「その他の個人的理由」を除く)。女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が1.7ポイント上昇しました。待遇、将来への見通し、そして働き方。この三つが、いま人を動かしている主な要因だと言えます。
あわせて見ておきたいのは、転職の経済的な結果です。同調査では、転職入職者のうち前職より賃金が「増加」した人の割合は40.5%で前年から3.3ポイント上昇し、「減少」した人は29.4%で3.0ポイント低下しました。増加した人のうち、1割以上増えた人が29.4%を占めます。転職に伴う不利が小さくなるほど、現職にとどまる理由は弱まっていきます。辞めていない社員が挙げる不満は、辞めた社員が挙げた理由とおそらく大きくは変わりません。違いは、まだ決断していないという一点だけです。
設計1 退職面談ではなく「在職者面談」で理由を先に聞く
多くの企業で、社員の本音が最も詳しく語られる場は退職面談です。しかしその時点では、打てる手はほとんど残っていません。必要なのは、決断が下される前に本音が届く経路をつくることです。海外の人事実務では、退職時の面談(exit interview)と対をなすものとして、在職している社員に「なぜこの会社で働き続けているのか」「何があれば辞めようと考えるか」を尋ねる在職者面談(stay interview)が用いられています。日本企業でも、1on1とは別枠で設ければ十分に機能します。
- 対象を絞り込む(重要な職務を担う社員、育成期の中堅、直近1年で役割や上長が変わった社員から始める)
- 直属の上長ではなく、人事または他部門の管理職が面談者を務める
- 質問は四つに固定する。①いまの仕事で最も手応えを感じる場面 ②最も気力を削がれる場面 ③1年後にどうなっていたいか ④一つだけ会社を変えられるとしたら何を変えるか
- 面談の内容を人事評価に用いないことを、実施前に本人へ明示する
- 30日以内に、対応する事項と見送る事項を、理由とともに本人へ伝える
実施チェック:面談で挙がった要望のうち、着手したものと見送ったものを、本人が理由とともに説明できる状態になっているか。
設計2 「会社の将来が不安」に、事業の言葉で答える
男性の離職理由で上昇幅が最も大きかった「会社の将来が不安だった」は、業績の良し悪しだけで説明できるものではありません。不安の多くは、事業がこれからどう変わり、その中で自分の仕事がどうなるのかを聞かされていないことから生じます。沈黙は、悪い情報よりも強く不安を増幅させます。
- 中期の事業方針を、部門ごとの「これから増える仕事」と「減っていく仕事」に翻訳して示す
- 減っていく仕事に就いている社員に対しては、移行先の候補と必要になる能力を個別に提示する
- 経営から現場への説明を、年1回の方針発表ではなく四半期ごとの更新に切り替える
- まだ決まっていない事柄は、決まっていないと明言したうえで、いつ判断するかを示す
- 課長級が自部門の方針を説明できるよう、資料ではなく想定問答の形で準備を支援する
実施チェック:自部門の役割が3年後にどう変わるかについて、課長級が資料を見ずに自分の言葉で部下に説明できるか。
設計3 「辞めずに変われる道」を社内に用意する
転職等希望者という区分には、いまの仕事を辞めて別の仕事に変わりたい人だけでなく、いまの仕事のほかに別の仕事もしたい人も含まれます。つまり、この1,023万人の全員が会社を否定しているわけではありません。相当数が、変化そのものを求めています。だとすれば、社外に出なくても変われる道を用意することが、そのまま定着の施策になります。
- 社内公募の対象を、欠員補充だけでなく新規事業や重点領域のポジションにも広げる
- 応募した事実によって現所属で不利に扱われない運用(上長の許可を前提としない、応募情報を現所属へ伝えない)を明文化する
- 各ポジションに必要な能力を職務要件として公開し、そこへ到達するための学習経路(研修・実務経験・資格)をあわせて示す
- 応募して不採用となった社員には、次に向けた具体的な助言を必ず返す
- 異動が実現した事例を、応募から着任までの期間と学んだ内容を含めて社内へ共有する
実施チェック:直近1年間の社内公募について、応募者数・成立件数に加えて、応募後に離職した人数まで人事が把握しているか。
引き止めるのではなく、選び直してもらう
転職を望む人が1,023万人に達し、転職で賃金が上がる人が4割を超える環境では、人材を囲い込む発想は成り立ちません。取り得る策は、社員に毎年あらためて自社を選び直してもらうことです。そのためには、不満が言葉になる場(設計1)、将来が説明されている状態(設計2)、社内で変われる選択肢(設計3)の三つが揃っている必要があります。
いずれも、制度を一つ導入して終わる類いのものではありません。在職者面談で聞いた内容が事業方針の説明に反映され、その説明を受けた社員が社内公募に手を挙げる。この循環が回り始めたとき、離職率の数字は結果として下がります。順序を逆にして、離職率だけを目標に置くと、多くの場合は数字の管理に終始してしまいます。
参考にした調査・資料
- 総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果」(2026年2月公表)
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
研修設計のご相談を承っています
WONDERFUL GROWTHでは、管理職の面談スキルを高める研修、キャリア開発の支援、事業方針を現場の言葉に翻訳するマネジメント研修など、定着と育成をつなぐプログラムを提供しています。自社の状況に合わせた進め方を検討したい方に向けて、サービス資料をご用意しています。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。