パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」(2024年)によると、「働くことを通じた成長」を重要だと考える人は76.0%に上る一方、実際に成長を実感できている人は53.4%にとどまります。仕事内容を選ぶうえで「やりがいを感じられること」を重視する人も27.5%です。研修や制度を整えても、社員一人ひとりが日々の仕事に意味を見いだせなければ、成長の実感ややりがいは生まれにくいものです。この「与えられた仕事」を「自分の仕事」へと捉え直す考え方が、ジョブ・クラフティングです。
本記事では、ジョブ・クラフティングの定義と背景、3つの型、そして職場に根づかせる5つのステップを、公的資料と研究知見にもとづいて整理します。
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは、働く人が自らの仕事の範囲や進め方、人との関わり方、仕事の捉え方を主体的に見直し、やりがいのある仕事へとつくり変えていく取り組みを指します。2001年に米国の経営学の研究者によって提唱された概念で(Wrzesniewski & Dutton, 2001)、日本でも東京都立大学大学院の高尾義明教授らを中心に研究が進められています。
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析(労働経済白書)」でもコラムとして取り上げられ、働きがいを高める手立ての一つとして紹介されています。特徴は、職務そのものを会社が設計し直すのではなく、働く人一人ひとりが自分の意思で小さな工夫を重ねる点にあります。指示された仕事をこなす受け身の姿勢から、自分なりの意味づけと工夫を加える能動的な姿勢へと、仕事との向き合い方を変えていく考え方です。
なぜ今、ジョブ・クラフティングが注目されるのか
背景には、人手不足の慢性化と、成長の実感が広がらない現状があります。前掲の調査が示すように、成長を重要と考える人と実感できている人の間には20ポイント以上の開きがあります。新しい人材を採用しにくい時代には、いま働いている社員が持ち場で力を発揮できるかどうかが、組織の成果を大きく左右します。
また、ジョブ・クラフティングは、仕事に対する活力・熱意・没頭を表すワーク・エンゲイジメントを高める要因として、研究上も注目されています。会社が用意する制度や研修が「外から与える」働きかけであるのに対し、ジョブ・クラフティングは働く人自身が「内から起こす」変化です。両者を組み合わせることで、施策が現場に定着しやすくなります。
ジョブ・クラフティングの3つの型
厚生労働省の労働経済白書では、ジョブ・クラフティングを次の3つの観点から整理しています。自社で取り入れる際も、この3つを共通の言葉にすると、社員が自分の工夫を選びやすくなります。
作業クラフティング
仕事の中身がより充実したものになるよう、仕事の量や範囲、進め方を工夫するものです。得意な作業の比重を高める、手順を見直して無駄を省く、自分の関心に近い業務を少しずつ取り入れる、といった工夫が当てはまります。
人間関係クラフティング
仕事で関わる人との関係の持ち方を見直す工夫です。相談する相手を増やす、他部署と積極的に連携する、後輩の相談に乗る機会をつくるなど、前向きなフィードバックや支援を得られる関係を築くことで、仕事の満足感を高めます。
認知クラフティング
仕事の目的や意味を捉え直す工夫です。目の前の作業が誰の役に立っているのかを考え直したり、自分の関心や価値観と結びつけて意味づけたりすることで、同じ仕事でも前向きに取り組めるようになります。3つの型のなかでも、行動を変える前に「捉え方」を変える起点になります。
職場に根づかせる5つのステップ
ジョブ・クラフティングは、個人の心がけにとどめると長続きしません。組織として機会と仕組みを用意することで、はじめて定着します。ここでは、人事・管理職が進めやすい5つのステップに分けて解説します。
ステップ1 現状を棚卸しし、目的を共有する
はじめに、自社で社員がどの程度やりがいや成長を実感できているかを、従業員サーベイや1on1を通じて把握します。そのうえで、一人ひとりが持ち場で工夫できる状態をめざすという目的を、経営層と現場で共有します。目的が曖昧なまま進めると、単なる負担増と受け取られてしまいます。
実施チェック:社員のやりがいや成長の実感の現状を、数値または声で把握できていますか。取り組みの目的を、経営層と現場の言葉で共有できていますか。
ステップ2 3つの型を学ぶ機会をつくる
ジョブ・クラフティングという考え方と3つの型を、研修やワークショップで学ぶ機会を設けます。言葉を知らなければ、社員は自分の工夫を意識して選べません。自分の仕事を3つの型で見つめ直す演習を取り入れると、具体的な行動に落とし込みやすくなります。
実施チェック:作業・人間関係・認知の3つの型を、社員が自分の言葉で説明できていますか。学びを自分の仕事に当てはめる演習を用意しましたか。
ステップ3 一人ひとりが小さな工夫を設計する
学んだ型をもとに、社員自身が「明日から試す小さな工夫」を1つか2つ決めます。大きな配置転換ではなく、自分の裁量の範囲でできることから始めることが、定着の鍵です。上司は工夫の内容を頭から否定せず、まず試すことを後押しします。
実施チェック:社員が自分の裁量で始められる工夫を、具体的に言葉にできていますか。小さく始めることを認める雰囲気がありますか。
ステップ4 1on1で対話し、後押しする
決めた工夫が続くかどうかは、上司の関わりに大きく左右されます。1on1などの対話の場で、工夫の手応えや困りごとを聞き、必要に応じて権限や情報の面から支援します。うまくいかなかった工夫も、責めるのではなく次の一歩に生かす姿勢が求められます。
実施チェック:定期的な対話の場で、工夫の進み具合を話題にできていますか。管理職が「支援する聞き手」として関われていますか。
ステップ5 振り返り、組織の学びに広げる
一定の期間ののち、うまくいった工夫を職場で共有し、他のメンバーが参考にできるようにします。個人の工夫を組織の知恵として横に広げることで、取り組みが一過性で終わりません。成果を評価制度と結びつける場合は、工夫の有無だけでなく、その背景にある主体的な姿勢を丁寧にくみ取ることが大切です。
実施チェック:うまくいった工夫を共有し、横に広げる場を設けていますか。振り返りを次の期の取り組みにつなげる流れができていますか。
進めるうえでの留意点
ジョブ・クラフティングは万能ではありません。工夫が個人の都合に偏ると、担当業務の抜け漏れやチーム内の不公平を招くおそれがあります。組織の目的や役割と結びつけるという前提を、あらかじめ共有しておくことが欠かせません。
また、上司が細かく管理しすぎる職場や、失敗を責める雰囲気の職場では、社員は工夫に踏み出せません。心理的安全性を確保し、小さな挑戦を歓迎する土壌づくりが土台となります。ジョブ・クラフティングは、社員の主体性と、それを支える組織の環境が両輪となってはじめて機能します。
ジョブ・クラフティングは、制度をつくって終わりではなく、日々の対話のなかで育てていく取り組みです。自社での進め方や研修の設計に迷う場合は、外部の知見を取り入れることで立ち上げを進めやすくなります。
まとめ
ジョブ・クラフティングは、社員が「与えられた仕事」を「自分の仕事」へと捉え直し、作業・人間関係・認知の3つの型で小さな工夫を重ねる取り組みです。成長の実感ややりがいが広がりにくい今、採用に頼るだけでなく、いまいる人材がいきいきと働ける環境をどう整えるかが問われています。まずは現状の把握と、3つの型を学ぶ機会づくりから始めてみてはいかがでしょうか。
ワンダフルグロースでは、社員の主体性とやりがいを引き出す研修や組織開発を通じて、企業の人材育成を体系的に支援しています。ジョブ・クラフティングを取り入れた研修設計にご関心のある方は、以下より資料をご請求ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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