人事担当者の間で、「有給休暇の取得率が上がってきた」という実感を持つ方が増えているのではないでしょうか。厚生労働省が公表した「令和7年就労条件総合調査」によると、令和6年の年次有給休暇の取得率は66.9%となり、昭和59年の調査開始以来、過去最高を更新しました。労働者1人平均の取得日数も12.1日と、こちらも過去最多です。ただし、この数字を業種別に見ていくと、企業の取り組み次第で大きな差が生まれていることが分かります。本記事では、最新データの読み解き方と、現場で「休みやすさ」を設計するための三つのステップを解説します。
有給休暇取得率66.9%の内訳を読み解く
厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」によれば、令和6年に企業が付与した年次有給休暇日数は労働者1人平均18.1日、そのうち労働者が取得した日数は12.1日でした。取得率に換算すると66.9%となり、いずれも昭和59(1984)年の調査開始以来、最も高い水準です。あわせて、労働者1人平均の年間休日総数も116.6日と過去最多を記録しており、休日・休暇の両面で「休みやすさ」が着実に進んでいることがうかがえます。
政府は「過労死等防止対策大綱」において、令和10(2028)年までに年次有給休暇の取得率70%以上を目標として掲げています。66.9%という数字は、この目標にあと一歩まで近づいた水準といえます。
なぜ業種によって大きな差が残るのか
同調査を産業別に見ると、取得率が最も高いのは電気・ガス・熱供給・水道業の75.2%、最も低いのは宿泊業・飲食サービス業の50.7%でした。両者の差は20ポイントを超えています。
この差は、単に「休暇に対する意識の差」では説明できません。宿泊業・飲食サービス業や小売業、運輸業などは、営業日数が多く、交代制・シフト制勤務が前提となっているため、全社一斉の休暇を設定しにくいという構造的な事情を抱えています。人手不足が常態化している業種ほど「誰かが休むと現場が回らない」という状態に陥りやすく、結果として有給休暇の取得が後回しになりがちです。
業種間の取得率の差は、社員の休暇に対する意欲の差ではなく、多くの場合「休んでも回る体制」が整っているかどうかの差です。
見落とされがちな「年5日取得義務」のリスク
全国平均が66.9%まで上昇したことで、「自社もそれなりに取得できているはずだ」と考えてしまいがちですが、平均値の裏には、取得が進んでいない社員が個別に存在している可能性があります。2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、労働基準法第39条第7項により、使用者が年5日を確実に取得させることが義務付けられています。
この義務に違反した場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。この罰則は対象となる労働者ごとに成立し得ると解されているため、未達の社員が複数いる場合には、想定以上に重い経営リスクとなり得ます。全国平均の改善に安心せず、まずは自社の社員一人ひとりの取得日数を確認することが出発点になります。
現場で「休みやすさ」を設計する三つのステップ
ステップ1:計画的付与制度で「取得日」を先に決める
年次有給休暇のうち5日を超える部分については、労使協定を結ぶことで、企業があらかじめ取得日を計画的に割り振る「計画的付与制度」を導入できます。厚生労働省の同調査でも、この制度を導入している企業は40.8%にのぼり、導入企業の多くが「5~6日」を計画的付与の対象としています。全社一斉付与のほか、部署ごとの交替制付与、個人別の取得計画方式など、業種や勤務体制に応じた設計が可能です。
- 実施チェック:労使協定の締結方式(全社一斉/部署別交替制/個人別のいずれか)を決めているか
- 実施チェック:繁忙期を外した取得日を、年間スケジュールとしてあらかじめ社員に共有しているか
- 実施チェック:法定義務分の5日と、計画的付与の対象日数を区別して管理できているか
ステップ2:管理職を「取得を止める人」から「取得を進める人」に変える
有給休暇が取得しにくい最大の要因は、制度ではなく「周囲が休まないから休みづらい」という職場の空気にあります。管理職自身が有給休暇を取得し、部下の取得状況を定期的に確認する姿勢を見せることが、現場の空気を変える近道です。管理職の評価指標に有給休暇取得率を組み込み、部下を休ませることを役割として明確にしている企業もあります。
- 実施チェック:管理職自身の年間取得計画を、期初に本人と共有しているか
- 実施チェック:部下ごとの取得日数を、1on1や期中面談で定期的に確認する仕組みがあるか
- 実施チェック:管理職の評価・目標設定の項目に、チームの有給休暇取得状況を含めているか
ステップ3:「休んでも回る」体制と休みやすい制度を組み合わせる
有給休暇を「いざというときのために取っておきたい」という温存志向が強い職場では、慶弔や急な家族の事情などに使える特別休暇を別途用意することで、有給休暇そのものの消化が進みやすくなるという事例が報告されています。あわせて、業務の標準化やマニュアル化を進め、特定の社員が不在でも業務が止まらない体制を整えることも欠かせません。
- 実施チェック:有給休暇とは別に、慶弔・急病・リフレッシュ目的などで使える休暇制度があるか
- 実施チェック:主要業務についてマニュアル化・複数人対応(多能工化)が進んでいるか
- 実施チェック:「誰か一人が抜けても業務が止まらない」状態を、部署ごとに点検できているか
まとめ:数字の先にある「定着」を意識する
有給休暇取得率66.9%という数字は、日本全体で見れば着実な改善の証です。しかし、業種間の20ポイント超の差や、年5日取得義務という個別の法的リスクを踏まえると、全国平均の改善を自社の安心材料にすることはできません。休みやすさの設計は、単なる労務コンプライアンス対応にとどまらず、社員の定着や採用力にも直結するテーマです。まずは自社の取得状況を可視化するところから、着手してみてはいかがでしょうか。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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